Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

18 / 55
【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。
・この小説における芳澤姉妹は双子で、同学年の別クラス。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。


泣きっ面に虹を見た

 鴨志田から奪い取った【オタカラ】――金メダル――を売り払った帰り道は、やけに静かだった。お互いの手を搦めて、普段より少しゆっくりな歩幅と調子で道を行く。

 少し前まで浮足立っていた気分は名残すら残っていない。脳裏を占めるのはつい先程の出来事――黎が誰かに突き飛ばされて、車に轢かれそうになった――だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()だって? ……本当におめでたい奴だな』

 

『明智吾郎、()()()()()()()()()

 

 

 黎が何者かによって突き飛ばされる直前に、俺へ声をかけてきた誰か――認知世界で殺人を繰り返す、獅童の手駒――の言葉が脳裏をよぎる。奴が何を言っているかは殆ど理解できないが、この発言が僕への警告であることは確かだった。……そして恐らく、黎を車道へ突き飛ばしたことも、僕に対する脅しであろう。

 

 鴨志田パレス攻略のため、偽物の依頼をでっち上げて秀尽学園高校を出入りしていた合間も、獅童の懐へ飛び込むための準備は入念に行っていた。つい最近になって漸く、奴と直接的な結びつきを得る段取りが整ったばかり。ある意味で、僕の計画は順風満帆と言えた。

 最終目標はただ1つ、“獅童正義に罪を認めさせ、冤罪を着せられた黎の汚名を注ぐ”ことだ。……まあ、母と僕を捨てたことへの憎悪が無いかと問われれば、答えに窮してしまうけれども。政治家としても、人としても、父親としても、獅童正義がクズであることは僕が一番知っている。

 同時に、僕の身体には、そんなクズ野郎の血が流れているのだ。僕/俺が僕/俺として生きていく限り、獅童の影はずっと纏わりついて離れないのだろう。実際、こうして黎と一緒に歩いていて幸せだというのに、自分自身の存在が悍ましくて堪らない。汚いクズの血を引く僕が、黎の隣にいてもいいのかと不安になる。

 

 

「ねえ、黎」

 

「何?」

 

「僕たち、距離を置く方がいいのかもしれない」

 

 

 ルブランに黎を送る道すがら、僕はそんなことを零した。

 黎は一瞬目を見張るも、すぐに真剣な面持ちで僕を見上げる。

 

 

「私が車道に突き飛ばされたこと、気にしてるの?」

 

「……うん」

 

 

 彼女の眼差しを真正面から受け止めることが出来なくて、僕は視線を逸らす。

 

 僕はまだ、黎に対して何も言っていない。黎に冤罪を着せた男の正体を知っていることも、そいつ――獅童正義が明智吾郎の実の父親であることも、僕/俺がそいつの血を引く息子であることも。勿論、黎が車道に突き飛ばされた原因が何であるかも言えなかった。

 言えるわけがない。言ってしまえば、僕はもう二度と黎の隣にいることは叶わなくなる。自分を襲おうとし、言いなりにならなかったという理由で冤罪を着せた男の息子に対し、今までと同じように接してくれるはずがない。しかも、今回彼女が危険な目にあったのは、十中八九巻き添えなのだ。

 

 僕が獅童に近づいたから、黎は車道に突き飛ばされて車に轢かれそうになった――ここで僕が取れる選択肢は、大きく分けて2つある。

 1つは獅童を追いかけることを諦めて距離を取る/逃げること、もう1つは黎の安全を守るために彼女との距離を置く/関係を断ち切ってしまうことだ。

 前者は最初から選択肢に入っていない。故に、実質、僕の前にある選択は“黎との関係を断ち切りつつ、獅童の調査を行う”という一択だった。

 

 

「黎が危ない目にあったのは僕のせいだ。……認知世界の殺人鬼や、黎に冤罪を着せたクソ野郎を追いかけてたから、その報復だと思う」

 

「…………」

 

「それらの一件から手を引けば、最低でも、黎の身の安全は確保できるだろう。――でも、僕は、あの2つの事件を放置することなんてできない」

 

 

 人として、ペルソナ使いとして、獅童正義の息子として、黎を愛する1人の男として、全てをほっぽりだすという選択肢だけは選べない。

 見て見ぬふりをするには、僕は獅童正義や『神』との戦いに関しての因縁が強すぎた。関わってきた数多の旅路に、脳や魂を焼かれていた。

 

 

「僕が事件を追いかけ続ける限り、今日みたいなことが起きるかもしれない。僕自身が狙われることに関しては『仕方がない』で済ませることはできるけど、君がこんな目に合うのは、嫌だ」

 

 

 故に、手を放すべきなのだ。僕自身はけじめをつけるまで止まるつもりは無いし、止まらない。危険を承知で調査を続ける以外の選択肢はなかった。

 だからと言って、黎を巻き込んでいいはずがない。今日みたいな危険な目に合わせたくない。無事でいて、笑っていてほしいのだ。

 頭では理解しているのだ。今からでも関係を断ち切って、お互いに無関係になってしまうことが最善なのだと。――心が一切納得していないだけで。

 

 明智吾郎にとって、有栖川黎はかけがえのない大切な人だ。絶対に手放したくない、離れたくないと思った数少ない相手。この世で一番愛おしい女性(ひと)

 

 僕の思い描く未来には黎が必要不可欠だし、彼女と離れ離れになった後の未来や僕自身の行く末を想像することは不可能だった。自分の中に潜む汚い部分もまた、絶対に黎を逃がそうとしない。どんな手段を講じてでも、彼女を自分の傍に縛り付けておけないかと思ってしまう。その悍ましさに頭を抱えたことは一度や二度ではなかったし、今でもふとした拍子にそれを自覚してしまう。

 黎は僕の深淵をのぞき込んでも、静かに笑って受け入れてくれた。言葉でも態度でも、僕への好意や愛情を惜しみなく伝えてくれる。「一緒に未来を歩もう」と言って、僕の手を取って、傍にいてくれる。有栖川黎という存在に、明智吾郎は何度救われてきたか。……やっぱり、手放すことなんかできない。離れることなんかできないのだ。そうするには、僕はもう――。

 

 

「……何が最善なのか、僕は分かってる。今からでもそうすべきだって、理解している」

 

「っ、吾郎。私は――」

 

「だけど」

 

 

 たっぷりとした沈黙の後、僕はその言葉を絞り出した。黎が泣き出しそうな顔で何かを言おうとしたのを遮り、僕は言葉を続けた。

 

 

「僕はもう、この手を離すことも、君から離れることも、選べない。……選びたくないんだ」

 

 

 繋いだ手に力を込めて、情けないのは百も承知で、彼女を危険に晒すことだと理解した上で、僕は希う。

 傍にいて、一緒にいて――言葉にする代わりに、繋いだ手をもう一度、今度は強い力で繋ぎ直す。

 黎は暫し目を丸くしていたが、次の瞬間、ほっとしたような表情を浮かべて微笑む。

 

 

「……良かった。安心した」

 

「黎?」

 

「『別れよう』って言われるかと思って、怖かったんだ」

 

 

 黎の笑みに、僅かな陰りが滲んだ。僕は思わず彼女の顔を凝視する。――僕の見間違いでなければ、どことなく、瞳が潤んでいるようにも見える。

 

 僕に見られていることに気づいた黎は、眼鏡を取って視線を逸らす。乱暴に目元を拭ってこちらに振り返った彼女は、幸せそうな表情で肩を寄せてきた。繋いでいない方の手で、僕の腕を掴む。心なしか、その手が小さく震えているように思った。

 彼女のいじらしさに、僕は胸が締め付けられるような心地になった。普段は僕の弱みや情けない姿を受け止めてくれる黎が、僕に弱みを曝け出している――それはとても珍しいことだ。それを嬉しいと思ってしまう僕は、多分、どうかしているんだろう。

 

 

「吾郎が何を背負っているのか、何と対峙しているのか、私には分からない」

 

「…………」

 

「――でも、もし、吾郎が許してくれるなら、一緒に背負っていきたいって思ってるよ」

 

 

 彼女の眩しさに目を細める。僕の好きな人は、こんなにも強い。何も言えない僕のことを信じて、僕が自ら告げるまで待っていてくれる。

 今まで散々迷惑をかけてきたのに、これからも沢山迷惑をかけるだろうに、黎は変わらずに微笑んでくれた。それがどれ程救いになっているか、気づきもせずに。

 いつか、本当のことを話す日が来たら。僕と獅童正義の関係を明かしたら、彼女は受け入れてくれるだろうか。繋いだ手を、離さないでいてくれるだろうか。

 

 きっと僕は何度も躊躇うのだと思う。何度も不安に駆られるのだと思う。嫌われる覚悟だって固められていないから。

 でも、今は――今この時だけは、来たるべき『いつか』の結末に、僅かながらも明るさが見えたような気がした。

 

 

「うぇっぷ。……ワガハイ、今なら砂糖吐けそうだ……。――いや、吐きそう……?」

 

 

 ……黎の鞄の中からモルガナのぼやきが聞こえたのは、多分気のせいではない。

 

 しかも何やら不穏な気配がする。モルガナの嘔吐も、黎の鞄の中が大惨事になってしまうことも避けたい。僕と黎は苦笑しつつ、大急ぎでルブランへと向かった。

 喫茶店まで黎を送り届けて、僕も家路につく。仕事用の携帯電話を開き、画面に映る名前に目を見張った。――そこにあったのは『空元至』。僕の保護者からだ。

 

 

(探偵王子(ぎそう)用の携帯に連絡してくるなんて初めてだな)

 

 

 いつもはどんな用事があっても普段使い用――【影時間】や【マヨナカテレビ】という超常空間内でも使用可能な特別性の機種。【メメントス】対応版はもうすぐ試作品が開発完了予定――の番号に連絡してくるのに、今回はどういうことだろう?

 一抹の疑問を抱きつつ、僕は至さんの電話番号に呼び出しをかける。数コールの後で電話に出た保護者の態度はいつも通りで、僕はちょっとだけ呆気にとられた。けど、「仕事用の携帯電話にかけてきたとは思えない態度だったから拍子抜けした」と零した途端、至さんは沈黙する。

 

 電話越しの雰囲気が変わったことを察するまで待ち構えていたのか、僕が沈黙してからややあって、至さんが口を開く。

 

 

『南条コンツェルンの特別研究部門・非常任調査員見習いにして、二代目探偵王子と名高い明智吾郎クン。――お前宛てに、依頼が来てる』

 

 

 仕事に、依頼。偽りの名探偵に、或いは明智吾郎に宛てたモノ。

 ……心がひやりとした感覚に見舞われたのは、何故だろうか。

 不自然な程に心臓が脈打つ。赤く染まった世界に佇む、誰かの背中を幻視する。

 

 

「……依頼主は?」

 

『――堂島さん家の凛ちゃん』

 

「へ?」

 

 

 間髪入れずに告げられた名前に、僕は間抜けな声を漏らした。

 

 

 

***

 

 

 

 堂島凛。旧姓は霧海(むかい)凛で、嘗ては巌戸台に住んでいた。

 

 僕が彼女と初めて顔を合わせたのは、コロマルの実家・長鳴神社。彼の散歩当番となった僕・黎・至さんが、神社で蹲っていた凛さんを見かけたのが始まり(?)である。……と言っても、声掛けの第一声が凛さんにとっては地雷の極みだったらしく、彼女の心のシャッターは爆速で閉じられてしまったが。

 以後、僕等は【八十稲羽連続殺人事件】に巻き込まれるまで、凛さんとは殆ど関りのない日々を過ごした。自己中キャベツ野郎から又聞きした限り、凛さんは『親戚から虐待を受けていた』、『親戚たちは外面が非常によかったため、周囲はそれに騙されて凛さんを信じてくれなかった』という状況下にあったらしい。

 『僕等の第一声に対して心を閉ざしたのは、“いい人”に擬態していた親戚、或いは親戚に騙された“いい人”たちの言動を思い起こさせるような対応だったことが理由なのだろう』とは、巌戸台を離れる直前の僕らに対し、自己中キャベツ刑事が零していた話だった。

 

 凛さんとの本格的な交流が始まったのは、僕たちが【八十稲羽殺人事件】に巻き込まれてからである。当時の凛さんは堂島さん家に引き取られ、養子になって姓が変わっていた。八十稲羽に来て2年が経過していたものの、経緯が経緯のため、“いい人”だらけの田舎町に馴染むことができなかった。努力することも、取り繕うことに疲れ果てていたのだ。

 彼女にとっての自己中キャベツ刑事は、僕にとっての黎みたいな存在だったのだろう。同時に、自己中キャベツ刑事にとってもまた、僕にとっての黎に等しい存在でもあった。お互いがお互いを支えにして、少しづつ、本当の意味で八十稲羽へ溶け込んでいく姿を見せつけられたのは一度や二度ではない。閑話休題。

 

 

「――それで、依頼というのは?」

 

 

 短い世間話で互いの緊張を解した後、僕は姿勢を正して凛さんに問いかけた。暫く見ないうちに、彼女は清楚な女性にぴったりな外見をしている。

 

 腰のあたりまで伸ばした白銀の髪をゆるくまとめ、下側をリボンで結んだヘアアレンジ。白い女性もののカッターシャツと、淡い藤色のガウチョパンツが目を惹いた。

 『巌戸台にいたときはユニセックス的な外見を強要されていた』とは凛さん本人の談である。実際、巌戸台で会ったときの彼女の髪型は、女装した男子生徒と見間違う程のベリーショートだった。

 髪型の第一印象が『素人が自己流で滅茶苦茶に切り刻んだ』という有様だった巌戸台の頃と比べると、今の凛さんの髪は丁寧に手入れされていることが伺える。

 

 第一印象はいかにも『人生を謳歌しています』という感じなのに、凛さんの表情はどこか暗い。得体の知れない不安を抱え、それを吐き出す術を求めているように見えた。

 自己中キャベツ野郎のことは信用していないけど、凛さんを幸せにしようと駆けずり回っていた奴の姿だけは信頼できる――僕はそう思っていたのに。

 

 

(……なんだか裏切られたような気分だ。アイツなら絶対、凛さんにこんな顔させるような真似はしないと思ってたのに……)

 

「……“あの人”が東京に行くことになったという話は、知ってる?」

 

 

 凛さんの問いかけに、僕は頷いた。

 保護者経由であるが、奴の情報は齎されている。

 

 

「『警察の偉い人から声を掛けられて、東京へ転属することになった』ってヤツですよね。事実上の栄転だ」

 

「異例の転属だし、文字通りの栄転だったから、みんなも大騒ぎでね。“あの人”も、“最終的には”辞令を受けることにしたんだって」

 

「……“最終的には”?」

 

 

 何か含みのある言い方だった。僕がそれを鸚鵡返しにすると、凛さんは小さく頷き返す。

 

 

「転属の話が出てくる少し前、“あの人”が誰かと言い争っていたのを見たの」

 

 

 僕の脳裏に浮かんだのは、【八十稲羽連続殺人事件】を追っていた最中の一幕――自己中キャベツ野郎が真犯人と言い争っていた現場を見たときのこと。

 それから数日後、奴は特別調査隊に対して喧嘩を売ってきた。真犯人の脅迫に屈したふりをして、『自分が真犯人である』という嘘の主張をしたのだ。

 あの時点で、奴は堂島一家を人質に取られていたのだろう。自分の大切な場所や大切な人たちを守るために、自ら道化師になることを選んだ。

 

 

「人だけじゃない。電話越しから言い争ってたこともあった。そのとき、言ってたのよ。『東京には行かない』って」

 

「栄転話を蹴ろうとしてた……!?」

 

「でも、電話の相手から何かを言われたみたい。そのまま押し黙って、暫くして『分かった。話を受ける』って答えてた」

 

 

 「……問いかけても、『大丈夫』、『何も心配しなくていい』としか言わなくて……」――成程。事態は把握した。

 

 アイツの栄転話はガワだけだ。実際は栄転とは程遠い理由で、東京へ行く羽目になったのだろう。しかも、凛さんが俺を名指しで依頼してきたことからして、奴を取り巻く状況はあまりよろしくないらしい。いつぞやの出来事と類似の可能性がプンプンする。

 堂島凛の依頼内容は“自己中キャベツ野郎の調査”。奴がどのような状況に陥っているかを把握し、場合によっては、東京にいる僕たちで奴をサポート、及び救援してやること。最終目標は“奴の八十稲羽帰還”だ。これはこれで、大仕事になりそうだった。

 

 

「ところで、どうして僕に依頼を?」

 

「明智くんは、“あの人”と仲が良かったじゃない」

 

 

 依頼金――恐らく、【マヨナカテレビ】やそれに類する異空間で、シャドウ相手から巻き上げた金だろう――を受け取り、諸々の契約を交わした後、僕は凛さんに問いかける。

 凛さんは暫し目を瞬かせた後、くすりと笑って答えた。あまりの答えに、僕の眉間にしわが寄る。それを知ってか知らずか、凛さんは更に付け加えた。

 

 

「明智くんたちって、“いい人”でしょう? この話を持ってきたら、絶対放っておかないと思ってた」

 

 

 “いい人”に苦手意識を持っていた凛さんがそんなことを言うとは思わなかった。呆気にとられた僕を見返し、凛さんは立ち上がって会釈する。

 明日はゴールデンウィーク最終日。八十稲羽からやって来た凛さんは、そろそろホテルに戻って帰宅の準備をしなければならない。

 至さんはそれを理解しているためか、今回は「ご飯食べて行きなさい」とは言わなかった。ただ黙って、凛さんを見送っていた。

 

 僕もそれに倣い、凛さんを見送る。

 

 明日は戦勝会であるが、今後のことについても話し合わなければいけないだろう。伝えなければいけないことも、伝えることに勇気がいるために言えないことも山積みだ。ペルソナ使いとしての戦いもあるし、凛さんからの依頼もある。勿論、超常の力を用いる獅童を止め、黎に着せられた冤罪を雪ぐことは確定事項。

 楽しい戦勝会を思い描いているであろう竜司・杏・モルガナには悪いけれど、勝利に浮かれる暇は無い。更に言えば、制限時間――食べ放題1時間コース――内でこんな話ができるかどうかも疑問である。話し合いに夢中になり、元が取れなくなる可能性もあるからだ。高級品に胸躍らせる2人と1匹の姿を思い返し、僕は苦笑した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「うぅ……食いすぎた。気持ち悪ィ……」

 

「は、腹が……腹が裂けそうだ……」

 

「……ホントに吐くまで食う奴がいるかよ」

 

 

 エレベーター前で悶絶する竜司と黎の鞄の中で呻き声を上げるモルガナを眺めながら、俺は深々とため息をついた。

 そのくせ、つい数十分前までの彼らは俺の無茶を咎めていたのだから笑えない。幾らなんでも迂闊すぎるだろう、これ。

 黎は相変らず慈母神みたいな笑みを浮かべ、俺たちのことを見守っている。怒ると怖いが懐が深い――それが、有栖川黎という女性だった。

 

 現在、僕たちは帝都ホテルのビュッフェで戦勝会を行っている。コースは“制限時間ありの食べ放題”だ。何度も言うが、帝都ホテルは本来、金持ちが利用するホテルである。勿論、建物内にあるこのビュッフェも金持ちやセレブご用達の店であった。到底、一介の高校生如きに手を出せるものではない。

 しかしながら、俺たちはきちんと料金を払って利用していた。利用者の貴賤に関しては、コース料金を支払った時点で不問になるのがお約束のはずである。……ただ、“学生が金持ち御用達のビュッフェで食べ放題に勤しんでいる”という絵面は、ここの利用者にとって“あまりよろしくない”扱いなのだろう。

 

 

『俺達はちゃんと金払って利用してるのに、なんでそんな風に言われなきゃいけないんだよ。美味いもん腹いっぱい喰いたいって、元取りたいって思うのは当然じゃねえか』

 

『確かにちょっと浮かれてたのは認める。けど、ここまで酷く言われるなんて思ってなかった。……あたしたち、やっぱり場違いだったのかなあ』

 

 

 肉料理への執着心や食べっぷりを『卑しい上に、碌なものを食べていない可哀想な奴』呼ばわりされた竜司や、スイーツ爆食いを楽しんでいたところを『品位の欠片も無い』と詰られた杏が、とても悲しそうに俯いていた。

 

 一流の店には、金持ちや有権力者が集まりやすい。利用者も『一流の店を利用している』という矜持を有している者が多かった。それ故に――彼らの性根がどんなものであるかは問わず――“自分以外に店を出入りする人々にも、立場や品位を求める”人間が出入りするわけだ。

 この店を利用している連中にとって、僕等のような一介の高校生がビュッフェに出入りしている光景は“店の品位を下げる”存在として認識された。結果、排斥行為――陰口の対象者とされ、すれ違い様に文句を浴びせられる羽目になったのだ。何とも世知辛い話である。

 学校中に広がった冤罪事件の噂によって孤立無援に等しい状態になった黎、鴨志田の理不尽にカッとなって反抗した結果不良のレッテルを張られて周囲から遠巻きにされた竜司、日本人離れした外見から周囲から浮き気味な杏――3人とも、居場所が無いという共通点があった。

 

 周囲からの扱いが、己の境遇を嫌でも意識させる理由になったらしい。意気消沈してしまった竜司と杏であったが、落ち込んでいる間にも時間は過ぎていくわけで。

 空元気になりながらも、『制限時間内に沢山美味しいものを食べよう』という意地でどうにか持ち直し、高級ビュッフェを楽しんでいた。

 

 

(……その結果が、過度な暴食に繋がったんだけど)

 

 

 あれは最早やけ食いだったな――なんて思いつつ、僕は少し前の会話へ思いを馳せた。

 会話の話題は、“昨日のこと”について。

 

 

『昨日、【廃人化】の実行犯に接触されたんだ』

 

 

 鴨志田の【オタカラ】/金メダルを換金し終えた帰り際、【廃人化】を推し進めていた暗殺者が僕に接触してきた。……と言っても、僕は奴の顔を見たわけではない。奴の気配を背後で感じ、奴の言葉――僕への警告を向けられたのだ。その際、僕への警告と報復として、黎が車道に突き飛ばされて車に轢かれそうになった。

 予め僕から『認知世界を悪用して人殺しを行う奴らがいる』ことを聞いていた竜司は顔を真っ青にし、僕からかいつまんだ要約話を聞いた杏も戦慄する。2人は良くも悪くも“今時の高校生”だから、僕等に降り注いだ災難――命を狙われた――に対して、恐怖と警戒を抱くのは当然のことであろう。

 

 声を荒げそうになった2人を制し、僕は言葉を続けた。

 

 

『誰に何を言われても、僕は追いかけている相手や事件から手を引くつもりは無い。……だから、もしかしたら、今後も似たようなことが起きると思う』

 

『そのことで僕がどうなろうと、それは僕の自己責任だ。――ただ、黎に危害が加えられるというのは避けたい』

 

『“今回の一件でなし崩しに黎と関係を持った”君たちにこんなことを頼むのは、利害の範疇を超えてるって分かってる。一介の高校生には重い話だ。だからこれは強制じゃない』

 

『……これからも、黎の近くにいてあげて欲しい。僕は他校の生徒だし、【廃人化】の実行犯から狙われている張本人だからね。彼女に何かあった際、傍で守ってあげられない』

 

 

 僕の話を聞いた2人は沈痛そうな面持ちになった。

 が、僕の話に聞き入っていた黎が真顔で零した言葉に目を剝いた。

 

 

『私のことを大事に想ってくれることは嬉しい。けど、“吾郎なら死んでもいい”ってわけじゃないでしょう?』

 

『……俺は自他共に認めるバカだ。だけど、そんな俺でも、これだけは分かる。――吾郎は頭がいいだけの、超弩級なバカだって!』

 

『流石に自己評価低すぎるでしょ!? 死んじゃったら元も子もないんだからね! 黎の恋人なら、黎の気持ちも考えてよ!!』

 

 

 ――結果、僕は2人からお説教を喰らう羽目になった。

 

 最大戦力の黎は『吾郎にお灸をすえなきゃと思ったから』と言って、2人に怒られる僕に対して静観を貫く。モルガナは深々とため息をつき、『いいクスリになるだろ』と言って魚料理に舌鼓を打っていた。

 その時は食べ放題の時間制限を告げることで追及から逃れたが、多分、別の時間を設けて苦言を呈する予定でいたのだと思う。……その意識は、クズな大人たちからの冷や水で流されてしまったようだが。

 今回ばかりは、クズな大人たちに感謝しておこう――なんて、他3人と1匹にバレたら説教確実・1時間コースじゃ済まないレベルのことを考えていた。勿論、墓場まで持って行った方がいい内容である。 

 

 

「それにしても、この階のトイレが清掃中だったのには焦ったね」

 

「あはは、確かに。まるで示し合わせたみたいに、立ち入り禁止の看板が立ってたね」

 

「オ、オマエラぁぁ……! 人の不幸すらダシにしやがって……!!」

 

「くそう。リア充めぇぇ……!」

 

 

 竜司とモルガナの災難を種にしながら、黎と僕が談笑していたときだった。

 

 立派なスーツを着込んだ連中がぞろぞろと連れ立って、俺たちの前に割り込む。――その中に、見たことのある男の姿を見つけ、俺は反射的に身構えた。

 獅童正義。俺の実の父親にして、巷を騒がせている精神暴走事件を部下に命じて起こさせている黒幕であり、黎に冤罪を着せた張本人である。

 現職の国会議員とその取り巻きどもの横暴に、施設の利用者は逆らえない。正当性を掲げて果敢に挑んだ竜司でさえ、奴の睨みによって沈黙させられた。

 

 俺は鹿撃ち帽を目深く被って顔を隠す。変装がてら持ってきていた帽子と結っていた髪が、こんなときに役に立つだなんて思わなかった。獅童の関係者と接触するときは学生服やワイシャツとスラックス姿の正装風衣装(フォーマルスタイル)だから、多分、私服姿である俺が、獅童の元に出入りしている人間だと気づかないだろう。

 だから早く立ち去ってくれ、と、俺は心の中で祈った。震えないようにと握り締めた掌に汗が滲む。この時点で俺の正体に気づかれてしまえば、奴は俺の息の根を止めようとするに決まってる。俺はまだ死ぬわけにはいかない。もし死ぬしかないと言うならば、せめて獅童を道連れに。でも今は、道連れにするための算段すら立っていないのに――!!

 

 

「アイツ、何してるんだ……」

 

 

 誰かを待っているらしい獅童と――ほんの一瞬だが――目が合った。

 ゾッとするような寒気を感じて、俺は動けなくなる。

 そんな俺を放置したまま、世界は動き続けていた。

 

 

「遅くなってごめん。公安の方と話し込んでいたら、面白い話題を聞けたから」

 

 

 ――俺を世界に引き戻したのは、こちらに近づいてきた青年の声だった。

 

 

「鴨志田という教師が、突然人が変わってしまったって話なんだ。興味深いでしょう?」

 

 

 彼の口調は爽やかな好青年を地で行くような、穏やかなトーンである。だが、俺が認識できたのはそれだけだった。どんな声質なのか、高い声が低い声かを判別できない。そもそも、俺が()()()()()()()()()()でいた。

 この感覚を俺は知っている。数日前、俺に警告し、黎を横断歩道に突き飛ばした人物だ。俺は思わず、声が聞こえたと()()()()()方向に向かって視線を動かす。丁度、1人の青年が獅童の元へ歩み寄ってきたところだった。

 

 青年が身に纏っているのは、俺と同じ学校の制服だった。ホテル内は煌びやかな照明で照らされているというのに、俺は奴の顔や特徴の()()()()()()()()()

 

 以前にも似たようなことがあった。モナドマンダラで対峙した“本来の姿の”ニャルラトホテプを見たときも、俺は奴の顔というものを()()()()()()()()()()

 俺たちが()()()()()情報は数少ない。奴が無貌の神という名に相応しいグロテスクな姿をしていたこと、ずっと俺たちを嘲笑っていたことくらいだ。

 こいつは一体『()』なんだ。俺は生唾を飲み干しながら、獅童に対してニコニコと笑っているそいつを凝視していた。息をすることすら忘れてしまう。

 

 

「他にも、公安には、最近赴任してきた刑事さんがいるでしょう? 【八十稲羽連続殺人事件】の真犯人を捕まえた張本人だけあって、こっちの話も興味深くてね。後で詳細を聞かせて貰えるよう、約束をしたところなんだ」

 

 

 そこまで話をした青年は、返答のない獅童の様子から、奴が不機嫌であると察したらしい。心底心配そうな様子で声をかけた。

 

 

「あれ? もしかして、今、部下のみなさんに指示を出してた?」

 

「そうだ。だが、どいつもこいつも無能ばかりで話にならん」

 

「あはは。相変わらず厳しいなあ」

 

「だからこそ、私がこの国を導いていかなくてはならない。これからも力を貸してくれるか?」

 

「勿論だよ。任せてほしい」

 

 

 朗らかな笑みを浮かべている――顔は()()()()()()が、どんな表情をしているのかは分かる――青年に対し、獅童は風格を損なわぬまま、けれどもころころと表情を変える。部下に対する愚痴を零す間柄だとは、獅童と青年はとても親しい関係であることは明らかだ。

 獅童は彼を重用し、懐刀のように思い、大なり小なり心を許しているのが伝わってくる。俺と母親を捨てた冷徹な男というイメージからは一切想像できない。人並みの感情を有しているように感じた。そう考えたとき、背中に凄まじい悪寒が走った。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。『()()()()()()()()()()()()()。『()()()()()()()()()()()()。『()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ところで、お前が言っていた刑事はどうした」

 

「そろそろ来る頃じゃないかな」

 

「――いやあ、お待たせしてすみません。ちょーっと今後の方針を話し合ってたんで」

 

 

 聞き覚えのある声がした。数年前、八十稲羽で散々聞いたアイツの声だった。一瞬呆気にとられたけれど、一歩遅れて、僕の頭は青年の発した言葉――或いは、凛さんからの依頼内容をリフレインした。

 奴が今身に纏っているのは、八十稲羽で見たくたびれたスーツではない。それなりに値の張るブランド物で、着崩し気味な普段と違ってかっちりと着こんでいる。ダメ警官っぷりからは想像できない有様だ。

 もしかしたら俺たちが知らないだけで、エリート時代のコイツはこういう格好が普通だったのかも知れない。――飄々とした調子や、うだつの上がらないへらへらした態度は相変わらずのようだが。

 

 ……最も、それは奴が“エリートとしての出世戦争を勝ち抜くために得た仮面の1つに過ぎない”ことを、俺はよく知っている。

 その仮面を駆使して、愛する人や大切な場所を守るために、八面六臂の活躍をしてのけた男であることを知っている。

 

 ――だって実際、その姿を目の当たりにしたのだから!

 

 

「……ほう。お前が……」

 

「ハイ。八十稲羽から赴任して来た足立透と言います。いやあ、獅童先生のお噂はかねがね――」

 

「――こんな俗物に価値があるとは思わないが、()()が興味を持った男だからな。それに見合った働きをして貰わなくては困る」

 

 

 獅童に名を呼ばれた自己中キャベツ刑事――足立透は、相変わらずへらへらとした笑みを浮かべて頭を下げた。尚、奴のことを良く知る人間が観察してみると、笑顔そのものが微妙に歪んだことに気づく程の変化が起きている。恐らく内心は悪態だらけなのだろう。

 

 足立はへらへらした笑いを浮かべたまま沈黙する。その際、俺の存在に気づいたのか、こちらにちらりと視線を向けてきた。短い一瞥ではあるが、奴の瞳には拒絶の感情が色濃く浮かんでいる。

 俺もそれに従うようにして視線を逸らした。俺の態度に満足したのか、奴はすぐに“うだつの上がらない警察官”の仮面を被り、へらりと笑いながら獅童たちの会話の輪へと加わっていった。

 凛さんからの依頼/足立が置かれた状況までもが獅童に繋がっているだなんて――こんな『偶然』があるものか。俺の経験則が、『神』の気配を感じ取る。季節外れの薄ら寒さを感じずにはいられない。

 

 けれど、それ以上に――今、獅童は何と言った?

 

 

(……()()?)

 

 

 足立の存在という重要事項すら吹き飛ばす程の単語が、獅童の口から放たれた。頭を殴られたような衝撃に見舞われる。――奴の眼差しの先には、俺と同じ学校の制服を身にまとった青年。

 

 丁度そのとき、俺達が待っていたはずのエレベーターが到着した。獅童とその取り巻きたちは次々とエレベーターに乗り込んでいく。

 だが、青年は足を止めたままだった。奴はくるりとこちらに向き直る。相変らず、不気味なくらいに朗らかに笑いながら、声色だけに申し訳なさを乗せて。

 

 

「ごめんね、急いでるんだ。先に使わせてもらうよ」

 

「おい、智明(ともあき)

 

「――今行くよ、()()()

 

 

 2発目の衝撃に、俺の一切が停止してしまう。愕然とする俺など気にも留めることなく、獅童とその取り巻き――足立を含む――を乗せたエレベーターは閉まった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()――俺の中にいる“()()”が悲鳴に近い声で訴える。

 この2年間、俺は獅童正義を調べていたが、獅童正義に“明智吾郎以外の息子がいる”だなんて話、俺は一度も耳にしたことがない。

 ……いいや、そもそも俺は()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、根拠もなく信じていた。

 

 俺を身籠った母を捨てるような奴だ。もしかしたら、俺の他に、子どもを身籠らせた相手がいたのかもしれない。()()()()()()()()()()()、どこかに俺の異母兄弟姉妹が生きていたのかもしれない。

 でも、何だアレは。何なんだ、智明とかいうあの男は。獅童のことを『父さん』と呼ぶことが許されるだなんて、獅童にあれ程重宝されるだなんて、他でもない父である獅童から公私ともに必要とされているだなんて!!

 

 

(……なんで……)

 

 

 獅童含んだ大人たちから“要らない子”呼ばわりされた俺と、父親である獅童に必要とされている智明。

 同じ獅童正義の息子なのに、どうしてこんなにも大きな差があったのだろう。

 幼い頃散々味わった痛みと悲しみが――今では感じることすらなかったそれが、容赦なく俺の胸を穿つ。

 

 件の智明こそが、【廃人化】を用いた人殺しを行っている張本人だろう。獅童を父と呼ぶことを許されたアイツは、俺が選ばなかった道の先にいる。俺がどんなに望んでも手にすることができない父の愛を注がれている。……なんて、羨ましい。

 

 

(……俺が、【改心】専門のペルソナ使いじゃなく、【廃人化】専門のペルソナ使いだったら、獅童に――父に『必要だ』と言ってもらえたんだろうか)

 

 

 ぼんやりと、そんなことを考える。俺が選ばなかった道を夢想する。いくら嫌悪していても、心のどこかでは、実父に認めてほしかった。実父に愛してほしかった。

 苦しくて、悔しくて、どうしてか泣きたい心地になった。でも、こんなところで泣くわけにもいかず、俺はギリリと歯を食いしばる。この痛みをやり過ごす。

 

 

「吾郎、大丈夫……?」

 

「え……?」

 

 

 見れば、黎が心配そうに俺を見つめているところだった。心なしか、彼女の顔色が悪い。

 

 ……もしかして、自身の冤罪の原因となった獅童のことを思い出したのだろうか。ぼんやりしているように見えて、黎は聡く知的な少女である。思い出せなかったとしても、彼女のことだ。どこかに引っ掛かりを感じていそうである。

 自分だって辛いだろうに、彼女は俺のことを心配してくれる。何も知らないとは言えど、自分を嵌めた犯人の血を引く俺を案じてくれる。嬉しい、と思った。幸せだ、とも思った。真っ暗闇の中で標を見つけたような心地になった。

 

 心配していたのは黎だけではない。竜司もモルガナも、「大丈夫か吾郎?」や「顔色が悪いぞ、ゴロー。アイツに何かされたのか?」と声をかけてきた。

 ああ、と、俺は理解する。唐突に、けれどすとんと腑に落ちた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 今度は別の意味で泣きたくなってきた。でも、やっぱり、黎たちの前でみっともない顔を曝したくはない。俺は心から笑って見せた。

 

 

「大丈夫。何でもない」

 

「ホントかよ? ホントに大丈夫なのか? 黎から聞いた話みたいなことになるとか、ないよな!?」

 

「『自分の価値が低すぎる』という点において、ゴローは前科持ちだからな……」

 

「……本当に信じてないな。というか、お前ら腹の調子はどうなんだよ? 平気そうに話してるけど」

 

「「ぐあああああああ!!」」

 

 

 俺の指摘を受けた途端、竜司とモルガナが腹を抱えて苦しみだした。丁度そのタイミングでエレベーターが到着する。

 俺たちはエレベーターに乗り込む。レストランがある階のボタンを黎が押し、すべての乗客が乗り込んだ後、エレベーターはゆっくりと移動を始めた。

 

 

 

***

 

 

 ビュッフェに戻ると、何かが割れるようなカン高い音が響く。見れば、ある一角に野次馬が集っていた。

 

 僕たちの席には誰もおらず、料理が置かれたテーブルにも杏の姿はない。それを見れば、『杏が厄介事に巻き込まれた』と推理するのが普通であろう。

 そうして、『野次馬が集っている場所に杏がいるのではないか』と類推するのもセオリー。野次馬をかき分けようとした僕たちの耳に、聞き覚えのある男性たちの声が届いた。

 

 

「キミ、大丈夫か!?」

 

「怪我は……ないようだな。よかった」

 

 

 1人は、嘗て共に暮らしていた俺の保護者――その片割れ。結婚を機に独立して以来会う機会は減ったが、俺が尊敬する大人の1人だ。

 もう1人は、先程すれ違った獅童とは違うベクトルで風格と貫禄を兼ね備えている。俺が尊敬する大人の1人であり、俺の保護者と仲の良い友人であり、俺の保護者の直属上司。

 

 

「わ、私は大丈夫です」

 

「だが、服が汚れてしまったな。このままだとシミになるぞ」

 

「分かっているさ、空元。……お嬢さん。これは私の落ち度だ、申し訳ない。――ウェイター、何か拭くものを持ってきてくれ。それと、彼女に新しい皿を用意してほしい」

 

「か、かしこまりました南条さま! い、今すぐにでもお持ちいたします!」

 

 

 嫌そうな顔をして棒立ちするウェイターに指示を出したのは、南条コンツェルンの次期当主である南条圭さん。彼と一緒にいたのは、至さんの双子の兄にして南条コンツェルン・特務研究部門に勤める主任研究員の空元航さんだ。世界有数のお金持ちからの御指名に、ウェイターは震えあがる。名誉に媚び諂う人種であるからこそ効果テキメンであった。

 ……もし、杏がウェイターに何かを頼んだなら、彼はしかめっ面で対応していたであろう。圭さんから指示を受けたウェイターは真っ青な顔をして裏方に引っ込む。程なくして出てきたウェイターは、果たして圭さんの指示通りに動いた。杏の洋服を拭くためのタオルと、割れてしまった杏の皿に代わるものを持ってきた。その速さは凄まじいものである。

 真っ青になって震えるウェイターを横目に、圭さんは杏の服をタオルで拭いていく。遠目から見れば汚れは落ちたように見えるだろうが、あくまでもそれは応急処置にしかなり得ない。彼もそれを承知しているからこそ、申し訳なさそうな顔をして杏に頭を下げた。

 

 大人と言えば鴨志田を連想する杏にしてみれば、彼のような対応は目から鱗であろう。

 ビュッフェの利用者みたいにクズな大人とは比べ物にならないオトナの対応に、混乱と恐縮している様子だった。

 

 

「お嬢さん、少し待っていてくれ」

 

 

 圭さんはそう言うなり、即座にスマホを取り出した。彼は手慣れた様子でタップすると、どこかに電話をし始める。出てきた言葉を繋げて推測すると、南条コンツェルン関連企業からお抱えのクリーニング店を探し出し、杏の服のクリーニング代を弁償する手はずを整えている様子だ。

 

 呆気にとられる野次馬たちを尻目に話を付けた圭さんは、そのことを杏へ伝えた。まさかそこまでしてもらえるとは思わなかった杏は、半ば茫然としながら頷く。

 ざわめく野次馬など何のその。涼しい顔のまま颯爽と立ち去ろうとした圭さんは、俺たちの姿を見つけて足を止めた。端正な顔がふっと綻ぶ。

 

 

「明智くん。有栖川のお嬢さんも元気そうだな」

 

「お久しぶりです、圭さん」

 

「お世話になってます」

 

 

 南条コンツェルンの次期当主と親し気に挨拶を交わす高校生――この絵面に、ギャラリーの多くが衝撃を受けたらしい。ビュッフェ内がざわめきに包まれる。

 圭さんは黎、僕、竜司、杏、鞄に潜むモルガナに一瞥くれたあと、静かに微笑んだ。「良い友達ができたようだね」と語る彼の口調は、先程と違って柔らかい。

 だが、圭さんの言葉は続かなかった。彼のスマホが鳴り響いたためである。圭さんは即座に電話に出ると、てきぱきと何かの段取りを整え始めた。

 

 通話が終わった圭さんは、「名残惜しいが」と前置きして頭を下げた。南条コンツェルンの次期代表取締役として、彼も多忙なのだろう。話を短めに切り上げ、今度こそ颯爽と立ち去っていった。

 

 ……短めと言っても、それは『圭さんの話の中では』というだけだ。普通の人にしてみれば充分『長話』のカテゴリに入る。

 因みに、内容は“施設の従業員と利用者のマナーの悪さや質の低下”、“サービス業の在り方”、“利用者としての振る舞い方”であった。

 政治経済の話に発展し、日本の未来を朝まで討論するという場所に着地しなかっただけマシと言えよう。

 

 

「圭の長話に付き合わせてしまって済まないな」

 

「あー……」

 

 

 申し訳なさそうに頭を下げる航さんに、竜司は何とも言い難そうにスマホを見た。

 

 現在時刻は食べ放題コース終了まで残り5分。圭さんの長話によって貴重な時間が潰れてしまったのだ。しかし、僕等のビュッフェ利用に対して冷ややかな目線を向けてきた大人たちとは違い、自身の非を認めて真摯な態度で接してくれた圭さんを悪く言うのは憚られるのだろう。言葉を濁すに留めようとしていた。

 航さんは何を思ったのか、「ちょっと待っててくれ」と言い残し、何処かへと向かった。程なくして戻って来た航さんは静かな面持ちのまま、立ち去った理由を述べる。「延長手続きをしてきたから、ゆっくり食べなさい」――なんと、航さんは自費で、僕等の食べ放題コースを延長する手続きをしてきたのだ!!

 

 

「さ、流石に悪いです! アタシの服の件だけでも、すっごく有難かったのに……!」

 

「君たちの時間を貰ってしまったことへの感謝と対価だ。何もおかしなことはないだろう? ……こんなことしかできないが、受け取ってくれ」

 

「……あ、あざっす!」

 

 

 静かな面持ちで告げてきた航さんに、竜司と杏はぺこりと頭を下げた。モルガナは呆気に取られていたものの、「太っ腹……いや、天晴だな」と零して同じように頭を下げる。上司が上司なら部下も部下だ。

 航さんは満足気に頷いた後、俺の方に向き直る。「至に宜しく」と言い残し、彼もビュッフェを去っていった。圭さん程ではないにしろ、航さんも肩書持ちだ。色々と忙しいことは知っている。

 大人たちが立ち去るのを見届けた僕たちは、興奮冷めやらぬような心地のまま、自分の席へと戻って来た。――なんだか、長い夢を見ていたような気分である。そのくらい、怒涛の1時間だった。

 

 

「あんな大人もいるんだね。……もっとああいう大人が増えれば、アタシたちものびのびと生きていけるんだろうけど」

 

「分かる! アレを見たら、誰だってそう思うよなぁ」

 

 

 「『キミたちはきちんと料金を払ったんだろう? そして、支払いに使った金銭に関して、後ろめたいことは何もない。……ならば胸を張って、サービスを利用すべきだ』かー。格好いいよなー」と、竜司が熱を込めて語る。彼はペルソナ能力に目覚めたことで、善い大人との繋がりを持ちつつあった。

 

 力の使い方に関しては悩むことはあれども、鴨志田を【改心】させたことには後悔していない――それが、黎たちの見解である。僕もそれに同意見だ。

 実際、鴨志田を【改心】させたことで、黎と竜司の退学は取り消された。杏や鈴井志帆を始めとした女子生徒も安心できるし、暴力の被害者も傷つくことはなくなった。

 

 “社会からの逸れ者”だった僕たちは、確かに誰かの人生を救ったのだ。社会に自分たちの価値を叩きつけ、華々しく示して見せた。その充足感は、一歩間違えれば毒にも変わる甘美を孕んでいる。圧政への反逆者というもまた、周りに担ぎ上げられて破滅する可能性があるためだ。

 幸いなことは、全員がその甘美さに溺れることなく前を見据えようとしていることだろう。同時に、至さん曰く“フィレモンの関係者だが信頼できる相手(イゴールとやら)”と関わりがあるモルガナも、現時点では“黎の協力者”として力を貸してくれていた。

 

 

「圭さんや航さんもペルソナ使いだよ。御影町で発生した異変では、私たちを助けてくれたんだ」

 

「マジかよ!?」

 

「あの人も、アタシたちの先輩なんだ……。なんだか、すっごく誇らしいや。アタシも、あんな大人になりたいな」

 

「――そんな人でも、太刀打ちできないことはある。残念ながら、ね」

 

 

 盛り上がっていた空気が一気に静まり返った。竜司、杏、モルガナは、“黎が冤罪事件をでっちあげられて有罪にされたから東京へやって来た”ことを知っている。同時に、黎の冤罪を証明しようとした大人たちが、冤罪事件の黒幕に成す術なく敗北したことも。

 圭さんや航さんのような真っ当な大人でさえ太刀打ちできない悪がある。黎を助けようとした大人たち――財閥の次期トップ&取締役や司法関係者、探偵、芸能人というそうそうたる面子でも、歯噛みしながら受け入れるしかない理不尽がある。その事実の重さを、黎と僕は知っていた。

 けれど幸いなことに、真っ当な大人たちは誰一人として諦めていない。正しいことを成すために、理不尽に対して反逆し続けている。そんな先輩たちを、僕も黎も誇りに思っていた。憧れていた。そんな大人になりたいと思い、邁進してきた。……この軌跡を経た決断を、間違いだったとは思わない。思っていない。

 

 

「私、ずっと考えてたんだ。どうして私にペルソナが宿ったんだろう、って。……今まで考えて、散々迷ったけど、決めたの」

 

 

 静かな面持ちに込められたのは、揺るぎない決意。理不尽への反逆。――俺の敬愛する保護者や、尊敬できる大人たちと同じ眼差しだ。

 

 

「私、これからも【怪盗団】を続ける。正しいことを正しいって言うために、間違いを間違いだと言って正すために、私みたいな理不尽な目にあう人を助けるために――そんな人が1人でも減るように、この力を使いたい」

 

「黎……」

 

「本当なら、【怪盗団】は不必要な方がいいと思うんだ。でも、理不尽に苦しむ誰かの助けになれるなら、存在する意味はある。……いつか、私たちが必要なくなるその日まで、そうなるように力を尽くしたい。人々の意識が少しでも変わっていけるならば、私たちの歩いた軌跡は決して無駄じゃないんだから」

 

 

 それは、黎の決意表明であり、モルガナとの協力関係を続けていくことを意味していた。凛とした瞳には、一切の迷いがない。

 

 

「……分かった。ならば僕も、キミの力になるよ」

 

「でも、吾郎は――」

 

「その代わり、取引だ」

 

「取引?」

 

「僕にはどうしても【改心】させたい相手がいる。その相手を【改心】させてくれるなら、僕は【怪盗団】の活動すべてに力を貸そう。……現時点ではまだ攻略の糸口を探している最中だから、頼むとしたらそれが見つかり次第になるけど……」

 

 

 「これなら、黎が気に病むような貸し借りはないよね?」と悪戯っぽく笑えば、黎は嬉しそうに苦笑した。「ばか」と紡いだその声には、深い愛情が滲む。

 竜司とモルガナは顔面崩壊一歩手前な顔で水を煽り、杏はスイーツを食べる手を止めて胸を抑える。杏は甘いものを食べても胸焼けしない体質だと豪語していたはずなのに。

 僕らがそれに疑問を抱いたとき、ようやく3人が元に戻った。モルガナは満足そうに頷き、竜司と杏に問いかける。

 

 今後はどうするのかという問いに対し、最初に口を開いたのは杏だった。杏は僕に問いかける。

 

 

「『鴨志田をやるなら仲間に加えろ』って言ったときの条件、覚えてる?」

 

「『鴨志田をやった後も、ずっと黎の味方でいる』だよね?」

 

「そういうコト。学生生活だけでなく、【怪盗団】として活動するってのも当てはまるからね!」

 

「杏……!」

 

 

 現役女子高生モデルのウィンクに、黎はぱああと目を輝かせた。女子2人は嬉しそうに笑いあう。

 杏が怪盗団として加わるという宣言を聞いたモルガナも「おおお!」と盛り上がった。

 そんな杏に続くようにして口を開いたのは竜司だ。彼はうんうん唸りながら言葉を紡ぐ。

 

 

「俺、この力で鴨志田を【改心】させたとき、スゲー胸がスッとしたんだ。やり遂げたって気持ちになった。同時に、今よりももっとデカいことができるんじゃないかって思ったんだ。クソみたいな大人たちを【改心】させて、俺たちの存在を認めさせたいって」

 

「竜司……」

 

「でも、この力のおかげで尊敬できる大人と出会えたのは事実なんだ。玲司さんとか、南条さんとか、航さんとか、吾郎の保護者である至さん……俺も、そんな大人になりたいって憧れを取り戻せた。だからこそ、黎の話聞いて、そんな人たちでさえ太刀打ちできない野郎がいるんだって知ったら、スゲー許せねぇって思った」

 

 

 短慮で目立ちたがり屋な竜司が、必死になって答えを探している。そんな彼を茶化すことなく、僕も黎も話に耳を傾けた。

 

 

「だからどうするんだ、って言われても、今の俺じゃあ答えられそうにない。でも、これだけは分かるんだ。このまま【怪盗団】を続けていくべきだって、ここで立ち止まっちゃいけねーって! 続けてれば、きっといつか、玲司さんや南条さんみたいな漢になれるんじゃないかって! 俺が憧れる大人になるために必要なモンが見つかりそうな気がするんだ!!」

 

 

 そう言い切った竜司は、【怪盗団】としての活動を続けると宣言した。

 彼は子どもみたいに目を輝かせながら、不敵に笑ってみせる。

 

 

「うんうん! これでようやく、【怪盗団】らしくなってきたな!」

 

 

 今ここにいる4人全員が『【怪盗団】を続ける』ことを選んだのだ。各々の決意表明を聞き終えたモルガナも大仰に頷く。――そこから先は、僕ら自身も驚く程とんとん拍子に話が進んだ。

 

 【怪盗団】のリーダーとして抜擢されたのは有栖川黎だった。ペルソナを付け替えれる特別な力――【ワイルド】を持ち、鴨志田のパレスでは仲間たちに的確な指示を飛ばしたリーダーシップが評価された形である。

 竜司は【怪盗団】の特攻隊長として戦線で活躍することを約束してくれたし、杏も【怪盗団】のアタッカーとして戦場を舞うと頷いてくれた。モルガナはナビ兼異世界の案内人として黎をサポートしてくれるという。

 僕の場合は、ペルソナ使いの戦いを見てきた“経験者”としての側面から、アドバイザーとしての参戦だ。もしかしたら、オブサーバーに近い立ち位置かもしれない。本業の探偵や司法関係者との繋がりと合わせれば重複スパイだろうか?

 

 烏には「神話や伝承から、斥候・走駆・密偵・偵察の役目を持つ」という位置づけがある。

 僕のコードネームと合わせれば、さしずめ僕は怪盗団の斥候・走駆・密偵・偵察役として敵陣の真っただ中に潜入する『(クロウ)』そのものだ。

 

 

「後は【怪盗団】の名前だな」

 

「格好いいのを頼むぜ、リーダー!」

 

「うん」

 

 

 モルガナと竜司に促され、黎は思案し始める。

 顎に手を当てて瞳を閉じていた彼女は、幾何の後で頷いた。

 そうして、【怪盗団】の名前を口にした。

 

 

「――心の怪盗団、【ザ・ファントム】」

 

 

 ――かくて。

 

 僕達は心の怪盗団【ザ・ファントム】として、学生生活や調査の傍ら、世直しを行うことと相成ったのである。

 ……このときの僕等は、僕らに与えられた試練が『何か』を知らないままでいたのだ。

 

 

 




 20XX年 夏 某警察署


「――続いて、この1か月で発生した類似事件の報告です」


 去年、怪盗団と言う謎の組織によって行われた数多の【改心】事件。それと類似した事件が、水面下で日本中を騒がせている。

 列挙された類似事件のうちの1つ――警察庁刑事局長が突如全裸になり、庁内を走り回って逮捕――を聞いて、警部補とその隣に座っていた同僚は噴き出した。鋭く睨みを利かせる上司に言い訳し、警察官は進行役の話に耳を傾ける。
 公安部は今回発生した一連の“珍事件”を、去年発生した【怪盗団】の【改心】事件に結び付けたらしい。容疑者は怪盗団のリーダーだ。管理監の捜査方針は、“【怪盗団】のリーダーを徹底的に調べ、洗い出すこと”。当然の判断だと言えよう。

 それぞれが捜査に向けて動き出す中、警部補は自分の隣に座っている同僚/今回コンビを組む相手へ視線を向ける。
 彼は真面目に捜査する素振りを見せているが、瞳の奥底に宿る感情は虚無一択。やる気のなさが滲み出ていた。
 捜査会議中に小さな声で何かをブツブツ呟いていたことを知っているのは、傍に座っていた自分だけだろう。


「……あー。八十稲羽帰りたいぃ……」

(……コイツ、本当に“獅童正義の汚職事件”立件の立役者なのか……?)


 この捜査会議だけでも十数回目となったボヤキを零した此度の相棒――足立透の姿に、警部補は一抹の不安を抱くのであった。


―――

リメイク前で登場した【あん畜生】こと、獅童智明が続投出演。このSSが生まれるに至った全ての元凶――P5Sのラスボス・デミウルゴス――ブッキング事件の象徴そのものです。
今度は「公式と酷い大事故が起きませんように」とお祈り中。果たしてどうなることやら。一応、名前の候補は複数あるから、ブッキングにも対応できるはずですが……ううむ。今後の動きが不穏だ。
更に、新規追加で自己中キャベツ刑事の足立透(訳アリ栄転の姿)も参戦しました。オリキャラである凛から齎された情報だと、足立個人は栄転話を蹴ろうとしていたようですが……?
彼の本心や顛末についてはおいおい掘り下げていきます。

……『配属された場所が公安』? 『あとがきに追加されたSSの内容』? はて、何のことかなー(棒読み)(すっとぼけ)。

尚、堂島凛(旧姓:霧海凛)の画像はこちら<
【挿絵表示】

イメージ画の作成に使用したサイトはこちら⇒<https://charat.me/genesis/


***


メタ的なお話になりますが、魔改造明智でコミュ/コープできそうな面々(現時点&一部フライング)をリストアップしてみました。何かのネタに使えたらいいなと思っていますが、どうしようかはまだ未定。
そもそも、どんな感じのコミュ/コープにするかの方針もざっくばらんにしか決めていないし、コミュ/コープの恩恵や対応アルカナに至っては一切考えてないんですよね……。


≪魔改造明智とコミュ/コープが築けそうな面々一覧≫

<有栖川 黎>
ご存じP5シリーズ主人公(先天性女体化のすがた)。魔改造明智の恋人。

<空元 至>
魔改造明智の保護者にして、魔改造明智&魔改造ジョーカーが歴代シリーズ行脚をすることになった原因/元凶とも言える存在。
その正体は、力司る者の上司・フィレモンによって生み出された化身の“失敗作”。『神』関係者からの当たりが強い。

<怪盗団メンバー>
魔改造明智の場合は、個人個人の交流も怪盗団カテゴリに含まれる。

<小田桐 秀利>
P3に登場したコミュのキャラクター。この世界線における魔改造明智の担任教師。

<丸喜 留美>
P5Rに名前だけ登場した人物。この世界線においては丸喜拓人とゴールインした。
元新体操オリンピック金メダリストで、魔改造明智の学校に赴任して来た教師。至とは同級生。

<足立 透>
P4シリーズに登場した重要人物。この世界線では原作とは違う形で【マヨナカテレビ】と関わったため、原作とは結末が全く違う。
訳アリ栄転話(不本意)によって異例の出世を遂げたが……?

<?? ??>
リメイク前を読んでいる場合は想像がつく人物。リメイク前とは背景――“彼”が辿った顛末――が大きく変化している。
参考になるか否かは微妙だが、リメイク前は“無印・機関室のシャッターED”を辿っていた。今回の“彼”については、割と早い段階でその片鱗がちらついている模様。
……実際、原作にも“この結末”があったら、流石の“彼”も情緒がハチャメチャになるのではなかろうか。そんな書き手の認知と曲解が、この小説の燃料である。

<?? ??>
リメイク前を読んでいる場合は予想がつく人物。原作同様の末路を辿ったが、魔改造明智の存在は彼にとって“眩しいもの”だったらしい。
這い寄る混沌が好んで使う『手駒』の1つで、聖エルミン高校OB組や珠閒瑠の社会人組とは因縁アリ。


……メタネタって需要あるかな?


【追記】
あとがきのSSパートをUPし忘れたので追加しました。

メタネタって需要ある?

  • 見てみたい
  • 要らない
  • そんなことより本編進めて
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。