大貝競輪場
1レース開始30分前の競輪場には、寒空の中、既に数百人のファンが詰めかけていた。
最終日だがランクの低いF2でA級戦のみ行われる平日の開催なので普段は客が少ない。しかし、本当に競輪が好きな地元のファンはそんな事など関係ない。
競輪場でレースが行われるなら、彼らは兎に角足を運ぶのである。
そんなレース前の舞台裏では、
はな「絶対行ける!」
はなは自信に満ち溢れていた。
そこに、
さあや「はな、一緒に頑張りましょう。」
はな「うん! さあやと一緒なら、私達は勝てる!」
話は昨夜に遡る。
はな「うーん・・・」
はなは悩んでいた。
というのも、はなが出る第2レースには、はなと同郷の選手が1人もいないのだ。
なので、ラインを組むことができずに単騎で挑まざるを得なくなった。
ラインというのは、2~4人の選手が組んで、隊列を組む事を指す。
競輪選手は、先行が得意な選手、追い込みが得意な選手がいる。
その選手同士が組むことによって、互いに少しでも有利に戦うことができるのだ。
基本的には同郷、師弟、同期で組むことがほとんどである。
逆にラインを組まない場合は単騎となる。
尚、国際ルールのケイリンでは、ラインを組むことは禁止されている。
はなは、そのラインを組める同郷の選手がいないので、単騎で組む可能性が高かったが、
さあや「どうしたのはな。」
はなの同期、薬師寺さあやである。はなとは同期で同室で大親友である。
はな「いやー、ちょっとライン組める人がいないから困っていたんだよね。」
さあや「だったら私と組まない? 私も同郷の先輩の選手がいないの。」
はな「いいの!?」
さあや「ええ、一緒に初勝利目指して頑張りましょ。」
こうして、新人コンビによる即席ラインが結成された。
2レース A級チャレンジ一般 1615m(4周)
1 高島 芳子 23 A-3 先行 大貝
2 野乃 はな 19 A-3 先行 七色ヶ丘
3 福崎 亜希穂 28 A-3 追込 大貝
4 海老原樹里 34 A-3 追込 大貝
5 薬師寺さあや 19 A-3 追込 はぐくみ
6 児島 夏子 27 A-3 自在 夕凪
7 朝井 ひろみ 32 A-3 追込 夕凪
1レースが終わり、2レースの選手紹介。
ここでは、ファンに対しての選手のライン見せやコンディションを見せるのが目的である。
つまり、選手紹介の際は、ライン同士で走ることになる。
客「おい、2と5がラインを組んでるぞ。」
客「やはりか、あの2人は新人同士で同郷の選手がいない。だから組んだのだろうな。」
ほかの選手は同郷同士でラインを組んでる。
このレースの人気は、地元の大貝所属の3人が中心。はな、さあやは新人の即席コンビということで人気薄だった。
選手紹介が終わり、あとはレースの時間を待つだけ。
レース10分前
はな達7人の選手は自分の自転車を手で持ち、入場を待っていた。
各番号で決まっているユニフォームを着て、黒に緑のライン、そのラインには白い星が描かれているレーサーパンツを穿く7人は、敢闘門(選手が入場するゲート)の裏で集中力を高めていた。
そして、レース開始時間、入場曲と共に選手達が敢闘門からバンクへと入場する。
スタート地点に到達し、自転車の後輪を発走機に固定して選手は自転車に乗りスタートを待つ。
ファンファーレが鳴って、選手はハンドルを握って前傾姿勢に。
よーい、 ダァーン!
ピストル音がなると同時に、スタート切った選手達、残り2周辺りまでは、選手より前に入る先導誘導員の後ろでいいポジションを確保するのだ。
並びは、1,3,4、2,5、6,7の隊列。
まもなく残り2周になるところで、6番の児島が7番の朝井を引き連れて進出を開始。はなとさあやを外からかわす。
残り2周を切ったところで、先頭の大貝3人組も動きだし、児島に抵抗する。その時点で、誘導員を追い抜いた。
そして、残り一周半を切って打鐘がなろうかというタイミングで、
はな(いくよ! さあや!!)
さあや(ええ!)
はな達が動き出した。
カーン…カーン… カーン カーン カーンカーンカーンカーンカンカンカンカン…
カーン
残り一周の時に、はなとさあやが一気に前へ出た。
1コーナー、2コーナー、はなとさやあは全力で漕ぎリードを奪う。
しかし、バックストレッチで、大貝ラインが強襲をかける。
高島「あたし達の地元で、あんた達を簡単に勝たせるわけにはいかないのよ!」
高島を先頭にはな達を猛追する。
そこに、
さあや(行かせない!)
さあやが外に進路を取って大貝ラインをブロック。高島達3人は後退する。
3コーナー、4コーナーを回ってもはなが先頭を守る。児島、朝井の夕凪コンビも最後の直線でさあやを抜くも時既に遅し。
見事に、はなは先頭でゴールを駆け抜けた。
はな(やった… やったー!)
はなは心の底で喜びを噛み締めていた。そして、さあやが並走し、
さあや「おめでとう、はな。」
はな「やったよさあや! さあやのおかげだよ!」
さあや「私も、次は初勝利出来るようにして見せるわ。」
因みにさあやは、2週間後に初勝利のあげる事になるが、それは別の話である。
そこから、敢闘門へ引き上げてからは。
えりか「やったじゃんはな!」
えりかを初めとする、七色ヶ丘支部の先輩たちがはなを祝福していた。
そして、
ほまれ「初勝利おめでとう、はな。」
はな「ありがとうほまれ。
決勝戦、頑張ってね。」
ほまれ「うん、必ず優勝して特班してみせるから。」
ほまれとハイタッチをかわしたはな。
まだ、一勝を挙げただけに過ぎない新人レーサーはなだが、その勝利は間違いなくはなの大きな大きな一歩になったことは間違いない。
続く
競輪用語
1 青板 残り3周の時を指す。ホームストレッチライン(決勝線のある側の直線走路)で、選手に残り3周を示す表示板が青地であることに由来する
2 赤板 残り2周の時を指す。ホームストレッチラインで、選手に残り2周を示す表示板が赤地であることに由来する
3 赤旗 レース中、失格に該当する行為があったと疑われた場合、審判員が掲げる旗。その場合、審議が行われる。
見事、はなは初勝利を挙げました。おめでとうはな!
次回は、決勝戦2レースと、レースが終わってからの様子になります。
賞金絡みちょっとシビアな話や、決勝戦を見たはなが改めて上を目指して頑張るという描写を入れられたらと思います。