プレイヤーキラー伝説! ~死神プレイの最強PK~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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9 アーマードベア

 目的地に向けて歩く事しばらく。

 道中でもモンスターとプレイヤーを狩って、ある程度の経験値を稼ぎながら辿り着いた場所に、そいつはいた。

 

 アーマードベア。

 

 その名の通り、頭部や胸部、腕の先などに鎧のような甲殻を纏った熊のモンスター。

 体長3メートルは超えるであろう巨体は、ボスモンスターの名に恥じない迫力を持っていた。

 突撃を食らっただけで、俺や後衛職は一発アウトだろう。

 それに、ボスモンスターというやつは、プレイヤーと比べて防御力やHPの桁が違う。

 持久戦になれば、ミスれば終わりの俺はかなり不利。

 強敵だ。

 

「では、始めるぞ」

 

 呑気にハチミツっぽいものを食べているアーマードベアに、カタストロフが手に持った杖の先端を向けた。

 こいつは純魔法使いタイプ。

 『深淵』と名乗るだけあって闇魔法を使う。

 アーマードベアはまだ俺達に気づいていない。

 一方的に叩き込める初撃でどれだけ削れるかだな……。

 

「《ダークランサー》!!」

 

 昨日、マインや他の魔法使いが使っていたボール系の魔法の一段階上。

 カタストロフの放った闇の槍が無防備なアーマードベアの背中に突き刺さる。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 絶叫を上げて戦闘態勢に入るアーマードベア。

 その頭上にHPバーが表示され戦闘が始まった。

 アーマードベアが怒りの形相で、攻撃を加えたカタストロフに迫って来る。

 純後衛職のカタストロフがこの突進を受けたら終わりだろう。

 そうなる前に、前衛職である俺とサクラが飛び出した。

 

「一割も削れてないじゃない。……長くなりそうね」

「ボスモンスター相手ならそんなものだろう。────先に行くぞ」

 

 サクラは物理系ステータスにバランス良くポイントを振った正統派剣士だ。

 スピードでは極振りの俺に一歩劣る。

 故に、サクラよりも俺の方が少しだけ早くアーマードベアと接触した。

 鎧の付いた腕の一振りをサイドステップでかわし、脇腹に大鎌を突き立て、そのまま走り抜けた。

 アーマードベアの体に、一筋の赤い傷痕がつけられる。

 しかし、それでもアーマードベアのHPは思ったよりも減らない。

 鎧のない部分を狙ったとはいえ、やはり初期装備では大したダメージは与えられないか。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 だが、俺の攻撃が当たった事で、アーマードベアの標的がカタストロフから俺に移る。

 滅茶苦茶に繰り出される爪撃をバックステップで避け、ついでに腕に攻撃を加えてみたが、案の定、ダメージは0。

 これは、鎧部分を狙っても無駄だな。

 それでも、こうして俺が的になって引き付けている間は、他の三人がフリーになる。

 

「《一閃》」

「《ダークランサー》!!」

「《投擲》!!」

 

 サクラのアーツ、マインが使った《スラッシュ》の刀版のような技がアーマードベアの足を。

 カタストロフの闇魔法が脇腹を。

 武器子の投げナイフが右目を。

 それぞれ貫いた。

 それでも累計ダメージは、アーマードベアのHPの三割にも満たないが、確実に削れてきてはいる。

 

 特に武器子の投げナイフが目を貫いたのは大きい。

 この手のダメージは部位欠損という状態異常となり、HPを削る以上に大きなダメージとなる。

 今、アーマードベアは右目が見えていない筈だ。

 動き回る相手に対して、あの小さな的を狙って攻撃するとは、さすがはDEX特化。

 あいつは戦力としてカウントしていなかったが、意外と良い仕事をしてくれた。

 多分、偶然だと思うが。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 右目が相当痛かったのか、アーマードベアは残った左目で武器子を睨み付け、雄叫びを上げながら突進しようとした。

 

 隙だらけだ。

 

「《デスワルツ》」

「グオオオオオオオオオ!!?」

 

 《大鎌:LV1》で習得できるアーツ。

 回転斬りのような攻撃が、アーマードベアの足を切り裂く。

 俺とサクラの攻撃で足へのダメージが蓄積したのか、アーマードベアは地面に倒れこんだ。

 目の前の標的(おれ)から目を離すからそうなる。

 モンスターに言っても仕方ないがな。

 

 そして俺達は、倒れたアーマードベアに全員で猛攻を仕掛けた。

 

 俺とサクラの斬撃が、カタストロフの闇魔法が、武器子の投げナイフが連続してアーマードベアに直撃し続け、HPをみるみる内に減らしていく。

 だが、さすがにそれだけでは終わらない。

 アーマードベアの残りHPが三割を切った時、明確な変化が起きた。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 今までよりも数段大きな雄叫び。

 そして、さっきよりも数段速い爪撃が俺に対して振るわれた。

 

「クッ……!」

 

 回避は間に合わないと判断し、大鎌を盾にして攻撃を防ぎ、さらに自ら後ろに飛んで衝撃を軽減した。

 それでも、防御力0の俺では、かなりのダメージを受けた。

 常時視界に表示されている自分のHPが半分を切っているのが見えた。

 

 近くにいたサクラが声をかけて来る。

 

「大丈夫?」

「問題ない。まだ動ける」

「そう。良かった」

 

 簡単なやり取りだが、それでいい。

 俺達は、お互いの強さをよく知ってるからな。

 

「気をつけろ!! 来るぞ!! 状態異常『怒り』だ!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 カタストロフの忠告に呼応するかのように、怒りの咆哮を上げたアーマードベアが突進してくる。

 そのスピードは、さっきまでとは段違いに速い。

 

 だが、その分、動きがさらに単調になっている。

 

 俺は、怒りのままに振るわれる爪を冷静に避ける。

 ステップでかわし、大鎌を使ってさばき、そらす。

 その間に他の三人がダメージを稼ぐ。

 標的が怒りに染まろうとも、俺達がやる事は同じだ。

 

 そして遂に、アーマードベアのHPが一割を切る。

 最後の抵抗とばかりに大きく振られた腕をジャンプして避ける。

 俺は地面に叩きつけられた腕を踏み台にして、さらに跳ぶ。

 空中で体を捻り、地面と逆さの体勢になってアーマードベアの後ろをとった。

 

 そこで俺は勝負を決めにかかる。

 スキル《大鎌:LV10》で習得できるアーツを、アーマードベアに向けて放った。

 

 

「《斬首》」

 

 

 モーションが大きく、しっかりと首筋に当てなければ発動しないという、とても扱いの難しいアーツ。

 対人戦ではまず使えない、大鎌という武器を象徴するかのような一撃。

 

 故に、発動した時の威力は絶大。

 

 アーマードベアの首が胴体を離れて宙に舞う。

 残された胴体もまた、大きな音を立てて地面に倒れ伏し、光の粒子となって消滅した。

 アーマードベアのHPは0になっていた。

 

《レベルアップ! LV10からLV11になりました》

《ステータスポイントを入手しました》

《スキルポイントを入手しました》

 

「ふぅ……」

 

 そこまで見届けて、ようやく戦闘態勢を解く。

 他のPKや賞金稼ぎが襲って来るかもしれない為、警戒は解かない。

 それでも、アーマードベアとの戦闘は終わった。

 他の三人が集まって来る。

 

「フハハハハハ!! やったではないか死神! 見事であったぞ!」

「おつかれさま」

「ああ。お前らもな」

「それよりも!! 皆さん早くドロップアイテムをチェックしてください!! 目的は討伐ではなく素材なんですよ!! さぁ早く!!」

 

 武器子が勝利の余韻を台無しにしてきたが、まあ、その通りではあるから良しとしよう。

 言われるがままに全員がイベントリをチェックする。

 俺のイベントリの中には、『鎧熊の爪』『鎧熊の骨』『鎧熊の甲殻』と、目的のアイテムが揃っていた。

 問題なしだな。

 

「俺は問題ない」

「私も。爪か牙があれば刀は作れるんでしょう?」

「はい! お任せください!」

「毛皮がない……だと……!? これではマントが……!」

「あ。私の方にあるので、追加料金をいただければ作りますが」

「頼んだ!!」

 

 そうして俺達は武器子に装備作成を改めて依頼し、武器子を街まで護衛した後に解散となった。

 ……やはりボスモンスターの相手は疲れたな。

 今日はここまでにしておくか。

 

 そして、俺はログアウトした。


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