Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。



ゴローのなつやすみ(後半戦)

 

 佐倉さんと獅童が睨み合いを繰り広げてから更に日々は過ぎて、佐倉さんと双葉も佐倉家へ戻った頃。

 

 8月になり、夏休みも中盤に突入。普通の学生は無邪気に夏休みを謳歌しているだろうが、対【怪盗団】の神輿として担がれている探偵王子・明智吾郎は相も変わらず多忙なままだ。冴さんの鉄砲玉として認知世界と現実世界を往復する生活が続いている。【怪盗団】としての活動時間はおろか、学生としての休みを確保することは至難の業であった。

 最近は僕抜きで【メメントス】の探索、及び怪チャンや三島からの依頼解決を行っている。致し方ないこととは言え、思うところがないかと言われればNoだ。けれど、獅童の懐に飛び込んで戦うことを選んだのは僕自身の選択だ。元から諦めるつもりもなければ逃げるつもりもなかった。

 それでも、どうにか時間をやりくりして、僕は【怪盗団】の仲間達と交流を続けている。と言っても、普段から顔を合わせているから今更かもしれない。だが、日がな一日中“休み”であるが故に、やり取りが普段よりも濃密になることは当然のことだった。例えば――

 

 

『助けてくれ吾郎! もやしを買う金もなければ、近所に生えていた食べられる雑草すら取り尽してしまったんだ!!』

 

『はぁ!? お前、何をどうすればそんなことになるんだよ!?』

 

『俺が順平さんとチドリさんに贈るための絵を描き始めたのは知ってるだろう? その絵に、どうしても使いたかった珍しい画材が入荷していたから、つい……』

 

 

 収入に見合わない買い物をして金欠に陥った祐介が、今にも死にそうな顔をして僕の家に駆け込んできた。要するに、食事をたかりに来たのである。

 祐介は何かある度に、僕の家を訪ねてくるようになった。以前奴を家に泊めたとき、至さんが振る舞った和食をいたく気に入ったためだろう。

 至さんは祐介が夕食を食べに来ても文句は言わない。むしろ、『吾郎の友達がやって来たから、美味しいご飯でおもてなししよう!』と張り切るタイプだった。

 

 でも、夏休みに突入して以後、その頻度が無駄に増えたように感じる。1週間に1回くらいだったらギリギリ許容できるかもしれないが、数日に1回となると流石に我が家のエンゲル係数が飛躍的に上昇してしまう。いくら至さんが高給取りとはいえど、保護者に負担を強いるわけにはいかない。

 僕も一応、探偵業とメディア出演等のギャラはある。ただ、できれば『“いざというとき(一例:黎や至さんへの贈り物)”のために備えておきたい』というのが僕の本音だ。黎や至さんのために金を使うのは惜しくはないが、祐介のために使えるかと問われると、『優先順位は低い』と言わざるを得なかった。

 

 僕が渋っているのを確認した祐介は、『そうか……ダメか……』と、沈痛そうな面持ちで俯いた。――そうやって、絶妙に、罪悪感を煽るのはやめてほしい。

 

 

『ならば、黎にカレーを作ってもらおう。実験台を募集してると言っていたし――』

 

『――分かった。今日は僕が奢る』

 

 

 奴が黎の名前を出した瞬間、僕は反射的にそう口走っていた。途端に救世主を目の当たりにした村人みたいな顔をして、祐介が表情を輝かせる。なるべくコイツを黎に近づけたくなかった。

 せめてもの嫌がらせとして有名なパンケーキ店に連れて行ったが、『和食が一番だが、食べられれば何でもいい』という思考回路の祐介にはご褒美でしかなかったことが悔しいところだ。本当に。

 

 

『……そんなに生活が辛いなら、バイトの口利きでもする?』

 

『バイト?』

 

『航さんが【メメントス】や【パレス】でも使えるスマホ作ってるの知ってるだろ? あれの改良試作機のテスターが欲しい』

 

『そういえば、普段は吾郎がそのテスターをしているんだったな』

 

『そうだよ。……最も、探偵王子の需要増大が原因で、僕は【メメントス】から足が遠のいてる状態なんだけど』

 

 

 探偵王子の需要が高まり、中々【怪盗団】の活動に参加できない立場になった影響で、僕は認知世界とはご無沙汰状態にある。そのため、航さんが開発している異世界スマホ(仮称)の進捗は滞り気味だ。

 改良が進む度に機種変更を余儀なくされるのがネックだが、そこは社員割やプラン等を駆使して費用を抑えている。『何事も無ければ』、僕が改良型試作機のテスターをしていたはずだった。

 双葉さんの【パレス】以降、新たな【パレス】は表れていない。それどころか、【メメントス】攻略にすら参戦できなくなってしまっては、異世界スマホ(仮)開発のデータすら集められなかった。

 

 異世界内部での通信手段の確率は、『【怪盗団】が活動しやすくなる』以外にも取り組む理由はある。当代のペルソナ使いの戦いをサポートするだけではなく、次世代――僕等の後輩に当たるペルソナ使い達のサポートを行うことになった際にも、異世界関係の研究や通信手段の確立に役立つのだ。

 聖エルミン学園高校で巻き込まれた【スノーマスク事件】や【セベク・スキャンダル】から現在に至るまでの経験を経た僕は知っている。ペルソナ使いの戦いは続くのだ。僕等が直面している事件が終わっても、また何処かで新たな戦いが幕を開ける。【怪盗団】とは違うペルソナの力を持った後輩達が、世界の滅びと対峙する――そのサイクルは、途切れることなく続いていく。

 

 次の戦いがいつ起きるかは未知数だ。僕等が生きているうちに起こるとも限らないし、僕等の戦いが終わった直後にまた事件が発生する可能性だってある。

 

 

『異世界でも使用可能な通信手段は、今戦っている第5世代のペルソナ使い達――【怪盗団】が活動するためだけじゃなく、今後も続く戦いと、後輩達のためへの備えでもある』

 

『後輩達のための技術、か。……吾郎は、随分と先のことを見据えているんだな』

 

『至さんの受け譲りだけどね。勿論、仕事としてのやり甲斐だけじゃなく、仕事への報償だってきちんとしてる。何てったって、天下の南条コンツェルンと桐条財閥が立ち上げた共同部門なんだから』

 

 

 最終的に、祐介は件のバイト――僕の代打として、改良版試作機である異世界スマホ(仮)のテスター役を引き受けた。短期間ではあるものの、彼はなんやかんやできちんとデータ収集をやり遂げたらしい。後から航さんから『助かった。ありがとう』という連絡が届いた。

 バイト代としてそれなりの金額や報奨が支払われたようだが、それを受け取った祐介が何に使ったかは知らない。正当な手段で稼いだ金銭だ。どうするかは彼の自由である。僕個人としては今後の為にきちんと貯蓄して欲しいと思っているけれど、優先順位がバグりがちな彼の判断がどう転ぶかは不明だ。

 

 他にも――

 

 

『吾郎! グラビアパーティやろうぜ!』

 

『みんなでコレクションを見せ合いっこしましょう!』

 

『鷹司くんの誕生日プレゼント選ばなきゃいけないから僕帰るね』

 

『『いやいやいやいや!!』』

 

 

 いつぞやの“メイドルッキングパーティ”を彷彿とさせるようなやり取りを思い出しながら、僕は竜司と三島に背を向けた。緊急案件と銘打たれて呼び出されたのにこの有様では、呼び出しに応じた意味がない。鷹司くんの誕生日プレゼントを引き合いに出したが、正直、本当は既に準備済みなのだ。

 

 しかし、結局僕は奴らに引きずられて、前回の“メイドルッキングパーティ”会場に連れてこられた。

 2人が嬉々として秘蔵のコレクションを披露する中、僕はもう帰りたくて帰りたくてしょうがなかったのだ。

 

 

『正直、恋人がいるのに赤の他人をオカズにしなきゃいけない理由がよく分からない』

 

『あーくそ、余裕ですね! 吾郎先輩、恋人持ちだからって偉そうに!』

 

『本当に歪みねえな! けど、俺達童貞仲間じゃ――……って、ハッ!? まさか吾郎、裏切り者なのか!? 非童貞なのか!?』

 

『ええッ!? もう既に初体験経験済み!? どどど、どんな感じなんですかッ!?』

 

『喧しいわァ! 清く正しいおつき合い舐めんなよ!!』

 

 

 童貞だの初体験だのと騒ぎ始めた三島と竜司を、奴らが持って来たグラビアポスターを丸めた筒で勢いよくはたく。

 苦悶の声を上げた2人は、悶絶しながらも意外そうな顔で俺を見上げていた。……そんなにおかしいか。

 2人の様に、能天気に夢を見ていられるような性格だったら、大人の階段をもっと楽に登れたのかもしれない。

 

 『吾郎には男の浪漫が分からない』とブーイングをしてきた竜司と三島だけれど、恋人持ちのくせに赤の他人をオカズにするというのは不誠実ではないだろうか。

 実際、僕はその“不誠実な男の身勝手”によって生まれ落ちた命である。――だから、だろう。女を食い物にする男にはどうしても嫌悪感を抱くし、逆も然りだ。

 

 他者への嫌悪だけだったらまだマシだったのかもしれない。僕の場合は、“自分が奴らと同じものに成り下がるのではないかという恐怖”や“自分自身に対する嫌悪”としても纏わりついているため、先に進むためには人一倍の覚悟――主に精神方面――が必要なのだ。何で俺の人生こんなにハードモードなんだろう。好きな人と普通に触れ合いたいだけなのに。

 

 

『鴨志田や僕の母を捨てたクソ野郎と同じ轍を踏むくらいなら、今すぐ“黎に冤罪を着せた黒幕”と一緒に心中する』

 

『うわあああ!? 吾郎先輩が壊れたぁぁぁ!!』

 

『やめろォ! そんなことしたら黎が泣くぞ、考え直せ! 俺達が悪かったから!!』

 

 

 そこから30分ほど記憶が曖昧なのだが、僕を諌めていた竜司と三島曰く『目が死んでたけど本気(マジ)だった。あんな悲壮感溢れる目を見たのは初めてだった』と、げっそりした顔で呟いていた。竜司と三島は僕に深々と謝ってくれたけど、僕も謝り返した。錯乱した僕にも非があったからだ。

 結局グラビアパーティは僕の不調――もとい錯乱――によってお開きとなり、代わりに3人で街に繰り出した。お礼とお詫びに何か奢ると提案したら、竜司が『至さんのご飯が食べたい』と主張し三島が乗っかったため、その日我が家の夕食にはフレンチフルコースがお目見えした。至さんは凄い。

 

 因みに、竜司は鷹司くんのプレゼントに水筒を購入したそうだ。しかもその水筒、魔法瓶メーカーが開発した保温と保冷性に優れた逸品である。

 体を鍛えるついでに短期アルバイト(肉体労働系)にも挑戦したようで、『それなりに筋肉がついたかもしれない』と嬉しそうに主張していた。

 鷹司くんは兄貴分のプレゼントを大いに喜んだ。玲司さんからは運動靴を貰い、織江さんからはケーキを作ってもらったそうだ。

 

 僕が贈ったのは遊園地の家族用フリーパスだ。無期限で、玲司さんが『近々休みを取る』と言っていたことも加味した結果である。物を貰うことも嬉しいけれど、僕の場合、大事な人と一緒に過ごす時間はかけがえのないものだと思っている。だから、城戸一家の家族団欒を彩れたらいいと考えて選んだのだ。

 

 互いが何を思ってプレゼントを選んだのかを話した結果、竜司が『吾郎はモノより思い出派なんだな……』と目から鱗をされたのにはちょっと笑った。

 竜司の場合、『スポーツをする際の利便性――主に水分補給に関してのことを考えて水筒を選んだ』らしい。鷹司くんは運動――特に走るのが大好きだから、お誂え向きだとは思う。

 

 

『なあ吾郎。お前が祐介に紹介したバイト、まだ人員募集してるか?』

 

『異世界スマホ(仮)のテスターはひと段落したって聞いたよ。他の奴なら何か残ってるかも知れないけど……』

 

『あー……。その、来月、おふくろの誕生日でさ。盛大に祝ってやりたくて』

 

 

 『去年は色々あって、おふくろの誕生日どころの話じゃなかったから』――竜司は罰が悪そうに目を逸らす。

 

 竜司の様子からして、“鴨志田に足を壊されてから、暴力事件を起こして処分を受けていた”時期が、丁度今の時期――彼の母親の誕生日と重なっていたらしい。ペルソナ使いとして覚醒し、鴨志田との因縁に決着を付けることができたからこそ、当時自分が迷惑をかけた人々と向き合う余裕ができたのだろう。

 彼が暴力事件を起こした件で、多方面の人々が被害を被ったのは事実だ。嘗ての居場所だった陸上部は廃部に追い込まれ、元部員達からは『裏切りのエース』として恨みを買った。竜司の母親だって、教師や部員及び部員の保護者達から責められ、ずっと謝り続けていたという。

 

 

『……俺、鴨志田の件で、おふくろに沢山迷惑かけちまったからさ。その償いになるかは分からないけど、何かしたくて』

 

『竜司……』

 

『何するか全然思い浮かばないけど、“軍資金を稼いどかなきゃ始まらない”ってのは頭にあってさ。……先走ってるってのは分かってるけどよ』

 

『……そうだね。せめて、誕生日に何をするか、もしくは何をプレゼントするかを決めてから考えるべきだよ』

 

 

 母親の誕生日を祝いたい――それは、母を亡くした僕にはもう二度とできないことだった。僕に出来たのは、母の誕生日や命日に花を手向けることくらいである。あれから12年が経過した今も、僕は母の墓に白い花を供える。母が生前好きな花の色だったし、僕にとっては今でも母の喪中が終わっていないことも意味していた。

 未経験の戦力外でしかない僕だけど、『母が存命だったらやりたかったこと』を引っ張り出すくらいはできそうだ――なんて考えていたのを、竜司は察してしまったらしい。『あ』と、酷く間の抜けた声を漏らした後、とてもか細い声で謝罪された。それだけでは気が済まなかったらしく、別れ際に牛丼の山盛りを奢られた。妙なところで律儀である。

 バイトの斡旋ついでに、特別研究部門のラボに居合わせた面々――玲司さん、真次郎さん、乾さん、航さん、風花さんに竜司の相談を持ち掛けたところ、彼等は次々とアイディアを提供してくれた。しかも、殆どの面々は『既製品ではなく手作りに挑戦してみてはいいのでは?』、『形に残るものもいいが、心に残るものの方が、金銭的な負担を感じなくて済むのでは?』と提案していたか。

 

 先輩達からのアドバイスを受けた竜司が、何を考えたのかは分からない。

 僕が知っているのは、竜司が母親への誕生日プレゼントを決めたことくらいだ。

 

 

『おふくろへのプレゼント、決めた。編みぐるみと料理作って、手品披露することにしたんだ』

 

『玲司さんと天田さんから手品を、荒垣さんと風花さんからは料理習ってる!』

 

『編みぐるみはオンライン授業みたいな感じで、色々教えて貰ってるんだ』

 

『荒垣さんと天田さんが勧めてくれた講師の人なんだけど、すっげえ手先が器用でさ! あれで本業じゃないって言うんだぜ!?』

 

 

 竜司は満面の笑みを浮かべた。やることが多くて忙しくなったようだが、充実した時間を過ごせているらしい。【怪盗団】のチャットにも、彼の努力の形跡が投稿されては仲間達から色々言われている。

 最近では編みぐるみのクリーチャーや色がおかしい料理の数々が投稿され、阿鼻叫喚になったばかりだ。練習期間1か月でどこまで成長できるのか、現時点では何もかもが未知数である。

 

 それから――

 

 

『この前、達哉さんからバイクツーリングに誘われたから出かけてきたの。あの人、バイク乗りだけじゃなく、バイクチューニングの才能も凄いのね』

 

 

 真はこの夏休みの間に、珠閒瑠市や巌戸台、八十稲羽に足を運んで警察官組と交流を続けていた。東京から近い順に街を並べると、最寄りが巌戸台、珠閒瑠市、御影町、一番遠いのが八十稲羽の順になる。

 ペルソナ使いの先輩であり現職警察官である周防兄弟や真田さん、ペルソナ使いの先輩にして同じ警察志望者である千枝さんだけでなく、最近は黎とも交流をしていた。彼女達との交流を得て、真も色々思うところがあるらしい。

 

 嘗て共に駆け抜けた先輩が褒められているというのは、とても嬉しいことだ。僕は真の感嘆に頷き返す。

 

 

『達哉さん、『自分でバイクをチューニングしたい』って理由で整備士の免許取ったんだよ。それも、一流の整備士として充分食べて行ける程の才能と腕前の持ち主だ』

 

『私も気になって訊いてみたの。『それ程までの腕を持ちながら、どうして整備士にならなかったんですか?』って。……そうしたら、『父さんと同じ刑事になりたかったから』って教えてくれたのよ』

 

 

 周防兄弟の父親の話は、珠閒瑠市の戦いで耳にしている。須藤竜也が起こした放火事件を追っていた周防兄弟の父は、須藤竜蔵の圧力と同僚の裏切りによって汚職事件をでっちあげられ職を追われてしまう。本来なら反抗することもできたのだが、家族の命を盾に取られて辞めざるを得なかった。

 元々は菓子職人を夢見ていた克哉さんは父親の無実を晴らすために警察官となった。達哉さんは克哉さんと折り合いがつかなくなってグレてしまい、七姉妹学園高校随一の不良になってしまう。その後、彼に“滅びの世界からやって来た”達哉さんが憑依し、彼の身体は珠閒瑠市を駆け抜けることとなる。

 あの戦いのことを、達哉さんはよく覚えていない。同一人物と言えど、赤の他人に体を操作されていた状態なのだから仕方がないだろう。だが、あの旅路で得た答えはきちんと残っていたらしく、彼は突然真面目に勉強を始めて公務員試験を突破し、兄と同じ警察官――刑事になった。

 

 真の父親も刑事で、数年前に亡くなっている。彼女もまた、父親と同じ警察官を目指している人間だ。故に、共感できる部分があるのだろう。

 他にも、弟妹繋がりという共通点もあるからか、自分の姉兄のことで盛り上がったらしい。……大半が愚痴だらけだったのだが。

 

 

『克哉さん、今でも“達哉貯金”なるものをやっているみたい。自分が成人した後も、結婚した後も、ずーっと続けているみたいだから困ってるって』

 

『周防刑事、まだあの貯金続けてたんだ……』

 

 

 克哉さんは筋金入りのブラコンだった――そこまで考えて、僕はふと、思ったことを口に出す。

 

 

『冴さんと周防刑事、絶対似たようなタイプだよね』

 

『吾郎?』

 

『“真貯金”――』

 

『待って! 本当にやめて! 今、“吾郎が思い浮かべた新島冴(お姉ちゃん)像”を口に出されたら耐えられない!!』

 

 

 克哉さんと冴さんがビシガシグッグと拳や手を突き合わせ、親指を立てて笑い合う図が脳裏に浮かんで離れない。僕がそんな光景を思い浮かべていることを察して、真が顔を真っ赤にしておろおろと狼狽える。

 最も、僕が頭の中で思い浮かべた光景が現実になるためには、冴さんの精神暴走状態を解かなければならないだろう。近々、獅童の『駒』の手に墜ちた冴さんをどうにかする算段も立てなくてはなるまい。

 

 

『昨日、お姉ちゃんが【廃人化】や【精神暴走事件】以外の件で苛立ってたの。何でも、足立刑事のご両親が変な思い込みをしてるみたい』

 

『どんな?』

 

『……“お姉ちゃんと足立刑事がお付き合いしてる”って話』

 

『???』

 

 

 真からその話を聞いた僕は、真顔で噴き出してしまった。

 

 僕は冴さんと足立の双方と付き合いがあるからこそ、それが荒唐無稽な話であるとすぐに理解できた。真は足立との関りは薄いけど、姉である冴さんとの関係は非常に密である。

 言い方は酷いが、“冴さんは恋愛関係が壊滅的な仕事人間”で、“現状、恋愛にかまけていられない程多忙である”ことを知っているのだ。故に、『やっぱり根も葉もない噂よね』と言い切った。

 冴さんと足立の噂は、僕等が共同戦線を組んだ直後からまことしやかに囁かれていた。どのルートを通って来たのかは分からないが、その噂は足立の両親の耳にも届いてしまったのであろう。

 

 冴さんは出世コースを突き進む――イコール独身街道まっしぐらで、恋愛に現を抜かす余裕も暇もない。そういうものがあるなら、腐った組織を改革するために必要な地位を目指して奔走する方が重要なタイプだ。

 足立には既に凛さんという恋人がおり、他の女に対しては一切興味を示さない程一途である。但し、巌戸台で出会った頃の足立だった場合、冴さんタイプの女性相手なら甘んじてビジネスライクの関係――最大で政略婚を受ける――を構築する程度のイメージがあった。

 

 

『あの2人はビジネスライクの関係だよ。それ以上の進展は見込めないし、何より足立には凛さんいるし』

 

『私としても、足立刑事みたいなタイプの人はちょっと……』

 

 

 真は言葉にしなかったけど、恐らく彼女が本当に言いたかったのは『足立刑事みたいなタイプの人は(お姉ちゃんの婿、及び私の義兄(あに)として迎えるのは)ちょっと……』だと思う。彼女が交流を深めている警察官組と足立を比較すると、後者のアレっぷりが非常によく目立つのだ。前者が聖人の集まりなら、後者は良心と良識を持った適度なクズだった。

 冴さんが真の恋愛に厳しい――特に恋人に対する理想が高い――ことは以前から聞かされていたけど、真も冴さんの恋愛に対して厳しいタイプだったらしい。……成程。冴さんが恋愛に無縁なのは、彼女の優先順位だけが理由ではないようだ。姉妹揃ってシスコンである。結婚を視野に入れた人生設計の場合、お互いがお互いにとっての最大障壁になりそうな気配があった。

 

 更に――

 

 

『今日、桐島英理子さんって人と一緒に仕事してきたんだ。あの人もペルソナ使いだったんだね』

 

 

 『モデル関係者はゆかりさんだけだと思ってた』と熱っぽく語っていたのは杏だった。ゆかりさん以外にも、同業者のペルソナ使いがいるという事実に驚いたらしい。【スノーマスク事件】、及び【セベク・スキャンダル】後――【JOKER呪い】が起きた頃から、英理子さんはモデル業をしていた。そういう意味では、ゆかりさんにとっての先輩でもある。

 杏にとって英理子さんは、モデルとしてもペルソナ使いとしても大先輩だ。海外に渡航した経験があるという共通点もある。杏が英理子さんへシンパシーを抱くのは当然のことだろう。休憩時間に意気投合した2人は、仕事帰りのアフターファイブを一緒に過ごしてきたそうだ。そのときの出来事を楽しそうに話してくれた。

 話の方向性が変わったのは、話題が『仕事上のトラブル』、及び『恋愛関係』に転じたときである。それを聞いた僕も、持ち出してきた杏自身も、悪い意味での『やったった感』を抱いた。この2つの話題は、英理子さんにとっては癒えない傷だったから。

 

 ――英理子さんは航さんに想いを寄せていたが、航さんと麻希さんの交際がきっかけで失恋している。

 

 その日から、彼女は腰まで伸ばしていた黒髪をばっさり切った。

 以来、英理子さんの髪型は頑なにショートボブを貫いていた。

 

 ――英理子さんは嘗て、ストーカー被害にあった経験がある。

 

 詳しい話は分からないが、英理子さん曰く『そのStokerは仕事中だろうとPrivateだろうとお構いなしに追いかけまわしてきた』という。彼女の留守中に家へ侵入したこともあるらしい。

 奴の暴挙に耐えかねた英理子さんは、件のストーカー相手にペルソナを使って追い払ったそうだ。……それでも、奴は平然と舞い戻り、何度もチェーンソーで強襲してきたらしいが。

 尚、ストーカーによる執拗な襲撃は、須藤派の刺客たる占い師・ワンロン千鶴――本名:石神千鶴による罠だった。英理子さんの恐怖心を投影し、刺客として差し向けた式神だったという。

 

 

『……この話、あんまりしない方がいいのかなぁ』

 

『うーん……。どうなんだろう? 英理子さん自身は『もう大丈夫』って言ってたし、この話をするときはいつも笑顔なんだけど……』

 

『分かる。すっごくスッキリした晴れやかな顔してたの。割り切った感はちゃんとある。ちゃんとあるんだけど……』

 

『過去にするには、まだちょっと生々しい感じがあるんだよね。完全に傷が癒えたわけじゃないのかも』

 

『そうなんだろうね。……そういう雰囲気が、なんだかちょっと、志帆と似てるなあって思うんだ』

 

 

 癒えぬ傷を抱えているという点では、英理子さんは鈴井志帆とも共通点がある。

 

 鈴井志帆はセクハラ体育教師・鴨志田からの暴力や性的な嫌がらせを受けていた。特に性的な嫌がらせは日に日にエスカレートし、ついに鴨志田の凶行――強姦のターゲットにされ、襲われてしまう。間一髪で黎や杏たちが乱入したため貞操は守られたが、彼女が受けた心の傷は大きかった。

 それだけではない。自己保身のために鴨志田が流した噂――鈴井志帆が日常的に不純異性交遊を行っている――によって、鈴井志帆は秀尽学園高校の教師・生徒達から悪い意味で注目の的にされてしまった。そういういきさつもあって、鴨志田が自首した後、彼女は親の計らいで秀尽学園高校から転校。杏とは離れ離れになった。

 

 英理子さんの場合、航さんへの失恋だけではなく、過去にストーカー被害にあった際のアレコレも尾を引いているのだと思う。

 僕等は圭さんと一緒に神取を追いかけることを選んだから詳しい話は知らない。その一方で、英理子さんは珠閒瑠市を駆け回っていた。

 須藤竜蔵の部下兼愛人だった石神千鶴との戦いを経てケジメは付けたようだが、詳しい話は聞いていない。本人も話すつもりはなさそうである。

 

 

『……いつか志帆も、英理子さんのように前を向ける日が来るのかな。そりゃあ、完全に割り切れるようになるとは思えないけど……』

 

『難しい話だ。心の傷が癒えるには、膨大な時間がかかるからね。それが生きてるうちに完治するか否かってだけだろうし』

 

 

 僕の見解を聞いた杏は表情を曇らせる。

 そんな彼女を見つめて、『でも』と付け加えた。

 

 

『杏が鈴井さんの拠り所になることは出来ると思うよ。今でも、彼女と連絡取り合ってるんだろう?』

 

『うん! この前もいろんな話をしたの! 新しい学校の話とか、親戚の話とか、御影町のこととか!』

 

 

 『まさか、志帆が2人の地元にいるとは思わなかった! 世界って案外狭いし近いよね!』と杏は笑った。僕は内心驚いた。鈴井志帆が親戚を頼って遠方へ転校した話は聞かされていたけれど、下宿先である親戚の家が御影町にあることは初耳である。

 しかも、彼女が通っている高校は聖エルミン学園高校――第1世代ペルソナ使い達の母校であり、【スノーマスク事件】の舞台だ。……あれから12年の月日が流れたが、時の流れは残酷らしい。鈴井志帆曰く、『校舎は近々立て直しが行われる予定となっている』そうだ。

 

 校舎が立て直されれば、【スノーマスク事件】を思い返す縁の一切合切が消えてなくなるのだろう。そうして事件は風化していく。

 

 確かにあの事件はヤバかった。あの事件が無ければ、僕はペルソナ使い達の戦いをなぞるような人生を歩むことは無かっただろう。数多の地獄に直面することもなかっただろう。

 でも、【スノーマスク事件】を乗り越えなかったら、僕は尊敬する先輩達と出会うこと無かった。巡り巡って、【怪盗団】の皆とも出会うことは無かった。

 結んだ絆をリセットするには惜しいと思うくらいには、僕は僕の人生(たびじ)に愛着を持っている。沢山の後悔に苛まれても、そう簡単に手放すことは出来そうにない。

 

 

『なんか、黎の親戚って、魔性が多そうなイメージがあるんだけど』

 

 

 僕が考え込んでいたとき、杏が藪から棒にそんなことを呟いた。何の脈絡もない話題転換に首を傾げつつ、僕は彼女に問いかける。

 

 

『……どうして、そう思った?』

 

『“他者の懐に入るのがうまい”っていうか、“人の心にきちんと寄り添ってくれる”っていうか……見守ってくれる感じがする』

 

『――“この人は絶対、自分を見捨てないで助けてくれる”?』

 

『そう、それ! だからみんな、“この人について行こう”って、“この人のために頑張りたい”って思うんだよ。それが、いつの間にか恋愛に発展していくこともあるのかもね』

 

 

 僕の指摘に対し、杏は納得したように手を叩いた。俺も否定することなく頷く。

 

 実際、黎の親戚――至さんと航さん、舞耶さん、命さん、理さん、真実さんには人を引っ張る、あるいは人を惹きつける不思議な魅力があった。気が付くと、チームの求心力になっていたことも1度や2度ではない。彼や彼女たちが中心となってペルソナ使いたちをまとめ上げ、様々な怪異を解決してきたのだ。

 確かに『神』の作為があったといえども、世界を救った人々を指揮していた才能と実力は本人のものである。有栖川黎という少女もまた、空元至、空元航、周防舞耶(旧姓:天野舞耶)、荒垣命(旧姓:香月命)、香月理、出雲真実の想いを受け継いで、ここに立っているのだ。その強さと在り方は、いつ見ても眩しい。

 

 彼や彼女に惹かれている人間は沢山いる。支えられた人間も、救われた人間も、想いを寄せる人間も沢山いた。コミュニティは多種多様に渡っている。

 きっと、黎に想いを寄せる人間はどこかにいるのだろう。黎の協力者の中にだって、黎に想いを寄せたり、救われたり、黎を慕ったりしている人物がいるのかもしれない。

 僕以外の人間を選んだ方が良かったのではないかと思ったことは何度かあった。僕が選ばれたことは何かの間違いじゃないか、とも。

 

 ――それくらい、僕が黎と一緒にいられることは“奇跡”だった。

 

 ジョーカーと共に在れる奇跡を噛みしめるような感覚は、元々は“彼”のものだったのかもしれない。

 “彼”の感情を通して感じてきたことであったとしても、僕の見解は変わらないだろうが。

 

 

『吾郎は凄いよね。誰もが惹かれる、我等がリーダーの心を射止めたんだもん』

 

『杏……』

 

『だから絶対、黎を悲しませるような真似しないで。――あの子を泣かせたら、絶対承知しないから』

 

『――分かった。肝に銘じておく』

 

 

 黎のことを大切に思っているという意味では、僕と杏は同志だ。

 握り拳を軽く打ち合いながら、僕は俺自身に誓いを立てた。

 

 ――そんなこんなで、日々は過ぎていく。

 

 

(……そういえば、凛さんが八十稲羽から上京して来るの、今日だったな)

 

 

 スマホ画面に映った日付を見て、僕はその事実に思い当たった。

 

 何の気なしに日付を見ていただけなのに思い出したのは、8月になってからテンション鰻登りな足立の様子――及び自慢話を聞いていたためだろう。その日が近づいて来る度、浮足立った姿を見せていたか。

 文字通りの頭お花畑っぷりに、冴さんからは『今の貴方は戦力外。さっさとイベント消化して元通りになって(意訳)』と投げやりに扱われていたし、“明智吾郎”すら忌々し気な眼差しを向ける始末だった。

 勿論、手放しで凛さんの来訪を楽しみにしているわけではないのだろう。足立の両親が不気味に暗躍している話は、足立本人や新島姉妹から耳にしている。何事もなく3泊4日が過ぎ去ればいいのだが。

 

 最も、丸一日足立のことを憂う程の仲ではないし、そんな義理もない。ただでさえ僕は多忙なのだ。出席日数稼ぎや密偵としての活動をこなすだけで手一杯、【怪盗団】の活動に顔を出せずにいるという状況である。あっという間に昼間の時間は過ぎ去った。

 用事がひと段落したのは午後3時過ぎ。太陽の光と真夏の暑さが容赦なく襲い掛かってくる時間帯である。実際、この時間帯は熱中症や日射病で体調を崩す人が多いのだ。気を付けなければいけない。自販機でスポーツドリンクを買い、ボトルのキャップを回そうとしたときだった。

 

 

「あ、明智先輩!」

 

「ご無沙汰してます!」

 

 

 僕に声をかけてきたのは、スポーツ用のジャージに身を包んだ芳澤姉妹だった。

 現在時刻と大きなバックを抱えている様子を見る限り、長期合宿からの帰りなのだろう。

 

 初めて芳澤姉妹と顔を合わせたのは4月の半ば――鴨志田が秀尽学園高校を自らの城と認識し、傍若無人に振る舞っていたときのこと。当時の姉妹はお世辞にも仲睦まじいとは言い難く、極端な言い方をするならば、“共依存”のような雰囲気が漂っていた。

 姉のかすみさんは『妹と一緒にオリンピックに出場し、メダルを獲得する』ことを夢見ており、その夢の邪魔になりそうな存在や出来事に対しては執拗に攻撃的だった。冤罪事件と鴨志田との対立によって遠巻きにされていた黎に対し、厳しく当たっていた姿は今でも覚えている。

 対して、妹のすみれさんは、姉から向けられる期待や夢に対して疲れ果てている印象があった。姉妹の夢を叶えるために努力は続けているけれど、心のどこかでは姉へのコンプレックスから諦観気味になっている。現実に打ちのめされてボロボロになっているのに、絶えず姉に手を引かれていたためだろう。

 

 今、こうして僕と向かい合うかすみさんとすみれさんは、どちらもいい笑顔をしていた。全てが充実していて楽しいと言わんばかりに。

 

 

「黎から聞いたよ。この前の大会で、姉妹揃って表彰台に立ったんだって? おめでとう」

 

「有栖川先輩から聞いたんですね。そうなんですよ! 特にすみれは自己ベスト更新したんです! 本当に、すっごくいい演技で!!」

 

「お、お姉ちゃんったら。……確かに練習頑張ったのは事実だけど、私が台乗り出来るまでになったのは、有栖川先輩のおかげだよ」

 

 

 僕が祝福を述べれば、かすみさんは満面の笑みを浮かべて妹の健闘を褒め称えた。すみれさんは照れくさそうに微笑みつつも、自身の努力を素直に認め、立役者となった黎への感謝を述べる。

 

 

「有栖川先輩がアドバイスしてくれたおかげで、私、自分の強みを見つけることができたんです。……本当に、有栖川先輩には頭が上がりません」

 

「今回の合宿は、成績が良い部員向けの強化合宿だったんですよ。あの大会で台乗りしたことで、すみれも選出されたんです」

 

「いっつもお姉ちゃんだけが参加して、私は自主トレすることが多かったなぁ。だから、あの合宿に参加する話が持ち掛けられたのが、本当に嬉しくて!」

 

 

 芳澤姉妹――特にすみれさんは、黎との交流を経たことで良い方向に変わりつつあるらしい。彼女の才能は著しく開花し、ようやく日の目を浴びたのだ。多くの人々がすみれさんの素晴らしさに気づき、注目し、正当な評価を下している。かすみさんはそれが嬉しい様子だった。

 さもありなん。芳澤かすみさん自身が、一番最初にすみれさんの才能を見抜き、信じてきたファン1号である。誰よりもすみれさんの可能性や素晴らしさを知っていて、それを多くの人に知ってもらいたいと願っていた張本人。ようやっと正当な評価がされるようになったすみれさんの変化を、我がことのように喜んでいた。

 

 この場に黎がいたら、彼女はこの姉妹にどんな言葉を贈ったのだろう。特に、かすみさんの威嚇から助けてくれたすみれさんへの想いは強そうだ。

 低迷期を超えたすみれさんの表情は晴れやかだった。多分、現実的に言えば、彼女の真価が問われるのはこれからなのだと思う。

 前途は未だに多難であるが、姉妹の笑顔を目の当たりにしてそれを口に出すのは野暮というものだろう。僕は敢えて沈黙することを選んだ。

 

 僕と芳澤さんたちは暫し雑談を続けていたが、それは彼女達の父親が迎えに来たことで終わりを迎えた。挨拶を交わして別れた直後、少し離れた場所から聞こえた声に足を止める。

 

 

「――貴女にも、『息子には金輪際近づかないで』と言ったじゃない!」

 

 

 壮年の女性の怒号。ヒステリックな金切声に釣られて、通行人達が何事かと足を止める。部外者である彼や彼女等が野次馬になるまで、早々時間はかからなかった。

 普段の僕であったなら、あまり気にせず通り過ぎていたかもしれない。僕が甘んじて野次馬になることを選んだのは、爆心地にいた人物の中に見慣れた女性達がいたからだ。

 

 1人は僕と瓜二つの外見が特徴的な少女・烏丸六花。もう1人は、銀色の髪を結った女性――足立が愛してやまない人である堂島凛さんだ。

 

 凛さんは烏丸六花を庇うようにして誰かと向き合っている。相手の顔を確認しようとして別角度から近づいて――僕は思わず息を飲む。2人にきつく当たっていた人物にも見覚えがあったためだ。

 僕が2人を始めて見かけたのは、冴さんと足立の2人と共同戦線を築いたばかりの6月頃。丁度、真が【怪盗団】との距離をぐっと縮めてきた時期だった。足立が『僕の財布が!』と叫んだ寿司屋の出来事。

 足立透の人格形成に影響を与えたであろう価値観――『ダイヤは僅かでも傷が付けば、価値が大幅に暴落する』――を掲げていた男女。足立が嫌悪しつつ、若干の怯えを滲ませていた相手だ。

 

 

(足立の両親だ……)

 

「何て卑しいのかしら!? あれ程までの手切れ金でも足りないというワケ!?」

 

「手切れ金なら、貴女方にきちんとお返ししましたよ? 勿論全額です。そもそもこの話は、お金で解決できる問題じゃないでしょう?」

 

「……はあ。全く嘆かわしい。里子()実子()も、女を見る目は節穴だったということか」

 

 

 足立の両親と真っ向からやり合っているのは凛さんだった。彼女は烏丸六花を自分の背に庇うようにして、足立の両親とやり取りを繰り広げている。

 

 断片的な情報を纏めると、足立の両親は凛さんに対して『纏まった額の手切れ金をやるから、足立と別れろ』と強要していたようだ。凛さんに庇われている烏丸六花も、足立の両親から類似の要求――『里子である暁との交際をやめろ』――を飲むようにと言われていたのかもしれない。

 足立の両親に押され気味な烏丸六花も、足立の両親とバチバチにやり合っている凛さんも、恋人と別れるつもりは毛頭ない。凛さんと火花を散らす足立の両親も、凛さんを息子、烏丸六花を里子から遠ざけたいようだ。双方ともに、自分の意志を曲げるつもりは無い。足立の母親が、烏丸六花に向かって金切声を上げる。

 

 

「母親のパートナーを誘惑した挙句、母親諸共相手を破滅させるような売女が、暁に相応しいと思ってるの!?」

 

「違います! 母が私に『あの男の相手をしろ』って強要してきて、だから――」

 

「どうだか。口先では何とでも言えるでしょうね! そんな風に憐れな女を演じて暁を誘惑したんでしょう!? 母子揃って汚らわしい女ね!」

 

「とぼけても無駄だ。キミの両親が離婚した原因が、母親の浮気であることは既に掴んでいる。親がクズなら、子どももクズということだ。――汚らわしい」

 

「っ……!!」

 

 

 夫妻から自身の母親のことを持ち出され、挙句の果てには汚物を見るような眼差しを向けられた六花は体を戦慄かせる。彼女の口ははくはくと小さく動いたが、結局何も言えなかったようだ。

 烏丸六花が実母とその恋人から虐待されていたのは事実だ。特に後者は、彼女に対して性的な奉仕を要求していた。【メメントス】で対峙した男の下卑た眼差しは、今でも色褪せることなく思い描ける。

 男――白井安考のシャドウがぶちまけた話の内容からして、『純潔が散らされていないだけマシ』な状況だった。しかも、その虐待を頻繁に行っていたことを自慢している節もあったのだ。

 

 足立夫妻が振りかざした言葉は悪辣だが、烏丸六花にとっては否定しがたい事実である。心の傷を抉られ、言葉に詰まってしまうのは仕方がないことだった。

 

 嘗ての僕も、彼女と同じ状況下に置かれたことがある。具体的に言うなら、“母が亡くなった直後”と“黎に冤罪を着せた真犯人の正体を知った直後”。故に、烏丸六花の気持ちが分かってしまった。母が獅童に捨てられた理由が『僕を身籠ったため』だったのも、母が僕を育てるために無理をして体を壊したのも、それが原因で若くして亡くなったことも、全てが事実だったから。

 責める側の気持ちも、分からない訳じゃない。“負の遺産を抱える人間が、自分の大切な人に近づいてきた”となったら、相手を追い払おうとするのは普通のことだ。そのための手段として、その話題/事実を引き合いに出すことは何もおかしな話ではない。相手の一番弱い所を突くというやり方は、目的を達成する手段として一番効率がいい方法である。

 

 でも、足立の両親がしていることは、善意の皮を被った悪意だ。里子である暁の将来を考えた末の行動ではない。奴らの行動原理にあるのは、里子の暁を“成功作”にすることだけ。

 そのためには、薄暗い過去と人間関係を持っていた烏丸六花が邪魔だった。『彼女の存在が、暁の付加価値を大きく下げる傷になる』と思ったが故の暴挙。当人達の人格を無視した所業だ。

 

 

「あの!」

 

 

 見ていられなくなった僕は声を張り上げた。

 

 

「事情はよく分かりませんけど、今の話はこの場でするようなモノではないと思います。まずは落ち着いて――」

 

「部外者は黙って頂戴!」

 

 

 しかし、足立の母親は僕を一喝した。周囲に感心を持てない程に激高している様子だった。

 形振り構わず強硬手段に出ようとする彼女を見て、凛さんは深々とため息をついた。

 

 

「幾ら私達のことに怒りを募らせていたとしても、貴女を諫めようとした人に八つ当たりするのはどうかと思います。そういう振る舞いこそ、透さんの価値を下げる行為だと分からないんですか?」

 

 

 凛さんは、敢えてこの物言いを選んだようだ。2人が交際している中でどのような会話を交わしたかは分からないが、彼女は足立の両親の発言――『優秀じゃなくなったから、もういらない』、『ダイヤモンドは僅かでも傷がつくと、宝石としての価値が暴落する』等――について、足立から聞いていたのかもしれない。

 

 足立の両親は足立や暁のことをダイヤモンドに例える物言いが多かった。ダイヤモンドは僅かでも傷がつくと、宝石としての価値が暴落してしまう。ダイヤの価値を下げるであろう傷の判定をするのは足立の両親で、足立や暁本人がその査定に文句を付ける権限はない。それ故に、夫妻が『価値無し』と判断すれば、それでお終い。クズとして『捨てられて当然』の扱いを受ける。

 僕はここで、アイツが身の上話をしなかった理由の断片に触れた気がした。“大学を出るまで支援をしてくれる両親はいるが、一度エリートコースから転落した瞬間、手塩にかけた息子を容赦なく切り捨てる程には冷え切った関係だった”という薄ぼんやりした想像に、生々しい現実が組み合わさった結果、足立とその両親の関係図がはっきりと見えてきたためだろう。

 『獅童と比較すれば明らかにマシな部類ではある』という見解はあっという間に崩れ去る。両親が揃って経済的な援助をしてくれようとも、『自分の思い通りにならない子どもは必要ない』ことを態度や言動で示すような奴等なんて御免だ。……アイツはアイツなりに、数多の地獄に直面し、その中で藻掻き苦しんできたのだろう。それこそ、僕では一生縁のない世界で。

 

 「ダイヤの価値を下げる程の傷を付けているのはお前達の方だ(意訳)」と言われた足立の両親が、凛さんの言葉に黙っていられるわけもない。

 母親は血走った眼で、父親は何処までも冷え切った眼で凛さん達を睨みつける。2人が次の標的として彼女を見出すのは当然のことだった。

 

 

「言うに事欠いてなんてことを! このアバズレが! 調子に乗ると痛い目を見るわよ!?」

 

「我々が透の傷になっているだと? よくもそんな妄言を吐けるな。大人しく身を引いていればよいものを」

 

 

 激高を通り越して怒髪天になった足立の母親が凛さんに掴みかかる。暴力的な手段に出た妻を止めることもせず、足立の父親は凛さんへ憎悪の眼差しを向けた。

 このままだと暴力事件に発展しそうな気配を察知した僕であったが、次の瞬間、凛さんは自身のスマホを2人へ突きつけた。画面には、足立透の名前と通話中の文字が表示されている。

 通話時間は2桁分。――恐らく、凛さんが足立夫妻と遭遇した直前直後から今の今まで、4人の会話は足立に筒抜けになっていたのだ。スピーカーモードになったスマホを示し、凛さんは静かに言い放つ。

 

 

「申し訳ありません。私、“誰かにとっての都合のいい子”になるのはとうの昔にやめたんです」

 

 

 この場にいる僕には、足立が今どこで何をしているかは分からない。だが、凛さんからの電話には即座に出るだろうことも、あのやり取りを聞いていたらすっ飛んでくることも予想できた。親しい間柄とは言い難い僕でさえそんな想像が出来るのなら、足立と親子関係である足立夫婦がそれに気づかぬはずもない。

 しかし、足立の両親の想像力はその程度止まりだった。息子が自分達にどんなリアクションを取るのかについての想像力は皆無だったようで、凛さんへの態度は変わらない。足立の母親は凛さんを突き飛ばすようにして距離を取ると、忌々し気に呪詛を吐き出す。

 

 

「卑しいだけじゃなく小賢しいなんて……。流石、虐待をでっち上げて親戚一家を破滅させただけあるわね!」

 

「全くだ。世話になった親戚一家を崩壊に追いやっただけでは飽き足らず、今度は透の人生まで破滅させるつもりか? 『長男の慰み者にされていた』という話も疑わしい――」

 

 

 足立の父親の罵倒は、それ以上続かなかった。凛さんの間に割り込むようにして飛び出してきた足立が、両親から彼女を守るかのように立ちはだかったためだ。

 

 

「――幾ら親子だろうとも、許せないことはあるんだ」

 

 

 余程急いできたためか、奴の息は切れていた。夏用の背広は着崩れしており、額にはじっとりと汗が滲んでいる。

 揺らめく陽炎を一際滲ませるかのように吹き上がるのは、足立が抱く憤怒の感情そのものだった。

 

 

「それ以上何か言うなら、只じゃあ済まさないぞ」

 

 

 「僕の職業が警察官ってことくらいは、知ってるだろ?」――足立の言葉に、奴の両親は一瞬訝し気に首を傾げた。程なくして、“職業柄、法律関係者とも付き合いがある”ことを思い出したらしい。

 

 今回のようなケースで当てはまりそうな案件は、脅迫罪か侮辱罪。衆人環境の前で言いふらすような調子だったことも考えると、名誉棄損も視野に入る。そして、奴と付き合いのある身近な人間からコネを辿れば、芋蔓式に“訴訟に強い弁護士”にも辿り着く。

 それだけではない。足立の職業は警察官。家族の恥が当人の出世と直結しているのだ。もしも足立の両親が罪に問われたり、訴訟でもされてしまった場合、足立の出世に響くことは確実。場合によっては足立へ懲戒免職処分が下される可能性があった。

 

 図らずも、凛さんが言った『ダイヤの価値を下げる程の傷を付けているのはお前達の方だ(意訳)』が当てはまる。分が悪いことを察した2人は、何も言わずにすごすごと退散していった。

 問題が解決したのを悟った野次馬たちは、蜘蛛の子を散らすようにして去っていく。凛さんは六花の方に向き直って何かを話し始めた。僕は彼女達に声をかけようとしたが、足立に阻まれる。

 僕が考えていたこと――足立の父親が凛さんに向かって『長男の慰み者にされていた』と言ったことの詳細が気がかりだ――を察知していたが故の行動であることは、奴の目を見ればすぐに分かった。

 

 

「僕は何も教えない。凛ちゃんにも、何も言わせない」

 

 

 怖くなるくらい真剣な眼差しだった。僕の首へマガツイザナギが武器を突きつけてきたような錯覚を感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。

 奴のペルソナであるマガツイザナギは、神話のイザナギとは別の選択をした――『イザナミと共に地獄に落ちる選択をした』場合の側面として顕現したのかもしれない。

 

 何も言えずにいる僕へ、奴ははっきりと言い放った。

 

 

「――あの地獄を知るのは、僕とあの子だけでいい」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 夏休みということもあってか、時間が過ぎ去るのはあっという間だ。

 本日の日付は8月21日。“メジエド”のXデー当日である。

 

 

「ねえ、〇〇銀行のATM止まったらしいわよ」

 

「日本の株価が下落し始めてるんだって」

 

「【怪盗団】、全然反応してないよ?」

 

「やっぱり、【怪盗団】にはサイバーテロ集団なんて止められなかったのか……」

 

「なんで【怪盗団】のせいで私たちが被害を受けなきゃいけないのよ!」

 

「明智くんの言う通りだったね。やっぱり、明智くんが正義だったんだよ」

 

 

 人々は好き勝手に噂を繰り広げている。特に、ついさっき僕とすれ違った女子高生は僕を讃えている様子だった。僕自身の立場が立場なので、彼女の言葉が滑稽に思えた。

 件の女子高生――名探偵・明智吾郎のファンを自負する連中も、好き勝手に噂を繰り広げる民衆たちも、誰1人として“僕が【怪盗団】のメンバーである”ことに気づいていない。

 それに、『銀行のATMが止まった』というのはガセだし、日本の株価が急落したのは“メジエド”の影響を恐れた資本家たちがバタバタしていたのが原因だろう。

 

 民衆はみな、自分で自分の不安を煽っているのだ。その不安を他者に伝染させることで、更に自分たちを不安に追い込んでいる。齎された情報が真実か否かを調べようともせずに、だ。堂々巡りと言う言葉がぴったりである。

 獅童が常々語る“愚かな民衆たち”という言葉がすとんと落ちてきて――それを、躊躇うことも違和感を抱くこともなく、すんなりと受け取ってしまった己自身に寒気を覚えた。自分の中に流れる血筋が悍ましいものなのだと再確認させられた。

 

 僕がそんなことを考えていたとき、花屋が目に入った。白い花を見て、僕は思い出す。

 

 

(そういえば、今日は一色さんの命日だっけ)

 

 

 航さんが久しぶりにウチに顔を出した後、徹夜明けでズタボロの身体を引きずってどこかへ出かけてしまっていたことを思い出す。最近は夏休みであるという前提の元、テレビ出演や取材の依頼、“メジエド”の件でバタバタしていたから、日付の感覚がおかしくなっていたのである。

 警察や検察庁も“メジエド”のテロを警戒していた。一介の高校生探偵であり、サイバー犯罪の知識は専門職以下である僕になど、お鉢は回ってこない。精々テレビや取材でのコメンテーターくらいしかできることはないだろう。今日の仕事は、そっちが中心であった。

 

 テレビ番組収録が終わり、僕はトイレに駆け込んだ。

 個室に立てこもるような形でSNSをチェックする。

 見ると、黎からメッセージが入っていた。

 

 

“双葉さんが意識を取り戻した”

 

“彼女は約束通り、“メジエド”を何とかしてくれるらしい”

 

“丁度そのタイミングで、風花さんも合流した”

 

“A時B分:ハッキング&クラッキング開始”

 

“C時D分:継続中”

 

“E時F分:継続中”

 

“G時H分:継続中。暇なので、双葉さんの部屋掃除を開始”

 

“I時J分:継続中。双葉さんの部屋掃除完了”

 

“K時N分:継続中。暇なので、アレンジコーヒーを作る”

 

 

 ずらりと並んだSNSのメッセージに、僕は目を丸くした。現在時刻はK時N分の15分過ぎ――もうすぐ夜の時間帯。僕が今出演していたニュースは生放送である。

 

 “メジエド”関連の生放送番組で僕が出演する番組は、先程のニュースで最後であった。今から駅に向かって電車に飛び乗り、自宅ではなく四軒茶屋に向かえば、黎と顔を合わせることができるかもしれない。

 そうと決まれば迷う理由はなくなった。僕は大急ぎで四軒茶屋に向かう。四軒茶屋に到着したのと、僕のスマホがSNSの着信を告げたのはほぼ同時。メッセージの送り主は黎で、内容は簡潔に一言――“ハッキング終了。“メジエド”討伐完了”とだけ。

 

 今までのメッセージを総合すると、『双葉が風花さんと組んで“メジエド”を退治した』ということになる。具体的に何をしたかを訪ねようとしたとき、更にメッセージが届いた。

 “双葉さんが再び眠ってしまったため、詳細を聞き出すこと叶わず。今日はルブランに帰還する”――僕の目的地は、佐倉家ではなくルブランに変更となった。

 現在時刻はルブラン閉店15分前。走ればぎりぎり駆け込める時間帯だろうが、一応、佐倉さんに連絡を取ってみることにする。程なくして、不愛想な返事が返って来た。

 

 

『お前さん、何の用だ』

 

「今からルブランに向かいます。そこで黎が来るまで待ちたいんですけど、大丈夫ですか?」

 

『構わんぞ。……そんな声で懇願してくるお前さんを追い返したと知れたら、アイツに恨まれるだろうからな』

 

 

 佐倉さんは呆れたような声でそう答えた。店主の許可を得たので、僕は礼を言って電話を切った。勢いそのまま駆け抜けて、ルブランの扉をくぐる。閉店3分前の駆け込み客――もとい、僕を見た佐倉さんは、特に文句を言うことなく店じまいの支度を整えていた。

 

 僕はカウンター席に座って時間を潰す。佐倉さんはカレーの仕込みを始めたようだ。程なくして黎が帰ってくる。彼女は僕を見て目を丸くしたが、嬉しそうに目を細めた。

 そんな僕らを見て、佐倉さんは何を思ったのだろう。「節度は保てよ」とだけ言い残し、煤けた顔をして去ってしまった。……どうやら、僕は釘を刺されたらしい。

 

 

「……そんなこと、注意されなくてもな。“悪い子”になる勇気なんてないのに」

 

 

 僕は自嘲する。俺にとって、有栖川黎は大切な女性(ひと)だ。そんな人を傷つけるような真似はしたくないし、実父と同じ轍は踏みたくない。

 奴と――獅童正義と同じ轍を踏むくらいなら、奴と一緒に心中した方がまだ有意義である。……黎に言ったら怒られそうなので言わないが。

 苦笑を浮かべる俺を見た黎は、どこか寂しそうに俯いた。けど、彼女はすぐ静かな面持ちで目を細める。僕の弱さを受け入れてくれたかのように。

 

 

「ねえ、吾郎。ココア飲んでく? この時間帯にコーヒーだと眠れなくなりそうだから」

 

「――うん。貰うよ」

 

 

 些細なやり取りに幸せを嚙みしめる。一緒にいられることに幸せを噛みしめる。

 どんな壁や困難も、彼女と手を取り合って立ち向かえることに幸せを噛みしめる。

 

 ――いつか、いつの日か、今以上に強固な繋がりを結ぶ日が来たらいい。……僕は、ひっそりとそんなことを思うのだ。

 

 

<……クソッ>

 

 

 “明智吾郎”が舌打ちした気配を感じる。流れ込んできた感情は、酷くぐちゃぐちゃなものだった。

 ()()()()()()()、『()()()()()()()()()()』、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 自分自身の罪で雁字搦めになりながらも、その願いと後悔を抱え続けた“彼”の叫びが木霊する。

 

 退路は既に断たれており、眼前に広がっているのは破滅の道だけ。誰も自分に手を差し伸べてくれなかったから、“彼”はずっと『そう』だと思って突き進んできた。

 だけど唯一、手を伸ばしてくれた人がいた。手を掴んでくれた人がいた。何もかもを概算度外視にした少女によって、“彼”の心は救われた。望んでいた幸福は、確かに手にすることができた。

 

 ――『()()()()()()()()()()()()』と思える理由も、【命のこたえ】も、確かに“彼”は持っていたのだ。

 

 たとえその末路が地獄であっても、愛した人を傷つけ泣かせてしまう答えだったとしても、悲劇的な終焉であったとしても、後悔はしていない。納得した上で選んだ――それは、“彼”のゆるぎない真実。確かに存在した覚悟の形。

 “彼”がその選択を下すまで――或いは、選んで盲進したその後も、“彼”が自覚していなかった分も含めて、沢山の葛藤が積み上げられてきたのだろう。文字通り、『見ないふりをしないと引きずり込まれそうになる』程度には。

 

 

<なあ>

 

<……何>

 

<“お前”って、“ジョーカー”が淹れたココア飲んだことある?>

 

 

 頭を掻き毟りたくなるような感情を流し込まれることに耐えかねた僕は、敢えて“彼”に話題を振ってみた。藪から棒に変なことを訊ねられ、“明智”は困惑顔を披露する。僕は“奴”をそっちのけにしてココアを飲んだ。

 

 ほろ苦くも甘く、優しい味が口の中一杯に広がる。好きな人が僕の為に用意してくれたそれは――例え既製品にちょっとしたひと手間を加えただけの物だったとしても――、とても嬉しい。

 “奴”は暫し僕を凝視していたが、いつの間にか沈黙していた。頭を掻き毟りたくなるような感情はピタリと止まり、郷愁めいた感覚が溢れてくる。……成程。問いの答えはYESらしい。

 

 

<目的や目標を決めたら、わき目も振らず、迷うことなく一直線。障害があるならありとあらゆる手段を講じて排除にかかる――そういうとこ、僕は本心から『凄い』と思ってるよ>

 

<だったら何だって言いたいんだ? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言えばいい>

 

<分かった。結論から言うと、『無理に捨てなくてもいい』と思う>

 

 

 <“ジョーカー”に想いを寄せていたこと、今でも“彼女”を好きでいること、“彼女”と一緒にいた時間は幸せだったこと、もっと一緒にいたかったこと>――指折り数えて僕は述べる。

 “明智吾郎”が丸喜拓人の作り上げた理想の現実を壊すために、ひいては僕の旅路を見届けて【曲解】を打ち砕く手段を手に入れるために、“彼”が見て見ぬふりをした多くのこと。

 葛藤する“ジョーカー”の背中を押すために、“彼”はそれらを火にくべた。“彼女”を前に進ませるために、『なかったこと』にしなければいけなかった。彼”は今でも、それが最適解と信じている。

 

 確かに最適解ではあっただろう。けれど、最適解を選んだからと言って、最良の結果を掴めるとは限らないのだ。 

 

 

<『向こう側』の達哉さんが都合の悪いモノと向き合おうと思ったから、『こちら側』の世界は滅びずに済んだ。――なら、“キミ”にも当てはまりそうだよね。その法則>

 

<“僕”にとっての都合の悪いモノが、今キミが挙げた事象だって言いたいのかい? それで、“僕”がそれから逃げていると?>

 

<迷わず最適解を選べるってことは、取捨選択の判断が速いってことだろ。だから、どれだけ葛藤していたとしても、『目標達成に都合が悪い』という理由で“切り捨てる”ことができてしまう。……それって、過激な言い方をすれば『都合の悪い現実から目を背けてる』ってことに繋がるんじゃないかな、と>

 

<――――!!>

 

 

 くわ、と、“彼”の目が大きく見開かれた。彼の口元が大きく戦慄いた後、榛色の双瞼に憎悪の色が乗る。

 しかし、そのタイミングで僕がココアに口を付ければ、途端に泣きそうな顔へと変わった。

 

 

<……そんなくだらない理由で、“僕”は負けたって言うのか? なんだよ、なんだよそれ……!>

 

 

 水面が揺らめく。“彼”の姿が、心の海の底に広がる闇の中へと溶けていく。

 

 

<――そんなの、丸喜の奴と変わらないじゃないか……!!>

 

 

 血反吐を吐くような悲鳴を残し、“明智吾郎”は引っ込んだ。

 ……僕達はお互いに、言葉や意見を交わす時間が必要なのかもしれない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 メジエドXデーを越えた8月22日。

 

 

「メジエドのHPが、何者かのハッキングを受けたらしい」

 

「ホームページには【怪盗団】のマークが表示され、日本人男性の個人情報が掲載されていたそうだ」

 

 

 検察庁は大騒ぎだった。勿論、僕も冴さんから呼び出しを受けた。

 冴さんはギリギリと歯を食いしばりながら、悔しさを口にする。

 

 

「どいつもこいつも私たちを無能呼ばわりし、民衆は【怪盗団】を義賊と讃える……! ああもう、どうしてうまくいかないのよ!?」

 

「……冴さん、一端落ち着いてください。でなきゃ、まともな議論もできませんよ」

 

 

 怒り狂う冴さんにコーヒーを渡すと、冴さんは少しだけ落ち着いたようだ。「ありがとう」と礼を述べ、渋い顔つきのままコーヒーを啜る。

 とりあえず、僕は『佐倉惣治郎には、被保護者である佐倉双葉に対する虐待の痕跡は一切なし(だから諦めてください)』という結果を記した書類を手渡す。

 

 

「……そうよね。あのマスターが、虐待なんてするわけがないわ」

 

「冴さん……?」

 

「幾ら情報が欲しいからと言っても、アレはやりすぎだわ。『違法捜査である』と検察庁宛にクレームが来てもおかしくない……」

 

 

 冴さんは僕の予想と反して、すんなり結果を受け入れていた。それだけではない。「切羽詰っているといえ、私は何をしているのかしら」と言って、自己嫌悪に陥っている。

 ……それもそうか。対象者を常に怒り狂わせていたら、流石に周囲の人々も違和感を抱くだろう。智明もそれを理解して、適度に人の精神を弄り回しているのかもしれない。

 その結果が、今の冴さん――自分の暴走に自己嫌悪する姿なのだろう。自分が迷走していることを自覚したが故に、彼女の心は余計に追い詰められているようだ。

 

 

(悪質なやり方だ)

 

 

 獅童智明の顔を思い浮かべる。()()()()()()()()()が、奴は涼しい顔をして笑っていた。

 自分を追いつめる存在を逆に利用し、追い詰めていく……なんて卑劣なやり方だ。僕は心の中で舌打ちする。

 

 

「気持ちも落ち着いたところで、昼食の時間ですよ。まずは腹ごしらえです」

 

「そうね。腹が減っては何とやらと言うし、ここは真が作ってくれたお弁当を食べて英気を養いましょう」

 

 

 珍しく弁当を持って来た足立の言葉に同意して、冴さんは机を片付けた。程なくして、重箱クラスの大きさの包みが机の上にドンと置かれる。

 『弁当箱の大きさは愛情のバロメーター』なんて話を耳にしたことはあるが、真と冴さんの間に関しては間違っていないだろう。

 その辺の幕の内弁当もびっくりなお弁当を広げた冴さんは、優雅に昼食を食べ進める。おかずを口にする度「真のお弁当は世界一」と言いながら噛みしめていた。

 

 

「新島検事が羨ましいなぁ。東京に来てなかったら、僕も今頃は……」

 

「真も忙しいときは、作り溜めた料理を冷凍したものを解凍してつめるわよ? それに貴方、この前、恋人の料理食べたんでしょう? 作り立てホヤホヤのやつ」

 

 

 凛さんが作り溜めた料理を冷凍したもの――今日はロールキャベツだ――を自然解凍し、更にそれをレンジで温め直したものを口に運ぶ足立の表情は晴れない。獅童に引っ張り出されて栄転する羽目に陥らなければ、足立は凛さんと同棲を始める予定だった。凛さんが作った料理に舌鼓を打つ生活を送っていたはずの人間だったのだ。

 哀しい現実に耐えかねて愚痴を零した足立であるが、リア充話に巻き込まれた冴さんの態度は厳しい。僕、足立、冴さんの3人組の中で、冴さんだけが彼氏無しの独身である。恋愛に対する価値観や優先度が低めの冴さんからしてみれば、とてもどうでもいい話なのだろう。……最も、僕と足立も、冴さんの真自慢に巻き込まれているからイーブンなのだけれど。

 

 ――そんなことを考えていたとき、ふと、僕の脳裏に思いついた単語があった。

 

 現在の冴さんは、比較的、正気に近い状態下にある。なら、もしかしたら。

 僕のイメージする周防刑事が、ワクワクした様子でこっちを見ている。

 

 

「“真貯金”」

 

 

 ――次の瞬間、冴さんが凄まじい勢いで首を動かした。

 

 真と同じ色彩の瞳が、「何故(赤の他人である)明智くんが知ってるの!?」と言いたげにこちらを映し出している。

 途端に、僕のイメージする周防刑事が拍手喝采した。彼は「分かる。分かるぞ新島検事!!」とうんうん頷く。

 

 

「…………明智くん」

 

「知り合いの人に、弟の名義で給料の一部を貯金している人がいるんです。この前まこ――新島さんと話したとき、丁度その人の話題になって。『冴さんも“真貯金”をやってそう』だなって盛り上がったんですよ。……まさか本当にやってるとは思いませんでしたけど」

 

 

 冴さんは目を丸くした。「その人とは分かり合えそうな気がするわ」と語った冴さんは、とても穏やかな表情を浮かべる。そんな横顔を見たのは久しぶりだった。

 獅童智明の介入を断ち切れば、冴さんも本来の気質を取り戻すだろう。だが、問題は、“冴さんのシャドウがどこにいるか”という点だ。

 大衆の牢獄【メメントス】か、僕らが【改心】させてきた大物――獅童関係者と同じように、【パレス】が存在しているのか。それだけで、冴さんを助け出す段取りは変わってくる。

 

 前者であれば、【メメントス】で冴さんのシャドウを探し出し、シャドウを撃破することで解放することができるだろう。しかし、後者になると難易度が上がる。冴さんの【パレス】の場所とキーワードを割り出さなくてはならないからだ。

 

 仕事が終わったら、スマホで冴さんの名前を入力してみようかと考えていたときだった。

 獅童から受け取った仕事用のスマホに着信が入る。僕は内心舌打ちしながら、冴さんに断りを入れて電話に出た。

 

 

「はい、もしもし」

 

『仕事だ。智明が、若者向けの【怪盗団】関連特番に出る。生放送だ。お前も来い』

 

「……分かりました」

 

 

 “【怪盗団】がメジエドを黙らせた”という大ニュースを、メディアが放置しておくはずがない。各局が【怪盗団】特集を始めるのも、【怪盗団】のライバルとして表舞台に立つ僕がメディアに吊るしあげられるのは当然のことだった。

 明智吾郎という高校生探偵は“【怪盗団】を敵対視する智明のシンパ”だ。おそらく、僕は智明共々、各方面から激しいバッシングを受けることだろう。僕が言うのも何だが、民衆の心は非常に流されやすい。

 

 実際、ネットではかなり大騒ぎになっている。【怪盗団】の信者たちがお祭りの様に書き込みを続けていた。同時に、僕に対するアンチも大量発生している。

 人から敵意や悪意を向けられることには慣れていた。母が亡くなり、僕を誰が引き取るかでモメていた親戚たちから向けられたものと変わらない。

 街の外に出るだけでも、悪口や影口を叩かれることだろう。贈り物というお題目で、変なもの(一例:カミソリレター)が贈られてくる可能性もある。

 

 

(――さて、『白い烏』の腕の見せ所だ)

 

 

 僕は自分自身に言い聞かせながら、大きく深呼吸した。

 

 丁度そのタイミングで、“明智吾郎”がこちらを窺うようにして顔を出す。

 僕の前に出てきたということは、何かしらの覚悟を決めたのかもしれない。

 

 

<昨日は取り乱して悪かった。取引相手への態度という点でも、問題だったと思ってる>

 

 

 “彼”の表情は何処かぎこちなくて固まっている。理由は分からないか、酷く緊張している様子だ。

 ……と言っても、僕がそれに気づけたのは、“心の海を通じて僕と“彼”が繋がっている”ことが理由である。

 第三者が今の“彼”の表情を見たら、どことなく不遜な態度を取っているように見えるだろう。

 

 “明智吾郎”が緊張している――しかも、態度も言葉も慎重に選んでいるだなんて、傍目から見ていた人間では予想できないはずだ。それくらい、“彼”の鉄仮面っぷりは徹底している。

 カメラが回っていない場所でもセルフプロデュースを頑張って来た証拠だろう。本職の面々からの手ほどきを受けた僕ですら届かない。職業柄という単語で片づけていいレベルではなかった。閑話休題。

 

 

<あれから、1人で色々考えてみたんだ。……明確な答えを得ることは出来なかったけどね>

 

<でも、昨日の取り乱し様からじゃ想像できないくらい、いい顔してる。糸口を掴むことは出来たんだ?>

 

<まあ、そんな感じかな>

 

 

 “明智吾郎”は小さく頷き返した。榛色の双瞼は、遠い過去へと向けられる。

 

 

<……“僕”は長らく、1人で決断を下してきた。“僕”の周りには有象無象しかいなかったし、いたとしても“僕”を食い物にしようとする奴等だけ。人生を切り開くためには、躊躇う猶予は無かったんだ>

 

 

 “彼”は母都市に別れた後、親戚達に盥回しにされてきた。『穀潰し』と罵られたこともあれば、『中学を卒業後は働け』と強要してくる者もいた。誰かに搾取され続ける人生から脱却しようと足掻く“彼”の足を引っ張る者もいた。最も、“彼”が結果を出した途端、掌を返して『優秀なキミを援助したい』と言い寄って来たのだが。

 勿論、掌を返して近づいてきた連中の目的は金一択。超有名進学校に入った“明智吾郎”のことを『金のなる木』認定した結果であろう。奴等の言うことに僅かでも耳を傾ければ最後、搾取対象として見出されて踏み躙られる。それは、親戚の手を振り払った後――復讐のための下準備として飛び込んだ芸能界や警察・検察、もしくは政治の世界――でも変わらない真理だった。

 ほんの一瞬の逡巡が、“自身”の破滅に直結する。即座に最適解を選べなかったら、誰かに飼い殺しにされる人生へと引きずり込まれてしまう。そう思ったが故に、“明智吾郎”には悩む暇はなかった。“自分”が切り捨ててきた選択肢やそれに付随する感情を、振り返って悼む時間は残されていなかったのだ。即断即決が出来ないことが自らの破滅と結びついていたから。

 

 それ以外の相手――“ジョーカー”と出会っても、“彼”は自分が積み上げてきた考え方を変えることが出来なかった。今更復讐を止めること等出来なかった。

 手を止めてしまったが最後、“己”さえも裏切ってしまう。他でもない“自分自身”にまで裏切られてしまったら――本当の意味で、何もかもを失ってしまう。

 

 

<本当の意味で『“僕”を最後まで見捨てず、裏切らないでくれた人間』は“ジョーカー”だけだった。だからせめて、“彼女”とは対等の関係でいたいって思った。……弱音を吐いたり、情けない姿なんか見せたくない。最後まで、“あの子”の好敵手として相応しい存在で在りたいと願ってた>

 

<…………>

 

<……本当は、誰かに自分の本音を話すの、得意じゃないんだ。弱味を見せるのも、甘えるのも、誰かの手を借りたいと言うのも、好きじゃない。付け込まれる隙になるからね>

 

 

 泣かないこと、我慢できること、弱音を吐かないこと、常に完璧であること――“明智吾郎”が自分自身を守るために得た強さだ。己諸共、自分と対峙する誰かを欺くための仮面。

 けれど、それが“彼”の首を絞めた。“彼”が丸喜さんに負けた原因となった。覚悟を貫くために捨て去ったものは、“彼”が見たくなかった都合の悪い現実だ。

 

 “彼”はもう一度、それを拾い集めようとしている。ただ、捨ててきたものが膨大過ぎて、何から手を付ければいいのか分かっていない。それでも1人で向き合おうとしている様子だ。――そう、1人で。

 

 

<僕がこんなこと言うのはお門違いだと思う。けど、1つ言っていい?>

 

<聞くだけ聞くよ>

 

<“キミ”と僕って、共犯者だよね?>

 

 

 僕の問いかけを聞いた途端、“彼”は目を丸くした。何度か瞬きを繰り返した後、眉間の皴を数割増しにしてため息をつく。

 “ジョーカー”以外の人間に対する関心が薄かったのと、何事も1人で解決せざるを得なかったが故の悪癖だろう。

 馬鹿を目の当たりにしたと言わんばかりに頭を抱える“明智吾郎”に対し、僕は尚も言い募った。

 

 

<共犯を持ち掛けた相手に遠慮してどうするの。共犯者って言うのは、相手を巻き込んでナンボだろ?>

 

<……“僕”、キミのそういうとこ嫌いだ>

 

<それはどうも。――で、どうするの? “キミ”は、共犯者である僕を置き去りにするの? そうだとしたら、何のための共犯関係なのか分からくない?>

 

<もういい。そこまで言うならやってやる。“俺”との取引関係が続く限り、お前にはとことん付き合って貰うからな!!>

 

 

 言い募り続けた結果、“明智吾郎”はやっと開き直ることが出来たらしい。誰が見ても「憎たらしいな」と思うような悪い笑みを浮かべて宣言した。

 

 

 

***

 

 

『【怪盗団】がメジエドを潰したのか、【怪盗団】のシンパが潰したのかは、俺にとっては正直どうでもいいんです。どちらも犯罪者集団であることには変わりませんから』

 

『一番の問題は、奴らが好き放題しているのを野放しにしている警察機構や日本政府の対応ですよ。国民は不安で震えていたというのに』

 

『明智くんはどう思いますか? “警察や検察庁に出入りしているキミですら、【怪盗団】の動きに気づけなかった”ということに関して、意見が聞きたいのですが』

 

 

 若者向けの生放送討論番組で、怪盗団VS“メジエド”事件の顛末に関する発言を求められた獅童智明の内容だ。奴は別番組で獅童が主張していたことをそっくりそのままリピートし、僕に投げかけてきたのである。

 討論番組が始まる前に『暫くキミに苦労を掛けることになるが、俺に力を貸してほしい』と声をかけられたのだが、奴の発言を聞いて理解した。警察や検察庁を出入りしている僕を、上手い具合にスケープゴートにするつもりなのだ。

 奴は【怪盗団】反対派の急先鋒である態度を貫きつつ、責任の所在を警察や内閣に求めることで、民衆の興味関心をスライドさせている。10代後半から20代前半の若者で構成されたコメンテーターは“警察や検察および僕への批判”という点に関しては、面白いくらい智明に同調した。

 

 【怪盗団】支持派の面々は、現代社会に強い不満を持っている人々だ。警察や法律、政府が悪を野放しにしていることに対し、憤りを感じている。

 だから、それらが手を出せない/野放しにしている悪党を次々と【改心】させていった【怪盗団】を“現代の義賊”と称賛しているのだ。

 

 そんな人々に対して“今の政府は腐ってる。根本的に改革しなければならない”と持ち掛ければ、同調するのは当然だ。

 

 【怪盗団】反対派にして警察や検察側と関わりが深い“正義の探偵・明智吾郎”の仮面を被りながら、僕は冷静に考えていた。「獅童正義が俺に利用価値を見出したのは、こうやって僕を“使い捨てるため”だったのだ」と。

 獅童正義が最低な大人だということは、随分昔から分かっていた。頭ではきちんと理解していた。けど、心のどこかではずっと、父に必要だと言って欲しかった。認めてほしかった。褒めて欲しかったのだ。――獅童智明と同じように。

 

 

「お疲れさまでした、智明さん」

 

「お疲れさま、明智くん。……今日はすまないね。あんな役回りをさせてしまって」

 

「構いませんよ。これも、獅童先生による世直しのためですから」

 

 

 罰が悪そうにする智明であるが、やはり僕は奴の顔を()()()()()()ままだ。僕は“正義の探偵・明智吾郎”の仮面を被りながら微笑んでみせた。

 

 本当は、僕に対する罪悪感など微塵も抱いていないくせに。嘗て母をゴミ同然に切り捨てたように、僕のことも“智明の身代わり”として切り捨てるつもりのくせに。

 獅童智明に向けられるはずの悪意を受け止めるスケープゴート――それが、明智吾郎に与えられた価値。獅童正義が、僕という人間に見出した役割だった。

 

 

(……畜生……ッ!!)

 

 

 血の繋がった親に愛されたい――そう願うことの何が悪いのだろう。黎だって、竜司だって、杏だって、ちゃんと親から愛されているじゃないか。

 血の繋がった親から愛された証拠が欲しい――そう願うことの何が悪いのだろう。祐介だって、双葉だって、愛されていた証があるじゃないか。

 血の繋がった家族から愛されたい――そう願うことの何が悪いのだろう。真だって、ちゃんと家族から愛されているじゃないか。

 

 鞄を握る手に力を込めて、やるせない気持ちをやり過ごす。頭では誰よりも獅童の思考回路を熟知しているのに、「もしかしたら」なんて無意味な期待を抱く自分の馬鹿さ加減に反吐が出る。決して手に入らないものを見て駄々をこねるガキみたいな自分もまた、頭の中がお花畑になっていそうで腹立たしい。

 僕の気持ちなど知ってか知らずか、智明は迎えに来た神取と一緒に車に乗り込んで去っていった。神取は私設議員秘書だけでなく、運転手も兼ねているらしい。元セベクのCEOがそんな有様になっていることに、僕は一抹の寂しさを感じていた。神取も、死後に運転手としてこき使われる羽目になるとは思わなかっただろう。

 

 

「明智くん。キミ宛に手紙が来てるよ」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

 

 関係者から、ファンレターと銘打たれた手紙が入っている紙袋を手渡された。それを受け取り、僕はテレビ局の外に出る。

 多くの人々がごった返す雑踏を歩いていると、四方八方からひそひそ話が聞こえてきた。

 

 

「明智っているじゃん? あのウルサイ奴……」

 

「さっきの生討論番組でも出てきたな……」

 

「イチャモンばっかりつけてるよね……」

 

「【怪盗団】が悪党とか、そんな訳ないじゃん!」

 

「必死過ぎてダサくない?」

 

 

 精神を抉りに来る発言だ。それでも、僕は耳を傍立てる。冷静に、冷静に。――人々の噂話に違和感を覚えたためだ。

 

 【怪盗団】否定派としてメディアに取り沙汰されていたのは、獅童智明と明智吾郎の2人である。それにも関わらず、人々から派手にバッシングされているのは()()()()()()1()()である。【怪盗団】が正義であると信じる人々にとって、獅童智明もまた、アンチ対象であるはずだ。

 しかし、いくら耳を傍立てて精神をすり減らしても、【怪盗団】信者による獅童智明アンチは()()()()()()()()()()。奴は何度もメディアに顔を出しているのにだ。――流石にこれは不自然である。人心掌握術やコネ等に長けた獅童が手を回したにしても、智明だけ無事でいられるはずがない。

 以前、智明を見た至さんが言っていたことを思い出す。『智明もまた、『神』――十中八九悪神の方――の関係者である』と。航さんも言っていた。『ある日突然、智明の母方の家――五口家の話題が出てきた』と。……“『神』の化身が人間の中に紛れ込む”例は、至さんが証明しているではないか。

 

 “()()()()()()()()()()()()()()()、“()()()()()()()()()()()()()()()()

 人間には決してできないそれは、『神』の所業としか言いようがない。獅童たちは、そんな御業を操って立ち回っている。

 

 

(獅童智明の顔を()()()()()()ことこそが、“奴が『神』の関係者であることの証明”だったとして、だ。智明には一体、何の役目が与えられたんだ……?)

 

 

 認知世界に干渉できる人間は、【怪盗団】を除くと3択に分かれる。

 1つ目は嘗て『神』に打ち勝ったペルソナ使い。

 2つ目は僕らがまだ見ぬペルソナ使い、もしくはペルソナ使いの適合者。

 3つ目は『神』によって生み出された化身たち。

 

 僕は獅童智明を2つ目のタイプだと認識していた。でも、もし、奴の正体が3番目であるならば――ある意味で、“獅童は『神』から力を得た”と言っても間違いじゃない。

 

 

(獅童の背後に『神』が潜んでいるのは明らかだ。……十中八九ロクな理由じゃないことは明らかだが、『神』は獅童に――あるいは【怪盗団】に、一体何をさせたいんだ?)

 

 

 僕がそんなことを考えていたとき、僕のスマホが鳴り響いた。SNSを確認する。【怪盗団】のグループチャットからだ。

 “双葉が【怪盗団】に参加することが決まったが、本人の人見知りが激しく、意思疎通がなかなかうまくいかない”とのこと。

 仲間たちで協議した結果、『日替わりで【怪盗団】メンバーとの交流を図る』ことにしたらしい。真曰く、かなり荒療治になるそうだ。

 

 佐倉さんには『双葉に夏の思い出作りをする』と言っておいたらしい。それぞれの予定を確認し、双葉と交流を持つ日付を決めている最中だという。

 

 僕の予定を確認してみると、27日までスケジュールがびっしり埋め尽くされている。“メジエド”関連の特集番組や取材を、獅童によって突っ込まれたためだ。

 【怪盗団】VS“メジエド”の決着がついて1日が経過した時点で、【怪盗団】を悪党とみなした僕にこれ程までのアンチがつくのだ。……28日まで、僕は無事でいられるだろうか。

 

 

真:吾郎は? いつなら空いてる?

 

吾郎:27日まで予定がびっしり。番組特番や取材が入ってて、解放されるのは28日以降かな。

 

黎:今まで【怪盗団】を否定していた人々に対して批判が相次いでいるからね。吾郎も表向きは【怪盗団】否定派だから、吊し上げも兼ねているんだろう。

 

吾郎:どっちかって言うとスケープゴートかな。僕の他に【怪盗団】を否定してた奴がいただろう?

 

杏:確か、獅童智明だっけ? 高校生で政治家の卵って騒がれてる、獅童の息子。

 

黎:彼に向かう筈のヘイトを、すべて吾郎に押し付けるつもりでいるのか。

 

双葉:もう既に押し付けられている最中のようだ。ネットでは大炎上してるぞ。

 

祐介:釈然としないな。吾郎も俺たち【怪盗団】の仲間だと言うのに……。

 

真:表向きは敵対してるとはいえ、仲間があんな風に吊し上げられているのを見ると心が痛いわね。

 

竜司:俺、さっきの討論番組見たぞ。何で吾郎ばっかり責められなきゃいけないんだよ!?

 

杏:ホントよね! 見ててすっごく腹立ったもの! 鞭で調教してやりたいくらい!!

 

吾郎:竜司、杏。お前ら、絶対俺のアンチに喧嘩売ったりするなよ。絶対だからな。

 

黎:私も番組見たよ。かなり酷いこと言われてたから心配なんだ。辛そうな顔してたし。

 

吾郎:そうかな?

 

黎:そうだよ。吾郎本人は上手くごまかしたつもりかもしれないけど。

 

 

 ――悟られてる、と思った。僕は苦笑する。

 

 

吾郎:参ったな。黎は全部お見通しか。

 

黎:何年恋人やってると思ってるんだ。舐めないでほしい。

 

吾郎:不甲斐ないや。もうちょっと頑張れると思ったんだけど。

 

黎:辛かったら、いつでもルブランに来なよ? 話聞くし、実験台でいいなら、コーヒーやココアも淹れるから。

 

吾郎:分かった。閉店時間過ぎになるかもしれないけど、大丈夫?

 

黎:惣治郎さんに許可取っておくから。

 

吾郎:ありがとう、黎。

 

黎:至さんにも相談しなよ。きっと心配すると思うから。

 

吾郎:分かった。

 

 

杏:おふたりさん。そういうのは、個人でやってほしいかなぁ。

 

真:2人とも、【怪盗団】共用のチャットであることを忘れないでね。

 

双葉:(*ノωノ)ウワァァァァァァ!!

 

祐介:?

 

 

 チャットを切り上げる。先程まで打ちひしがれいた僕の心は、酷く晴れやかな気持ちだった。

 また悪癖が出た。獅童の愛情なんかよりも価値があるものを、僕は既に持っていたじゃないか。

 大丈夫。俺は大丈夫。黎がいる。みんなもいる。だから平気だ。何もかもが。――そう、信じられる。

 

 世界のすべてが敵に回っても、僕の味方で居てくれる人がいるのだ。黎もいるし、【怪盗団】の仲間たちもいるし、信頼できる大人たちだっている。

 だから、今度は俺だって、みんなの味方でありたい。何があってもどんなことがあっても、大切な人たちを守れるような人間でありたい。

 

 

<……よかったじゃないか。お前の帰る場所はここにあるんだから>

 

 

 いつの間にか、“明智吾郎”が僕の隣に立っていた。寄り添うには少し距離があって、他人にしては近い立ち位置にいる。

 

 

<“僕”にはもう居場所はない。“僕”の世界で展開している丸喜の【曲解】が破られれば、恐らく“僕”は死ぬんだろう>

 

 

 <でも>、と、“彼”は付け加えた。

 

 榛色の双瞼は、眩く輝く星に向けられているのだろう。

 禄でもない現実で出会い、“彼”が愛した唯一の女性(ヒト)に。

 

 

<還りたいと思う場所がある。最期に見たい景色もある。最後に居たい場所もある。『僕は幸せだった』と――『好きだ』と伝えたい相手だっているんだ>

 

<……そっか。それじゃあ、何としてでも帰らないとね>

 

<当然だ。そのためにも、“僕”はキミの旅路を最後まで見届けなきゃいけないんだよ>

 

 

 “彼”は僕の肩を軽く叩いた。そのまま“彼”の姿は僕の視界から掻き消えたけど、気配はずっと傍にある。心の海の繋がりも切れていない。

 立場と世界が違えど、僕等は志を同じとする烏。唯一の番を愛し、番を想うが故に空を駆る。愛する人を勝利に導くために飛ぶのだ。

 

 

(負けてなんかいられない。大事な人を守るための、『白い烏』なんだから)

 

 

 僕はまっすぐ、自宅へ向かう。

 今はとても、足取りが軽かった。

 

 

 

 

 

 ――因みに。

 

 

 

「吾郎。贈り主不明でお前宛にヤバいもんが届いてたから、保健所に届けといたぞ」

 

「……因みに聞くけど、何が来た?」

 

「モルガナと非常によく似た黒猫の死骸」

 

「クソが!!」

 

 

 この日のうちに、自宅に嫌がらせが発生したらしい。メディアや取材では住居を明かしていないはずなのに、どこから漏れたのだろう。

 至さんの話を聞いた後だと、“明智吾郎宛のファンレター”一式の入った紙袋も中々に怪しく感じる。俺は半ば戦々恐々としながらも、自室で袋の中身を確認した。

 

 中身はすべて手紙である。ありとあらゆる罵詈雑言が書き殴られているのか、それともカミソリでも仕掛けられているのか、もしくは虫の死骸でも入っているのか。

 憂鬱な気持ちを噛みしめながら、俺は1通目の手紙に手をかけた。結果、左手指がざっくりと切れて出血した。1通目からカミソリがヒットしたらしい。

 案の定、本日のリザルトは以下の通り。カミソリレター16通、呪いの呪文が書かれた手紙が8通、小さな藁人形が4つ、蝶の死骸が大量である。

 

 

「至さん、絆創膏頂戴」

 

「ノーデンス、メシアライ――」

 

「そこまでしなくていいから!」

 

 

 嫌がらせの品々は、後日きちんとお炊き上げしてもらった。尚、全部送り主不明である。

 

 

 





『烏って、死期が近くなると身を隠すんだってね。烏の死骸が残らないのも、それが理由だって聞いたことがあるよ』


 “僕”のコードネームに因んだ話題として、“ジョーカー”が持ち出してきた話を思い出す。
 そんな話を聞いた“僕”も、“あの子”のことを猫と例えたことがあったか。


『猫も死期が近づくと身を隠すんだ。確か、弱った姿を見知った人々に見られることを嫌うためだったかな?』

『そういう話を聞いてると、猫と烏って似てるよね。『弱った姿を他者に見られたくないから身を隠そうとする』所が』


 ――他愛のない話だった。どこにでも転がっているような、些細な日常会話の1つ。

 でも、どうしてだろう。アイツを取引相手として見出してから、ジャズバーで荒垣真次郎の懺悔らしき忠告を耳にしてから、“彼女”へ思いを馳せる度にその会話を思い出す。
 “僕”が知っている“ジョーカー”は、正義を貫く大胆不敵な怪盗だった。“僕”が知っている“あの子”は、超が付く程のお人好しで、底抜けに優しい人だった。
 “どちらの彼女”も、誰に対しても分け隔てなく同じような顔を見せていた。獅童の命令で“あの子”をずっと監視していたから――“僕”の意志で“彼女”を見てきたから、確証を持って言える。

 ……そう、はっきりと言えたのだ。言える程の関係を築けたと自負していた。ライバルとしての自負も、恋人としての矜持も、揺らいでいない。
 それなのに、何か引っかかる。上手く言えないけれど、とても大切なことを見落としているような気がしてならないのだ。


―――

今回のお話は夏休み後半戦。流れはリメイク前とほぼ同じですが、ちょくちょく追加修正されたシーンが沢山あります。魔改造足立の恋人VS足立の両親による睨み合い⇒魔改造足立乱入、魔改造明智と“R軸丸喜敗北END明智”の会話がそれですね。
あとがきSSはどこかで聞きかじったお話を引っ張り出して来ました。『烏の死体が残らない』という話を聞いた後、無印軸及びR軸明智のアレコレを見るとエモさとしんどさを感じます。そこまで一緒にしなくてもいいじゃん……。
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