Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。

・かすみが魔改造ぺご主♀に対して厳しめな印象を抱き、それ相応の態度を取っている。


怒髪天、或いは激おこぷんぷん丸

「実のご両親について、喜多川くんはどの程度まで把握しているのかしら? 喜多川くんが班目先生に引き取られるまでの経緯を知りたいの!」

 

「こらマッキー! 喜多川くんの気持ちも考えなさいよ!?」

 

「いいえ、大丈夫です。ですが、詳しくは分かりません。父はおらず、母は俺が物心つく以前にこの世を去ってしまったので……ただ、班目先生は『俺の母と縁があったらしく、それがきっかけで俺を引き取った』と仰っていました」

 

「ふむふむ、成程。それで、班目先生の下で画家になろうと決意するまでの経緯を教えてもらえるかしら?」

 

「はい。あれは俺がまだ幼い頃――」

 

 

 喜多川の部屋兼アトリエから聞こえてくるのは、舞耶さんとゆきのさんコンビによるインタビューだった。変人喜多川に“まともな人間としての応対”をさせるあたり、舞耶さんの手腕が伺える。

 

 僕達は現在、班目邸に足を踏み入れていた。パレスで封鎖されている区画の扉をこじ開けるためである。今回は、キスメット出版の現役記者とカメラマンのコンビも協力を申し出てくれた。……間違っても、2人に脅されたわけではない。断じて。

 2人が協力を申し出る前段階では『喜多川からヌードモデルを依頼されていた面々――杏、僕、黎の3人が喜多川を誘導し、班目が帰ってきたタイミングでモルガナが鍵を開ける』という作戦で乗り込むしかないと覚悟していた。

 あのとき舞耶さんとゆきのさんが協力を申し出てきたのは、中野原の話だけではない。取材のアポを取ったときに班目画伯が『次は裸体像を描こうかな。いいモデルを見つけた。1人は外国人みたいな少女、もう2人は仲睦まじいカップル。双方ともに高校生だ』と零したのを耳にしたためだ。

 

 

『最終的な理由は、黎ちゃんの何か悟ったような、吹っ切れたような乾いた笑みを見たからかな』

 

 

 ゆきのさんが静かな面持ちで遠くを見ていたことを思い出す。彼女が気づいてくれなければ、今頃自分たちはどんな行動を取っていたのか――少し、想像がつかない。

 時間稼ぎとしてできそうなことは、大量に服を着こむくらいだ。だが、初夏が近づきじりじりと熱を帯び始めた季節に厚着はちょっと厳しいだろう。

 

 それに、喜多川や班目を誘導するにしたって、どうやって誘導すべきか。杏の外見なら色仕掛けができそうだが、彼女の性格的にストレスを強いることになる。鴨志田の認知――派手なランジェリー姿をして男に媚びる自分の姿――を見て激高していた杏には、かなり辛いはずだ。いつ沸点の限界を突破し、地が出てしまってもおかしくなかった。

 

 

「やっぱり、あの2人に手伝ってもらって正解だったね」

 

「「確かに」」

 

 

 静かに目を細めた黎の言葉に、僕と杏は迷うこと無く頷き返した。

 

 大人2人の協力を得て修正した作戦内容は以下の通り。まず、僕達が喜多川のモデルを引き受けて訪問する日を、舞耶さんとゆきのさんの取材日と無理矢理ブッキングさせたのである。双方ともに「この日しかない」と、舞耶さんとゆきのさんが班目に、僕たちが喜多川に言い募った。

 前者は班目が快く引き受け、後者も「先生が言うなら仕方ない」と連鎖で受け入れてくれた。先に取材の1段階目――喜多川のみの取材――をしてから、それが終わり次第、記者たちは班目へ取材し、僕たちは喜多川の作品のモデルになる段取りだ。

 喜多川が取材を受けている間に、僕たちは班目邸の内装を確認および把握作業に勤しむ。モルガナから教わった部屋までの道筋を簡潔にまとめ、それを取材終わりの記者たちに手渡し、彼女たちに喜多川と班目を部屋まで誘導してもらうためだ。

 

 その後、僕らも騒ぎに乗じた野次馬の振りをして大人組と同行。彼女たちと一緒に、班目が帰宅するまでの最後の時間稼ぎを行うのだ。

 

 もしあの部屋の鍵が開いた後、班目が順平さんにやったような強硬措置へ走った場合はイセカイナビを起動してパレスに逃げ込む算段となっていた。喜多川を巻き込んでしまう可能性は否定できないが、彼には班目の本性を知ってもらう必要がある。その上で、戦うか逃げるかを選択してもらいたい。

 舞耶さんやゆきのさんも巻き込むことになるだろうが、件の2名は歴戦のペルソナ使いである。異形の跋扈する異世界(例.夢の御影町、モナドマンダラ)でも大活躍していた彼女たちなら、マダラメパレスのシャドウくらい一発KOできる。でなければ、協力を申し込まれても断っていた。

 

 

(それにしても、楽しそうに話すな……)

 

 

 画家を目指すきっかけになった絵『サユリ』の解説をする喜多川は、キラキラと目を輝かせている。

 彼の心は、『サユリ』を生で見たときの感動を鮮やかに思い出せるらしい。水を得た魚のように話し続ける喜多川の姿に、酷く惹かれるものがあったのは何故だろうか。

 

 自分が好きな話題に関して強い興味と情熱を示す喜多川であるが、話を脱線されたり地雷に踏み込まれると表情が険しくなるタイプだ。だが、今はそれが一切ない。

 喜多川は、おそらく喜多川自身が思った以上に気持ちよく話せている様子だった。相手から情報を引き出すためには、相手が話しやすいようにする空気を作り出す必要がある。

 舞耶さんとゆきのさんは、双方が持つ特性を活かして相手から情報を引き出させるのだ。舞耶さんが邪気のない笑みでぐいぐい踏み込み、気配り上手のゆきのさんが強引さをフォローする。

 

 朗々と語り続ける喜多川に相槌を打つ舞耶さん、時々脱線しそうになる舞耶さんを窘めながら喜多川を撮影するゆきのさんのコンビからは、不信感を抱く方が難しかった。

 

 

「その『サユリ』という作品は、今どこに飾られているの? 是非とも実物を拝見したいのだけど」

 

「実物はその……所在不明なんです」

 

「どうして? だって、班目画伯が有名になるきっかけとなった処女作でしょう? そんな価値ある作品が行方不明だなんて……管理が悪かったのかしら? 喜多川くんはどう思う?」

 

「所在不明になった経緯を詳しく知らないので、何とも……。ですが、管理に不備はなかったと思います」

 

「自分の作品が所在不明になったとき、班目先生は何と言っていたのかしら? 自分の作品が行方不明になったんだもの。さぞ心を痛めたでしょうね」

 

「そ、そうですね。とても悲しそうな顔をしていました。俺も同じ気持ちです」

 

「……ねえ、喜多川くん。もしも、もしもよ。自分の作品が行方不明になってしまったら、喜多川くんはどうする? 取り戻しに行く?」

 

「えっ……!?」

 

「マッキー、趣旨からずれてきてる! いつもの口癖はどこに行ったの!? ほら!」

 

「レッツ・ポジティブシンキング! 夢を叶える権利は誰にでもあるのよ!!」

 

「は、はぁ……」

 

 

 舞耶さんは喜多川の変態っぷりにも引くことなく、ガンガン突き進んでいる。喜多川も似たような暴走特急タイプであるが、人にイニシアチブを握られて振り回されることには弱いらしい。容赦なく突っ込まれていくにつれ、段々と狼狽してきた。

 意図的に地雷を踏みぬいているのか、それとも『踏み込んだ場所が地雷原だった』を地で行くのか、傍から見ている僕たちからは判別できない。最も、地雷を踏みぬいたと察した瞬間、ゆきのさんが即座に口を出してフォローしている。だから、違和感を感じないのだろう。

 記者2人による時間稼ぎは上々だ。むしろ、モデルとして訪問しに来た僕達――僕、黎、杏は必要なかったかもしれない。これなら、モルガナのピッキングも安全に行えそうだ。僕は腕時計を確認する。班目が帰宅するまで、まだあと少し時間があった。

 

 

「それにしても、舞耶さんってスゴいね。喜多川くんの変人っぷりを物ともせず、むしろ喰らいさん勢いでインタビューしてる……」

 

「当然だろ。あの人、悪魔相手でも所かまわずインタビューかます人なんだから」

 

「因みに、ゆきのさんも悪魔相手にカツアゲする人だよ。今でも悪魔絡みの事件では現役だし」

 

「嘘ぉ……」

 

「も、もしや……レイが“パレスでシャドウからカツアゲするとき参考にした相手”って、ユキノなのか?」

 

「うん。あと玲司さん」

 

「ひええ……」

 

 

 僕と黎の言葉を聞き、杏とモルガナは口元を引きつらせた。ただ、前者は社会人になって以降、当時のスケバンっぷりは鳴りを潜めている。珠閒瑠の事件が発生したとき、確か、ゆきのさんは思いを寄せる相手がいたか。彼とは今でも交流は続いているらしいが、詳しくは語ってもらえなかった。閑話休題。

 

 流石、現役記者たちだ。巧みな話術と豊富な話題提供によって、喜多川との会話は止まることがない。素人の僕たちだったら、会話を持たせるので手一杯だったはずだ。大人からの手助けは本当にありがたい。僕達は彼女たちに感謝しつつ、モルガナと共に目的地へ向かった。

 鍵のかかった部屋はすぐに見つかった。あからさまに、大きくて重厚な鍵がぶら下がっている。……成程。ここが班目のパレスと連動する場所らしい。戸の鍵と格闘し始めたモルガナと別れ――「猫の身体じゃやりにくいな」とぼやいていたことに一抹の不安を感じながら――戻って来た。

 

 

「橿原先生が育てた花はとても生き生きしているんですよ。これがそのデッサンです」

 

「へえ、上手いじゃないか。オーニソガラム、ガザニア、クロユリ、ブルースター……」

 

「素敵! 本当によく描けてるわね!」

 

 

 相変わらずインタビューは続いている。いや、最早インタビューではなく雑談と化していた。喜多川はスケッチブックのデッサンを示しながら説明している。

 僕は時計を見た。班目が帰宅する時間帯の10分前。そのタイミングを見計らい、僕は扉を開けて喜多川の部屋兼アトリエへと踏み込んだ。

 

 

「――“取材、もう少しかかりそう?”」

 

 

 これが、僕達の合図だった。舞耶さんとゆきのさんは弾かれたように立ち上がり、「折角だから、班目邸内部も取材したいわね!」「写真撮ろう!」と言いながら部屋を出る。

 すれ違いざま、黎は舞耶さんへ地図を手渡した。それを見ながら、舞耶さんとゆきのさんはドカドカと班目邸の奥へ踏み込んでいった。

 勿論、家探し地味た気配を察知した喜多川は、慌てて奥へと駆け出した。僕たちもそれについて行く。舞耶さんとゆきのさんは、部屋の入り口で足を止めていた。

 

 喜多川と問答する舞耶さんとゆきのさんの表情は若干引きつっているように見える。モルガナに何かあったのかと心配になって覗き込むと、奴は未だに鍵開けの真っ最中だった。

 

 

「くそ、意外と難しいぞ……!?」

 

(お前、あれ程自信満々に言っといてそりゃあないだろ!?)

 

 

 『猫の身体じゃやりにくいな』とぼやいていたことに一抹の不安を感じていなかった訳じゃない。喜多川が記者たちと問答する声に紛れて、カチャカチャと鍵開けの音が響く。

 僕は思わず時計を見た。秒針は既に班目の帰宅時間を過ぎている。もうすぐ長針も動くかと思われたとき、ついに班目が帰宅した。喜多川は素っ頓狂な声を上げる。

 

 同時に、鍵が開いて蝶番が落ちる音がした。

 

 

「よし、開いたァ!」

 

 

 モルガナの声に従い、僕たちは喜多川を追い越して廊下に躍り出た。モルガナが扉を蹴破り部屋に突入する背中に続き、僕たちも部屋の中に飛び込む。舞耶さんとゆきのさんも駆け出し、僕たちの後に続いた。

 喜多川も慌てた様子で僕たちの後について来ようとしたが、部屋に踏み込まずに足を止めた。一歩遅れて来た班目が「そこで何をしている!?」と威嚇するような声で咎め、顔を真っ青にした喜多川が奴へと弁明する。

 だが、彼の弁明は最後まで紡がれることはない。即座に僕が奴を羽交い絞めにし、部屋の中へと引きずり込んだからである。「おわああああ!?」と間の抜けた悲鳴を上げながら倒れこんだ喜多川を引っ張り上げ、僕は部屋を見回した。

 

 薄暗い部屋の中で杏が電電灯のスイッチを発見したらしい。世界が光に照らされ、部屋内部が明らかになる。

 視界の端で、班目が僕たちと一歩遅れで部屋の中に踏み込んできたのが見えた。

 

 今頃、パレスで1人待ちぼうけを喰らっていた竜司が喜んでいるだろう。扉を開けたことで、班目の認知は書き換えられたのだ。パレス内の“開かずの扉”も開かれたはずだ――僕の思考回路は、そこで一端中断を喰らうこととなった。

 

 

「えっ……!? これは一体!?」

 

「……この作品、行方知れずとなった班目画伯の処女作、『サユリ』よね?」

 

 

 喜多川が驚愕し、いつもは朗らかなはずの舞耶さんが表情を曇らせる。予め盗作の噂を耳にしていたゆきのさんが眉間に皺を寄せた。杏と黎も、険しい顔で部屋を見回す。

 部屋の中には大量の絵が置かれている。しかも全部同じ作品――『サユリ』のものだ。ならば、これは模写か? でも、これ程までの模写は何に使われるのか。

 

 大量の模写について、喜多川は何も知らなかった。怒り心頭で部屋に踏み込んだ班目は、観念したように肩をすくめる。

 

 

「見られてしまったなら仕方がないな……」

 

 

 班目は訥々と話し始める。この部屋いっぱいに敷き詰められた『サユリ』の模写は、班目の借金返済のために使われているものらしい。“自分自身の作品”を模写することで、特別なルートで買ってもらっているのだと言う。

 長らく行方不明だった本物の『サユリ』は、このあばら家から立ち去った弟子によって盗まれてしまったらしい。「弟子に厳しくしたから、それを恨んで持っていたのかもしれん」と班目は締めくくった。

 そのショックが原因で、班目はスランプになった。作品の描けない画家は致命的である。だから、班目は弟子たちに――喜多川に助けを求めた。彼らからの着想を譲ってもらったと語る班目であるが、それは遠回しな“盗作行為の自白”だった。

 

 パレスに忍び込んで内部を目の当たりにした僕達は知っている。班目は、観念したポーズをとっているだけだ。

 僕は部屋をくまなく見回す。部屋の一角に、布が被せられている場所を見つけた。隠れていたモルガナも、ソレに違和感を持ったらしい。

 

 ――もしかしたら。

 

 

「おい、ゴロー! 探偵らしく頼むぜ!」

 

 

 「謎を解くのはオマエの仕事だろ?」とモルガナが笑う。

 僕はちらりと視線を送り、班目へと向き直った。

 

 

「――貴方は嘘をついている」

 

 

 嘘を暴くのは探偵の仕事だ。僕は班目を睨みつけながら、疑問を突きつける。

 

 

「本物がないのに、どうやって作品を模写することができたんですか? しかも、ここまで正確に」

 

「そ、それは……画集用の精密な写真が残っていてね」

 

「写真の模写が売れるの? アタシは絵のことはよくわかんないけど、絵を買う人ってそれなりに芸術分かってるんじゃない?」

 

 

 援護射撃をしてきたのは杏だ。彼女も班目を睨みつけながら、「ウソっぽいんだよね」と締めくくる。実際に嘘だから、班目を睨みつける目が鋭くなってしまうのも当然だった。

 「お前に何が分かる!?」と激高する班目を無視し、僕は布へと歩み寄る。あからさまに奴が動揺した。僕を制止しようと飛び出した班目は、ゆきのさんの睨みによって動きを止める。

 僕はゆきのさんに頭を下げ、躊躇うことなく布を取り払った。そこに置かれていたのは、模写より一回り小さなキャンバスである。それを目の当たりにした瞬間、喜多川が目の色を変えた。

 

 

「これは、本物の『サユリ』!」

 

 

 喜多川が『サユリ』を見たのは、幼い頃の僅かな期間だけ。以後、彼は画家として、芸術家として、自身の審美眼を磨いてきた。その努力は見事に花開き、隠されていた真実を見出す。

 

 杏が述べたとおり、芸術家の審美眼は侮れない。僕が見たのは、ヴィジュアル系バンドのボーカルとして活動していた栄吉さんが、人間音響と謳われたモノマネの天才である達哉さんをバンドのボーカルとして引き入れようと計画していた姿だったか。

 『あれ程までもの音域をカバーできるなら、ボーカルとしても素晴らしい才能を有しているに違いない!』と力説していた。そりゃあ、バイクのエンジン音から他人の声まで忠実に再現できる声帯模写男なのだ。歌声は、たとえ要練習だったとしてもおつりがくる。

 結局栄吉さんは達哉さんをメンバーに加えることは叶わなかったが、彼の歌声を聴く機会には恵まれたらしい。『ああ、神ってヤツは残酷なことをしやがる。あの才能を伸ばせないなんて……』と嘆きを叫んでいた。閑話休題。

 

 「この絵に支えられて、ここまでやってこれたんです」――模写だと主張する班目の言葉に首を振った喜多川は、絞り出すようにして呟いた。

 そうして、祈るような眼差しで『サユリ』を見つめる。僕は大仰に頷いて、言葉を続けた。

 

 

「芸術家の審美眼を甘く見てはいけませんよ。確かに喜多川くんはまだ“卵”の段階ですけど、“モデルに相応しい人間”を見出す眼は優秀です」

 

「違う! それは偽物……贋作だ! 迷惑な贋作があると聞いて、買い取ったのだ!!」

 

「本家が贋作を買う? それ、ムリありすぎでしょ」

 

「むしろ、作者である貴方がそんな贋作を“買わなければならない”という状況が異常だ。本家が贋作に憤慨することならあっても、贋作を本家の手元に置くなんてまずあり得ない。……その贋作が、()()()()()()()()()()()()()()なら別ですが」

 

 

 尚も言い訳しようとする班目だが、杏の鋭いツッコミによって切り捨てられた。

 それに便乗して僕も班目を追いつめる。僕らの会話に何を思ったのか、黎は喜多川に問いかけた。

 

 

「班目画伯には、贋作蒐集の趣味がおありで?」

 

「いや、ない。……まさか、先生は嘘をついているのですか?」

 

 

 世の中には贋作を好んで蒐集する人間がいる――そんな話を耳にしたことがある。もし班目に贋作蒐集の趣味があれば、『この絵は贋作だが、思うところがあって買い取った』とこじつけられたかもしれない。だが、それを、班目の一番傍にいた弟子がはっきりと否定した。

 班目へと向き直った喜多川の目は完全に据わっている。今まで見ないようにしていた疑念を、改めて直視しているようだ。カメラマンであるゆきのさんも危機迫る面持ちで班目を睨む中、記者である舞耶さんがボイスレコーダーを班目へ差し出す。

 

 

「ファンの人たちに向かって、何か一言!」

 

「警備会社に通報してやったわ!!」

 

 

 班目は勝ち誇った笑みを浮かべ、携帯電話を操作した。ワンプッシュで警備会社へ通報することができるとは、相当良いクラスの会社と契約したのであろう。もしくはコネか。

 

 「2分もかからず来るぞ!」と高笑いする班目を残し、僕達は一斉に駆け出した。一歩遅れて喜多川も僕たちを追いかけてくる。

 このまま班目の傍にいても警察に捕まってしまうのだから、咄嗟に“僕達の後を追いかける”ことを選択してもおかしくない。

 

 

「黎、ナビを!」

 

「了解!」

 

 

 黎は即座にスマホを操作する。イセカイナビは無機質な声を上げて、僕達をパレスへと導いた。

 世界が一気に変化し、あばら家は黄金の美術館へと姿を変える。――次の瞬間、床を踏みしめたはずの感覚が消えた。

 投げ出されるような浮遊感。僕は……いいや、僕たちは今、()()()()()()()()()()()()()!!

 

 四方八方から悲鳴が響く中、僕はどうにか地面に着地する。反射的に上を見れば、黒い外套を風にたなびかせながら、黎――ジョーカーが落下してくるではないか!

 

 

「ジョーカー!」

 

「クロウ!?」

 

 

 僕は即座に体を起こし、躊躇うことなく彼女を受け止める。落下による衝撃で、体中が軋むような悲鳴を上げた。危うく倒れこみそうになったが、どうにか堪える。

 腕の中に抱くジョーカーの重みを感じつつ、「大丈夫?」と覗き込む。ジョーカーは目を丸くした後、落ち着かなそうに視線を彷徨わせた。

 

 

「まさか、どこか怪我を!?」

 

「ううん! 大丈夫だよ。……少し、照れくさいけど」

 

「え? ――あ」

 

 

 居心地悪そうに視線を逸らしたジョーカーだが、彼女の耳は真っ赤に染まっている。彼女の言葉を聞かなかったら、俺は自分が今どんな体勢になっているか意識していなかっただろう。この体勢は――俗に言う“お姫様抱っこ”。

 ジョーカーとは一歩遅れて、俺の身体に熱が走る。多分、俺の顔も真っ赤だ。早くジョーカーを立たせてやりたいのだが、どうしてか身体が動かない。名残惜しいと――まだ離したくないと、俺の中にある“何か”が呟く。

 視界の端で、俺と同じような体勢でパンサーを受け止めていた喜多川の姿がちらつく。だが、奴の真上にモルガナが落下し、喜多川はそのまま膝をついた。――だめだ。意識を逸らそうとしても、最後は俺の腕の中で恥じらうジョーカーに釘付けになってしまう。

 

 ……このまま顔を近づけたら――いやいやいや。俺は一体何を考えているんだ! こんな状況で!!

 

 

「――がぁッ!?」

 

「クロウ! って、舞耶ねえ!?」

 

「いたたたた……って、吾郎クン!?」

 

 

 そんなことを考えたとき、俺の背中に凄まじい衝撃が走った。ジョーカーを受け止めることはできても、それ以上の重さや衝撃を受け止めることはできない。

 不意打ち同然の重量に耐え切れず、そのまま前のめりに倒れこむ。ジョーカーに土をつけずに済んだのは最早意地だった。

 

 落下物の正体は舞耶さんだった。申し訳なさそうに謝る彼女の背後で、完全にノックアウトされた喜多川が転がっている。彼は黛さんの尻に敷かれていた。文字通りの意味で。

 

 「ええええええ!? なんだこの状況!?」――赤外線センサーを解除してきたであろうスカルの素っ頓狂な悲鳴がやけに遠く感じる。

 俺はもう一度、腕に抱えたジョーカーを確認してみた。パッと見て怪我はないように見える。本人も「大丈夫」と自己申告した。

 “()()()()()()()()()()()()()()()()()()”――心の底から溢れた感情に、僕は思わず目を見張る。

 

 心の海、その奥底。歪む水面に映し出された“何か”の姿は不鮮明でよく分からない。けれど、“誰か”が心の底から“ジョーカーを守れてよかった”と思っていることはすぐに分かった。

 僕ではなくて黎/ジョーカーに目を向ける“誰か”の眼差しは、酷く優しくて、どこか遠い。黎/ジョーカーの面影の中に、誰か――一番大切な相手の面影を見出しているかのようだった。

 

 

(……僕に見せる悪夢の内容と言い、“誰か”は“一番大切な人を守れなかった”のか? だから、それをずっと気にして――)

 

「クロウ。私はもう大丈夫だから」

 

「あ、うん」

 

 

 ジョーカーの指摘が無ければ、僕はもう暫く心の海の底に意識を飛ばしたままだった。傍から見れば、思案顔のまま微動だにしないように見えていたことだろう。

 

 ……ちょっと名残惜しいけれど、俺はジョーカーを立たせる。手袋越しだというのに、ほんのりと熱を感じたのは気のせいじゃない。

 僕たちは喜多川の元へ駆け寄った。喜多川は気を失っているらしい。このフロアはシャドウも出ないし、今のところは安全だ。

 

 

「どうしよう。打ちどころが悪かったのかな、完全に伸びちゃったよ」

 

「ユッキー……」

 

 

 ――とりあえず、僕達は彼の目が覚めるまで待つことにした。

 

 

 

***

 

 

 

 班目の真実は、喜多川を打ちのめしたようだ。自分の知っている班目はニセモノだったと突き付けられた喜多川であるが、ここから逃げるべきだというモナの意見に従うような形で同行してきた。

 

 美術館から逃げるため、僕たちは出口まで駆け出した。残酷なことであるが、逃走経路は喜多川にとっての地雷原である。弟子一同の肖像画、『無限の泉』と題された黄金のオブジェとその解説文――喜多川の顔色はどんどん悪くなっていく。

 舞耶さんとゆきのさんの表情も険しくなってきた。班目という男が潰してきた未来の数を想い、2人は憤る。「夢を叶える権利は誰にだってある」を信条にする舞耶さん、嘗て冴子先生によって人生を救われたゆきのさんは、班目への怒りを募らせていた。

 だが、それを班目にぶつけるためには、このパレスから無事に脱出しなければならない。警備の目を掻い潜り、僕達は出口へと急ぐ。だが、もうすぐ出口というところで、出待ちをしていたらしき警備員のシャドウに囲まれてしまった。

 

 

「ハーッハッハッハッハ!」

 

「誰!? ……って、嘘。これが班目のシャドウ!?」

 

「うわ、何アレ。趣味悪い……」

 

 

 高笑いの声に振り返れば、警備員を引き連れた班目のシャドウが僕たちの前に姿を現したところだった。

 絢爛豪華な金の着物を身に纏った殿様である。上に二文字つきそうな顔だが、コメントは控えておこう。

 

 現実世界からの乖離具合に、思わずパンサーが声を上げる。対して、嫌悪感を滲ませたのはゆきのさんだった。鴨志田が城主――王に対し、班目は美術館の長で殿様らしい。どちらも酷い有様だ。

 

 

「先生……なのですか……?」

 

 

 喜多川はフラフラと前に出たが、スカルに無理矢理押しとどめられた。足を止められても、喜多川の眼差しは班目に縋りつこうとしているみたいだった。

 ……それが、嘗ての僕の姿と重なって見える。母を失った僕は祖父に当たる人物の言葉によって、『望まれなかった子ども』という真実を知ってしまった。

 周りの大人たちも同じようにして、僕を振り払った。縋りつける場所がないと途方に暮れていた頃を思い出して、何とも言えない気持ちになる。

 

 喜多川はこれから、当時の僕のような真実を思い知る。班目の道具として使い潰された人々がいたこと、喜多川自身もその1つでしかないこと、今まで面倒を見てきたのは飼い殺すためであることを。

 あの頃の僕は、大人たちがむき出しにした身勝手な真実によってボロボロになった。その傷は未だに残っているし、黎からは「治さなくていい」とまで言われている。歪まなかったのは、救ってくれる人がいたからだろう。

 

 ――では、喜多川を救えるのは誰なのか。喜多川には身寄りがない。たった1人でこの真実と向き合うのは辛いはずだ。

 

 

「嘘ですよね……?」

 

「あんなみすぼらしい格好は『演出』だ。有名になってもあばら家暮らし? 別宅があるのだよ……オンナ名義だがな」

 

「成程、恐れ入った。……随分とふざけた真似をする外道だ」

 

 

 ニヤリと嗤った班目に、ジョーカーが鼻で笑い返す。だが、彼女の目は全然笑っていない。それを見た班目は、こちらを馬鹿にするようにして見返す。

 喜多川を庇うようにして、舞耶さんとゆきのさんが前に出た。舞耶さんはボイスレコーダーを班目に向けながら問いかける。

 

 

「何故、行方不明となっていたはずの『サユリ』が保管庫に?」

 

「しかも、だ。本物があるのに、どうして自ら贋作を作る必要があるんだい? ……絶対、まともな理由じゃないだろうけど」

 

「――聞かせてくれ。貴方が先生だと言うのなら!!」

 

 

 2人の言葉を引き継いだ喜多川を一瞥した班目は、彼を罵倒しながら話してくれた。胸糞悪い真実を。

 

 『作品が行方不明になった』というのも、『盗まれた』というのも、班目が自分で流したデマだった。すべては班目一流際という画家の作品に価値を付加するためのモノ。何もかもが計算された『演出』なのだと奴は笑った。成程、金の計算に関しては、理系トップクラス並みの頭があるらしい。

 保管庫に転がっていた『サユリ』の模写たちもまた、金儲けの道具に過ぎなかった。贋作として売りつけるのではなく、“訳有りの本物”と銘打って売りつけるのである。事情を知らない人々は、喜んで班目の話に飛びつくだろう。――奴はそうやって、多くの人々を騙してきたのだ。

 「絵の価値など所詮は『思い込み』」、「芸術はカネと名声のための道具」と言い切った班目は、最早芸術家ですらない。立派なド外道である。「お前にも稼がせてもらったぞ、祐介」――奴の言葉は、喜多川祐介の心をズタズタに引き裂くには充分すぎる凶器だった。喜多川はそのままずるずると崩れ落ちる。

 

 

「なら、貴方の才能を信じている者は……天才画家と信じてきた人々は……!」

 

「……これだけは言っておいてやる、祐介。この世界でやっていきたいのなら、私に歯向かわぬことだ」

 

「そうやって、お前は人の夢を踏み潰してきたのか。……ふざけてるよ、本当に」

 

「ハッハッハッハ! ――青いな、ガキが」

 

 

 僕の言葉にも班目は怯まない。奴のために、喜多川の兄弟子、姉弟子は犠牲となった。中野原のように“生きていられるだけ幸せな者”もいれば、中野原の兄弟子のように“命を絶った者”だっている。班目の次なる犠牲者は――喜多川祐介。

 醜悪に高笑いする班目を見上げて、喜多川は悔しそうに歯噛みした。長い間、彼はこんな外道の世話になっていたのである。喜多川の性根は愚直以上に真っ直ぐで清廉だった。清廉過ぎたのだ。だから、班目の汚さを赦すことができない。

 

 苦しむしかない喜多川へ、班目は更に残酷な真実を突きつけた。

 

 奴が喜多川を引き取ったのは、喜多川祐介の才能に恐怖したからだ。喜多川祐介の才能を摘み取り、自分のモノにすることで、班目一流斎の地位を盤石にするためだったのだ。

 班目は笑う。「着想を奪う相手として相応しいのは子どもである」と。“大人よりも柔軟な発想力を持ち、大人に対して逆らい辛い人間”――条件が一致するのは、子どもだった。

 

 

「なんてことを……」

 

「家畜は毛皮も肉も剝ぎ取って殺すだろうが。同じだ、馬鹿者め!」

 

「――馬鹿者はテメーだ、このドクズ野郎」

 

 

 俺は猫を被るのをやめて、班目に吐き捨てる。喜多川が目を見張り、舞耶さんとゆきのさんが懐かしそうな顔をした。

 子どもを家畜呼ばわりする野郎なんざ、遠慮はいらない。班目が不快そうに眉を寄せたのを無視して、俺はさらに続けた。

 

 

「アンタを打ち首にして、それを野晒しにしてやろうか? 成金バカ殿様」

 

「クロウ、命だけは奪っちゃダメだ。ひっ捕らえて真っ裸にした後市中を引き回し、大衆の面前で罪を告白させることで手打ちにしよう」

 

「ジョーカー……キミは優しすぎるよ」

 

「私達は【改心】の専門家だ。忘れないで」

 

「……あーもう。キミには敵わないなあ」

 

「おいジョーカー、クロウ! 今はそんなことしてる場合じゃないだろうが! 続きはこの悪趣味な美術館から脱出してからだ!」

 

 

 スカルに咎められ、僕とジョーカーは班目に向き直る。班目は喋り飽きたようで、シャドウに僕達の始末を言い渡した。僕達は喜多川を守るようにして陣を組み、シャドウと睨み合う。

 

 

「――許せん」

 

「ん?」

 

「――許すものか……お前が、誰だろうと!!」

 

 

 喜多川の目に燃えるのは反逆の意志。班目への恩義とこれまでの日々がすべてゴミ屑と化した彼に残っていたのは、班目への義憤だった。

 「下がれ」という僕たちの言葉を聞いた喜多川は――しかし、「面白い」と笑うのだ。精神がイカれたわけでもない。奴は心から、そう思っている。

 『事実は小説より奇なり』――まさか自分が“そんな目に合う”なんて思わずにいたのだろう。だが、そうなったことで、喜多川は真実と向き合うきっかけを得た。

 

 喜多川は随分前から、班目の本性を察知していたらしい。だが、「そんなはずはない」と言い聞かせて生きてきた。自らの意志で、自らの目を曇らせてきたのだ。

 そういえば、僕が八十稲羽に滞在していた時にも似たようなことがあった。“自分の望む真実以外見ようとしない人々”――それが引き起こした一件を、僕は知っている。

 

 自身の望む真実も、自分が望まない真実も問わず、“そこにある真実”を掴むために戦い続けた真実さんと、幾万の真言で霧を吹き払った伊邪那岐大神――その背中を、忘れるはずがない。

 

 

(喜多川の眼前に広がっていた霧が、晴れたのか)

 

「人の真意すら見抜けぬ節穴とは……まさに俺の眼だったか……!」

 

 

 ――喜多川がそう呟いたのを皮切りに、この場に凄まじい力が吹き荒れ始める。どこまでも澄み切った、けれども冷え切った冷気を感じ取った。

 

 間髪入れず喜多川が頭を抱えて悶え苦しみ始める。ペルソナ使いとして覚醒するための兆候だ。

 喜多川の顔に仮面が出現する。白い狐を模したそれを、喜多川は迷うことなく剥ぎ取った。

 

 

「――来たれよ、ゴエモン!」

 

 

 喜多川は無事に“もう1人の自分”――ゴエモンと契約を結んだようだ。白を基調にした洸星学園の制服は、藍墨色を基調にした怪盗服へと変化する。芝居がかった動きで周囲を圧倒する姿は、まるで歌舞伎の役者だった。多分、喜多川本人には意図したつもりなどないだろう。

 元から不可思議奇系天然な喜多川だが、まさかこんなキャラになるとは思わなかった。呆気に取られていた俺たちだが、次の瞬間、ゴエモンが凄まじい冷気を撃ち放った。突き刺さるような冷気は警備員たちを容赦なく穿つ。

 美鶴さんの冷気が敵を見事な氷像へと変貌させ、千枝さんの冷気が敵ごと粉々に砕くための氷塊を作り出すなら、喜多川の冷気は氷の結晶を連想させるように凍り付く。砕けるときでさえ幻想的だ。属性攻撃の見目がこんなにも違うのは、技の使い手の内面に影響しているためかもしれない。

 

 突き刺すような冷気を真正面から喰らっても、班目のシャドウはピンピンしていた。奴は「であえー! であえー!」と叫んで警備員を呼び出す。

 それでも喜多川は引かない。班目を慕った子どもたち、夢を絶たれた弟子たちの怒りを力に変えながらも、奴は冷徹さを失わなかった。

 

 

「それじゃあ、お手並み拝見」

 

「ああ、任せてくれ!」

 

 

 ジョーカーは微笑を浮かべる。喜多川は不敵に微笑み、ゴエモンを顕現した。先程と同じように冷気を操り、周辺にいる警備員たちを吹き飛ばしていく。ゴエモンの冷気を耐え抜いたシャドウは攻撃を仕掛けようとしたが、即座に俺たちがペルソナを顕現して掃討する。

 キャプテンキッドの突撃を喰らったシャドウが弾け飛び、カルメンの放った炎とゾロが巻き起こした風によってシャドウが断末魔の悲鳴を上げ、アルセーヌとロビンフッドが円舞のような連撃を披露してシャドウを消し飛ばした。

 それでも倒れないシャドウには物理攻撃をお見舞いしてやった。スカルが鈍器で殴り、パンサーが鞭を振るい、モルガナがパチンコを使って2人を援護する。喜多川の得物は日本刀らしく、奴は見事な居合切りを披露した。僕とジョーカーは銃で奴の援護に回る。

 

 程なくして、班目が放った刺客たちは全滅した。

 

 班目を追いつめようとした喜多川であるが、ここに来てペルソナを使った疲労が出たのだろう。そのままがくりと膝をついた。

 そんな喜多川を見下す班目の目は、自分を害する存在を踏み潰さんという意志を派手に燃やしていた。

 

 

「祐介。貴様は輝かしい将来をドブに捨てたのだ。貴様の絵描きへの道、あらゆる手を使って刈り取ってくれる……!」

 

「班目ェ……!」

 

「喜多川くん、その状態じゃ奴を倒すことは無理だ。ここは一端退こう」

 

「くっ、情けない……!」

 

 

 満身創痍でありながら尚も班目を追いかけようとした喜多川を、ジョーカーが引き留める。喜多川は悔しそうに歯噛みし、ジョーカーの意見に従った。

 

 班目の警戒心はパレス内に反映されているため、今頃はパレス内もシャドウだらけになっていることだろう。

 奴に追撃をしに向かうことは困難だ。大人しく当初の目的――脱出することを優先した方が良さそうだった。

 

 ……そういえば、舞耶さんとゆかりさんはどうしたんだろう。特に、舞耶さんは班目の発言に喰いつきそうなタイプだ。

 だが、彼女は班目の発言に対し、何かを言い返す様子はなかった。どうしたのだろう。

 僕らよりも場数を踏んだペルソナ使いである彼女たちなら、既に戦いを終えていそうなものだが――

 

 

「マイクに向かって、何か一言!」

 

「おら、何か出しな。……え? これしかない? 馬鹿言ってるんじゃないよ。本当かどうか確かめるから、ちょっとそこで飛んでごらん」

 

「いや何してんの!?」

 

 

 シャドウにインタビューする舞耶さんと、シャドウをカツアゲする黛さんの姿を見たスカルがツッコミを入れた。

 何てことはない。やはり、黛さんと舞耶さんは、御影町や珠閒瑠市で見た頃と何ら変わっていなかった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 班目は個展が終わり次第、僕たち全員を告訴するつもりのようだった。告訴の対象者の中には、もれなくキスメット出版の記者とカメラマンコンビも名指しされている。奴が個展の開催期間中に動くことを避けたのは、開催中に醜聞が出回ると不利益が大きいためであろう。

 順平さんを『名誉棄損で訴える』と息巻いていた班目ならやりかねないと思っていた。覚悟もしていたことだが、改めて突き付けられると気が重い。告訴となれば警察にも話が向かうので、僕たち学生組はもれなく退学処分を受けるだろう。保護観察処分を受けている黎の場合、少年院送りにされる危険性もある。

 班目の【改心】が成功しなければ、僕達の未来は刈り取られてしまうだろう。僕達だけではない。順平さんとチドリさん、舞耶さんとゆきのさん、そして――これからも増え続けるであろう班目の被害者達の未来が懸かっているのだ。今回の【改心】は、絶対成功させなければならない。

 

 そんな僕達怪盗団に、1つの大きな朗報があった。

 喜多川祐介が【怪盗団】に加わったのだ。コードネームは狐の仮面から取って“フォックス”である。

 

 

『変わってしまった班目を止めるのは弟子である俺の役目。そして、今まで育ててくれた恩に対する礼儀だ』

 

 

 根っこが堅物で生真面目な祐介らしい参戦理由である。但し、一般常識と財布の中身はスッカスカのようで、商品を注文してから『金を持ってない』と頭を抱える有様であった。……コイツは本当に大丈夫だったのだろうか。今更心配してもどうしようもない。閑話休題。

 

 祐介は以前から、班目の正体に気づいていたという。盗作なんて日常茶飯事、他にも得体の知れぬ連中と付き合いがあったとか。『それでも、自分を引き取って育ててくれた恩人が悪党だなんて信じたくなかった』と祐介は語った。

 似たようなことを経験したことがあるため、僕と黎は何も言えなかった。僕にとっては“自分を引き取ってくれた保護者”、黎にとっては“親戚の頼れる兄貴分”が、“『神』によって生み出された化身”だったという実体験がある。だから気持ちはよく分かった。

 

 

『でも祐介、大丈夫なの? 私はヤバいことになってそうだけど、祐介は……』

 

『それは心配ない。俺は杏を追いかけていたことになっている。つい先程連絡したからな。班目の奴、『女子高生も捕まえられないのか』と警備員に愚痴っていたよ』

 

『いや、そこじゃねーよ。こんな状態で“あのあばら家に帰っても大丈夫なのか”ってことが心配なんだよ』

 

『それも大丈夫だ。個展が終わるまで、奴は表立って俺を排斥することはできまい。個展中に告訴すればマスコミに食いつかれる。自身の名誉にケチをつけるような真似はしないだろうさ』

 

 

 杏の質問に対して、祐介は少しずれた返答をする。竜司に軌道修正されて返した答えもまた、順平さんや僕達の状況と変わらない。

 やはり結論は“展覧会が終わる前に片を付ける”という1点において収束した。告訴まで残り2週間弱――あまり悠長にしている暇はなかった。

 そんな僕たちを見守っていた舞耶さんとゆきのさんであったが、突如2人の携帯電話がけたたましく鳴り響いた。

 

 電話相手は2人の上司。どうやら、班目氏から抗議の電話が入ったらしい。ご丁寧に、奴は宣戦布告を仕掛けてきたという。そのせいで、編集長がおかんむりになっているそうだ。

 

 

『こっちのことは気にしないで。なんとか宥めすかしておくから』

 

『吾郎クン、黎ちゃん、喜多川クン! あんな奴に負けちゃダメよ。レッツ・ポジティブシンキング!』

 

 

 『編集長の御機嫌取りは自分たちの仕事だから気にするな』と言い残し、舞耶さんとゆきのさんは僕たちと別れた。あの調子だと、2人にこれ以上の協力を要請するのは厳しそうだ。

 こうなると、班目の【改心】は僕達だけで行う必要があった。鴨志田のときのような援護は期待できないので、しっかり下準備をして行わなくてはならない。

 

 以後、僕達は時間を見つけてはメメントスに潜って依頼解決と鍛錬を積み、班目の【パレス】攻略に備えた。勿論、模範的な学生生活を送ることも忘れない。

 黎の日常も充実しているようで、竜司や杏と交流したり、薬を融通してくれる医者の治験に協力したり、佐倉さんからコーヒーの淹れ方を教えてもらっているという。

 この前は、牛丼屋のバイトをしていたときに知り合った政治家の演説練習につき合っていたそうだ。汚職事件で干されたが、演説の腕は未だ衰えていないらしい。

 

 

『今日は芳澤さんと仲良くなったよ』

 

『どっちの?』

 

『すみれさん。新体操部の同級生からいちゃもんを付けられていた現場に居合わせてね』

 

 

 黎は僕にコーヒーを淹れながら、そのときの話を聞かせてくれた。

 

 芳澤すみれさんは、かすみさんと同じ新体操部に所属している。中学時代の成績は“大会に出場すれば常に台乗りを果たす”のがかすみさん・“最高でも入賞が関の山”なすみれさんという両極端なものだったらしい。そのため、すみれさんは周囲から“芳澤姉妹のパッとしない方”と認識されていたという。

 新体操部の生徒たちはすみれさんを取り囲み、『すみれさんの存在は、かすみさんにとって不利益しか齎さない』、『すみれさんがかすみさんの足を引っ張っている』等といちゃもんを付けていた。他にも、『すみれさんの唯一の功績は、かすみさんを秀尽学園高校に連れてきてくれたことだけだ』等の罵詈雑言を浴びせられていた。

 

 

『私が割って入ったら、部員たちは怯えて逃げ出しちゃった。私の噂は学校中に広まってるからね』

 

『胸を張るような状況じゃないだろ……』

 

『そうだね』

 

 

 黎は苦笑し、話を続ける。

 

 黎の噂は後輩である1年生たちにも広まっていた。そのため、『黎が自分たちに何かするのではないか』と思い込んだ新体操部の部員たちは、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出してしまったという。

 “悪い噂が更に広まることを覚悟して/顧みず、躊躇うことなく自分を助けてくれた”黎の姿を目の当たりにしたすみれさんは、その場を去ろうとした黎を引き留めたそうだ。

 

 彼女はずっと、黎に謝りたかったという。自分が駅のホームで助けてもらったくせに、鴨志田の一件で窮地に陥った黎に対して何もしてやれなかった――鴨志田の言葉を鵜呑みにしたかすみさんによって、黎に近づけないようガードされてしまっていた――ことを、ずっと悔いていたらしい。

 『私、有栖川先輩に“見捨てられて当然のこと”をしました。でも、有栖川先輩は私を助けてくれた。……だから私も、勇気を出そうって思ったんです』――姉のかすみさんによって押さえつけられていた意志を奮い立たせたすみれさんは、鴨志田が流した黎の悪評を訝しんでいた数少ない人間であった。

 2人は暫く談笑して打ち解けたのだが、そこへかすみさんが現れた。かすみさんは今でも鴨志田の言葉――黎の悪評――を鵜呑みにしていたようで、妹を守るために黎へ喰ってかかった。が、それを見たすみれさんが怒髪天となり、かすみさんを一方的に叱り飛ばし、姉への不平不満をぶちまけた後、そのまま黎と一緒に下校してしまったという。

 

 

『唯一の心配は、私が芳澤姉妹の仲に亀裂を淹れてしまったことなんだよね。ちゃんと仲直りしてくれるといいんだけど……』

 

 

 打ち解けて仲良くなったからこそ、黎はすみれさんのことを心配している。今の僕に出来ることは、彼女の憂いが晴れることを祈るくらいか。無力なものである。

 

 

『よし。今日はパレス攻略に向かおう。【オタカラ】までの侵入経路を確保するんだ』

 

 

 そうして迎えた班目パレス攻略――【オタカラ】入手経路の開拓。赤外線センサーをスライディングですり抜け、シャドウの警備員や女性社員を闇討ちしながら、美術館のバックヤードを突き進む。一般公開されている区画とはまた違った雰囲気が漂っているが、やはり胸糞は悪いままだ。

 現実の班目が僕達のことを警戒しているためか、パレス内部の警備員たちもてんやわんやしている様子だった。現実世界への干渉という形で【パレス】のセキュリティを突破されたため、警備員がパスワード変更を行っていたのが何よりもの証拠である。……情報を不用意に喋るあたり、ややマヌケであったが。

 奥へと続く道のセキュリティを解除し、探索場所もぐっと広がった。美術館や絵画に纏わるトラップや仕掛けを突破した先に広がっていたのは回廊だった。入り口や展示室で見たド派手な黄金が再来したような形である。

 

 先程とは一変した空気と世界に、スカルとパンサーが嫌そうな顔をした。金色過ぎて目が痛いのは皆同じである。

 

 

『ここは特別歪みが酷いな。しかも、ここには手に入れた地図にすら載ってないぜ』

 

『己の眼力のみで、真実を見抜かなければならないか……』

 

『でも、パレスの雰囲気はここから一変したから、最奥には近づいてると思うよ。慎重に行こう』

 

 

 モナとフォックスの言葉を受けて、ジョーカーが頷く。彼女の号令に従い、僕達は再びパレス内の探索を開始した。空間の歪みはフロア同士の繋がりも歪めているらしい。空間把握能力をフルに使いながら、僕達は奥へと向かった。

 道中置いてあった『サユリ』の絵――この世界では幻の類だろうが――の真贋を見分けると、絵は光になって正しい道を示してくれた。『サユリ』の標に導かれながら、時には警備員のシャドウを強襲しつつ先へと進む。

 

 

『でも、不思議。『サユリ』の真贋を見分けることで道が開けるなんて、『サユリ』という作品に宿っている“何か”が私たちに味方してくれているみたい』

 

『確かにそうだな。……けど、『サユリ』は班目自身が描いた作品だろ? なんで自分(テメェ)に不利な仕掛けとして使われてんだ?』

 

『嘘を嘘と見抜く力がないと突破できないのがこの空間ならば、こういった仕掛けはあくまでも“仕掛けの類”だと思うが……考えてみると、ジョーカーの言う通りかもしれんな。“『サユリ』が俺たちに力を貸してくれている”とも言えなくはない』

 

 

 ジョーカーが感慨深そうに呟く中、スカルは首を傾げながら疑問を口にした。それをフォックスが冷静に分析する。彼らの着眼点に、僕は目から鱗が落ちたような心地になった。

 

 このパレスは班目の心象世界だ。パレスに張り巡らされたセキュリティは、すべて“侵入者である僕たちを排除する”ための罠である。だが、このフロアに置かれた『サユリ』だけは、それらの仕掛けとは全然雰囲気が違った。

 真作の『サユリ』を見分けることで、パレスの奥へ続く道が示される――それはまるで、『サユリ』という作品は“班目にとって脅威となり得る”存在であり、“僕たちにとっての突破口となり得る”存在だとも言えるだろう。

 理由は分からないが、班目は『サユリ』に対して何らかの恐怖を感じている。『サユリ』が“班目を裏切り、奴の画家生命を脅かしかねない”ものとして認識しているようだ。その恐怖が、黄金回廊の歪みを突破する『標』という形で顕現している。

 

 贋作を生産する程度で、パレス内にこんな仕掛けが出来上がるだろうか。『サユリ』が班目を裏切る理由とは何なのか。この仕掛けに込められた認知と、班目が犯してきた所業を照らし合わせて――僕はゾッとした。

 『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』――これはあくまでも推理だ。でも、こんな推理をフォックスに話して聞かせたら、彼の中に残っている班目への想いは本当の意味で木端微塵になるだろう。

 

 “育ててもらった恩に対する礼儀”までもがゴミ屑と化す。

 ……僕にとっての“母との日々”と同じように、だ。

 

 

『…………』

 

『どうかしたのか? クロウ』

 

『フォックス。……班目と対峙するとき、覚悟した方がいいかもしれない』

 

 

 言えるはずがないだろう。『フォックスが夢を抱くきっかけになり、今も心の支えにしているこの絵さえもがゴミと化すかもしれない』なんて。

 でも、嘘をついて誤魔化すことは憚られた。彼が持っている真贋を見抜く力は、僕の嘘をすべて見極めるだろう。

 

 ――散々悩んだ僕は、彼に警告を促す程度のことしかできなかった。要領を得ない警告に首を傾げながらも、フォックスは真顔で頷き返す。その双瞼に迷いがないことだけが、僕にとっての救いだった。

 

 最奥に辿り着いた先には、睨みを利かせるシャドウの班目と警備員たちがひしめいている。班目の背後には【オタカラ】が靄のように漂っており、それを取り囲むようにして赤外線のセンサーが並んでいた。

 文字通りの完全警備。【オタカラ】のルート確保は、【オタカラ】を盗み出す算段までもが含まれているらしい。鴨志田のとき以上に厄介だ。僕達は顔を見合わせて、このフロアをもう少し探索することにした。

 中央ホールを避けて探索を続けるうち、天井裏へ続く道を発見した。張り巡らされた板を飛び移っていくと、【オタカラ】の丁度真下に位置する絶好のポイントを発見する。ここからロープを垂らせば、【オタカラ】を奪取できそうだ。

 

 

『こっちにワイヤーフラックの制御装置があったぞー!』

 

『あそこの制御室、少しの間ならすべての電気を消せるみたい。電気が消えている間に【オタカラ】を盗み出せればいいんじゃないかな?』

 

 

 別動隊として動いていたスカルとパンサーも、【オタカラ】入手に繋がる情報を手にしたようだ。これで、【オタカラ】確保へのルートは完璧である。フォックスも『奴の罪を清算するためにも、班目を【改心】させなければならない』と改めて決意表明した。

 

 残るは班目への予告状だ。

 僕達は渋谷駅の通路にたむろしながら考える。

 

 

「でも、前回リュージが描いた予告状はヒドかったな……」

 

「じゃあ、今回は祐介が描いてよ! 現役美術コース修習者だもの、アート得意でしょ?」

 

「……いや、それは無理だな」

 

 

 杏の提案を聞いた祐介は首を振った。「あの人は俺の絵も文字も知っている。俺の悪戯だと思われるのがオチだ」――割と真面目な理由で、彼は辞退する。

 それもそうか。芸術家としての在り方はクズと言えど、班目は祐介の師匠だった。自分の作風と偽るためには、弟子の作風を把握する必要があった。

 

 ならば、と、竜司が祐介に向き直る。

 

 

「俺が描いたマークをカッコよくしてくれよ! デザインし直すんだったら、お前の発想とは全然違うからバレないだろ?」

 

「成程。予告状のデザイン、か……面白いかもな。【怪盗団】にとっての『本物の証明』になる」

 

「決まりだな!」

 

 

 自分の案が採用されたことが嬉しいのか、竜司は子どもみたいに喜んだ。そうして、前回使った予告状を祐介に指し示す。

 祐介は顎に手を当てて興味深そうに予告状のマークを見つめていた。今頃、奴の頭の中には素晴らしいデザイン案が浮かんでいることであろう。

 予告状が完成すれば、あとは班目から【オタカラ】を盗み出すだけである。僕達は顔を見合わせ、決行日である明日へと思いを馳せた。

 

 

 

 その夜、竜司から『グループチャットのアイコンが変わった』という話を聞かされた僕は、早速確認してみた。鴨志田の予告状とは違って、スタイリッシュなデザインに変わってて驚いたのはここだけの話である。

 

 

 

◇◇◇◆

 

 

 

 芳澤すみれは、“芳澤姉妹のパッとしない方”と呼ばれている。実際、自分の成績が“入賞するのが関の山”だからだ。

 故に、姉・かすみの信奉者達からは『芳澤かすみの汚点』や『芳澤かすみに縋り付くだけの無能』と蔑まれている。

 

 

「前々から思ってたんだけど、あんた、いつまでかすみさんに付いて回るつもりなの?」

 

「あんたの成績、全然かすみさんに届かないじゃない。入賞するのが関の山だって知ってんのよ」

 

「貴女みたいな出来損ない、かすみさんのライバルに相応しくないのよね」

 

「辞めちゃえば? 才能ないんだから」

 

 

 今日も今日とて、同じ新体操部員の同級生たちに囲まれて、罵詈雑言を浴びせられる。中学生時代から変わらない光景だ。

 

 彼女たちはかすみの信奉者であり、かすみに憧れを抱いている一派だった。同時に、かすみの妹・すみれに対しては『芳澤かすみの将来を邪魔する汚点』として扱っている。かすみの前ではすみれを褒めそやしているけれど、かすみの居ないときはいつも“こう”だ。

 “こう”いうとき、すみれが出来ることは“彼女たちが飽きる、或いはかすみがやって来るまで、大人しく耐え続ける”のみ。“言い返しても仕打ちが酷くなるだけ”というのは、中学時代に嫌という程学んでいる。ましてや、かすみにこの出来事を伝えるなんて論外であった。

 周囲の人々は見て見ぬふり。かすみの信奉者であれば、そこに『すみれが厳しく()()されるのは当然のこと』という認知が追加されているから、助けに来るどころか、彼女たちの輪に加わって更なる罵詈雑言を浴びせてくる。

 

 暴力を振るわれないだけマシだ――すみれは己にそう言い聞かせつつ、黙って俯いていた。

 早く終わって欲しいと願い続けることしか出来ないでいた。

 

 

「あんたの功績って、かすみさんを秀尽に進学させてくれたことぐらいだよねェ」

 

「おかげで私達新体操部には、輝かしい未来が約束されてる。かすみさんの栄光は、そのまま私達の栄光になるんだもの!」

 

「分かったなら、身の程を弁えて――」

 

「――1人を寄ってたかってサンドバックにするなんて、人として恥ずかしくないの?」

 

 

 その声に、すみれは覚えがあった。秀尽学園高校に入学するその日に、階段を踏み外したすみれを助けてくれた先輩のものだ。

 思わず顔を上げれば、仁王立ちになった件の先輩――有栖川黎が、鋭い眼光で新体操部員たちを見つめている。

 眼鏡越しですら感じる覇気に、すみれは思わず息を飲んだ。黎を目の当たりにした新体操部員たちは、ギョッとした様子で身を固める。

 

 

「あ、あんたは……!」

 

「前歴持ちの……!」

 

 

 有栖川黎の前歴は、学校中――特に、運動部の間では有名である。それもそのはず、嘗てこの学校で人気者だった鴨志田が、彼女を退学に追いやるために噂を広めていたからだ。かくいう芳澤姉妹も、鴨志田からあることないことを吹き込まれたクチであった。

 姉は鴨志田の言葉を鵜呑みにして黎を排斥し、すみれを黎から隔離しようとした。すみれは鴨志田の言葉に疑念を抱きながらも、結局かすみに押し切られてしまい、彼女の危機を傍観してしまった。すみれは黎に助けられた身でありながら、その恩を仇で返したのだ。

 

 

「あ、アンタには関係ないでしょ! どっか行きなさいよ」

 

「先輩に対してそういう言葉遣いは失礼だよね。……この際、上下関係ってものをきちんと躾た方がいいかな?」

 

「ひっ!?」

 

「――私の噂、知ってるでしょう?」

 

 

 真顔で凄む黎は、己の前歴を引き合いにして部員達を威嚇する。

 

 学校中に独り歩きするそれは、有栖川黎にとって不本意極まりないもののはずだ。こんな威嚇をすれば、彼女に関する悪い噂がもっと広まってしまうだろう。

 けれど彼女は、自分が不利益を被ることより、部員達に取り囲まれているすみれを助けることを優先したのだ。……すみれは、黎を助けなかったのに。

 

 

(有栖川先輩……)

 

「に、逃げよう!」

 

「やばい犯罪に加担させられるのは御免だからね!」

 

 

 新体操部の部員たちは、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出した。残されたのは、仁王立ちして凄んでいた黎と、彼女たちの背中を呆然と見つめていたすみれのみ。

 すみれに対する脅威がなくなったことを確認し、黎は肩の力を抜いてこちらに向き直る。灰銀の瞳は優しく細められていて、出会ったときと変わらなかった。

 

 

「大丈夫?」

 

「は、はい」

 

 

 あの日と同じようにして、黎はすみれの手を取った。すみれは夢心地のまま黎と向き直る。

 

 すみれが黎と至近距離で向き合ったのは、初めて出会ったとき以来だ。あの後も何度か顔を合わせる機会はあったものの、鴨志田が流した噂を鵜呑みにしたかすみが黎を威嚇し、すみれを引き離していた。その行動はどこまでも善意である。

 芳澤姉妹の夢は“オリンピックの舞台で、2人揃って台乗りを果たす”――“姉妹でオリンピックを制覇する”こと。“前歴を持つ黎と関わり合いになってしまったら、自分達の夢に支障が出る”と判断して気を張るのは間違いではない。

 すみれも姉の気持ちを理解していたし、――惰性ではあるが――オリンピックを目指す夢を抱いていたから、かすみに逆らえなかった。心の中で“黎はそんな悪いことをする人ではない”と思いながらも、事態の静観を選んだ臆病者だった。

 

 黎はすみれが無事なことに安堵していたけれど、程なくして、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。

 芳澤姉妹が鴨志田と面談した直後に、かすみから言われた言葉を思い出したのだろう。

 

 

『私達に関わらないでください!』

 

『貴女みたいな人と一緒にいたことが噂になったら、私達姉妹の夢が滅茶苦茶になってしまう』

 

『私も、すみれも、“オリンピックに出場してメダリストになる”という立派な夢があるんです! 輝かしい将来があるんです!』

 

『貴女のような犯罪者(ひと)なんかとは違う!』

 

 

『――すみれに近寄らないで!』

 

 

 姉が黎に対してぶつけた酷い言葉たち。それを間近で聞いていたすみれは、黙っていることしかできなかった。哀しく笑う黎に対して、何もできなかった。

 

 

「……ごめんね。それじゃあ、私はこれで」

 

 

 あの時と同じように、黎は哀しそうに笑って踵を返す。

 

 

(……本当に、このままでいいの? ……また私は、恩を仇で返すの?)

 

 

 ――そう思ったら、いてもたってもいられなかった。

 

 

「――待ってください!」

 

 

 なけなしの勇気を振り絞り、腹の底から声を出して、手を伸ばす。

 伸ばした手は黎に届いた。黎が驚いたような表情で振り返る。

 

 

「助けて頂き、ありがとうございます。――それと、ごめんなさい!」

 

「すみれさん……?」

 

「かすみが――姉が、先輩に酷いことを言ってたの、止められなかった……。私は有栖川先輩に助けて頂いたのに、有栖川先輩を助けようとしなかった」

 

 

 すみれは己の不甲斐なさを恥じながら頭を下げる。黎は苦笑して首を振った。

 

 

「かすみさんは悪くない。貴女たち姉妹には素晴らしい夢があって、輝かしい未来がある。それを壊しかねない人間が現れたら、警戒するのは当然のことでしょう」

 

 

 すみれは首を振り、謝罪を続ける。

 先輩の優しさに甘えるわけにはいかないと思った。

 

 

「私、有栖川先輩に“見捨てられて当然のこと”をしました。でも、有栖川先輩は私を助けてくれた。……だから私も、勇気を出そうって思ったんです」

 

「勇気?」

 

「はい! ――私、ずっと、有栖川先輩とお話したいと思っていました……!」

 

 

 嫌悪を露わにしたかすみに手を引かれる度、哀しそうな笑顔で自分たちを見送る黎を見る度、ずっと胸が痛かった。姉の剣幕に押し殺され続けたすみれの意志を奮い立たせる。

 今更都合のいいことを言っているのは百も承知。きっと黎は、日和見主義者で臆病なすみれのことなど、既に見損なっていることだろう。それでも、それでも――。

 しばしの沈黙。すみれには、激しく軋む心臓の音だけが響く。……程なくして、黎はふっと表情を緩めて微笑んだ。告げられた言葉は、「私もだよ」という同意の言葉。

 

 自分の世界が極彩色に彩られる瞬間を、すみれは強く感じていた。胸の底から湧き上がる歓喜に、思わず表情をほころばせる。次に溢れたのは、黎に話したいと考え、ずっとずっとため込んでいた話題の数々。

 本当の意味でまともに話したのは今回が初めてだ。でも、雑談に耽っていくうちに、互いに打ち解けていくうちに、旧年来の付き合いがあったような錯覚に見舞われる。黎とお喋りする時間が楽しくて、本当の本当に楽しくて、すみれは胸を弾ませていた。

 

 ――それこそ、時間も、片割れのことさえ忘れてしまう程に。

 

 

「――すみれ!」

 

 

 響いた声に振り返れば、そこにいたのは片割れ・かすみだった。かすみは“すみれが黎と話している”のを目にした途端、血相を変えて駆け寄ってきた。

 かすみはすみれの前に割り込んで黎から引きはがすと、そのまま黎へ平手打ちを叩き込んだ。突然の平手打ちに呆気にとられる黎へ、かすみは一方的に怒鳴りつける。

 

 

「私、『すみれに近寄らないで』って言いましたよね!? どうして貴女はすみれの邪魔をするんですか!!」

 

 

 かすみが捲し立てる内用は、以前の焼き直しだ。

 

 芳澤姉妹の夢――姉妹でオリンピックに出場しメダルを取る――や将来を引き合いに出し、脛に傷持つ人間と付き合いがあることで夢や将来が壊れてしまうことを危惧し、前歴持ちである黎の人格や人間性を真正面から否定にかかる。鴨志田から入知恵された悪い噂を、かすみは未だに鵜呑みにしているのだ。

 先程まで柔らかな微笑を湛えてすみれと談笑していた黎は、かすみの心無い言葉によって憔悴していた。伏せられた灰銀の瞳は暗く、口元は苦しそうに引き結ばれている。今にも泣きだしてしまいそうに見えたのは、すみれの見間違いではない。すみれが棒立ちになっている間に、かすみは言いたいことを言い終えたのだろう。すみれの腕を引く。

 

 耐えられなかった。すみれを助けた恩人の心をズタズタにしたかすみの所業に。

 耐えられなかった。すみれの意志を無視し、自分の行動が正しいのだと言わんばかりに振る舞うかすみの傲慢に。

 耐えられなかった。すみれが『自分の思った通りに動く』と信じてやまないかすみの態度に。

 

 

「――いい加減にしてよ!!」

 

 

 かすみの手を振り払い、すみれは腹の底から声を出した。

 目を丸くしたかすみを睨みつけ、すみれは叫ぶ。

 

 

「有栖川先輩は私の恩人なの! 駅のホームでは階段から足を踏み外した私を助けてくれたし、さっきだって、お姉ちゃんの取り巻きに絡まれてた私を助けてくれたんだから!」

 

「で、でも! すみれだって聞いたでしょ? 『この人は前科持ちだ』、『近づいたらいけない危険人物だ』って……」

 

「そう言ってた鴨志田が何をやってたのか、お姉ちゃんだって知ってるでしょ!? スポーツマンシップの欠片もない体罰セクハラ教師の言葉、まだ鵜呑みにしてるの!? それこそどうかしてるよ!!」

 

 

 もう我慢できなかった。すみれは己の怒りのままに、かすみへ感情をぶつける。

 

 

「私はかすみの意のままに動くお人形なんかじゃないし、かすみのコピーでもない! 周りから『かすみの後ろをくっついて歩く“だけ”の存在』として扱われる私の気持ちなんか、お姉ちゃんには分からないよ!」

 

 

 『芳澤かすみの汚点』として、『芳澤かすみの引き立て役』として、『芳澤かすみの足を引っ張る愚妹』として、かすみの影に隠れることしか出来なかった――そんな日々が、どれ程惨めだったか。

 何をやってもすみれは姉に追いつけなかった。練習中でも大会の結果でも、常に『姉/芳澤かすみの劣化』という評価が付いて回る。心はとっくに折れていた。疲れ果ててしまっていた。

 けれど、すみれは新体操を辞められなかった。かすみの傍から離れられなかった。折れてしまった心や疲れ果ててしまった体を休める時間も与えられなかった。かすみに急かされてきたから。

 

 かすみとの約束を“諦める”権利も、かすみと道を“違える”権利も、かすみから“離れる”権利も、将来の夢について“改めて考え直す”権利も、それらを口に出す自由すらも、すみれは持っていなかったのだ。

 

 

「かすみと一緒にいるのが辛くても、かすみと同じ夢を見続けられないと悟っても、かすみと同じ視座に立てないと突き付けられても、かすみの望んだ通り、一緒にやってきた。かすみが『頑張れ』って言うから、『一緒に夢を追いかけよう』って言うから、『すみれなら絶対に出来る』って言うから、ずっと我慢してきた」

 

「す、すみれ……?」

 

「でも、もう無理。我慢できない」

 

 

 思えば、かすみとすみれは生れたときからずっと一緒だった。それが当たり前だと思っていたし、自分たちならば“いつまでも、同じ夢を同じ視座で見続けることができる”と無邪気に信じていた。2人でならどこまでも行けるのだと信じて疑わなかったのだ。

 けれどそれは覆された。かすみには才能があり、すみれには才能が無かった。埋めようのない溝に気づいたすみれは現実を突きつけられ、嫌でも大人にならざるを得なかった。周囲の扱いを甘んじて受けるしかないと悟った。――純粋無垢な姉の眩しさを、直視することが出来なくなった。

 弱音を吐こうにも、心が弱かったすみれは言い出せなかった。すみれの才能を信じて待ち続けるかすみを裏切れなかった。かすみからの期待が重荷になってしまった自分を知られたくなかった。すみれのために輝かしい未来をドブに捨てようとしているかすみを止めるには、すみれが我慢するしかなかった。

 

 あのままかすみに引きずられてしまっていたら、すみれの人生は真っ暗だったろう。これからもずっと、かすみや周囲の望むとおり、かすみの後ろに隠れ続けなければいけなかったかも知れない。

 自分の意志を表現する権利を奪われて、心を殺されて、『芳澤かすみの汚点』や『芳澤かすみの引き立て役』としての生き方を――否、『かすみが理想とする“すみれ”』で在れと強要されていただろう。

 

 ――そんなの、耐えられない。

 

 

「『かすみが理想とする“芳澤すみれ”』で居続けることを強要されるのは、もうウンザリ!! ……お願いだから、これ以上干渉しないで。私に“お姉ちゃんの理想”を押し付けないでよ」

 

 

 もう、この場に居たくなかった。もう、黎をかすみと同じ場所に居させたくなかった。

 すみれは黎の手を取って踵を返し、そのまま廊下を駆ける。

 名を呼ぶ姉を置き去りにして、おろおろする恩人を安全な場所へ連れ出した。

 

 

 

*

 

 

 

 立ち去ってしまった妹の背中を見送ることしか出来なかったかすみは、呆然自失のまま、廊下の一点を見つめる。

 幼い頃の約束も、共に思い描いた未来も、切磋琢磨してきた日々も、何もかもが砕けていく。――その果てに、かすみはふと思い至った。

 

 

(最後に、すみれが笑ったのはいつだったろう)

 

 

 ……諦めたように目を伏せて、かすみの後ろに立つようになったのは、いつからだろう。

 

 気づけばアイスの話もしなくなった。かすみの発言に対し、否定も反論もせず、弱弱しい相槌を打つだけになってしまった。ふとした拍子に見たすみれの横顔は、いつも陰鬱としていたように思う。

 かすみが「負けたくない」と思ったすみれの持ち味――繊細で優美な演技――は鳴りを潜め、本来の実力を発揮できなくなっていた。それがすみれの自信を削ぎ、余計に体が動かなくなっていく悪循環。

 それでもかすみは信じていた。すみれの才能が素晴らしいものだと知っていたから。実力をきちんと評価してさえ貰えれば、それが自信に繋がって、昔のすみれに戻るのだと本気で思っていた。

 

 

「……私がすみれの邪魔をしていたのかな」

 

 

 ただ、一緒に頑張っていたかった。大好きな妹と、一緒にオリンピックを目指したかった。

 同じ夢を追いかけていたかった。2人でメダルを手にして、また2人で一緒に笑いながらアイスを食べたかった。

 

 ――あの日交わした約束を、あの日思い描いた2人分の夢を、守りたかっただけなのだ。

 

 

 




「すみれさんは、オリンピックに出場する夢を諦めるの?」

「……正直、よく分からないんです。姉の傍にいればいる程、劣等感ばかり募ってしまって……」

「お姉さんとはずっと一緒にやってきたんだね」

「ええ。生まれた頃から()()()()()でした。……だから、余計に辛いと感じるのかもしれません」


 すみれの話を聞き終えた黎は、暫し思案するように顎に手を当てた。
 程なくして、彼女はすみれの方に向き直る。――黎が紡いだ言葉に、すみれは目を丸くした。


「――じゃあ、()のことをしてみたらいいんじゃない?」



―――

リメイク前と流れはほぼ一緒ですが、“誰か”へ対する言及や、芳澤姉妹のドタバタ劇に関する場面が追加されました。
尚、橿原淳に関するアレコレは次回――マダラメパレスのボス戦に持ち越しとなります。

思うところがあったので、活動報告でちょっとした催し(?)やってます。興味がありましたら是非ご協力ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=279566&uid=25298

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