Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。


ブチ切れ冴さん、或いは一件落着?

 

「……明智くん。その恰好は……」

 

 

 【マヨナカテレビ】に突き落とされ、直後、僕に保護された冴さんは怪訝そうな表情を浮かべた。時間経過に伴い、冴さんの表情は痛々しいものを見るような憐みの色が滲みだす。

 

 彼女の瞳に映る僕の姿は、認知世界――【メメントス】や【パレス】を駆け回る怪盗だ。ヅカに出てくる役者が着ていそうな、軍服や式典服モチーフの白い怪盗服。

 王子様を思わせるような煌びやかな衣装も、鴉の嘴を思わせるような真っ赤な仮面も、一般人の感性から見ると“痛々しい”感じに見えるのだろう。

 更に言えば、僕と冴さんを【マヨナカテレビ】に突き落とした張本人・足立透は、僕の怪盗服姿を一目見るや否や、腹を抱えて大爆笑していた。

 

 

「何その恰好!? おっかしい! キミみたいな二重人格パンケーキが王子様キャラやってんの!? ウケるんですけど!」

 

「ヘドロ畑育ちの自己中キャベツ刑事(デカ)に言われたくありませんよ! その上闇落ちまで追加されるとか、どれだけ属性盛るつもりですか!?」

 

 

 僕は好きで王子様ヅカスタイルになった訳ではない。ペルソナを覚醒させたらこんな服を纏う羽目になっただけだ。

 断じてこれは僕の趣味ではない。……そりゃあ、確かに、『黎の王子様になりたい』という願望がないわけではないが。

 

 そういう意味では、御影町以前や珠閒瑠、巌戸台、八十稲羽世代のペルソナ使いが羨ましい。だって彼等はどんな服を着ていてもペルソナを使うことができる。僕等みたいに“強制的に服装が変わり、格好は自分の意志で決められない”せいで発生する悲劇――丁度今みたいな現状――に羞恥心を刺激されることはないのだ。

 

 

「貴方だって人のこと言えないでしょう! 八十稲羽のときに八十神高校の学ラン着せられてキョドってたのも、フリフリのゴスロリ着せられて死んだ魚みたいな目になってたのも、忘れたとは言わせませんけど!?」

 

「だー! やめろやめろやめろ! その話を持ち出すとかお前本当に腹立つガキだな!!」

 

「ちなみに、凛さんのスマホのロック画面が“トウコちゃん”で、待ち受け画像が“八十神高校の足立くん”だけど」

 

「凛ちゃんの馬鹿ぁ! ちゃんと消してって言ったのに!」

 

 

 “八十神高校の足立くん”――紆余曲折の末に足立が八十神高校の男子制服を身に纏う羽目になった際、奴を凛さんがそう評した――や“トウコちゃん”――紆余曲折の末に足立が女装させられた際、凛さんに名付けられた名前だ――という黒歴史を引っ張り出せば、奴は顔を真っ赤にして絶叫した。ざまみろ。

 ……とまあ、散々互いの黒歴史だ何だを引っ張り出してぎゃあぎゃあやり合っていたが、足立が僕や冴さんを【マヨナカテレビ】に突き落としたのは、こうやって馬鹿な口論をするためではない。それを知っていたから、僕等の罵倒合戦は比較的早く終わった。こういう雰囲気でなければ、あと1時間くらいはこのやり取りを続けていたことだろう。

 

 【マヨナカテレビ】の仕様――ペルソナ能力を持たない人間が迷い込んだ場合、その人物の負の側面を顕現したシャドウが現れる――から、僕は身構える。

 経験則から類推すると、ここに出現するであろうシャドウは冴さんだろう。その他にも、一般雑魚シャドウがうろついている。

 強さに差はあれど、一般人/非戦闘員である冴さんにとって脅威なのは変わらない。僕は冴さんを庇うようにして周囲に気を配った。

 

 

(……こういうときに、アナライズが得意なペルソナ使いがいてくれれば……!)

 

 

 この場にいない人々の名前を列挙しつつ、出来る限り、周囲の気配を読み取ろうとする。しかし、この場を覆い尽くす霧が邪魔でよく分からない。

 

 【八十稲羽連続殺人事件】の渦中で駆け回っていた頃は眼鏡をかけて探索していたけれど、今の僕の格好/怪盗服は仮面常備。形状の問題で、眼鏡をかけられるような余裕はなかった。

 真実さんが【命のこたえ】――都合のいい嘘に縋ることなく、真実を追い求める――を示して以後は、眼鏡なしでも見えていたはずだ。……じゃあ何故、今、僕の視界は不良なのか。

 

 

(八十稲羽の土地神が、何かしらの力を使ったのか……? でも、彼女は【八十稲羽連続殺人事件】の一件で力の大部分を失ったはずだ。八十稲羽全域ならともかく、遠く離れた東京で力を発揮できるものか?)

 

「足立刑事。貴方、一体どういうつもりなの!? そもそも、この空間は!?」

 

「そんなにピリピリしなくていいじゃないですか。これから起きることをしっかり目に焼き付けて貰えれば、大体のことは分かると思いますよ」

 

 

 事態の打破を求めて思案する僕と対照的に、冴さんは足立を睨みつけて詰問する。足立はへらへらした態度で「貴女はエリート女検事なんだから、それくらいの頭脳はあるはずだ」と笑った。

 遠回しに冴さんへの信頼や期待を述べているのか、ただ単に冴さんを煽っているのか、その辺の判断は非常に難しい。だって足立はひねくれている。奴が素直にデレるのは、堂島一家か真実さんくらいだ。

 冴さんは“足立に煽られている”と判断したらしい。こめかみをひくつかせながら奴を睨んでいた。警察や同僚の検察、上司に対して文句を言っているときの不平不満を色濃く滲ませている。

 

 足立は「おおー、怖い怖い」なんて余裕たっぷりで笑っていた。副音声で「この検事、さっきからウザいな。黙って話を聞けないのか」等と聞こえたのは僕だけだと思う。

 

 ――刹那、足立が纏っていた雰囲気が変わった。

 

 へらへらと笑っているのは相変わらずだけど、肌を刺すような鋭い殺気が僕に向けられた。奴の手には拳銃が握られている。あれは警察官へ支給されている本物の銃だろう。

 怪盗服を身に纏う僕も、銃と突剣という武器を所持している。しかし、それは【パレス】や【メメントス】を駆け回る間だけだ。現実世界ではそれらの武器はモデルガンと単なる模造品でしかない。

 

 僕は思わず自分の武器を確認した。【パレス】や【メメントス】でシャドウと対峙し、奴らを倒す際に使っている得物の感触は()()()()()である。なら問題ない。本物の拳銃、その銃口を僕に向ける足立に対抗することは可能だ。

 

 

「キミも、目覚めたんだろ。その恰好が証拠。違う?」

 

「……成程。お手並み拝見、ってことですね」

 

「おっ、さっすが2代目探偵王子だ。話が速くて助かるよ」

 

 

 突剣の切っ先を足立に向ければ、足立も満足気に頷く。

 僕が仮面に手をかけたのと、足立が頭を抱えるような動作をしたのはほぼ同時。

 

 

「「――ペルソナァ!!」」

 

 

 僕のロビンフッド/足立のマガツイザナギが顕現し、派手にぶつかり合う。

 

 足立透の使うペルソナ――マガツイザナギのデータは【八十稲羽連続殺人事件】の一件で把握している。物理攻撃と闇――僕等の世代における呪怨――属性の攻撃を駆使するタイプだ。【特別捜査隊】に同行して【マヨナカテレビ】を攻略していた際の評価は“物理攻撃と魔法攻撃の両方をこなせるが、能力配分の問題で今一つ器用貧乏になりがち”だったように思う。

 それが、【八十稲羽連続殺人事件】の真犯人に堂島一家――特に凛さんを人質に取られた結果、諸々の要素で超強化された形だ。事件解決の際、足立は足立なりの【命のこたえ】に辿り着いたこともあり、ペルソナの強さに変動が見られなくなった――諸々のブーストがかかった状態が“通常の状態”という扱いとなった――らしい。

 故に、最終的な強さは“【特別捜査隊】や旧【特別課外活動部】/現【シャドウワーカー】、更には御影町・珠閒瑠世代のペルソナ使いを束にしても相手取ることができる”という規格外となった。尚、だからと言って足立は万能ではない。他のペルソナ使いより基礎能力――耐久と攻撃面が優れるだけで、ペルソナ使い達によって袋叩きにされ続ければ普通に力尽きる。

 

 奴がペルソナ使いとして戦う羽目になってから4年の月日が流れており、ペルソナ使いとしては僕や【怪盗団】の先輩に当たる世代だ。そして、奴の強さを僕は知ってる。

 ペルソナ使いとして覚醒してから2年程度しか経過していない俺がコイツとタイマンするなんて、どう考えたって俺側が不利なのは当然のことだ。――でも、俺には俺の強みがある。

 

 

「ああもう、さっきからちょこまかと動き回りやがって! 目障りなんだよ!」

 

「言われて止まる馬鹿がいるか! 使える武器を使って何が悪い!」

 

 

 伊達に12年間、ペルソナ使い達の背中を見てきたわけではない。彼等の戦い方を熟知し、それを僕自身の戦闘スタイルへ昇華してきた。

 更に、【怪盗団】として【パレス】や【メメントス】を駆け回って来た経験を駆使し、この場を縦横無尽に駆け回ることで足立の繰り出す攻撃を回避する。

 足立に挑む側である僕は、奴の攻撃を一発喰らえば即座に戦闘不能になるのだ。それを避けるために、出来る限りのことをしているだけに過ぎない。

 

 4年分の修練と基礎能力でごり押しする足立と、12年で蓄えた知識と経験を駆使して搦め手を使う俺。一進一退の勝負が続く。――気づけば、お互い、取り繕うことを忘れて笑っていた。

 

 

「あはは! クソガキはそうでなくちゃな! お前のような奴は調教しがいがある!」

 

「そっちこそ、相変わらずのクズっぷりだな! おかげで遠慮なくぶっ潰せる!」

 

「「抜かせ! 俺がお前に負ける訳ないだろうが!!」」

 

「――射殺せ、ロビンフッド!」

「――お仕置きの時間だ、マガツイザナギ!」

 

 

 祝福と呪怨――前者はマガツイザナギ、後者はロビンフッドの弱点が飛び交う。奴の呪詛をかわし切れなかった俺は悲鳴を上げて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 しくじったと思って顔を上げるが、それは相手も同じだったようだ。僕がうつ伏せで倒れているのとは対照的に、奴は仰向けで倒れている。上半身を起こすこともままならないようだ。

 

 ロビンフッドの祝福属性攻撃を確実に当てていたことが功を制し、あの一発で奴の体力・精神力を削り切ったのだろう。勝負の結果は文字通りの“相打ち”か。

 

 

「ハッ、ざまあないな!」

「ハッ、ざまあないね!」

 

「「――ア゛ァ゛!?」」

 

 

 同時に同じような台詞が飛び出したものだから、僕は無理矢理体を起こした。足立も同じようにして飛び起きる。

 ペルソナ使いとしての実力行使が第1ラウンドなら、第2ラウンドは舌戦か。望むところだと俺が息巻いて――

 

 

「――楽しそうね、2人とも」

 

 

 ――僕達は、大きな忘れ物をしていたことに気が付いた。

 

 満身創痍の僕と足立は、声が聞こえた方向に首を動かす。そこには仁王立ちする冴さんがいた。文字通りのおかんむり、もしくはブチ切れっぷりだ。

 「私、ずっと蚊帳の外だったんだけど」――声自体はそこまで大きくないのに、地の底を揺るがす程の響きを感じたのは気のせいではない。

 

 

「さ、冴さん」

 

「に、新島検事」

 

「男同士の友情、大いに結構。でもね、巻き込まれた挙句、完全に放置されてた私はたまったもんじゃないのよ」

 

「「いや、コイツは友達じゃない――」」

 

「仲がいいアピールも結構! 後で好きなだけやりなさい!!」

 

 

 不機嫌ですと言わんばかりに、冴さんは地面を足で蹴りつけた。ヒールの底が折れなかったのが奇跡だと思ってしまう程の音に、僕と足立は思わず身を竦ませて後ずさりする。

 近づいてくる冴さんの足音が死刑宣告に聞こえたのは気のせいではない。満身創痍の僕等では、とても冴さんを止められないだろう。僕等の前で立ち止まった冴さんは、仁王立ちのまま口を開く。

 

 

「貴方たちは旧知の仲だった。じゃれ合っていたときの話から類推するなら、“足立刑事が巌戸台で、霧海凛の事件に遭遇した”前後からの付き合い。そして、ペルソナと呼ばれる人知を超えた力の行使者として覚醒した者達。貴方達の力は、【八十稲羽連続殺人事件】、及び、昨今を騒がせる【精神暴走】や【廃人化】と関りがある。――どうなの!?」

 

 

 手で机をバンする代わりに、足で地面をドンする冴さん。彼女の剣幕だけが普段と何も変わらなかった。

 

 冴さんの勢いに釣られる形で、僕と足立は正座していた。奴に抗議しようと視線を向ければ、奴も僕へ抗議するかのように視線を向ける。睨み合いを繰り返せば、キレ散らかした冴さんから「仲良し」と呼ばれるという嫌な悪循環が出来上がっていた。そんな中でも、冴さんは持ち前の推理力と頭脳を駆使し、僕等の事情を推理し、噛み砕いていく。

 僕等の役目は、冴さんの推理や冴さん自身が噛み砕いた理解の内容の正否を指摘するだけに成り果てた。いや、冴さんの推理や理解が僕等の望む以上にどんぴしゃりだったので、基本的に「ハイ」だけで終わってしまう。……まさか、足立はこのために冴さんを【マヨナカテレビ】に放り込んだと言うのか。僕が視線を向けると、足立は目を泳がせた後視線を逸らした。

 成程。“意図した通りになったが、ここまでガチギレされるとは思わなかった”らしい。普通に話すだけだったら、冴さんはここまでキレ散らかすことはなかっただろう。多分、僕と足立が冴さんをそっちのけにして戦いを繰り広げた腹いせも兼ねているのだ。彼女は自分が蚊帳の外にされるのは嫌いだったから。

 

 僕と足立がアイコンタクトをしていることに気づいた冴さんは、苛立たし気にため息をつく。

 未だに、冴さんは“明智吾郎と足立透が仲良しである”と誤解したままだ。

 

 

「アイコンタクトで通じ合うくらい仲良しなのは分かったから、後にしなさい」

 

「「僕達仲良しじゃないです」」

 

「そういうところよ!!」

 

 

 ――結局、冴さんの誤解は晴れないまま、冴さんの推論劇場は幕を閉じた。

 

 冴さんは、“明智吾郎と足立透が旧知の仲で、世代は違えどペルソナ使いであること”、“【八十稲羽連続殺人事件】や【廃人化】・【精神暴走】事件に異世界とペルソナ能力が関わっていること”を理解した様子だった。それ故に、彼女は頭を抱えてため息をつく。

 当たり前だ。こんなこと、表沙汰にできるような内容ではない。一般人に話せば、容赦なく精神科や心療内科を受診するようアドバイスされる。下手すれば檻付きの病院にブチ込まれるだろう。黒幕関係者の耳に入れば最後、“精神異常をきたして自殺した”という形で消されること間違いなしだ。

 

 

「僕もペルソナ使いではありますけど、僕が直面した【八十稲羽連続殺人事件】は既に解決済み。言うなれば、既に舞台を降りた身なんですよ」

 

「……成程。【廃人化】や【精神暴走事件】に対応し、対抗する術を持っているペルソナ使い――その1人が、明智くんなのね。だから貴方は、取引に明智くんを巻き込むように指示した。どうなの?」

 

「大正解です。流石はエリート街道を突き進む女検事!」

 

 

 ニコニコ笑顔で拍手する足立の姿に、冴さんは表情を険しくした。言葉と態度で無意識に(???)相手を煽る男だ。まともに相手をするとメンタルがゴリゴリ減っていく。

 2人の話を聞く限り、足立と冴さんは利害関係――冴さんは出世のため、足立は自分が置かれた状況を好転させるため――の一致によって取引関係を結んだようだ。

 冴さんの事情は予てから知っていたが、足立の事情を僕はよく知らない。栄転話に大きな裏があることと、足立はやむなく獅童側の人間に立っていることくらいだ。

 

 足立と冴さんのやり取りから類推するに、足立はまだ冴さんに黒幕の名前――獅童正義――を伝えていないらしい。同時に、僕にもその名前を出してほしくなさそうだった。

 奴からのアイコンタクトに応えて沈黙すれば、また冴さんの眉間に皴が寄る。案の定、僕と足立の誤解――仲良し疑惑――は解けなかった。不名誉である。

 

 

「そう言うわけで、このガキんちょは【廃人化】や【精神暴走】事件を解決するための鍵になるワケです。鉄砲玉として使えるはずですよ? ……その代わり、コイツが動き易くなるよう、僕達が融通を利かせてやる必要もありますけど」

 

「時には私が矢面に立つ必要もあるということね。……いいわ。出来る限りの便宜は図ってあげる。明智くんもそれでいいかしら?」

 

「僕としても異論はありません。願ったり叶ったりです」

 

 

 取引内容を確認し合った僕と冴さんは改めて握手を交わす。まさか冴さんにペルソナと異世界についての情報を開示する羽目になるとは思わなかったし、受け入れてもらえるとも思わなかった。

 

 正直な話、冴さんは“超常現象を用いた犯罪を受け止められない”タイプだと予想していた。例え認めたとしても、僕達――ペルソナ使いのことを人類の脅威判定し、敵に回る危険性もある。冴さんは“味方でいてくれる間は非常に心強いが、一度敵に回してしまったら非常に厄介なことになる”人物だった。

 ペルソナ使いやその支援者の中に法律関係者は存在している。しかし、手を貸してくれる人間は多ければ多い程いい。獅童正義に対抗するための力は幾らあっても足りないのだ。強大な権力に太刀打ちするためにも、検事である冴さんの力は必須である。利害関係の一致という形は今までと変わらないが、今まで以上に密な連携を取ることができるだろう。

 

 「いい取引関係を結べた」と喜ぶ冴さんに異世界からの帰り方を教えれば、彼女は意気揚々と【マヨナカテレビ】から現実世界へ戻っていった。

 足立も満身創痍の身体を引きずり、現実へと戻ろうとする。僕は体を起こした後、足立を呼び止めた。

 

 

「待ってくれ。アンタに聞きたいことがある」

 

「何? 僕もう帰りたいんだけど」

 

「【廃人化】と【精神暴走】を引き起こしている連中とつるんでる理由だ」

 

 

 足立はぴたりと足を止めた。僅かに振り返るような動作を見せるが、奴は僕に背を向けたままだ。コイツが嘘つきであることはよく知っている。

 でも、奴が出した【命のこたえ】は――“嘘を貫いた果てに、真実を得る”。『嘘から出た真』という諺を現実にする力とも言えよう。

 

 

「凛さんがアンタを心配してた。何も言わなかったけど、『アンタが嘘をついてる』って気づいてる」

 

「…………」

 

「アンタが真実にしたい嘘って、何だ? 【廃人化】や【精神暴走】を引き起こしてる連中の傍にいなきゃ、その嘘は現実にならないのか?」

 

「…………ガキには関係ない話だよ」

 

 

 足立がちらりとこちらを見返す。どこまでも気だるげな声色で――けれど、瞳の奥底に燃える感情は激しさを増して。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()

 

 

 ――嘘だ、と思った。

 

 なにも大丈夫じゃないと叫びたいくせに、奴はそれを飲み込んだ。こいつが現実にしたい嘘は()()()()()()()()()()()()()()と、僕は気付く。

 だって僕も、黎へ同じ嘘をついている。獅童正義と僕の関係、獅童正義と黎の関係――その2つが揃っている限り、僕等も“大丈夫”ではいられない。

 真実を知っても、黎は僕から離れて行かないだろうか。“彼女を傷つけ、玩具にしようとした男”の血を引く僕を、これからも傍に置いてくれるだろうか。

 

 足立は今度こそ踵を返し、【マヨナカテレビ】から脱出する。僕は暫し奴の背中を見ていたが、軋む体を引きずるようにして異世界から脱出した。

 

 

(……冴さんのシャドウ、出てこなかったな……)

 

 

 足立が本当にしたい嘘も気になるが、【マヨナカテレビ】の特徴――テレビに迷い込んだ人間の負の面を司るシャドウが姿を現さなかった――ことが気にかかる。

 【マヨナカテレビ】に迷い込んだ人間全員が己のシャドウと対峙するという訳ではない。実際、僕と黎が【マヨナカテレビ】を駆け回っても、自分のシャドウと対面することはなかった。

 例外のケースもそれなりにあるわけだから、“冴さんが例外だった”可能性も否定できない。……でも、どうしてか、“冴さんのシャドウが出てこない”という事実が引っ掛かるのだ。

 

 ――なんだろう。上手く言えないが、嫌な予感がする。

 

 

「今日はもう遅いですし、どこかで食べていきましょうよ。寿司とかいいですよね! 新島検事のおごりで!」

 

「調子に乗るのもいい加減にして頂戴。年功序列で考えれば、おごりは貴方の担当でしょう? 足立刑事」

 

「……スミマセン。懐寒インデ勘弁シテクダサイ」

 

 

 冴さんに集ろうとした足立が秒で撃沈する光景を鼻で笑いつつ、僕は2人の背中を追いかけた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そうして訪れた6月5日――班目一流斎の個展が終了する日であり、舞耶さん・ゆきのさん・順平さんや僕達が班目に訴訟される予定日。

 

 祐介の話によると、班目は突然マスコミに『記者会見の場を設ける』と宣言し、祐介に『今まで申し訳なかった』、『芸術家としてけじめをつけてくる』と言い残して家を出たのだという。

 “大規模な記者会見が行われるとなれば、渋谷のテレビジョンに映し出されるはずだ”という推論を立てた僕達は、それを目当てに、渋谷の歩道橋に集合していた。

 テレビジョンを見守りつつ、待ち合わせ相手を待ち続ける高校生を演じてどれだけの時間が経過しただろう。――ようやく、班目一流斎の会見映像が映し出された。

 

 

『私は、画家としてあるまじき罪を犯しました――』

 

 

 会見が始まった直後から、班目は薄らと涙を浮かべていた。奴は震える声で、自分が盗作をしていたことを白状する。日本の美術界、及び処女作――否、祐介の母親の作品である『サユリ』への謝罪を述べようとしたが、それはきちんとした言葉になる前に、奴の嗚咽によって飲み込まれてしまう。

 穴という穴から液体を垂れ流し、吠えるような慟哭を上げる班目の姿は、【パレス】で見た不遜な成りからは程遠い。権力を用いて祐介の未来を潰そうとしていた金ぴかのバカ殿は、祐介からの言葉を受け止め、自分の言葉/世間への謝罪という形で有終の美を飾ったようだった。

 

 班目は協会へ盗作の事実を申告するとともに、警察からの出頭要請に応じたという。美術界の重鎮が盗作という重大ニュースに、人々はざわめいているようだった。

 他にも、ニュースキャスターは“班目が弟子を虐待していたこと”、“弟子に無断で、描いた/描かせた作品を自分のものだと偽って発表したこと”を付け加える。

 これで班目は日本美術界の権威という地位を失った。もう二度と美術界に戻ってこないかもしれないし、戻ってこれたとしても以前のような栄華を得ることもない。

 

 

『これで少しは、兄弟子達も報われるだろうか……』

 

『中野原さんも溜飲が下がったかな』

 

 

 班目の会見――その行く末を見届けて、祐介と黎は満足気に息を吐いた。【改心】は無事に成功したのだ。

 

 班目は警察署で調書を取る予定だったが、高齢であることが考慮され、警察病院で事情聴取を受けたらしい。精神鑑定の結果、班目には異常はなく、責任能力も有していたため、そのまま立件されそうだ。

 “【怪盗団】を名乗る謎の存在が不審な声明文を張り付けた”情報も公開される。【メメントス】攻略のために名声が必要だと言えど、獅童の得意な戦術――上げて落とす――という点が不安要素だった。

 

 

『なあ吾郎。大丈夫なのか? 『【廃人化】や【精神暴走】を追いかけてる刑事と検事に協力者がいる』って言ってたけど……』

 

『彼等も僕等のことを追いかけるだろうね。でも、協力者は僕や僕の仲間が“【廃人化】や【精神暴走】事件を食い止める鍵になる”ことを知ってる。『出来る限りの便宜は図る』って言ってた』

 

『でも、向こうにも立場があるんでしょ? アタシ等はアタシ等で、気を付けて過ごした方がいいんじゃない?』

 

『アン殿の言う通りだな。丸々協力者頼みにするのは危険だろう。ワガハイ達も警戒を怠らない方が良さそうだ』

 

 

 “警察関係者が【怪盗団】を追いかけ始めた”――その情報に、仲間達は不穏な気配を察知したようだ。

 幾ら警察官や検事が便宜を図って誤魔化してくれると言っても限界がある――なんて話をしていたためだろうか。

 

 

『『――あ』』

 

 

 虚無みたいな顔をしてうろついていた警察官――足立透とばったり遭遇した。奴は僕の顔を見るなり嫌そうな顔をしたが、すぐに昼行燈の仮面を被って声をかけてきた。警察手帳を差し出してきた足立に、竜司・杏・祐介・モルガナが身構える。足立は気にするそぶりを見せず、僕と黎に対し、べらべらとお喋りを始めた。

 

 足立は『渋谷の連絡通路にサボりに来た。丁度そこで旧知の仲である僕や黎と遭遇したので、警察関係者に何かを聞かれた際の口裏合わせを頼むために声をかけた』というお題目を披露した。あまりのクズっぷりに、竜司達は呆気にとられることしかできない。ドン引きしたくなる気持ちはよく分かった。

 しかし、僕は足立が協力者であることを知っている。コイツが酷い嘘をついていることも知っている。サボりを名目に、何かを伝えに来たことはすぐに分かった。だから、敢えて僕は足立が零す愚痴を聞いてやる。――それを確認した足立は静かに目を細め、お喋りを続けた。

 

 『“渋谷の連絡通路にたむろしている高校生集団を見つけたら、片っ端から事情聴取をするように”という通達が出た』、『そろそろ警察官や補導員が見回りに来る』――この場を離れろということか。

 足立から齎された情報に、竜司と杏は顔を見合わせた。“足立の愚痴が本当だった場合、連絡通路でお喋りをしていたら目を付けられてしまう。急いで移動した方が良さそうだ”と、僕等へ目で合図する。

 大至急この場から避難することにして、【怪盗団】は渋谷の連絡通路を後にした。直後、何かを察知した足立が、わざとらしくゆったりとした調子でどこかへ向かう。そこにいたのは――

 

 

『警察官と補導員……!』

 

『アダチの愚痴通りだな。一歩遅かったら絡まれてたかも知れん』

 

 

 警察官と補導員の前に立ちふさがるような形になった足立の背中を気にしつつ、僕等は電車に飛び乗る。

 奴は背中を向いたまま、ひらひらと手を振っていた。僕等への激励のつもりか、それとも警察官への挨拶かは分からない。

 祐介の電車賃で多少揉めはしたが、僕達はどうにか渋谷から離れた駅――一応の安全圏へと避難することができた。

 

 

『祐介はこれからどうするの? 班目邸に残る?』

 

『あの家を出るよ。あんな場所では、もう絵は描けない』

 

 

 黎の問いに、祐介は静かな面持ちで応えた。彼の瞳はどこか遠く――良くも悪くも、班目邸で過ごした日々――を見つめている。

 祐介は幼少期からあのあばら家で過ごしてきたが、此度の顛末により、班目邸での日々は“善くないもの”としてこびりついてしまったのだろう。母を失った直後の僕のように。

 

 しかし、祐介には親戚縁者がいない。僕とは違う意味で身寄りがなかった。あの家を出れば行く当てが無くなってしまう――そんな僕達の心配は杞憂だった。

 奴は洸星高校の美術科コースに通う特待生で、その権限を使えば学生寮に入ることは容易だという。しかも無償で。

 芸術家の卵としての才能だけでなく、勉学も優秀とは恐れ入った。……尚、一般常識に関してはノーコメントである。

 

 今回の一件で、渋谷の連絡通路に集合することは出来なくなった。見回りを強化されてしまえば、警察官とも遭遇する可能性が上がる。遭遇回数が増えれば、目を付けられるのも時間の問題であろう。

 “次のターゲットを探しつつ、大人しく学園生活を送る”――全会一致で今後の方針を定めた【怪盗団】は、本日はお開きということで解散。それぞれ家路につき、学生生活へと戻った。

 次の問題は、僕が智明と一緒に出演するテレビ番組のことだ。警察関係者を差し向けてきたあたり、獅童――或いはその関係者も、【怪盗団】という存在を邪魔者認定したのか。

 

 智明曰く、『今回の社会見学は【怪盗団】への牽制および威嚇行為も兼ねている』という。仲間達には既に根回しが済んでいたので、今度は協力者に根回しする段階に入った。僕は三島のSNSにメッセージを送る。

 

 

吾郎:三島くん。秀尽学園高校の社会見学、テレビ局だったよね?

 

三島:そうですけど、何かあったんですか?

 

吾郎:俺、そのテレビのゲストに呼ばれてるんだ。【怪盗団】に関する話題に対して、コメントを求められてる。

 

三島:本当ですか!? やった、これで【怪盗団】が有名になるぞ!

 

吾郎:そんな三島くんに朗報だ。【怪盗団】は今、超弩級の巨悪を【改心】させるための計画を練っている。奴は手強いから、他の連中を【改心】させていく傍ら調査を行う長期的計画だ。その一環として、俺は密偵として巨悪の下に潜り込んでいる。表向きは奴らのシンパ、裏では【怪盗団】の一員としてだ。

 

三島:それってスパイ活動!?

 

吾郎:三島くん、そういう話は好きかい? 浪漫があるだろ。

 

三島:そりゃあ格好いいなとは思いますよ! でも吾郎先輩、それ流石に危険じゃありませんか!? バレたら確実に葬り去られそうですよ!? ってか、表向きが巨悪のシンパって、もしかしてテレビ出演ってのは……。

 

吾郎:ああ、奴らから直々の依頼だ。『コネと権力でお前を名探偵にしてやるから、その代わり【怪盗団】を批判しろ』ってな。せいぜい『何も知らない、調子に乗った高校生探偵』を演じてやるさ。そういう訳だから三島くん、キミには全力で俺をアンチしてほしい。【怪盗団】関係者と探偵がいがみ合っていれば、向うは不審に思わないだろう。頼めるか?

 

三島:巨悪を【改心】させるため……正義のために、【怪盗団】の仲間を傷つける……。黎の一番大切な人を……。

 

吾郎:ぬか喜びさせたくなくて黎にはまだ言っていないけど、件の巨悪は黎の冤罪事件と関わりがあるんだ。正義を貫くためってのもあるけど、何より俺は、彼女の冤罪を晴らしたい。

 

三島:“惚れた女のため”ってヤツですね。……分かりました。俺だって男です、協力しますよ!!

 

吾郎:ありがとう、三島くん。

 

 

 【怪盗団】関係者――三島への根回しも万全にして、僕は6月10日を迎えた。9日に黎たちとスタジオで顔を合わせることになるとは思わなかったが、言葉を交わした時間は数分にも満たない。智明がこの現場を――僕達が【怪盗団】であることを見ていないというのは幸いだった。

 収録の打ち合わせと言っても、獅童の関係者から『論理的に【怪盗団】を批判せよ』という指示が出るだけである。それさえ貫けばどんな発言をしてもいいらしい。僕は鉄壁の微笑を浮かべながら頷いた。智明は最初からそのつもりのようだから、涼しい笑みを浮かべて頷くのみだ。

 

 さて、収録スタート。獅童達から依頼された通り、僕は【怪盗団】を痛烈に批判する。事前の根回しが利いたのか、オーディエンスの中にいる【怪盗団】関係者の表情には変化がない。むしろ、ちらっとでも視線を向けると、みんな揃って『頑張れ』と言わんばかりに力強く笑い返してくれる。それが、僕にとってとても嬉しかった。

 

 収録はとんとん拍子で進み、インタビュアーが秀尽学園高校の生徒へと歩み寄った。何の因果か、回答者として指名されたのは有栖川黎/【怪盗団】のリーダーだ。

 インタビュアーの問いに対し、黎は『【怪盗団】は悪人しか狙わない』と返す。自信満々に言い切った彼女の双瞼はいつ見ても綺麗で、僕はひっそり目を細めた。

 

 

『実は、【怪盗団】を調べるつもりでいるんですよ。警察とも足並みをそろえて――』

 

 

 にこやかに内部情報を口走る智明だが、それはある種の牽制だ。

 

 奴らは既に“【怪盗団】の関係者が秀尽学園高校の生徒である”と察して、今回の社会見学を手回しした。案の定、【怪盗団】関係者たちの表情が一瞬曇る。

 【怪盗団】を批判するなら、発言内容は問われない――その約束を逆手にとって、僕はささやかな抵抗/援護を1つ。理論ではなく、感情論側からの否定だが。

 

 

『僕には大切な人がいます。僕が母を亡くして今の保護者に引き取られた際、新しい環境に馴染めずに途方に暮れていた時期があったのですが、その人に励まされたおかげで立ち直ることができました』

 

『その人は今、みなさんの通う秀尽学園高校にいます。残念ながらこの場には来ていないのですが……』

 

 

 真実と嘘を巧みに混ぜ込みながら、僕は言葉を紡ぐ。黎が目を丸くした。

 

 

『僕の恩人とも言えるその人は、鴨志田氏から振るわれる暴力に悩んでいました。何度も相談を受けていたのですが、部外者の僕ではどうすることもできなかった』

 

『別件で依頼を受けなければ、秀尽学園高校に足を踏み入れることすらできなかったでしょう』

 

『……そんなときです。【怪盗団】が彼に予告状を出し、直後、鴨志田氏が罪を認めて警察に自首したのは』

 

 

 あくまでも、“自分の無力さに打ちひしがれる名探偵”の仮面を被りながら、言葉を続ける。

 

 

『人の心を無理矢理変えてしまう彼らのやり方に正義はありません。でも、僕の恩人を救ったのは、僕の正義ではなく、【怪盗団】の正義でした』

 

『……悔しいことに、僕が掲げた正義は余りにも無力だった。けど、僕の貫くべき正義は変わりません』

 

『犯罪を犯した者は法で裁かれるべきだ。今回の件を重く受け止めて、僕はこれからも探偵業を続けていく所存です』

 

 

 それが、僕なりの“【怪盗団】へのフォロー”だった。探偵とは相容れぬ正義であると主張しつつ、“名探偵・明智吾郎が、【怪盗団】を自らのライバルとみなしている”とも聞こえるだろう。獅童から指示された通りのスタンスを貫きつつ、関係者に分かるようメッセージを送る。

 僕の発言を聞いた女子生徒たちが『明智くんが【怪盗団】にライバル宣言した』と色めき立ったあたり、僕の意図通りになったようだ。MCも『【怪盗団】に対するライバル宣言?』と目を輝かせながら食いついてきたので、僕は真顔で頷き返す。途端に会場内がざわめいた。

 智明は少し意外そうな顔をして僕を見た。僕は熱を込めた眼差しを送ってみせる。“論理的にも感情的にも正義を貫く名探偵”の仮面はきちんと機能したようで、智明は納得したように頷いた。それ以外は特に問題もなく、番組収録は終わりを迎えた。

 

 予め『他人のフリをしろ』と根回ししておいたので、竜司も杏も黎も僕に話しかけることなく帰路に就こうとしている。

 竜司が一端この場を外し、次は杏が部屋を出た。黎はちらりと僕に視線を向ける。僕もアイコンタクトで返し、他人のフリを装った。

 

 

『それじゃあ、【怪盗団】を追いつめるための算段を立てようか』

 

 

 その後は智明と共に作戦会議に興じた。“【怪盗団】を追いかける正義の名探偵”――明智吾郎の売り出し文句はこのスタンスで進むらしい。やはり、【怪盗団】にライバル宣言をしたことが利いたのだろう。おかげで俺は【怪盗団】キラーの神輿として担がれることとなった。

 

 そうして現在――6月11日。僕達は班目【改心】による戦勝会と祐介の歓迎会を行っていた。会場はルブランの屋根裏部屋である。

 佐倉さんは竜司、杏、祐介を連れ立って来た僕と黎を見ると、どこか嬉しそうに微笑みながら迎え入れてくれた。

 鍋の具材を奪いあったり、締めをご飯かうどんにするかで軽く揉めた黎と祐介を宥めたり、互いの身の上話をしたりして、楽しい時間が流れていく。

 

 

「ところで祐介。お前、学校の寮から出てきたんだろ? 行くアテはあんのか?」

 

「ない。先程杏に断られてしまってな」

 

「どうしてそんなに自慢げなの」

 

 

 竜司の問いに対して、祐介は悪びれる様子もなければ何も考えていないと言わんばかりのドヤ顔で答えた。

 流石、“ファミレスに所持金なしで来店し、その上で注文までした”図々しい男である。芸術以外に無頓着だった悪影響が顕著に出ていた。

 

 特待生の権限を行使して学生寮に移ったはずの祐介だったが、寮の生活方針――特に、学生寮で生活する他の生徒達との共同生活に慣れることができなかったようだ。共同生活における問題点は、“生活を円滑に進めるというお題目のもと、誰もが一定の配慮と妥協をしなければならない”という点である。祐介は長らく班目邸で暮らしており、芸術家たちと共同生活を送っていた。

 同じ共同生活と言えど芸術を志す者同士、“作品作りの邪魔をしない”という絶対的なルールを守りながら生活してきた。最後の方は実質祐介の1人暮らしである。しかし、祐介の話を聞く限り、学生寮は様々な学科の生徒が集う坩堝なのだろう。全員が全員、美術科コース特待生である祐介に気を使える人間達ではなかった。それは、祐介側も同じだったらしい。

 結果、寮生活の煩わしさに耐えかねた祐介は学生寮を飛び出した。学生寮から出るということは、今度こそ、本当に行く当てがないことを意味している。奴は何を思ったのか、『杏の家に転がり込めないか』と交渉して失敗していたようだ。芸術家の思考回路がぶっ飛んでいるという話は聞いたことはあるが、祐介にもそのケはあるようだ。

 

 僕はため息をついて炭酸飲料を飲み干した。生活能力を生贄にして芸術家としての才能をガン積みした人間――【怪盗団】を結成しなければ、こうして近くで見ることができなかったかもしれない。

 

 

「普通に考えれば分かることだろ。いくら両親が年に半年しか自宅にいないとはいえど、自分の家に他人を――異性を住まわせるなんて」

 

「あと、佐倉さんにも『屋根裏部屋に置いてもらえないか』と頼んだんだが――」

 

 

 祐介がそう言い終える前に、俺は反射的に動いていた。奴の顔面を鷲掴みにしてそのままフリーズする。衝動に任せていたら、俺は奴の顔面をどこかに叩き付けていただろう。俺の理性は仕事を果たした。奴は若干声を引きつらせながら「残念ながら断られてしまった」と言葉を締めくくる。

 佐倉さんが常識人で良かった。もし佐倉さんが祐介の提案にOKを出していたら、空元の3羽烏でOHANASHIしなくてはならないと思っていたところだ。奴を黎を2人きりにするのは正直よろしくない。「屋根裏部屋がアトリエに似ているから親近感があって」云々と呟く祐介の顔から手を離した。

 嫌な予感を察知した竜司はブンブン首を振る。自分の家は母子家庭だから無理――完全に、モルガナの面倒を見るのを断ったときの言い訳と一致していた。竜司が、杏が、助けを求めるようにして僕を見つめてくる。祐介は相変らず「ここに滞在したかった」等とほざいていた。

 

 僕はちらりと黎に視線を向ける。黎は「行く場所がないなら屋根裏部屋に泊まりなよ。佐倉さんは何とか説得するから」と言わんばかりの眼差しを祐介へ向けていた。

 

 佐倉さんが断ってなければ、黎は躊躇いなく祐介を屋根裏部屋に滞在させていただろう。こんな奴に慈母神ばりの優しさと漢らしい度胸を発揮する必要は皆無だ。

 多分、俺が「ルブランに泊まりたい」と言っても、いい笑顔で了承してくれそうな気配が漂う。……もうちょっと恥じらってくれないだろうか、お願いだから。

 

 

「……しょうがない。祐介、今晩はウチに来なよ」

 

 

 観念した俺は肩をすくめ、至さんへのSNSを開いた。“寮を飛び出してきた友人(男)を泊めたいが、奴は金欠だし頼れる人間もいない。俺が何とかしないとルブランに泊まることになってしまう。黎とそいつを2人にしたくない”とメッセージを送る。間髪入れず保護者から了承の返事が返って来た。それを見せれば、祐介がパアアと表情を輝かせる。

 

 

「本当か!? 感謝するぞ吾郎! 明日の朝食は焼き魚と味噌汁があれば充分だからな!」

 

「お前って本当に図々しいな!!」

 

 

 

***

 

 

 

「吾郎は毎日、こんなに美味い朝食を食べているのか……!」

 

 

 祐介は目をキラキラさせながら、空元家の食卓を見つめていた。一粒一粒がつやつやした輝きを帯びた白ご飯、オクラとワカメを主体に使った味噌汁、塩味が効いた焼き鮭、ほんのり焼き目のついた出し巻き卵、キュウリとミョウガにおかかを振りかけたさっぱり系の和え物、自家製梅酢で作ったジュレ。

 本日の朝食は和食となっている。前日に「和食が食べたい」と主張した祐介のリクエストに至さんが答えたのだ。しかも、彼の凝り性は焼き魚と味噌汁では止まらなかったらしい。至さんは褒められて嬉しかったのだろう。でれでれした笑みを浮かべていた。

 

 そんな保護者を横目にして、僕は手早く朝食を食べ進めた。

 

 今日は全国統括公開模試が行われる日だ。東京中の高校3年生が集う大規模なもので、センター試験および大学入試問題に対応している。将来のために大学進学を視野に入れている僕にとっては、この模試を疎かにすることはできない。

 【怪盗団】や探偵および密偵として活動しつつ、奨学金制度を利用するための成績を保つというのはハードスケジュールなのだ。勿論、すべてを完璧にこなさなければ密偵なんて務まらない。外面良く振る舞うのは僕の得意分野である。閑話休題。

 今日の朝食も美味しい。自分の分を食べ終えた俺は、最後の締めに緑茶を啜った。「ごちそうさま。今日も美味しかった」と挨拶すれば、至さんはいい笑顔で「おう、お粗末さま」と返した。それに対して、祐介は図太くお代わりを要求する。

 

 

「祐介くんはよく食べるなあ。いっぱい食べる子は好きだぞー」

 

「俺ここに下宿したいです」

 

「ダメに決まってるだろ。それ食ったら寮へ帰れ、絶対帰れ」

 

 

 模試の試験場へ向かう準備――主に身支度や持ち込む参考書の確認――の傍ら、空元家に張り付く気満々の祐介をひっぺがす。

 

 奴の胃袋は掃除機並で、またお代わりを要求していた。人の家の飯だからか、タダで食べれる飯だからか、祐介には遠慮の素振りがない。言い方は悪いが、まるでヒモみたいだ。

 「金がないなら自力で金策に走れ」と言いたいものの、祐介の人柄を分析する限り、絵を描く以外の仕事は絶対に向いてない。給料を貰うより先にクビになりそうだった。

 

 

「祐介くんを見てると、学生時代の友人たちを思い出すなあ」

 

「……まあ、聖エルミン学園高校関係者も大分個性的だったけどさぁ」

 

 

 掃除機みたいな勢いで朝食を食べ続ける祐介を見守る至さんの眼差しは何処までも優しい。学生時代を思い出すような眼差しに、僕は苦い表情を浮かべることしか出来ない。

 祐介を嗜めている間に出発の時間になったので、僕は改めて祐介へ『食べ終わったら学生寮へ戻れ』と言い聞かせて家を出た。奴はいい笑顔で白米をお代わりしていた。

 これで今日家に戻ってきてもコイツがいたら大問題である。家に帰って来る頃には荷物を纏めて寮へ戻っていてくれと願いつつ、僕は模試の会場へと急いだ。

 

 電車やバスを乗り継いで、俺は全国統括模試の試験会場に辿り着く。会場では、様々な学校の生徒たちが参考書と睨めっこを繰り広げていた。淡々とした表情の者、知り合いと談笑している者、頭を抱えて唸る者など様々である。

 

 

(智明は、会場には来てないようだな……)

 

 

 高校3年生が一同に会する模試会場でたった1人を探すのは、砂漠で砂金を探すようなものであろう。そんなことを考えていたとき、スマホに連絡が入った。鳴っていたのは、獅童智明から渡されたスマホである。奴らは僕個人のスマホに足が残るのを嫌い、獅童側の連中と連絡を取る用のスマホを手渡してきた。

 獅童のことだ。変なアプリが仕込まれている危険性から風花さんに確認してもらったところ、『“現時点では”変なアプリは入ってない。密偵にとって脅威になりそうなのは位置確認アプリくらいか』とのことだ。僕は風花さんの言葉を思い返しつつスマホを確認する。

 

 

「『仕事があるから模試は受けられない』か。……流石、学生議員秘書見習い」

 

 

 僕は皮肉たっぷりに呟いた。同時に、“こんなところで暢気に模試を受けていてよいのか”という疑問と焦燥が浮かんでは消える。

 智明の言う『仕事』が()()()()()()()()()()ことは明らかだ。奴が【廃人化】を使って殺人を行っていることを僕は知っていた。

 僕が学生生活を送る今この瞬間にも、奴は【廃人化】を行い人を殺しているのだろう。だが、奴が僕にする話は“【怪盗団】を潰すための世論操作”だけである。

 

 ……それもそうか。相手は僕がペルソナ使いでパレスに侵入できるとは気づいていない。把握しているのは“パレスに【怪盗団】が侵入している”ことと、最悪の場合として“そいつらがどんな身なりの連中なのか”程度であろう。

 

 

(奴の深いところに潜り込むためには、“僕がペルソナ使いであることを示さなきゃならない”か……?)

 

 

 しかし、それはリスクが大きすぎる。【怪盗団】の衣装は変更不可能だ。クロウの王子様風衣装を智明に晒した場合、僕が【怪盗団】の一員だと気づきかねない。

 それが原因で【怪盗団】に矛先が向いてしまえば本末転倒。それを逆手に取る作戦がないわけではないが、リスクがあまりにも大きすぎる。

 

 ――……何より、俺自身がその重石に耐えられるかどうか。

 

 僕がそんなことを思案していたときだった。ふと顔を上げた先に、見知った顔を見つける。秀尽学園高校の生徒会長であり、冴さんの妹――新島真さんだ。

 新島さんは浮かない顔をしていた。具体的に言うなら、断崖絶壁の先端から眼下の景色を見つめているような様子だ。放っておけば飛び降りてしまいそうな気配が漂う。

 『昔の吾郎も、そんな感じの表情を浮かべていた』――黎がそんな話をしていたことを思い出した僕は、迂闊だとは自覚しながらも、新島さんを放っておくことができなかった。

 

 

「新島さん、どうかしたのかい?」

 

「あら、明智くん。こんな場所で会うなんて奇遇ね。そっちこそ、どうかしたの?」

 

「何やら思いつめた様子だったから心配になってね。黎が『昔のお前にそっくりだ』って例えた顔だなって思ったら、放っておけなくて」

 

 

 きっと、黎ならそんな顔をした相手を放っておかないはずだ。僕を救い上げてくれた大切な人の姿を思い浮かべる。……なんだか1人で照れくさくなってきた。

 

 新島さんの表情が、別方面で厳しい顔つきとなった。黎の話をする僕を見る冴さんと瓜二つの顔だった。

 つい「姉妹揃って反応が同じだ」と零せば、ほんの僅かだが、新島さんの表情が和らいだ。流石シスコンである。

 

 

「いいのかしら? 未来の伴侶がいる身で女性に声をかけるだなんて」

 

「キミを放置したままの方が黎に叱られる。『吾郎は自分と同じ苦しみを味わう人を見殺しにしたのか』って」

 

「見殺しって……私、死にはしないわよ?」

 

「死にそうな顔をしてただろ。そんなに思い悩むくらいなら、どこかで吐き出したらいいんじゃないか? 僕でよければ、聞き役くらいにはなれると思うけど」

 

 

 まさか僕からそんなことを言われるとは思わなかったのか、新島さんは目を丸くした。丁度そのタイミングで、僕のスマホのアラームが鳴り響く。そろそろ模試の開始時間だ。とりあえず僕は新島さんに「また後で」と一方的に約束し、模試を受けることにした。

 

 

 





 “【マヨナカテレビ】に新島冴のシャドウが現れなかった”――足立透は、その理由に見当がついている。
 いずれ、明智吾郎や有栖川黎を筆頭とした5世代目のペルソナ使いたちも、その理由に気づくだろう。


「……やれやれ。面倒だなあ」


 ――必要経費と言えど、ガキどもや張本人になんて言い訳しようか。

 その日が来たら、きっと、関係者たちは全員ガチ切れするのであろう。
 考えるだけで頭が痛くなってきた。……厄年は過ぎたはずなのに。


―――

班目パレス編、これにて完結。同時に、金城パレス編の前日譚的な前振りとなりました。この世界線では魔改造足立と冴さんによるドタバタ劇が追加された代わりに、航が魔改造明智達と一緒に暮らしていないため祐介の暴走がカットされています。
仲は悪いが思考回路と息はぴったり(???)な魔改造明智&魔改造足立、ブチ切れ冴さんのシーンは書いてて楽しかったです。ブチ切れ冴さんの語呂の良さは異常。ガチ切れ冴さんも語呂がいいので、こっちも使えたらいいなと思っていますが、どうなるかは未定。使われないままかもしれません。

最近は作業用BGMとして<HEAVEN BURNS RED>の劇中歌を聞いています。<HEAVEN BURNS RED>本編は未プレイなのですが、ふとした拍子に聞いた楽曲が拙作にどんぴしゃりだったもので。
その中でもよく聞くのが<Burn My Universe>、<After You Sleep (for the Blue Ver.)>、<White Spell(第2章Ver)>、<星の墓標>、<Light Years>、<Sad Creature>。
大半が魔改造明智・魔改造ジョーカー♀=黎・至や某3人組のイメージですが、<Sad Creature>は魔改造明智⇒黎/魔改造足立⇒凛のイメージだなと思ったり思わなかったり。
イメソン探しはひっそりと行っていますが、『この曲合いそうじゃない?』というヤツがありましたら、メッセージや活動報告に記載して頂けると幸いです。

思うところがあったので、活動報告でちょっとした催し(?)やってます。興味がありましたら是非ご協力ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=279566&uid=25298

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