プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~ 作:カゲムチャ(虎馬チキン)
疲れただの、手伝ってだのとほざく舞のケツを叩き、ある程度の宿題をやらせた翌日。
俺達は再び【アドベンチャーズ・オンライン】にログインした。
「今日こそ遊び尽くすぞーーー!!」
隣でマインが気炎を上げている。
今回は止めない。
しっかりとノルマは果たしたからな。
約束通り、存分にゲームを楽しむがいい。
「マイン。俺はギルドの方に行くが、お前は……」
「今日は別行動で!! またね、お兄ちゃん!」
そう言ってマインは走り去って行った。
昨日の事が若干トラウマにでもなったか?
ウチのギルドメンバーは、インパクトのあるキワモノが多いからな。
仕方がないか。
気を取り直して、俺はギルドメンバーの一人にメールを送った。
そいつに頼みたい事があるのだ。
俺達は基本的に協調性がないが、必要となったらちゃんと力を貸し合う。
別に仲が悪い訳でも、チームワークが皆無という訳でもない。
そうしてギルドに向けて歩いてる間に返信が来た。
『とりあえずギルドに集合してください! 他の方からも依頼を受けているので、纏めて片付けます!』
との事だった。
ギルドには既に向かっている最中だから好都合だ。
『了解した』というメールを送り、やや早足でギルドに向かう。
正門を出て、スラム街に入り、今回は絡んできたチンピラNPCを斬り捨ててギルドに辿り着く。
扉を開けて中に入れば、そこには
その内二人は、昨日も会ったサクラとカタストロフだった。
「おはよう」
「ああ」
「フフフ。来たか死神。早かったな。今日は妹は一緒ではないのか?」
「今日は別行動だ」
「それは残念だ。あのツッコミは是非とも我がギルドに欲しかったのだが」
こいつはいったい何を基準にスカウトしているのだろうか。
そんないつも通りのカタストロフはともかく、サクラは昨日と違って髪を藍色に染め、狐の仮面を付けていた。
PKは素顔で手配書が出回ると何かと不便だから、殺る時は基本的に顔を隠して変装する。
俺が昨日変装したのも同じ理由だ。
カタストロフは常時変装状態だから関係ないが。
サクラがこの格好をしているという事は、つまりそういう事だろう。
この後の予定が読めた。
そして、最後の知り合いが声をかけて来た。
「待ってましたよキョウさん! さあ、早く行きましょう! 迅速に! 速やかに! 時間は有限なのです!」
「武器子。とりあえず簡単な説明がほしいんだが……」
このせっかちな女が、今回俺が用のあった相手。
闇ギルド『サクリファイス』の専属鍛冶師、武器子。
三度の飯より武器と生産が大好きな廃ゲーマーだ。
「今回はお三方から装備作成の依頼を受けましたので、素材集めと私のレベル上げを兼ねてこれから四人で狩りに行きます! 以上! 説明終わり! さあ、早く準備してください! 私は一刻も早く終わらせて作業場に籠って愛しの武器達を作りたいのです!!」
「了解した」
俺は生産職についてあまり詳しくは知らないが、彼らにも一定のレベルが必要だというのは知っている。
特に器用さのステータスであるDEXは、生産職の命とまで言われているらしい。
それを高めるステータスポイントは必須。
故にレベル上げは必須なのだとか。
そして、素材だ。
素材がなければアイテムは作れない。
普段はどこぞで買うなり、依頼主に取りに行かせるなり、逆に自分で依頼するなりして素材を集める武器子だが、今回は自分のレベル上げを兼ねて同行すると。
パーティーを組んで、少しでも戦闘に参加すれば経験値はもらえるからな。
β版の時もたまにやっていた、武器子のパワーレベリングというやつだ。
早速、俺は昨日も使った変装セット一式を使って死神スタイルになり、他の三人とパーティーを組んでフィールドに繰り出した。
今回向かったのは『始まりの森林』。
昨日マインと一緒に行った『始まりの草原』よりは難易度の高い場所だ。
もっとも、初期の狩場という点は変わらない為、やはりそこまで強いモンスターはいない。
そして、道中での会話は、今回の依頼についての話になった。
「やはり、貴様らも装備作成の依頼を武器子に出したのだな」
「そうよ。やっぱり『紅桜』がないと落ち着かないもの」
「俺も早く『デスサイズ』を取り戻したい。あれが一番手に馴染むからな」
β版の時に俺達が使っていた武器の名前だ。
このゲームは初期の武器を後付けで強化し、中盤以降にも通じる性能にグレードアップさせる事ができる。
そのシステムを使って、俺とサクラ、それとハンターはずっと一つの武器を強化しながら使い続けていた。
愛着もあるし、手に馴染む武器が一番使いやすくて強いのは道理だ。
だからこそ、俺は二日目という早い段階で武器子に依頼を出した。
おそらくサクラも似たような理由だろう。
「わかるぞ! 俺も早くこの地味なマントを脱ぎ捨て、高貴なマントを身に付けたいからな! こんなマントでは一週間後の第一回イベントに出られたものではない!」
カタストロフは若干目的が違うようだが、まあ、別にいいだろう。
困る事でもない。
そうして出てきたモンスターを倒しながら、森を進む。
武器子に投げナイフを使わせ、モンスターに若干のダメージを与えてから、俺達の誰かが仕留める。
こうすれば生産特化で戦闘能力皆無の武器子にも経験値が入る。
それが今回の目的の半分なのだから、面倒でもその過程を挟まなければならない。
そして、もう半分の目的を果たすべく、俺達は武器を振るう。
「ギャアアア!!!」
森の中を呑気に歩いていたパーティーを襲撃して殺す。
《隠密》のスキルを取得した俺とサクラが奇襲し、それで倒せなかった奴はカタストロフの闇魔法で葬る。
そして、イベントリをチェック。
目当ての素材はなかった。
「カタストロ……」
「おっと! 今は『深淵』と呼ぶがいい『死神』よ! それが掟であろう?」
「……そうだったな」
ギルド内ルールの一つ。
変装中はプレイヤーネームではなく、二つ名で呼び合うべし。
カタストロフが決めたルールだが、これは一応必要な事でもある。
素顔でPKをやるのと同じように、プレイヤーネームがバレると、少し面倒な事になるからな。
……正直、このルールはカタストロフの趣味が理由の九割だとも思っているが。
「じゃあ、深淵。そっちは必要な素材が出たか?」
「ハズレだな。クズアイテムばかりだ。『妖刀』よ。そちらはどうだ?」
「私も同じく。まあ、さっきの連中じゃボスは倒せないでしょうし、当然かしらね」
今、俺達が狙っている素材の一つは、このエリアのボスモンスター『アーマードベア』のドロップアイテム。
他にも必要な素材はあるが、それは狩りを続ける内に手に入るだろうから問題はない。
だが、ボスモンスターとなると倒すのが面倒だ。
特に俺は対人特化のステータスをしているから、やられる可能性も高い。
防御力0じゃ、アーマードベアの一撃でノックダウンだろう。
戦わずに、PK行為でゲットできればそれが一番なんだがな。
その後もしばらく狩りを続け、武器子のレベルは充分に上がり、必要な素材も大体が集まった。
だが、アーマードベアの素材だけは出ない。
武器子曰く「なくても作れない事はないですが、性能は期待しないでください」との事だ。
できれば手に入れたい。
「これだけ狩って出てこないなんてね……」
「仕方あるまい。アーマードベア討伐は最低でもレベル10以上のプレイヤーが五人は必要という難易度。開始二日目で狩れる者など、ほとんどいないだろう」
「どうする? 俺達で狩りに行くか、それとも引くか」
俺の質問に、仲間達は考えこんだ。
「ハイハイ! 私は断然狩るに一票です! やっぱり武器は強い方が輝きますから!!」
武器子は即答だったが。
「……私は正直どっちでもいいわ。確かに強い武器は欲しいけれど、死に戻ってこれまで集めたアイテムを失うのもアレだし」
そして、次にサクラが先に答えた。
俺もそれに続いて口を開く。
「俺もサクラと同意見だ。あとはお前が決めろ。どうする? ギルドマスター」
俺とサクラは中立。
これで決定権はカタストロフに委ねられた。
なんだかんだで、こいつがリーダーだからな。
β版でも、最終的な決定はカタストロフが下す事が多かった。
「……フッ。ここで引いては最凶ギルド『サクリファイス』の名折れ。アーマードベアごときで引き下がる我らではないわ!
そう言って、カタストロフはマントを翻してアーマードベアの生息地へ向かった。
俺達は顔を見合わせた後、肩を竦めてその後を追う。
そうして、俺達はボスモンスターに挑む事になった。