太正二十九年・・・帝都・東京。
そして、ここは大帝国劇場。
「あの・・・さくらさん、いらっしゃいますか?」
とある一室の前でその部屋の主の名前を呼んでいる人物がいた。
彼女の名前は、小日向 蒼馬(こひなた そうま)帝国華撃団・花組の一員である。
両脇には大きな籠があり、ポケットから取り出した懐中時計で時刻を確認すれば、今度はノックをと扉に触れようとした時に隣の部屋の扉が開くと赤髪で巫女装束の女性が姿を現した。
「さくらなら中庭でまだ剣の稽古中じゃなかったかな?」
「そうですか・・・・・御菓子処みかづきの新作を入手したからお茶と一緒にどうかと思ってお持ちしたんですけど・・・」
「う~ん・・・もうそろそろ帰って来ると思うからよ!部屋の中で一緒に待ってようじゃねぇの!!」
「初穂・・・それって不法侵入で訴えられても知らないよ?」
「そんな事でアイツがガミガミ言う訳ないだろう?ほら!入った、入った!!」
「もう・・・強引なんだから」
強引に肩を組まれた蒼馬は、呆れた様に一息漏らすと大きな籠を持って初穂と一緒にさくらの部屋へとお邪魔する事にした。
初穂は部屋に入るとすぐさまベッドに腰を掛けて、蒼馬は大きな籠から急須と初穂用のコップを取り出した。
「新作の名前は、『春饅頭』。桜の花びらをした饅頭の中に桜色の餡が入っているんだとひろみさんが教えてくれたんだ」
「かぁぁぁっ!!やっぱみかづきの和菓子が一番だよなぁ~♪」
「リアクションが親父臭いよ?初穂」
「・・・ったく、一言うるせぇぞ」
「ふぅ・・・って、えっ?えっ!?どうして私の部屋にお二人が居るんですか?」
2人で和やかな雰囲気でくつろいでいると部屋の主であるさくらが目をぱちくりさせたように驚いていた。
「おっ!やっと帰ってきやがったか!おせぇぞ、さくら」
「・・・お邪魔してます」
「もう・・・なんで私の部屋でくつろいでいるんですか?」
「蒼馬がみかづきの新作を買って来てくれたんだよ!全員分あるみたいだから一緒に食べようぜ!!」
「どうして初穂が我が物顔で勧めているんですか・・・あっ、こちらがさくらさんの分です」
「うわぁぁぁ・・・今回は桜の形なんですね!?ありがとうございます!!」
饅頭を手渡すとさくら用のコップを取り出してお茶を注ぐ。
3人はいつものように他愛のない会話をしながら時を過ごしていた。
すると蒼馬は懐中時計を取り出して時刻を確認をすれば、大きく背伸びをした後に片付けをし始める。
「あっ、ごちそうさまでした♪」
「お粗末様でした」
「いつもありがとなっ!その籠持とうか?」
「いや、今からクラリスさんの所にも行くから2人はゆっくりしといて大丈夫。コップはいつもの場所にお願いするよ」
そう言って立ち上がった蒼馬は軽く手を振ると部屋を出て行き、クラリスがいつも居る資料室へと足を運ぶ。
軽くノックをしてゆっくりと扉を開けるといつものごとくクラリスは読書に勤しんでいた。
蒼馬は慣れた様に目の前に座ると色々と用意をし始める。
彼女は集中している時には何をしても反応しないと言われているが、蒼馬だけは彼女を振り向かせる術を知っていた。
和菓子と紅茶を用意した蒼馬は真剣な表情のクラリスを眺めていたが、不意に両頬に手を当てるとそのまま両頬を引っ張るのであった。
「いっいひゃいですよ!!しょうましゃん!!」
「ふふっ・・・ティーブレイクはいかがかと思いまして・・・・・」
「えっ?まぁ、あまり見ない和菓子ですね!いつもありがとうございます♪」
「自分が好きでやってる事だから気にしないでください」
本を置いて和菓子を頬張るクラリスを横目にクラリス用のカップに紅茶を注ぐ。
注がれる紅茶の香りに目を細めるクラリス。
「この香り・・・ダージリンでしょうか?」
「ご名答♪和菓子に合いそうな紅茶を選んでみたんだけど、どうかな?」
「えぇ・・・よく合っています♪和菓子がより一層美味しく感じられますね」
「それは良かった。研究した甲斐があったよ」
「・・・あの、ずっと見られているとなんだか恥ずかしいと言いますか・・・」
「気にしなくていいよ、ボクが見たいだけだから」
「だ・か・ら・・・・・!!」
クラリスが何か言おうとした瞬間に蒼馬の持っているスマァトロンが鳴り響く。
すぐさま手に取り内容を確認した蒼馬は立ち上がる。
「降魔ですか?」
「いや、支配人からの招集みたいだ。緊急ではないみたいだけど、行ってくるよ」
「わかりました。カップはいつもの所に置いておきますね?」
「OK、それじゃあね」
お互いに手を振って別れると大きな籠を持ったまま小走りで支配人室を目指す。
階段を降りて支配人室に向かう途中だったが、目の前を歩く2人の姿に声を掛ける。
「カオルちゃん!こまっちゃん!!」
「おっ蒼ちゃんやないか!?どないしたんや?」
「みかづきの新作を手に入れたんで一緒にどうかな?」
「そうですね・・・私は息抜きに頂こうと思いますが、こまちさんはどうなさいますか?」
「そやなっ!うちも頂こうかいな!!」
「わかりました。今から支配人とお話があるのでこちらを経理室にお願いしてもいい?」
「それならうちに任せときぃ!!」
そう言われると蒼馬は大きな籠を差し出した。
胸をドンと叩いて自信ありげに受け取るこまち。
しかし、受け取ったと同時に来た重量に体勢を崩しそうになるとそれをカオルがすかさずフォローに入った。
「な、なんやっ!?めっちゃ重いやんけっ!?」
「修行も兼ねてるからそれぐらいが丁度いいんだ」
「本当に隙がないですね、蒼馬さんは・・・・・」
「ボクがやりたいと思っていることだから普通だよ普通」
「それではお待ちしていますね」
2人掛かりで大きな籠を運ぶ姿を横目に支配人室をノックする。
「どなたですの?」
「小日向 蒼馬、参りました!」
「入ってちょうだい」
支配人室に入るとそこに居たのは、
帝国華撃団総司令 大帝国劇場支配人
神崎すみれの姿である。
「随分と早かったですわね」
「丁度こちらもお伺いする予定でしたから・・・それでボクに用件とはなんですか?」
「明日、帝国華撃団・花組の隊長を招き入れる手配なのよ」
「隊長・・・ですか、大神さんが不在ですからね。妥当な判断だと思います」
「それもありますが、今回はちょっと違いますの」
すみれの雰囲気に蒼馬は首を傾げる。
「貴女もご存じの世界華撃団大戦ですわ」
「世界中の華撃団が集まって競い合うヤツでしたよね?」
「えぇ・・・貴女なら気付いているでしょう?今の帝国華撃団はもう昔の輝きを失いつつある・・・ですから、今回の祭典では勝利を重ね、帝国華撃団ここにありと広く世間にしらしめて・・・・・この帝国華撃団を復活させようと思いますの」
「それは名案ですね」
「そこで・・・蒼馬さんには新隊長の補佐をお願いしたいのです」
「ボクが・・・ですか?」
キョトンとしたような表情で尋ねる蒼馬にすみれは頷いてみせた。
「貴女にしかお願い出来ませんわ。この10年間2人で共に護って来たんですもの」
「ふぅ~・・・もうアレから10年になるんですか」
「えぇ・・・あの方達の戻って来られる場所を護る為の第一歩なのですわ」
「・・・・・引き受けましょう、その大役を」
「流石蒼馬さんですわね、明日にはお着きになるそうですから帝都中央駅までお出迎えもお願いしてもよろしくて?」
「別に構いませんよ。予定の方も特にありませんので承知しました」
「それでは明日からお願いしますわね!」
「はい!あっ・・・それとこちらなんですが、みかづきの新作をお持ちしています」
「まぁ、いつも気が利くわね♪後で頂くわね」
「それでは失礼します」
深く一礼をすると踵を返して支配人室を出た。
出たと同時に大きく深呼吸をした蒼馬は一歩前に出ると窓越しに見える夜空を見上げる。
「大神華撃団、紐育華撃団のみんな・・・ボク、みんなの為に頑張ってみるよ」
誓いを立てるようにそっと一言呟いた蒼馬は微笑すると自分を待っているであろう経理室に消えていったのであった。