Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。



蠅系支配人ぶちのめす大作戦

 

「後は、現実の金城に予告状を出すだけなのよね?」

 

「ああ。そのタイミングは黎に一任してる」

 

「ならば、なるべく早い方がいいわ。手早く片づけましょう」

 

 

 【パレス】の探索を終え、後は解散するはずだった僕達を呼び止めたのは真だった。それに返答したのは竜司である。

 

 真は【怪盗団】に所属したばかりであり、【パレス】の【改心】は今回が初めてだ。同時に、地頭の良さ及び頭の回転の速さから、“予告状を出せるのは最短明日以降であり、今の【怪盗団】には予告状を出し渋る要素はない”と判断したのであろう。

 予告状を早めに出すという点には同意できるが、此度の相手は“渋谷を根城にするヤクザ”。金城を独自に内偵している警察・検察関係者の情報を参照すると、『金城はいくつもの店を所有しており、日替わりで渋谷区内を移動している』とのこと。

 【改心】を行うために必須の予告状であるが、“【パレス】の持ち主――本人の目に留まらなければ効力を発揮しない”という重大な問題点があった。此度の【パレス】の特徴や金城本人の動き具合からして、予告状の特性と相性が悪い相手と言えよう。

 

 

「金城に繋げそうな“直接の知り合い”なんていないもんね……」

 

「前回のような手は使えない。今回の支払いに関して、金城は一括払いを要求してる。幾ら【メメントス】で資金稼ぎを行ったとしても、300万円や1500万円を一括で用意するのは不可能だよ」

 

 

 杏が眉間に皴を寄せ、黎は呆れた調子で金城の催促状を眺めていた。定期的に送られてくるメールには、長い長い文言の中に【一括払いのみ受け付ける】とある。秀尽学園高校の生徒相手には分割という手段を使っていたが、黎が御影町の旧家出身であること、真がエリート女検事の妹であることを理由に強気の要求を行っていた。2人の見目麗しさに金の臭いを嗅ぎつけたのであろう。下卑た野郎だ。

 前回――真が金城の居場所を割り出すために使った作戦だ。金城の手先のヤクザを言いくるめ、金城の元に案内して貰う――の手を使うためには、最低でも300万円が必要となる。無一文の状態で『金城に会いたい』と訴えても、手先のヤクザ共は相手にしてくれない。『支払いの用意が出来た』意外の用件では、門前払いを喰らうのは目に見えている。

 

 

「私の方から美鶴さんに相談しましょうか? 事情を話せば協力して貰えると思いますが」

 

「ダメだ。それこそ、美鶴さんを認めない派閥に付け入られる隙になってしまう」

 

 

 アイギスの提案は確かに魅力的だが、老害相手に奮闘する女傑の背中を知っていた僕は首を振った。桐条のお家騒動は表面的に片付いただけで、水面下では現在でもバチバチしている。

 美鶴さんは亡き先代当主の娘だけれど、まだ20代であることや女性であることを理由に文句を付けてくる輩がいた。他にも、美鶴さんと婚姻関係を結ぶことで財閥の乗っ取りを企てる者もいる。

 幼い頃から英才教育を受け、今では財閥トップの座に君臨している美鶴さんだけれど、足場は盤石とは言い難い。奴らは他人の粗探しが大好きな連中だ。僅かな綻びでも難癖をつけて食らいつく。

 

 さて、どうしたものか。僕は顎に手を当てて思案する。

 

 金城の特性は先程も言った通り“渋谷区全体を根城にしており、渋谷区内を移動して回っている”ことだ。今まで【改心】させてきた鴨志田や班目とは違い、移動範囲と行動範囲が非常に広い。

 鴨志田や班目は“行動範囲が限定されていたこと”、“奴等と直接的な関りを持つ人間がいたこと”から、前者は『予告状を本人の目に留めさせる』、後者は『本人に直接届ける』ことができた。

 

 

「金城に予告状を出すために使えそうな情報は“渋谷区内を根城にしている”、“直接会うためには金を持参しなければならない”という点だ。金が用意できないとなれば、僕等が取れる行動は一択のみ」

 

「――“予告状を金城の目に留めさせる”、ね」

 

 

 僕の言葉を引き継いだ真は、自信満々の顔をしている。

 

 ……成程。彼女はもう既に、作戦の立案と決行するために必要な覚悟を固めたらしい。

 流石は【怪盗団】のブレーン。彼女ならば、此度の【パレス】攻略でも活躍してくれることだろう。

 『神』が企てた悪辣なゲーム対策に特化した僕とも分業が成り立つ。餅は餅屋、というワケだ。

 

 

「それをクリアできる作戦があるの。聞いてくれる?」

 

 

 真は凛とした表情で、己が立案した作戦を話し始めた。

 

 

 

***

 

 

 本日、決行日。予告状を渋谷全体にばら撒く――渋谷の街を“人間ATMが住まう庭”と認識している金城にとって、充分効果的なアピールだと言えるだろう。作戦立案は真、予告状のばら撒き役に選ばれたのは竜司である。ばら撒き役である竜司に変装までさせたという気合の入れようだ。

 相手は超弩級の悪党から支援を受ける“本物の大悪党”。対するこちらには参謀役を担う鋼鉄の乙女系の大型新人や、助っ人・モノホンの鋼鉄の乙女を加えた布陣である。期待の世紀末覇者新島真/クイーンは「クズの大人と言いなりだった自分ごと打ち砕く」と闘志を燃やしていたし、アイギスの破壊力は説明不要である。負ける要素など微塵も見当たらない。

 

 

『冴さん。【怪盗団】が金城を本格的に狙っているみたいですよ』

 

『分かったわ。内偵してる面々に伝えておく。……これで検察の面子は保たれるわ。この借りを利用すれば……』

 

 

 ついでに、僕は協力者である冴さんに情報を流しておいた。冴さんは嬉しそうだが、金城を内偵していた関係者の気苦労は計り知れないだろう。

 

 彼等の内情を又聞きする限り、金城を拘束するための決定的な証拠はまだ出揃っていないのだ。特捜課長のように、獅童及び金城と繋がっている警察関係者や政治家が圧をかけてきているためである。

 きちんとした証拠が揃わないまま金城を拘束しようとすれば、獅童の関係者達――特にテレビ関係者――から警察・検察全体が叩かれるだろう。下手をすれば、生贄として切り捨てられかねない。

 金城に圧力をかけるとしても、【怪盗団】が渋谷に予告状をばら撒く前に間に合う可能性は低かろう。良くて【改心】が発生する前か。僕は内偵中の関係者にひっそり十字架を切った。閑話休題。

 

 【パレス】の最奥に侵入した先には、金城のシャドウがヤクザを伴って待ち構えていた。奴の背後には、高速回転し続ける巨大なダイヤル――金庫のモノだろうか――が鎮座している。前回は見かけなかったものだ。

 “短時間で金庫を設置する”――ここは金城の“心の世界”。自分の心を堅牢にする/【パレス】内部を大改造することくらい、簡単に行えるであろう。【パレス】の元が銀行というのも相まって、金庫が出てくるのは当然だった。

 

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、我が都市銀行へ」

 

 

 金城は恭しく頭を下げたが、顔は全然笑っていない。対して、僕等は不敵で不遜な表情のまま奴と対峙した。

 

 弱い立場の者から金を搾り取る“弱肉強食”を掲げる金城潤矢もまた、嘗てその“弱肉強食”によって辛酸を舐めさせられた人間の1人であった。

 その環境から脱出しようと足掻いた奴は出世し、今の地位を手に入れた。そうして奴は、今度は搾り取る側へ回ったのだ。今までの鬱憤を晴らすように。

 「お前らも大人しく金づるになりなさいよ」と語る金城の言葉をフォックスがにべもなく切り捨て、「やり返す相手が間違ってる」とパンサーが怒る。クイーンは呆れていた。

 

 

「卑怯なことしかできない貴方って可哀想な人よね」

 

「勝ち方に綺麗も汚いもない! クレバーな奴が勝つ!」

 

「……その割には、自分でも収拾つかない状態に陥ってないか?」

 

 

 金城の心の声――際限なく『金を稼がなくちゃ』と怯えた声で喚き散らしていた――を思い出し、僕は奴に指摘してみた。

 

 

「あんたは『勝つために金を稼いでいる』んだろ? じゃあ訊くが、『どれだけ金を貯めれば、あんたは安心して『勝った』と言える』んだ?」

 

「確かにそうだね。目的には達成条件というものがある。貴方にはそれが一切ないけど、いつまで金を集めるつもり?」

 

「そ、それは……」

 

 

 ジョーカーの指摘を受けた金城は狼狽する。拝金主義者には、“目的達成の手段として金を貯めている”タイプの人間と“手元の金が増えていくことに喜びを感じる”タイプの人間がいた。答えに窮した様子からして、コイツは“金を稼ぐこと”が最終目標――所謂後者タイプの人間らしい。故に、いくら稼いでも満足することができずにいる。

 僕等は金城の過去を知らない。知っているのは、“金が無かった頃に何かがあり、貧乏な頃に戻ってしまうことを極端に恐れるようになった”という話題。その過去が、“手元の金が増えていくことに喜びを感じる”という部分と複雑に絡み合った結果、際限なく金を稼ぐ手段を求める姿勢に繋がった。その極地が、学生を対象にした強請りとたかり。

 

 一度栄華を味わってしまった人間は、保身のためならば『他人を踏み躙ることすら厭わない』という考えに憑りつかれてしまう。

 特に金城は獅童と繋がりを持つ男。故に、奴は獅童の在り方――役立たずと見なした相手は容赦なく切り捨てる――を目の当たりにしているはずだ。

 己が有能であることを示す手っ取り早い手段は政治献金――言うなれば金を稼ぐ力を見せることだ。金城が焦っている理由とも関わっている。

 

 

「……貴方はお金以外に、安心して信じられるものを持っていないのですね」

 

「機械人形風情が、知ったような口を利くんじゃねえ!」

 

 

 まさかロボであるアイギスから憐れみを向けられるとは思わなかったのだろう。金城は激高した。自身が柱とする弱肉強食のルールを掲げ、「ネットの知識だけで世の中悟ったようなガキは良いカモだ」とほざく。騙される側が全面的に悪いと吼える。

 学習しない奴は一生バカなのだと叫ぶ金城の姿は、程度の低さを露呈させる。……一丁前なのは格好だけで、金城(コイツ)の中身もバカではないか。僕がそう思ったとき、スカルが額を抑えながら呟いた。「呆れを通り越して頭が痛い」と言わんばかりの表情で、だ。

 

 

「それ以外何も言うこと無いのかよ……。こういうのを“馬鹿の一つ覚え”って言うんだよな」

 

「す、凄い……! 今日のスカル、冴えてる……!!」

 

「明日は槍が降って来そうだぜ……」

 

「おいパンサー、モナ、それはどういう意味だ!? ってかクロウ、お前なんで泣きそうな顔してんだよ!?」

 

「いや、僕が勉強見てやった成果の賜物だなって思ったら感慨深い気持ちになっちゃって」

 

 

 5月の定期テスト勉強で、スカルの勉強を見てやった甲斐があった。実際、定期テストでもスカルは赤点を余裕で脱してテスト平均55点オーバーを叩きだしたらしい。他の面々のテスト平均も上がったようだ。勿論、ジョーカーはぶっちぎりの学年一位を達成している。訳アリ生徒による文句なしの大躍進に、クイーンも目を見張っていたそうだ。

 

 パンサーとモナが目から鱗が落ちたような顔をしてスカルを見つめる中、蚊帳の外に追いやられた金城はげんなりとこちらを眺めていた。

 くだらないことで一喜一憂する学生をバカ呼ばわりした金城は、説教を止めると宣言した。正直説教にすらなってないのだが、なけなしの慈悲で黙っておく。

 

 

「クククク……たかるだけ、たからせていただきますよぉーッ!」

 

 

 そう宣言した金城の身体が変形し始める。手を合わせてこすり合わせる動作、背中に生えた昆虫の羽、大きくなった赤い複眼――文字通り、金と権力にたかるハエそのものだ。

 周囲にいたヤクザたちは顔を真っ青にして逃げ出した。あの反応から見て、彼らは何らかの手段で現実世界から金城の【パレス】へやって来ていた者たちなのだろう。

 ……もしかして、この周辺に獅童智明が潜んでいるのだろうか。それを確認する間もなく、異形と化した金城潤矢は楽しそうに笑いながら持論を展開する。

 

 

「若いってのは罪だよなァ。世間知らずで無鉄砲、自分の馬鹿さ加減も分からねぇ! ――そんな奴ら、搾取しなきゃ勿体ないだろう?」

 

「汚い金にたかるハエ……気持ち悪いのよ! ヨハンナ!」

 

「いっそ燃やしてやるわ! おいで、カルメン!」

 

「私も続くよ。――ペルソナ!」

 

 

 勿論、そんな金城の隙を見逃すわけがない。女性陣が即座にペルソナを顕現し、容赦なく核熱や炎属性攻撃を叩きこむ。だが、金城はラップの韻とダンスを踏みながら、器用に攻撃を回避してみせた。

 

 

「――さあ、出撃だぜ……! オレの守護神がなァーッ!!」

 

 

 金城は不気味な笑みを湛えて宣言し、羽を使って飛び立った。奴が手を振れば、金庫の入り口が開かれる。蠅のように不規則な挙動をし、不快な羽音を響かせて、金城は金庫の奥へと飛び込んだ。

 程なくして、狂ったように回転していたダイヤルが止まり、物々しい音と共に真っ二つに割れた――いや、扉が開いた。向こう側に鎮座していたのは、豚の形をした巨大な機械である。

 

 

「ギャーッハッハッハ! 殺される準備はできてるかYO!」

 

「豚!?」

 

「豚じゃねえッ! これは――」

 

「――豚型起動兵器『ブタトロン』。今より20年ほど前に放送された神話戦隊ヘレニックに登場したマスコットキャラクター兼、主人公達が乗り込む合体ロボの機体名です」

 

 

 モナの言葉に激高した金城の主張は続かなかった。それを掻っ攫っていったのがアイギスである。金城の矛先は、『ブタトロン』を淀みなく解説したアイギスへと向けられた。

 

 

「ウッソだろ!? なんでお前がそれを知ってるんだYO!?」

 

「メ――……妹がドはまりしまして、ここ最近は視聴に付き合っていました」

 

 

 アイギスが言いかけた名前は、【影時間】消滅作戦が終わった後に発生した“とある事件”――巌戸台分寮の解体が進められた際、地下から何かの封印跡が出てきた――を端に発した出来事で関わった妹機のものだ。桐条の負の遺産・エルゴ研が破棄したシャドウ決戦兵器の中で、運良く起動した機体である。

 彼女はアイギスを『姉さん』と慕い、他の面々に関しては『どうでもいい』と言い放ち、一切興味を持とうとしなかった機体であった。紆余曲折あった後、彼女は桐条側の特務部門に在籍することとなり、活動及び活躍を続けている。僕と至さんは件の事件以降、アイギスの妹機と顔を合わせる機会は訪れていなかった。閑話休題。

 

 奴はブタトロンに乗り込んだ状態で攻撃を仕掛けてきた。巨体による攻撃を受けたらひとたまりもない。

 

 

「ジョーカー! もし不利だと思ったら、まず体制を整えて! 敵はあの巨体よ、体力が減った所を狙われたらひとたまりもないわ!」

 

「分かった! クイーン、お願い!」

 

「勿論よ!」

 

 

 クイーンのアドバイスを受けたジョーカーは頷いた。ジョーカーの指示を受けたクイーンがヨハンナを顕現して僕たちに守りを強化する補助魔法を使い、パンサーがカルメンを顕現してブタトロンの攻撃を下げる補助魔法を行使する。他にもフォックスがゴエモンを顕現し、仲間たちに回避と命中を上げる補助魔法を使っていた。モナはゾロを顕現して僕たちの傷を癒す。

 ブタトロンは大量のミサイルと対人バルカンを発射して来た。それに対抗して、アイギスが武装を展開する。全てを打ち消すには至らないものの、殆どの攻撃は相殺されていた。彼女がミサイルや対人バルカンを相殺してくれなかったら、今頃【怪盗団】は文字通りハチの巣と化していたであろう。ジョーカーやモナの回復魔法で体制を整えつつ、僕等はブタトロンへの攻撃を続ける。

 ブタトロンに攻撃を叩きこみながら、補助や回復も怠らない。このときのためにと買い込んでいた薬も使っての長期戦だ。僕らの戦いぶりを兵器内から見ていた金城は「さっきはよくもブタ呼ばわりしてくれたな」と怒りながら、ブタトロンを変形させる。完全な球体となった兵器の上に、金城のシャドウが飛び乗った。

 

 

「アイツ、何する気だ!?」

 

「……玉乗り?」

 

「まさか、転がって体当たりしてくるつもりか!?」

 

 

 スカルが身構え、パンサーが首を傾げる。モナの予測は大当たりしたようで、ブタトロンの回転率は急激に上昇し始める。

 

 奴の攻撃を止めようにも、防御しようにも間に合わない!

 ブタトロンは無防備な僕らの元に――

 

 

「アポロ、ノヴァサイザー!」

 

「ヒューペリオン、ジャスティスショット!」

 

「カエサル、ジオダイン!」

 

「ハラエドノオオカミ、ブフダイン!」

 

 

 次の瞬間、各方面から属性攻撃と物理攻撃が放たれた。それは逸れることなく金城に全弾命中し、金城を吹き飛ばす。地面に叩き付けられた金城は、操り手を失ったブタトロンによって容赦なく轢かれてしまった。奴の攻撃を止めるには、金城をブタトロンから叩き落とせばいいらしい。

 聞き覚えのある名前のペルソナたちに振り返れば、目を回したヤクザたちを拘束した周防刑事と達哉さん、明彦さん、千枝さんがパレスの最深部に乗り込んできたところだった。まさか警察が乗り込んでくるとは思わなかった仲間たちが目を剥く。

 ペルソナ使いの刑事たちが【怪盗団】をどう見ているかは分からない。今は金城を攻撃したが、彼等の討伐対象者には僕等も含まれている危険性があった。金城だけでなく、歴戦のペルソナ使いをも相手取る羽目になった場合、【怪盗団】が勝てる要素はほぼ0に等しい。

 

 僕等は思わず身構えた。金城も体を起こし、刑事達を確認して目を見張る。

 

 

「け、警察!? なんでお前等、【怪盗団】の味方するんだよ!? さっさとこいつらを――」

 

「――『守ってくれ』と言われたんだ」

 

 

 アポロを顕現させた状態のまま、達哉さんは武器を構える。

 すらりとした銀の煌き。彼の得物は、フォックスと同じ日本刀だ。

 

 

「『“来るべき瞬間(とき)”を迎えた彼女らは、いずれ訪れる滅びを打ち砕く『鍵』になる。だから、先輩として、大人として、どうか彼らの道を切り拓いてやってくれ』と」

 

「……一度、自分たちが“そういう目”に巻き込まれたことがある分、放置するわけにはいかなくてね」

 

 

 弟の言葉を引き継いだ周防刑事は、静かに語った後、金城を睨みつける。彼の銃の照準は、討ち果たすべき悪を捉えていた。

 

 

「あたしもね、昔、そうやって真田師匠や至さんたちに助けてもらったんだ。だから今度は、あたしたちがみんなを助ける番だよ!」

 

 

 千枝さんは得意満面に笑うと、僕たちに自分のスマホを指示した。画面には【イセカイナビ バエル限定版】と書かれたアプリが表示されている。

 それに合わせようにして、刑事たちは自分のスマホを指し示す。全員のアプリに【イセカイナビ バエル限定版】がインストールされていた。

 彼らは満場一致で「至さんからメッセージを貰った後に、このアプリが携帯にインストールされていた」と語った。今回、彼らは直接至さんと顔を合わせていないらしい。

 

 

「それに、今回ここに居合わせたのは、刑事として捜査をしていたためではないからな」

 

「我々は謹慎、または強制的な休職中の身なのでね。現在、警察機構の権限を行使できない状況にある。それ故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なにィ!? そんなバカな!!」

 

「本当に残念だなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、まったくだ。本当に惜しい。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 明彦さんと周防刑事は嘯く。言葉とは裏腹に、2人は嬉しそうに笑っていた。それは、事実上、「【怪盗団】を見逃す」と言っていることに他ならない。

 ペルソナ使いの刑事たちが謹慎と休職に陥ったのは、他でもない金城が獅童派の連中を使って警察組織に圧力をかけたせいである。

 

 金城にとって、これはある種の“自業自得”だ。……おそらく、刑事たちはこれも計算に入れた上で動いていたのかもしれない。

 

 自分がした根回しがこんな形で返って来るとは思わなかったのだろう。金城は悔しそうに地団駄を踏んだ。だが、すぐに羽で飛び上がってブタトロンに乗り込む。

 次の瞬間、金城が乗り込んだブタトロンよりも小型のブタトロンたちが湧いて出た。奴らは徒党を組んで目からバルカン砲を連射したり、体当たりによる自爆攻撃を行う。

 勿論、金城が乗り込んだブタトロンも僕質に攻撃を繰り出してきた。四方八方から攻撃されるのは辛いものがある。しかし、その物量はあっという間に吹き飛ばされた。

 

 

「このブタどもは俺たちに任せておけ」

 

「勿論、現実世界で金城を捕まえることもだ」

 

「その代わり、奴の【改心】は任せたぞ!」

 

「さーて、派手に暴れちゃうよ!」

 

 

 そう言い切るなり、達哉さんと周防刑事が、明彦さんと千枝さんが、見事な連携を披露して小型のブタトロンを一網打尽にしていく。これで、僕達も金城に集中できそうだ。

 

 金城の操縦するブタトロンの攻撃を回避したり耐えたりしながら、身体強化と弱体化、もしくは回復術を駆使して立て直しつつ攻撃を仕掛けていく。時折、金城は先程の攻撃――玉乗りからの体当たり――を繰り出そうと試みたが、一度も成功することはない。手持ちの道具の中で高級そうなアイテムを放り投げて奴の気を引いたためである。

 金の亡者は戦闘中でもお構いなしにアイテムを回収しに来た。結構希少な道具だったので少々惜しい気がしたが、その分の効果は“金城の足止め”という形で発揮される。金城はアイテムにメロメロで、「これを売り飛ばした金でコンパニオンを呼ぼう」と沸き立つ始末だ。歪みないと言えば歪みないが、【パレス】を作り出してしまうレベルには立派な歪みであった。

 

 金の亡者は、金で身を亡ぼすのがお似合いの末路。攻撃を叩き込み続ければ、ブタトロンの脚部が小規模の爆発と共に吹き飛んだ。体勢を崩した巨大ロボはそのまま頽れてしまう。

 金城の操縦を受け付けなくなったようで、奴はブタトロンから飛び出してきた。虫の複眼からは伺いづらいが、金城の周囲に漂うのは、愛機を破壊されたことへの憤怒である。

 その憤怒に油を注いだのは、同じタイミングで小型ブタトロンを一網打尽にした刑事達の姿。金城は地団駄を踏み、【怪盗団】と刑事達を睨みつけながら叫んだ。

 

 

「こうなったら、オレが直々に相手をしてやるぜ! 正々堂々、金の力でなァ!」

 

「逃がしません!」

 

 

 金城がそう叫ぶや否や、奴と僕達を隔てる金色の壁が現れた。アイギスが重火器を用いて攻撃するも、黄金は全てを遮断する。

 程なくして扉が開かれた。金城はあの短い時間で、多くのシャドウ達――見た目も蠅型だ――を呼び寄せたようだ。奴は自慢げに胸を反り返らせる。

 

 

「どうだ! 金を払って、使える奴らに来てもらったZE! アハーン?」

 

「正々堂々の意味を辞書で引き直すことをお勧めするよっ! ――射殺せ、ロビンフッド!」

 

 

 僕は迷うことなくロビンフッドを顕現し、金城目掛けて攻撃を仕掛ける。しかし、ロビンフッドの攻撃は金城に直撃することなく、奴が召喚した蠅型シャドウが肩代わりしていた。

 どうやら、金城は自身が持っていた金を消費することで、シャドウに自分への攻撃を肩代わりさせているようだ。金と引き換えにヤクザを手駒にした在り方が認知として現れた結果だろう。

 ……金の力という物は確かに恐ろしい。だが、この世には“金の切れ目が縁の切れ目”という諺もある。特に警察官や警察志望の人間達は、そういう繋がりが由来のトラブルに詳しい。

 

 

「……今の話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことだよね?」

 

「だろうな」

 

 

 千枝さんの言葉に、明彦さんが同意する。直後、どちらも不敵な笑みを浮かべた。周防刑事や達哉さんも何かを察したらしく、小さく頷き返す。

 アイギスはワンテンポ遅れたものの、「なるほどなー。これが美鶴さんの言ってた話なのですね」と手を叩いた。金銭関係のアレコレは、財閥も伏魔殿だからだ。

 

 大人達は迷うことなく蠅型シャドウに狙いを定め、自身のペルソナを顕現する。千枝さんのハラエドノオオカミはドラゴンハッスルで警察官とアイギス達の能力を上昇させ、達哉さんのアポロが打ち放ったノヴァサイザーは盾持ちの大蠅型シャドウを焼き払い、克哉さんのヒューペリオンがトリプルダウンで杖持ちの小蠅型シャドウを撃ち落とす。そこへ明彦さんのカエサルがマハジオダインを、アイギスのアテナがアカシャアーツを討ち放ち、一気に護衛どもを掃討していく。

 

 

「【怪盗団】の皆さんは、金城に攻撃を集中させてください! 護衛は私達が片づけます!」

 

「馬鹿が! 金がある限り、護衛は幾らでも呼べるんだZE!」

 

 

 金城は金に物を言わせ、次々と蠅型シャドウを召喚していく。蠅型シャドウの大半が大人側へ殺到して行くため、金城の身を守るために残ったのは杖を持った小型の蠅と盾を持った大型の蠅のみ。

 大人達がシャドウの数と金城の所持金を減らしてくれていると言えど、蠅型シャドウの能力はかなり高い様だ。情報処理を行っていたモナとクイーンは苦々しい顔をしていたが、覚悟はとうに決まっていた。

 

 

「『勝ち方に綺麗も汚いもない。クレバーな奴が勝つ』だっけ? ――なら、これだって正々堂々に入るよね」

 

 

 そう言って不敵に微笑んだジョーカーは、アルセーヌを顕現する。いつも見慣れたジョーカーの半身だが、心なしか、何だか普段と雰囲気が違う気がする。

 僕がそれを指摘するより、アルセーヌが力を行使する方が速かった。夜の帳が訪れて、美しい満月が輝いている――そう思った次の瞬間、蠅型シャドウはうつらうつらと頭を下げ始めた。

 あのシャドウの動き方は、眠り状態によって身動きが出来なくなった時のものと同一である。……成程。幾ら金を積まれようと、眠気に抗うのは至難の業ということか。

 

 金城は「卑怯者」と叫びかけ、ジョーカーの発言は嘗ての自分が主張していたものと同一だったことに気づいて顔を真っ赤にした。尚、羞恥ではなく憤怒由来である。

 

 

<あの技、どこかで――>

 

 

 金城はラップ口調を崩さぬまま、再びステップを踏み始めた。

 次の瞬間、“誰か”の指摘と入れ違いで、僕の足元から凄まじい呪詛が吹きあがる。

 

 

「ぐあっ!」

 

「クロウ!」

 

 

 爆ぜる闇に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。呪怨属性は僕のペルソナであるロビンフッドの弱点だ。

 ダウンして身動きが取れない僕を狙い、金城が追撃に走って来た。それを阻むようにしてジョーカーが飛び出す。

 ジョーカーが振るった短剣は金城の追撃を弾く。お返しとばかりにジョーカーがペルソナを顕現し、風で金城を吹き飛ばした。

 

 

「よくもやってくれたな!」

 

 

 大事な人に守られてばかりと言うのも頂けない。僕はどうにかして跳ね起きると、即座にロビンフッドを顕現した。

 お返しとばかりに祝福属性の光が爆ぜる。それは見事に金城へ命中し、奴を吹き飛ばした。

 

 舌打ちした金城であるが、奴は不気味な笑みを浮かべて叫ぶ。

 

 

「これでも喰らえ!」

 

 

 次の瞬間、大量の硬貨と札束が降り注いだ。それは【怪盗団】だけでなく、蠅型シャドウを相手取っていた大人達まで巻き込むような形で襲い掛かって来た。文字通り、物理的な威力を持った金のばら撒きである。金の力を信奉する金城の必殺技に相応しかろう。ダメ押しとばかりに、ブタトロンを象った黄金象が降り注いだ。

 痛みに呻いた僕達であるが、治療魔法が使える面々によって傷は癒された。大人達は蠅型シャドウの掃討を開始し、【怪盗団】も護衛を無力化させて金城への攻撃を再開する。しかし、金城は攻撃もそこそこに、また金の雨を降らせた。痛みに呻く僕達を見た金城は更に調子づいたのか、追い金の雨を降らせようとして――止まった。

 

 降ってきたのは硬貨が1枚。たった1枚の硬貨では、僕や大人達にダメージを与えることは出来なかったようだ。その様を目の当たりにし、金城の顔色はあっという間に真っ青になる。

 なんてことはない。金城が召喚した蠅型シャドウは“金で雇った連中”の認知存在。金城の所持金、もとい手持ちの金を消費する形で召喚されているのだ。

 更に、先程奴が降らせた金の雨も、金城がばら撒ける金の力――所持金が反映されたような技である。金をばら撒けば懐が寒くなるのは当然の話。

 

 僕達を倒すため、自分の身を守るため、金城は所持金を惜しみなく使っていた。結果、僕等の体力より、奴の金が尽きる方が速かった――ただそれだけの話。

 

 しかし、それは金城にとって致命的であった。

 シャドウの召喚は金を用いた雇用契約。金が無くなってしまえば――

 

 

「お、お前等、どこ行った!? 手持ちがちょーっと無くなっただけだって! 戻って来いYOー!!」

 

「金の切れ目は縁の切れ目、か……。憐れだな」

 

 

 資金難によって契約破棄。結果、蠅型シャドウに見捨てられた金城は悲痛な叫びをあげた。無様な姿に何を思ったのか、フォックスが何とも言えなそうに目を伏せる。金欠で喘ぐ彼に言われてしまえばもうお終いであろう。

 

 

「オマエを守るものはもう何もない。覚悟、決めたらどうだ!?」

 

「う、ううううう……!」

 

 

 金城は派手に取り乱していたが、ハッとしたように顔を上げた。奴の視線の先には、行動不能となって火花を散らすブタトロン。奴は譫言のように「金ならまだ、ブタトロンの中にある」と零した。奴はふらふら飛びながらブタトロン内部へ逃げ込む。ハッチは閉じられ、奴の様子を伺い知る方法は内部音声のみとなった。金城は内部に残っていた金に縋って、現実逃避に走っている。

 その隙を見逃す程、僕達【怪盗団】は甘くない。キャプテンキッドとゴエモンが物理攻撃を叩きこみ、アナトやカルメン、ゾロたちが属性攻撃を討ち放つ。アルセーヌとロビンフッドもそれに続いた。ブタトロンを襲った衝撃によって金城は正気に戻ったが、奴が何かをするより先に、ブタトロンが爆発する方が速い。程なくして、金城の情けない悲鳴が響き渡った。

 

 這う這うの体でブタトロンから転がり落ちてきた金城であったが、内部から出てきたのは金城だけではない。奴が貯めていたと思しき金塊も一緒である。

 奴の欲望を現す【オタカラ】が顕現した結果が金塊だとしたら、これ程までにお誂え向きなものはないだろう。

 

 

「誰にも渡したくねぇよぉ……俺の金ェ……!」

 

 

 金城は顔を情けなく歪めながら、金塊の山にすり寄った。縋りついているとも言える有様だった。

 だが、それは元々善良な人々から巻き上げていた金である。持ち主の所に戻るべきものだ。

 

 

「元は善良な人から奪ったお金じゃない!」

 

「あんたバカじゃないの!? 無理矢理巻き上げて、無理矢理借金背負わせた金が、自分の手元に残り続けると思ってるなんて!」

 

「“悪銭身に付かず”という言葉も知らないのか」

 

 

 クイーン、千枝さん、達哉さんによる言葉の総攻撃に、金城は身を縮ませた。

 

 

「しゃ、借金はチャラにしてやる……。だから……」

 

「してやる、だと? 随分上から目線だな、ああ?」

 

「元から正規で結んだ契約ではないだろうに」

 

 

 スカルに詰められ、周防刑事からは呆れられ、金城は途方に暮れたように俯く。金色の瞳は所在なさげに彷徨っていた。いつぞや見た鴨志田のシャドウと同じように。

 金城はぽつぽつと自身の身の上話を始めた。元々、金城潤矢は貧乏な家庭の出身で、顔もそこまで良い方ではなく、頭もよろしくないタイプだったそうだ。

 それでも、金城は努力した。努力して努力して努力した結果が、“獅童に関連するマフィアの派閥でのし上がること”だった。蹴落とし蹴落とされる砂の城を、奴は守っていた。

 

 「何もない自分はどう真っ当に生きればよかったんだ」――金城の嘆きが木霊する。

 

 立場の弱い奴はどうしたって幸せになれない。搾取され、踏みにじられるだけの人生が待っている。

 社会が悪い。自分はその被害者だ――金城は金塊に縋りついて泣いていた。僕は肩を竦めた。

 

 

「じゃあ、そんな状態でも必死に踏み止まろうとしている人々は何なんだ。文句1つ言わず、自分に与えられた天井の下でもがき続ける人々だっているはずだろ?」

 

「お前は道を間違えた。追いかけるべきものを、求めるべき力を間違えたんだ」

 

「返す返す痛々しいな」

 

 

 明彦さんとフォックスもため息をついた。金城は「居場所が欲しかった」と言い縋るが、「アンタにとって都合のいい奴らが欲しかっただけだ」と一喝するパンサーによって一刀両断される。

 「レッテルに対し、誰もが戦っているのだ」とスカルが吼える。スカルも、パンサーも、フォックスも、クイーンも、明彦さんも、周防兄弟も、千枝さんも――ジョーカーも、背負わされたレッテルと戦っていた。

 

 

「けど安心なさい。やっと居場所ができるわよ。一生かけた償いの舞台がね」

 

「お前のその歪んだ心、俺等が何とかしてやるよ。『0円』でな」

 

「破格の値段ですね! 手持ちがなくとも、切れない縁が出来ましたよ! 良かったですねぇ」

 

「……アイギス、少し見ないうちにエグいこと言うようになってないか……? まさか、リーダーの影響じゃ……」

 

 

 息巻くクイーンやスカルとは対照的に、アイギスは満面の笑みを浮かべて親指を立てた。明彦さんは彼女の姿に命さんの面影を感じ取ったのか、こめかみをひくつかせている。金塊に縋りついていた金城は金塊から離れた。金塊を椅子にして座り込んだ金城のシャドウは、【怪盗団】や警察官、アイギス等を見上げながら肩を竦める。

 どうやら、大人しく【改心】することにしたらしい。周防刑事や明彦さん達に「現実の自分の身柄を頼む」と頭を下げた。少し怯えた様子なのは、獅童との繋がりのせいで自分が消される危険性を考慮しているからなのかもしれない。

 金城は僕たち全員の顔を見回した後、小さく肩を竦めた。「これだけの力を持っているのに要領悪い」と呟く金城は、パレスとメメントスのことを引き合いに出して金儲けの話を始める。勿論、この場にいる誰一人として耳を貸さなかった。周防刑事は深々とため息をつく。

 

 

「言い訳なら署で聞こう。幾らでもな」

 

「本当だって。もう既にやってる奴がいるってのに……」

 

「獅童正義による【廃人化】ビジネスのことか」

 

「なんだ、先生のことを知ってるのか。じゃあ話が早いな」

 

 

 金城は僕の言葉に頷き返した。奴はペラペラと【廃人化】を行っている人間――獅童正義について語ってくれる。金城が荒稼ぎした金の行方は、政治献金として獅童の元へと流れていたようだ。

 “獅童正義からの命令を受けた『駒』がメメントスやパレスを行き来し、都合の悪い人間を消している”――金城のシャドウは、件の人物とも何度か顔を合わせていたらしい。

 僕と同じ学校の制服を着た男子生徒“白鳥(シュヴァン)”――金城曰く通名らしいのだが、十中八九獅童智明だろう――は何度かこの銀行にも足を運んだことがあるらしい。そこまで話し終えた金城は、「そういえば」と手を叩いた。

 

 

「最近、もう1人『仕事人()』が増えたらしい。ガタイのいい、スーツに身を包んだオッサンだった」

 

「そいつに関する情報は?」

 

「奴は通名で“夜鷹(ナイトホーク)”って名乗ってたぞ。目の部分に傷があって、ずっとサングラスしてた。……そういやあのオッサン、一度もサングラスを外した姿を見たことないな」

 

 

 ――あれ、と思う。僕の中で、“なんかこいつ覚えがあるぞ”と引っかかっていた。

 

 本名を聞いたわけではない。けれど、金城から告げられた情報には、圧倒的な既視感があった。普遍的無意識の悪担当が楽しそうに嗤う姿が脳裏に浮かんだのは気のせいではない。

 僕がそれを考える時間を、金城は与えてくれなかった。「奴等はどちらも強敵だ。お前らに敵う筈がない。出会わないよう気を付けろ」と言い残して、奴が姿を消したためである。

 

 

 主を失ったパレスは崩壊し始める。いつも通りの展開だった。

 このまま留まり続ければ、崩壊に巻き込まれてお陀仏になってしまうだろう。

 早く逃走しなければならないと言うのに限って、問題が起きる。

 

 

「【オタカラ】ー! にゃふぅぅぅぅ!!」

 

「モナ、本当にいい加減にして! 逃げるよ!」

 

「いいなーいいなー! ヒューマンっていいなー! キンキンキラキラやー!」

 

 

 ジョーカーの叱責など気にすることなく、モナが金塊にすり寄る。テンションがおかしな方向に振り切れてしまったモナは、勢いそのままパンサーの顔面に抱き付いた。

 パンサーは暫しもがき苦しんでいたものの、即座にモナを顔から引き剥がして投げ捨てた。だが、パンサーがモナを投げた直線上には、猫大好きな周防刑事が。

 

 

「ゲェーッ!? この前の刑事!!」

 

「き、キミはまさか、モルガナか!? か、可愛いなぁっ!!」

 

「や、やめろおおおおお! 離せ、離せー!!」

 

 

 周防刑事の反射神経は、迷うことなくモナをキャッチ。猫好きは伊達ではないようで、彼は現実世界で戯れた喋る黒猫がモナであることを一瞬で見抜いた。アレルギーが出ないで触れるという事実が嬉しいのも相まって、周防刑事は幸せそうな顔をしながらモナを天高く抱き上げていた。

 最終的には達哉さんから「現実世界でやれ」との一喝を受け、周防刑事は渋々モナを放す。仲間たちに叱られたモナは怒りながらも、すぐに車へ変身した。まだ何か言おうとする周防刑事を達哉さんが押し込み、【オタカラ】である金塊を積めるだけ積み込んで、僕らも飛び乗った。

 クイーンの運転によって脱出しようと銀行を飛び出した先は渋谷の大空。道はどこにもない。車内は阿鼻叫喚と化し、世界はあっという間に歪んでいく。そうして帰ってきた先の現実世界は、渋谷の横断歩道であった。文字通りのてんやわんやである。

 

 周りの視線から逃れるように、黎がモルガナと金ぴかのアタッシュケース――金城の【オタカラ】を回収し、金城パレスで共闘した刑事たちと一緒に適当な場所へ移動した。

 【改心】がうまくいくことを願いつつ、僕は金城のシャドウの話を思い出す。目の部分に傷があり、サングラスをかけたスーツ姿の男。新しい獅童の『駒』。

 

 ――視界の端に、見覚えのある姿がちらついた。御影町で、あるいは珠閒瑠市で対峙した男の横顔だった。

 

 僕は慌てて振り返る。だが、一瞬のことだったのと人混みのせいで、奴の姿を見つけることはできなかった。

 ……もしかしたら、僕の見間違いだったのかもしれない。いや、見間違いであってほしいと願わずにはいられなかった。

 

 

 

◇◆◆◆

 

 

 

「――つい先日、父の秘書に就任した人なんだ」

 

 

 足立透は警察官である。警察官になった理由が私事100%であることは事実だが、嘗てはエリートコースを走れる程の頭脳持ちだ。

 

 それ故に、足立透は戦慄した。今自分の目の前に立つ、新しい獅童の秘書。

 公務員試験で出てきた時事問題で、足立は、獅童の秘書と瓜二つの画像を見たことがある。

 時事ネタとして出てきたのは、迷宮入りした事件――珠閒瑠市で流行ったとある噂だった。

 

 公務員試験以後、件の噂に関する話題とは無縁の生活を送っていた足立だが、4年前に発生した【マヨナカテレビ】の一件で、件の事件に関する話を空元至から聞かされている。

 “【セベク・スキャンダル】で亡くなったはずの神取鷹久は、実は生きている”、“神取鷹久は数多の分野に精通する天才であった”――そして、“珠閒瑠市では、噂が本当になる”というもの。

 

 

「初めまして、足立刑事。キミの噂は、獅童先生から伺っているよ」

 

「は、はあ。どうも」

 

「共に宮仕えの身だな。よろしく頼む」

 

 

 眼前に立つサングラスの男は、いい笑顔を浮かべていた。足立もどうにか笑い返してみたものの、口元が引きつるのを抑えるに難儀する。珠閒瑠は最早、噂が現実になるような事件は起こらない。死人だって生き返ることは無い。この男だって、本当は既に死んでいるはずなのだ。

 この場に智明とこの男がいなかったら、足立は積極的に根掘り葉掘りしただろう。スマホを引っ張り出し、空元至や明智吾郎に鬼電をかまし、眼前にいる男の情報を洗いざらい聞き出していたかもしれない。しかし、それをするためには、この2人をやり過ごさなければいけなかった。

 

 

(……()()()()()()()()……!)

 

 

 キリキリと痛み始めた胃を押さえつけ、足立は今日も嘘をつく。

 すべては禄でもない状況を乗り越えるため、そうして八十稲羽に帰るため。

 己が情けない男であることは百も承知で、道化は今日もわらうのだ。

 

 

 





「道化を3人揃えても、合体して強化されたりするわけじゃないんだよね」

「そもそも、■■■■■・マガツイザナギ・■■■■■を3柱合体させたところで何ができるんだろう?」

「絶対禄でもないものができそうだよね。“お客様”だってそう思うでしょう?」


「……合体しない方がいいと思う。■■■■■は、仲間内のペルソナの中でも一番格好いいし」


「そっかぁ」

「……大好きなんだね、“彼”のこと」


「そうだよ。――だから“私”は、()()()()をしたんだ」


―――

今回は区切りを重視し、全編金城【パレス】での決戦となりました。追加要素はアイギスの参戦・全体睡眠技持ちのアルセーヌ(いつもと雰囲気が違う)・気苦労億千万の足立と、今までとは少な目です。
足立の胃がキリキリしているのは、初代・2罪罰世代のペルソナ能力者が使える“とある特性”が影響しているため。3世代以降の面子は使えませんが、干渉されていることくらいは察せる模様。
4主人公やそのほかの人々と絆を結んだ魔改造足立だからこそ、獅童の新しい秘書がどれ程ヤバイのかに気づけてしまったのかもしれません。真犯人じゃなくなったのに前途多難すぎる……。
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