拡張現実系トライナリー   作:葛城イロハ

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MENOW

 俺には、別の世界の記憶があった。いや、それは正確じゃない。『別の世界線の記憶』という摩訶不思議な記憶があった。俺は彼女たちを助けるために多くの同士と共に世界の理不尽な運命に抗うために戦った。

 

 そして、俺たちは勝った。二度と彼女たちと会うことができなくなるという選択をして……

 目を覚ますころには彼女たちと繋がるための端末は、画面がひび割れ、機能することはなくなった。もう、生きる気力もすべて使い切ったかのように心の中はすごく穏やかな気分になっていた。

 

 それから数年。俺は《彼女》に出会った。

 

 壊れ、狂っていた俺にはそれが唯一の救いだった。卯月神楽(うづきかぐら)という少女の存在が確認できただけでも俺にとって大きなことだった。

 

 それから、彼女の母である宇佐美(うさみ)さんが経営する会社で神楽がアーティストとして活動するための手伝いをすることになった。

 

 何より、俺には音楽に関しては耳と目が非常に特殊出会ったらしく、神楽とのミーティングを重ねることによって信頼と実績を重ね。半年で弱小企業を世界的に活躍する事務所として名をあげることができた。

 

 ガールズバンドやヴァーチャルアイドルを押しのけ、FreyMENOWという名で『この世界』の神楽を世界に羽ばたかせることができた。そう、俺の周りを、愛してくれた人を、信じてくれた人の思いを踏みにじってでも……裏切ってでも成し遂げなければならないことだった。

 

 今は社長の秘書兼プロデューサーとして、宇佐美さんと神楽のサポートをしていた。

 

「卯月社長、この後の予定ですが……」

「あなたは神楽ちゃんと一緒に休暇でいいわ」

「はっ?」

 

 俺は思わず頓狂な声をあげながら宇佐美さんを見てしまう。

 『何を言っているのだこの人は』と。

 

「あなたは最近休みを取ってなかったでしょ? このさい神楽ちゃんと有休を消費してきなさい」

「わかりました……」

 

 正直、宇佐美さんのことは苦手だ。

 

 あの人の優しさが、母さんと重なって心が揺らぐのだ。だからと言って毛嫌いしているわけでもない。ただ、俺はあの人に対して、面と向かって話すことができない。それが本当に申し訳ないとも感じているのだ。

 

「失礼しました」

「は~い。でも、今度はちゃんと目を見て話してね。くん」

 

 いまだに十代でも通用する容姿と子供っぽい言動で忘れていたが、彼女も一児の母親なんだということを、俺は常々思い知らされた。

 

 俺は社長室からすぐにエレベーターに乗り、エントランスまで降りる。そしてだだっ広いホールを抜けて止めていたバイクにまたがり、エンジンをかける。

 

 ブォオオオン! とエンジンがうなり、勢いよく道路に向かって走り出す。俺の乗るバイクは長距離走行使用のブラフ・シューペリア。後部座席も増設し、タイヤは大きなものい変更しエンジンも少しばかりいじられている。

 

 駆け抜けるたびに風を切り裂くこの感覚に心地よさを覚えていた。ギアを変更しさらに速度を上げていく。駅前の大通りを抜け、羽丘女学院を通り過ぎて白いツインタワー前の小さな脇道を抜けて住宅街の道を走りながら、明治時代の赤レンガ調を思わせる建物が言える。

 

 創立百年を誇る名門女子学校『月ノ森女子学園』。俺はその校門前にバイクを止めて、人を待つことにした。

 

 時間を見るとすでに時間は午後三時半を回っており、下校する女子生徒がちらほら見えていた。まぁ、こんなところにバイクで人を待っている男がいればいやでも目立つものだ。

 

 そんな彼女らをよそに携帯端末でコミュニケーションアプリを立ち上げて『着きました』と連絡を送ると『もう少し待っていてください』と返信が来た。

 

 そうして、しばらく待っていると――

 

「君、そこで何をしているのかな?」

「……」

 

 警備員の人に声をかけられてしまった。こんなことならちゃんと学校の受付で連絡をしておけばよかったと内心公開しつつも商売用の作り笑いで対応する。

 

「人を待っていました」

「人をねぇ~」

 

 そういって警備員の男は無遠慮に俺の全身をまじまじと見ながらいぶかしそうな顔になる。

 

「身分証明書は?」

「免許とついでに身元を保証してくれる場所はここです」

 

 そういって俺は懐から名刺を差し出す。

 

「何々……エイネ・インストゥルメンツ!? あの大手企業になったあの!?」

「どうも、私はそこの関係者でここで待機しておくよう言われています」

「そうですか。一応免許証も……って十七歳!? まだ学生じゃないか」

「あ、俺はアメリカからこっちにきたので勉学はきっちりと大学まで修めています」

 

 そういって俺は適当にその場を切り抜けた。

 

 数分後――――

 

「どーーーーん!」

 

 そんな少女の叫び声と共に俺の視界は真っ白に染まり俺は後ろに倒れてしまう。

 

「あわわ……千羽鶴(ちはる)ちゃん、何をしてるの!?」

「いえ、あやしい人がいたのでつい……」

「あーあ。拓瑠くん、女の子に押し倒されてるー」

 

 そういわれて俺はすぐさまこちらに抱き着くように押し倒したトンマな人物を引きはがしてすぐに立ち上がる。

 

 金糸のような髪をし右側の髪を三つ編みのおさげをした蒼眼の少女が卯月神楽。彼女の横には赤髪の少女と白髪の双子のような少女。髪と目が同色であるため本当に見分けやすい。

 

「どうも、俺は弥代(やしろ)拓瑠と申します」

「わ、私は逢瀬(おうせ)つばめです。こっちの白い子が妹の千羽鶴です」

 

 つばめさんの方は男性と話すことには慣れていない様子で、千羽鶴さんは俺のことを警戒しているようで姉の後ろでジッとこちらを睨んでいた。

 これは神楽さんに被害を被らせる前に帰った方がよさそうだった。

 

「それで、神楽さんはどうしますか? お友達と変えられますか?」

「どうしましょうか……拓瑠くん、今日の予定は?」

「あぁ……社長から神楽さんと有休と称してしばらくは休みらしいです」

 

 そう伝えると神楽さんはすぐさま端末を走らせ、確認を取っていた。

 

「あーどうしよう……」

「俺はこのまま帰りましょうか?」

 

 そういうとつばめさんが顔を真っ赤にしなが提案をしてくれた。

 

「拓瑠さんも時間があるなら一緒に喫茶店でお茶をしませんか!?」

「お誘いありがとうございます。では、連絡先を交換していただけますか?」

「あ、はい!」

 

 そんなやり取りをしていると神楽さんは驚愕したような表情をして抗議してくる。

 

「拓瑠くんもくるんですか!?」

「せっかくのお誘いですしね。それに、神楽さんは学校のことを話してくれないので社長がうるさくなる一方ですから……ここはお言葉に甘えてお誘いを受けようかと」

「神楽ちゃん、ダメかな……?」

 

 つばめさん、ナイスフォローです。このまま押し切ってくださいと内心では彼女のことを応援する。神楽さんはつばめさんの上目遣いの頼み方をされればイエスと返事せざるを得ないはず。

 

「わ、分かりました。じゃあ、後で会いましょう」

「そうですね。では私はバイクを置いてきますから。またお会いしましょう。お嬢様がた」

 

 そういって俺はバイクを都市街に向けて走らせていくことになった。

 

 その時、駅前の交差点に差し掛かるところで神楽さんと同じ月ノ森の制服を着た少女がガラの悪そうなチンピラに絡まれており、顔見知りの男二人で追いかけている姿。

 

 俺はバイクを左に寄せて二人に声をかける。

 

「ヒカルに聖翔(きりと)か? 何してる」

「あ、拓瑠さん、何でここに!?」

「ちょうどいいところに」

 

 突然をかけられて驚く二人。

 

 間もなく茶髪のやんちゃそうな少年、聖翔はさっきの少女が連れていかれた道を指して焦り気味に言った。

 

「俺たちの騒ぎにさっきの女の子を巻き込んじまって……それで……」

「もういい。お前らは俺のバイクを頼む」

『……!』

 

 俺の冷え切った声に二人の顔は強張るが、俺は二人の頭に手を置く。

 

「よく頑張ったな……」

 

 二人の恰好を見れば所々汚れていたり、顔に傷や痣がうっすらと浮かんでいる。さっきの男達だけになるまで頑張った。あるいは障害を押しのけて助けようとしたのだろう。

 俺はヘルメットを預け、裏路地の方に向かって走っていく。

 

 かなり距離が開いているが追い付けないわけではない。

 

 靴底から前のめりになりながら奴らの視界よりも下を走って音を消す。あっという間に詰められたことに気づかない男どもは無防備に俺に狩られる。

 

 まずは手前の二人の頭を掴んで地面にたたきつけ、こいつらが状況を理解する前にもう二人の足を引いて、地面に水平となるように体が浮き上がり、俺の両肘が鳩尾に突き刺さりしばらくは動くことはできない。そんな一瞬の出来事に少女の手を引いていた男は頓狂な声を上げていた。

 

「えっ」

「申し訳ないがその子は放してもらう」

 

 右腕から放たれたアッパーによって五人目の男は高く打ち上げられ、頭からアスファルトにたたきつけられる。

 

「大丈夫ですか?」

「え……ぁ」

 

 その少女は新雪のような髪に透き通るスカイブルーの瞳は今にも飲み込まれそうになるほど澄んだ瞳をしていた。少女はどこか怯えているようだった。

 

 そこで俺が来ていたジャケットを優しくかけてあげる。

 

「もう、大丈夫ですよ」

「うぅ……」

 

 緊張の糸が切れてしまったのだろう。少女は目じりから大粒の涙を浮かべ、盛大に泣き出してしまった。そんな彼女の背を泣き止むまで撫でるしかなかった。

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