Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。

・今回のお話はおセンシティブ要素強めなので注意されたし。
・今回のお話はおセンシティブ要素強めなので注意されたし。
・今回のお話はおセンシティブ要素強めなので注意されたし。

・今回のお話は、『普遍的無意識の権化』が色々と最悪なので注意されたし。
・今回のお話は、『普遍的無意識の権化』が色々と最悪なので注意されたし。
・今回のお話は、『普遍的無意識の権化』が色々と最悪なので注意されたし。



フラグメントⅢ:マクスウェル.シュレーディンガー-1_Norea.docx

 

 『風が吹けば桶屋が儲かる』という諺がある。主な意味は“何かが起こると、巡り巡って意外な所に影響を及す”、もしくは“当てにならない期待をすること”。この諺が出来上がったのは大分昔のこともあり、当時の時代・文化背景も大きく絡んでいた。

 

 風が吹けば土埃が舞い、それが目に入ることで視覚障碍者――所謂盲人が増える。当時の盲人達は音楽――特に三味線で生計を立てることが多いため、彼等は商売道具となる三味線を欲しがるのだ。三味線の需要が高まれば、原材料である猫の皮の需要も高まる。

 三味線づくりに関わる人々は、稼ぎ時を逃がしはしない。原材料である猫の皮を求めて町や村中の野良猫を乱獲し、猫の総数は減るだろう。結果、猫を天敵にしていた鼠が幅を利かせる。鼠はげっ歯類で、木材を噛むことで歯を削っていた。

 木材で出来ているものは多岐に渡り、鼠の被害にあいそうな木材の道具には桶がある。被害にあった桶は壊れて使い物にならないことが殆どだ。修繕して使うにしても、新しい桶に買い替えるにしても、桶屋に相談し、それ相応の代金を支払うことになるのだ。

 

 

『ありがとう。君達のおかげで、我々は漸く解放された』

 

『散々な目に合った。丸喜拓人や≪■■■■≫に力の大半を奪われてしまったから、暫くは何もできそうにないな……』

 

 

 【メメントス】の元・最奥――聖杯、及び統制神が安置されていた場所は、丸喜拓人のペルソナの影響で触手が這い巡らされていた。管を辿った最奥のど真ん中に囚われていたのが、この世界のフィレモンとニャルラトホテプである。奴等曰く、『“些細なこと”から≪■■■■≫によって力を奪われた挙句、丸喜のペルソナのリソースとして囚われ、力の供給源にされ続けていた』らしい。

 

 【ザ・ファントム】の目的は“丸喜拓人の【改心】”及び“丸喜拓人が作った理想の現実を破壊し、元の現実へ戻る”こと。そのためには丸喜の【パレス】を攻略する必要があり、行く手を阻むケーブル(=丸喜のペルソナの触手)を撤去しなければならない。しかし、僕達が探索可能な【パレス】内部では、触手を撤去する手段を見つけることは出来なかった。

 ラヴェンツァから齎された情報――『丸喜が【メメントス】を乗っ取り、現実世界との融合を推し進めている』こと――から、【ザ・ファントム】の面々は【メメントス】へ乗り込んだ。丸喜の影響で新たな階層が増えた【メメントス】の最奥に辿り着いた僕達は、そこで丸喜の【曲解】の要となる巨大な機械を発見。佐倉が端末を操作してケーブルを撤去した結果、その副産物で邪神2柱を解放することになった。

 

 解放されたフィレモンとニャルラトホテプは、何事も無かったかのように【メメントス】から姿を消した。

 大方、自身の領域――モナドマンダラやカダスマンダラの類――へ戻ったのであろう。

 

 

『今回の一件は惜しかったな。もう少しで全盛期の力を取り戻すことができたんだが……』

 

 

 多くの力を搾り取られた2柱は、暫く現実世界に干渉することが出来なくなったらしい。

 フィレモンとニャルラトホテプという邪神関係のみなら、この世界は平穏が保障された形となった。

 用の済んだ【ザ・ファントム】の面々が【メメントス】から立ち去ろうとしたそのタイミングで、乱入者が現れる。

 

 

「貴女達の実力ならば、■■■が掌握した【メメントス】新層の踏破も、中枢の掌握も成し得るだろうとは思っていたわ。勿論、■■■の力のプロセスを解明し、把握することもね」

 

「お前は……■■■■!」

 

「成程。こちらが目的を果たして気を抜くのを待ってたってワケか」

 

 

 出口に続く扉の前に立ちはだかるのは、■■■――もとい、丸喜拓人の協力者である謎の痴女系ペルソナ使い・■■■■である。

 普通に■■■■と向き合えたのは僕とシュレーディンガーだけで、他の面子は――顔の色が赤と青で二分化しているが――狼狽えていた。

 

 

「うわーっ!? 痴女だー!!」

 

「前より布面積減ってんじゃねーか! 恋人見たら泣くぞこれ!!」

 

「顔を合わせる度に薄着になっていくとは……亡き恋人の苦労が目に浮かぶようだ」

 

「そう思うんだったらスケッチの手を止めろオイナリ!!」

 

 

 現状の■■■■を一言で表すとするなら、マイクロビキニであった。彼女と顔を合わせる度にビキニアーマーの布面積が減っていたことは薄々気づいていたけれど、今ではアーマー要素が手足の装甲――最早装甲ではなく装飾レベル――程度しか残っていない。ビキニ要素に至っては、両胸と下半身の恥部をギリギリ覆っているだけの際どく頼りない有様だ。

 魅惑のプロポーションから繰り出される視界の暴力に晒され、モルガナは悲鳴を上げた。坂本は両手で仮面を覆い隠していたが、指の間からチラチラと■■■■の柔肌を覗き見ている。頭痛を堪えるように俯く喜多川だが、奴の行動は非常に正直で、小さなクロッキーノートにスケッチを描き続けていた。ツッコミを入れた佐倉の顔は真っ赤であった。

 一般論――特に青少年の視点から■■■■の姿を見るに、プロポーションに関しては『自走するエロス』、『存在自体が性癖破壊の権化』と言える程の素晴らしい体つきだ。口さえ開かなければ、男どもの下世話な妄想に使われていてもおかしくはない。……いや、その恐ろしさを生々しく味わった人間であっても、妄想に使わずにはいられなさそうである。

 

 実際、【ザ・ファントム】の男性陣(1名除く)は、■■■■のヤバさを何度も味わっているにもかかわらず、顔を合わせれば盛大に狼狽えてしまうのだ。健全な青少年、或いは思春期の(さが)である。

 

 尚、■■■■の肉体美に無反応な例外の1名は――本人は口が裂けても言わないだろうが――、恋愛及び性的な対象者はこの世にただ1人しかいないため、思春期みたいな反応は一切しない。

 その代わり、■■■■の性格のぶっ飛び具合を人一倍直視しやすいようで、恐慌状態とドン引きが基本装備になりつつある。実際、今も奴は何も言わずに後ずさりし、■■■■から距離を取っていた。

 

 

「あ、あわわ」

 

「Crazy……」

 

「あんな痴女どうすればいいの……? 助けてお姉ちゃん……」

 

「さ、3人とも! しっかりして!」

 

 

 顔真っ赤で狼狽える芳澤、顔真っ青で身を震わせる高巻、頭を抱えて涙目になった新島の姿を目の当たりにした奥村は、かえって冷静さを取り戻したらしい。対象者のメンタルケアに勤しむ。

 

 仮面によって表情は伺いしれないけれど、高巻や新島の眉間には皴が深々と寄っているだろう。頭のネジが吹っ飛んだ系の人間に慣れていないのかも知れない。

 奥村が(比較的)正気を保っているのは、社交界という名の伏魔殿で人の負の面やネジが数本飛んでる系の人間と相対峙してきた分の蓄積があったからだろう。

 

 

「……何が目的?」

 

「訊くまでもないでしょう? 私はこの現実(ユメ)の守護者である丸喜拓人の協力者で、貴女達【怪盗団】は彼の作った楽園(ユメ)を壊すために活動してる。――なら、やることは自然と限られるんじゃなくて?」

 

 

 恐慌状態を乗り越えたジョーカーは仲間達を庇うようにして一歩踏み出し、不敵に笑う■■■■と対峙する。自身の目的――【ザ・ファントム】への妨害を宣言した■■■■は戦闘態勢を取った。

 

 彼女の足元から光が舞い上がり、顕現したのは燃え盛る乙女――ヤオヤオシチ。アルカナはCHARIOT(戦車)、元ネタは江戸時代に実在したとされる年若い日本人女性・お七、及びそれを基にした井原西鶴の『好色五人女』に登場した八百屋お七だ。要約すると、『惚れた男に会いたい一心で小火騒ぎを引き起こし、放火の罪で火あぶりに処された女性』である。

 ルーツの影響か、ヤオヤオシチは火炎・呪怨属性を使ってくる傾向があった。火炎は“命をなげうってしまう程の思慕の強さや小火騒ぎと火あぶりによる処刑”、呪怨は“恋い慕う相手に再会することが容易ではない境遇、及びそれがままならない現実への苦悩”が影響しているのかもしれない。

 理不尽な現実への反逆という目的で立ち上がった丸喜と照らし合わせれば、■■■■のヤオヤオシチは、丸喜陣営のペルソナ使いが顕現させるペルソナとして相応しいだろう。彼女の行動原理は“■■■■■■(統制神)に邪魔者認定されたせいで死に追いやられた恋人を取り戻す”。ままならない現実への怒りそのものであった。

 

 僕の個人的な見解を述べさせてもらうとすれば、何故ヤオヤオシチのアルカナがLOVERS(恋人)ではないのか疑問だ。

 アルカナの暗示的な意味では、CHARIOT(戦車)適性の方が上回っているのは事実だけども。閑話休題。

 

 

「なかなかやるじゃない!」

 

 

 ■■■■は余裕綽々な調子を崩すことなく、楽しそうに笑った。ひとしきり攻防を繰り返したというのに、彼女は一切息を切らせていない。襲い掛かって来た■■■■と戦って分かったことだが、今回襲い掛かって来た■■■■も、明らかに本気を出していない様子だった。

 丸喜陣営は「2月3日に現実世界と【メメントス】(=認知世界)を融合させる」と宣言しており、その日を待ち続ける方針を取っている。彼等の方針を聞いた【ザ・ファントム】側も、「予告状を出すのは2月2日、【パレス】に乗り込んで丸喜を【改心】させるのは2月3日」という方針を立てていた。

 

 故に、双方ここで本気を出し、やり合う理由は薄い。

 

 特に丸喜陣営は「2月3日を過ぎれば自動的に勝利確定」、「【ザ・ファントム】側が2月3日に【パレス】へ乗り込んで来なければ戦う必要はない」のだ。

 丸喜本人の方針――できれば【ザ・ファントム】の面々にも、穏便に、自らの意思で“理想の現実”を選んで貰いたい――もあり、僕等の息の根を止めるのは本意ではない。

 服装と性癖と性格が丸喜陣営で一番斜め上にかっ飛んでいる■■■■であるが、親玉(???)兼協力者である丸喜の主義主張を尊重する程度の良心と義理堅さは持っている。

 

 

「盛り上がってきたところだけど、今回はこのあたりでお(いとま)しましょうか。≪■■■■≫もそろそろ仕事を終わらせた頃だろうし」

 

「……成程。時間稼ぎか。小賢しい」

 

『機能の拡張処理が完了。新規の端末及びパイプラインから、研究結果のフィードバック作業を行います』

 

『新規エリアが確認されました。案内情報を更新します』

 

 

 満足気に頷く■■■■の様子から、■■は彼女の襲撃が何を意図して行われた物なのかを察したようだ。忌々しそうに舌打ちする。

 それと同時に響いたのは、中枢の機械と【イセカイナビ】からのアナウンス。――次の瞬間、この場に転移してきたのは、それを行った張本人・≪■■■■≫。

 

 

「【パレス】内部の仕掛けと【メメントス】深層の内部の拡張と増設作業、終わらせといたぞ」

 

「「≪■≫さん!?」」

 

 

 僕とシュレーディンガーが素っ頓狂な声をあげてしまったのは、≪彼≫の格好が≪あの人≫と同じ私服だったからだ。≪あの人≫の私服姿を最期に見たのは、12月24日の黄昏時――僕等の世界で行われた統制神■■■■■■との最終決戦。そこで≪あの人≫は僕等を助けるために、人であることを“辞めさせられた”。

 あの時と変わらない姿で現れた≪あの人≫に、強い懐かしさと郷愁を感じたためである。……断じて、彼の両腕に下げられていたエコバッグと、そこにパンパンに詰められた食材に度肝を抜かれた訳ではない。場違いすぎる姿を目の当たりにして、呆気にとられたわけではないのだ。

 

 

「ありがとナス! いやー、買い出し中に呼び出しちゃってゴメンねー」

 

「全くだ。もうすぐ鮮魚売り場のタイムサービス始まるのに……」

 

「買い出しのついでで拡張増設!?」

 

 

 緊張感の欠片もないやり取りに、芳澤が思わずと言った調子で声をあげた。

 勿論、≪■≫さんは彼女の発言など歯牙にかけていない。時計とチラシをチラチラ見ている。

 

 【パレス】でちょくちょく顔を合わせた■■■■と≪■■■■≫が、足止めや漫才(???)でしょっちゅう話題に出していたことを思い出す限り、丸喜陣営のご飯事情はあまり宜しくない様子だった。

 

 自炊歴が長い丸喜は理想の現実世界の運営や維持に精を出しており、ワーカーホリック気味で食事を作れる状況にない。■■■■は料理の腕が壊滅的なので、丸喜と≪■■■■≫は出来るだけ彼女を台所――調理器具や家電に近づけたくない。結果、必然的に、料理関係は≪■■■■≫のワンオペ状態になってしまう。

 3人、もしくは2人のやり取りを見ていて思い出すのは、≪■≫さんと一緒に駆け抜けた12年間と、そこで積み重ねられた日常の数々。あの頃の僕は何かにつけて家事を殆どしていなかった。家事に手を出したのは、あの戦いが始まった直後からだ。故に、ワーカーホリック丸喜とメシマズ■■■■を咎める立場にない。

 あれから長い時間が過ぎて、僕も家事をするようになって、シュレーディンガーや≪■≫さん程ではないけれどそれなりに腕も上がってきた。その度に、“もっと≪■≫さんの手伝いをすればよかった”、“≪■≫さんに美味しいものを食べさせてあげたかった”という後悔が滲む。――僕はそれをバネにして、ここまで来たのだ。

 

 

「≪■≫さん!」

 

 

 僕は声を張り上げた。この場から転移してタイムサービスへ出陣しようとしていた≪■■■■≫の動きが止まる。僕は畳みかけるようにして言葉を続けた。

 

 

「全部終わったら、一緒にご飯作って食べよう」

 

 

 僕の言葉を聞いた≪■≫さんは大きく目を見開く。

 

 あの頃よりも家事は上達した。嘗ての≪■≫さん程ではないけれど、それなりに腕も上がって来た。シュレーディンガーと協力すれば、≪■≫さんと並べるくらいの腕前ではあると自負している。

 「だから一緒に料理を作って、一緒にご飯を食べよう」――僕とシュレーディンガーの中では決定事項になっている未来だ。それを宣言して≪彼≫と向かい合う。

 

 

「――無理だよ」

 

 

 しばしの沈黙の後、≪■≫さん――否、≪■■■■≫はハッキリ言い放った。

 冷徹に、冷酷に、淡々とした調子で、僕とシュレーディンガーの未来図を否定する。

 

 

「そんな日は、来ないよ」

 

 

 事実を語っているのか、『そうであってほしい』という願望を語っているのか、『そうあれ』と己に言い聞かせているのか――そのすべてなのかは分からない。

 

 

「そのために、()丸喜陣営(こっち)にいるんだから」

 

 

 それでも唯一分かることがあるとするなら――努めて口元を引き結んだその表情は、僕等のすぐ傍に立っている■■■■(クソボケ)と似通っていたことくらいだ。

 

 

 

***

 

 

 

 『バタフライエフェクト』という単語は、バタフライ効果と呼ばれる現象及び標語的・寓意的な表現が由来となっている。

 簡単に要約すると、「蝶の羽ばたきのような非常に小さな撹乱でも、後に遠くで大嵐を引き起こす(かもしれない)」というものだ。

 “何かが起こると、巡り巡って意外な所に影響を及す”という点では、『風が吹けば桶屋が儲かる』という諺と非常に近しい。

 

 

『“映像保管庫”……?』

 

『【メメントス】って、“大衆”の【パレス】に相当する異世界でしょう? どうして“個人”に相当する部屋が出来てるのかしら?』

 

『……『調べてください』と言わんばかりの配置だね。この周辺には他に目ぼしいものは無いし、入ってみようか』

 

 

 怪しい部屋への扉を見つけたジョーカーと新島が首を傾げる。黄金の蝶の意匠が施された扉には、古ぼけたプレートがぶら下がっていた。

 擦り切れる寸前の文字に書かれていた言葉を読み上げたジョーカーを促したのは■■である。ジョーカーは頷き、扉のドアノブに手をかけた。

 

 ■■■■と≪■■■■≫の妨害によって出現した更なるエリア――【メメントス】のシンソウ、及び丸喜の【パレス】を攻略することになった僕達は、前者/【メメントス】シンソウを探索していた。

 

 【メメントス】シンソウと丸喜の【パレス】は双方の仕掛けが繋がっているらしく、シンソウと【パレス】を交互に攻略しないと先に進めない構造に変わっていた。認知世界と現実世界の融合を目指す丸喜陣営は、親玉(???)である丸喜拓人の性格と行動方針上、積極的な交戦を望んでいない。更に、彼等の勝利条件には“【ザ・ファントム】が【パレス】に乗り込んで来ない”というものもある。

 そのため、【ザ・ファントム】側が想定する正攻法――『【ザ・ファントム】との直接対決に勝利する』だけでなく、丸喜の【パレス】や【メメントス】の仕掛けを複雑化させることで攻略の遅延を引き起こし、『【オタカラ】確保ルートの構築を妨害する』という戦法――所謂『時間切れ』――も、彼等にとっては有意義且つ効果的な手段だった。閑話休題。

 

 

「足元に何か散乱してるな。引きこもり時代のわたしの部屋よりヤバいかもしれん」

 

「これ、映画のフィルムだよね? 奥には映写機がある。……どれもかなり古い型みたい」

 

 

 部屋の様子を見回した佐倉と奥村が感想を述べる。彼女らの言葉通り、この部屋の床には沢山の映画フィルムやフィルムケースが無造作に転がっていた。中央には誇りまみれの映写機と黄ばんだスクリーンが鎮座している。どれもこれも保存状態が悪そうなものばかりだ。

 

 丸喜の【パレス】で見かけたビデオデッキとビデオテープも年代物だったが、ここの映像資料はそれよりも年季が入っていると言えよう。あちらで見た映像――丸喜や■■■■の過去に関するものだ――は画質も音声も問題ないものであったが、今回のケースはどう転ぶか分からない。

 丸喜や■■■■の過去に関する映像は、【ザ・ファントム】や僕とシュレーディンガーの精神的な揺さぶりをかけてきた。“自分達が体験した理不尽を開示することで、敵対者に理解を求める”というやり方である。もしかしたらこのフィルムも、それに属する類なのか。

 

 

「今までワガハイ達が見てきた映像資料は、マルキと■■■■の過去だった。マルキの協力者の中で唯一“ヤツに協力することになった経緯と真相”がよく分かってないのは≪■■■■≫だけ。……このフィルムは、≪■■■■≫に関係するものかも知れねえな」

 

 

 モルガナは難しそうな顔で分析した後、足元に転がっているフィルムとフィルムケースを拾い集めた。

 フィルムケースにはそれぞれタイトルが書かれているが、どのフィルムがどのケースに入るかは全く分からない。

 映写機に映像を映さない限り、フィルムの中身――及び、タイトルと映像が分からない仕組みになってしまっていた。

 

 

「とりあえず、片っ端から再生してみるしかなくね?」

 

「そうだね。ちゃんと映像が写ればいいんだけど」

 

 

 坂本と高巻が顔を見合わせて頷く。並べられたフィルムを選び、ジョーカーが映写機にセットした。

 軋んだような音を立てて、映写機のリールが回る。黄ばんだスクリーンに映像は映し出されたが、画質・音質共にお察しの状態であった。

 

 

「所々フィルムの一部が焼き切れていたり、音声が飛び飛びになっているようだな」

 

「分かります。絶妙に分かりにくくするのやめて欲し――」

 

 

 顎に手を当てた喜多川と、彼に同調した芳澤が息を飲む。モノクロだった映像の一部分に、鮮明な色が乗ったためだ。

 

 

「……これ、小さい頃の私と、クロウ? どうして私達一緒にいるの?」

 

「――馬鹿な! ……あり得ない。こんな映像、僕は知らない。僕とジョーカーが面識を持ったのは6月のテレビ局だ。こんな、こんな……ッ!」

 

 

 映し出されたのは――ジョーカーと■■の面影を持つ幼い2人の子ども。目を丸く見開いたジョーカーに対し、■■は狼狽えつつも忌々しそうに眦をつり上げる。しかし、コンマ数秒で、彼女と彼は“映像に写る少年少女”の正体に気づいたのだろう。弾かれたように僕とシュレーディンガーを見た。

 件のフィルムは、僕が≪■≫さんやシュレーディンガーと出会ったときから【スノーマスク事件】、及び【セベク・スキャンダル】に関係する映像が納められていた。画質も音声も最悪だったけれど、そんなことなど気にならないくらい、その映像は僕とシュレーディンガーの記憶を鮮明に呼び覚ましていく。

 放送が終わったフィルムを、内容に相応しいタイトルが付いたフィルムケースに収めつつ、僕達は映像を視聴していく。最後の映像が焼き切れて終わった【ジョーカー様】、達哉さんの部分が妙に焼き焦げている【JOKER呪い】、業の見本市が印象的な編集が成された【影時間消滅作戦】、希望の子と虚無の子が背中を預ける姿に焦点が当たった【八十稲羽連続殺人事件】――。

 

 僕とシュレーディンガーと≪■≫さんが共に駆け抜けた最後の事件――【怪盗団】の戦いをフィルムケースに収めた僕等は、思わず顔を見合わせた。

 最後に残ったフィルムと、フィルムケースのタイトルは『それから』。乱雑に走り書きされた文字は、怒りや焦燥感が滲んでいるように思う。

 

 他のフィルムよりもフィルムの長さが短いソレを映写機にセットし、再生する。飛び飛びの音声と映像が流れて行く。

 

 

<丁度いいのを見つけたんだ>

 

 

 その声には、聞き覚えがあった。

 つい最近――【メメントス】新層・奥地に捕まっていた邪神の片割れの声だった。

 

 

<≪出来損ない≫の後を追いかけ、同じ視座に立とうとする愚か者達>

 

<【命のこたえ】を束ねても尚、その極地にはあと一息届かないと見える>

 

 

 その声には、聞き覚えがあった。

 つい最近――【メメントス】新層・奥地に捕まっていた邪神の片割れの声だった。

 

 

<どうだろう。あの2人に契約を持ち掛けるというのは?>

 

 

 フィレモンが笑う。

 

 

<いい案じゃないか>

 

 

 ニャルラトホテプが嗤う。

 

 映し出されたのは、僕とシュレーディンガーの後ろ姿。

 ≪■■■■≫へと至った≪■≫さんの後ろ姿。

 

 

<彼等はきっと、我々の試練に応えてくれることだろう。その果てに、新たな善神へと至るんだ>

 

<いいや。奴等はきっと、我々の試練で心折れることだろう。その果てに、新たな悪神へと至るのだ>

 

<例え試練から逃げたとしても、私が全盛期の力を取り戻すくらいのエネルギー源にはなってくれるだろう>

 

<私とお前は表裏一体だ。お前だけが得できると思うなよ>

 

 

 邪神共は笑う。楽しそうに嗤う。

 そうして、僕とシュレーディンガーの背中へ手を伸ばす。

 

 

<――2人には、私の新たな化身となって貰おう>

 

<――2人には、私の新たな玩具になって貰おう>

 

 

 ――しかし、その手は僕等の肩に置かれることは無かった。

 

 僕とシュレーディンガーの背中を守るように、奴等の手を阻むように、青い外套が翻る。

 憎悪に満ちた藤色の瞳は、フィレモンとニャルラトホテプを敵と認識していた。

 「あっ、しまった」と言いたげに金色の瞳が揺れたのと、≪彼≫が咆哮を上げたのはほぼ同時。

 

 

<触るな……!>

 

<――あの2人に、触るなぁぁぁぁぁぁッ!!>

 

 

 概算度外視で放たれた一撃は、フィレモンとニャルラトホテプのエネルギーを拡散させた。そのエネルギーは光と化し、何処か彼方へ吹き飛んでいく。

 映像はそこで途切れ、スクリーンは真っ黒な闇を映すのみ。しかし、程なくして、誰かの声が響く。最悪の音質が拾い上げたのは、覚えのあるやり取り。

 

 

<……が……しい……か……>

 

<くッ! また頭痛か……クソ……>

 

 

 その声を、僕達は知っていた。

 呼応するかのように、映像が徐々に浮かび上がる。

 画質も最悪だが、とても既視感のある光景と音声が続く。

 

 

<……喚べ、我を……!>

 

<……ああ、いいさ。どこの誰でもいい。力を貸してくれ!>

 

 

 それは、初めてペルソナの力を使った丸喜拓人の姿。力の加減が出来ず、恋人であった留美の記憶から自分諸共事件の記憶を消滅させてしまった、哀しい過去。

 ビデオテープには何も映っていなかったが、こちらのフィルムには見覚えのある光が彼へと降り注いでいる。――いいや、流れ込んできている!!

 

 

<僕に、留美を救わせてくれ――!!>

 

 

 ――そうして、光が爆ぜた。

 

 フィルムの映像はここで終わっている。そこから先の光景は、丸喜の【パレス】で見たビデオテープの映像が物語っていた。

 丸喜はペルソナの力を覚醒させて認知を書き変えるも、力加減が出来なかった――事実上の暴走を引き起こしてしまったことで、恋人は自分のことを忘れてしまう。

 最愛の恋人から何もかもを忘れられてしまった丸喜は、逃げるようにして彼女の病室を去っていった。それから紆余曲折と長い年月が流れた果てに、今に至る。

 

 丸喜に降り注いだあの光は、フィレモンとニャルラトホテプの暴挙を阻んだ≪■■■■≫が叩き込んだ鉄槌によってはじけ飛んでしまった奴等のエネルギーだった。≪彼≫が奴等に攻撃を叩き込まなければエネルギーが拡散し、丸喜に流れ込んでしまうことは無かったのだ。

 あのエネルギーが無ければ丸喜はイレギュラーなペルソナ使いとして覚醒することは無かったし、“顕現した初っ端から暴走を引き起こし、恋人の記憶から自分の存在を消してしまう”なんて悲劇も起きなかった。その悲劇が無ければ、丸喜拓人は現実世界と認知世界を融合させるという強硬手段に打って出ることもなかった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 どうしろと言うのだ。どうすればよかったのだ。

 誰を責めればいいのだろう。誰が悪かったのだろう。

 

 誰も何も言えなかった。僕も何も言えなかった。部屋は重苦しい沈黙で包まれている。

 

 自分の大切な人やものがゴミのように踏み躙られた際の怒りを、【ザ・ファントム】の面々は誰よりもよく知っていた。それ故に、≪■■■■≫の行動を咎めることができなかったのだろう。

 それは僕とシュレーディンガーも同じだった。だって、≪彼≫の行動原理は明らかに僕等が中核にある。『神』へと至っても尚、変わらなかった――変われなかった善性が引き起こした玉突き事故。

 『風が吹いたら桶屋が儲かる』どころの話ではない。『バタフライエフェクト』でも度が過ぎている。大事なものを守ろうとした結果、悲劇への引き金が引かれ、取り返しのつかないところまで転がった。

 

 映像の余韻に途方に暮れる僕達を尻目に、映写機が回る音が響く。

 からからという音は、僕達の心を虚しく乾かしていった。

 

 

 





「≪俺≫がやってることは、不治の病にかかった患者に投薬を行って、延命治療をしているようなモノなんだよ」

「……本当は分かってるんだ。あくまでも、それは“死を先延ばしにするだけにすぎない”んだって」

「生きるため、生かすための手段として“逃避”という選択をするのはアリだと思う。けど、それも問題の先送りと変わりないんだ」

「ただ、辛いことに向き合う覚悟を固めるため、辛いことを乗り越えるための準備期間なんだと≪俺≫は思う」


「■■■はさ、『不治の病に侵された患者が真面目に投薬治療に取り組む』ことは無駄だって思う?」

「――うん。うん。そうだよね。無駄なんかじゃないよね。……無駄だなんて言われる筋合い、ないよね」


「いつか、“その日”は必ずやって来る。でも、今は“そのとき”じゃない」

「あの子達はさ、もう少しだけ、“子ども”でいてもいいと思うんだ。……≪俺≫がそう在れなかったから、勝手にそう思ってるだけで」

「“その日”が来るのを、1日でも、1時間でも、1秒でも長く先延ばしにする」


「――≪俺≫がやってるのは、最初から負け戦ってことさ」


―――

今回のお話のテーマは“風が吹けば桶屋が儲かる”、及び“バタフライエフェクト”。現時点(【回顧:旅立ち -星と僕らと-】~【A Lone Prayer -Dream of Butterfly- Ⅲ】)ではよく分からないお話となっていますが、後の本編や小噺と深く関わりがあります。
【A Lone Prayer -Dream of Butterfly-】シリーズにおける『フラグメントⅢ:ラプラス-1_Norea.docx』やそれと深く関わりのある小噺、及び【Heartful Cry -Living with determination-】の『風邪引いたときに見る夢』を読むと分かりやすいかもしれません。
この世界線における丸喜陣営の愉快なドタバタ劇は、書き手が思った以上に愉しく書けました。ただ、魔改造明智・魔改造足立・冴さんのトリオと差別化できているかと考えると疑問が残るんですよね……。振り回され気味な丸喜と冴さんに合掌。

この設定が追加されたきっかけは、リメイク前の感想返信でした。R関係を追加するに至って「これだ!!」と思い、採用した次第です。
ただ、そこまでのエピソードを纏めようと思案した結果、小噺の中では結構長めのものになってしまいました。
痴女と『神』による愉快なやり取りを削った方がいいと分かっていたのですが、どうしてか消すに消せなくてこんなことに……。

あと10日前後でペルソナ5Rのswitch版が発売されますね。二次創作界隈が盛り上がるのと、明智が主軸に置かれる作品が増えるのが楽しみです。

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