Life Will Change -Let butterflies spread until the dawn-   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5系列<無印、R、(S)>、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 名前:空元(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 名前:霧海(むかい) (りん)(旧姓)⇒影時間終了後の巌戸台で出会った少女。現在の本名や詳細については中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。オリキャラ同然になっている人物もいるので注意してほしい。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『Life Will Change』をR・S・グノーシス主義要素を足してリメイクした作品。あちらを読んでいなくとも問題はないが、基本的な流れは『ほぼ同一』である。
・ジョーカーのみ先天性TS。名前は有栖川(ありすがわ)(れい)
・徹頭徹尾明智×黎。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空元(そらもと) (わたる)⇒有栖川家とは親戚関係にある。南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 キタロー:香月(こうづき) (さとし)⇒妻・岳場ゆかりが所属する個人事務所の社長であり、シャドウワーカーの非常任職員。気付いたらマルチタレントになっていた。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。

・一部の登場人物の年齢が、クロスオーバーによる設定のすり合わせによって変動している。

※過激な描写がある。
※過激な描写がある。
※過激な描写がある。

※フィクションと現実を混同しないでほしい。
※フィクションと現実を混同しないでほしい。
※フィクションと現実を混同しないでほしい。


A Lone Prayer -Dream of Butterfly- Ⅱ
フラグメントⅠ:警察官<孤影の姿>


 宮代(みやしろ)詩織(しおり)は、嘗て珠閒瑠市管内の警察署に勤務していた警察官である。

 珠閒瑠市が“噂が本当になる町”と呼ばれていた頃、その町では沢山の怪異事件や汚職事件が頻発していた。

 前者は【JOKER呪い】、後者は現職大臣である須藤竜蔵絡みである。どちらの事件も、詩織にとっては因縁深いものだった。

 

 宮代詩織には弟がいた。名前は宮代拓也(たくや)で、現在――今年は西暦2011年だ――生きていたら30代の前半となっていただろう。しかし、弟の命は無残に散らされてしまった。

 

 当時の時点で、犯人に見当はついていた。現職大臣・須藤竜蔵の息子、須藤竜也。七姉妹学園高校の3年生であったが、ある時期から素行不良……もとい、精神異常が目立っていたという。『教師によって変な実験に協力させられたことから、言動がおかしくなった』や、『父親からの家庭内暴力に悩まされていた』等の情報もあったか。

 弟の事件――そこから須藤竜蔵の汚職疑惑を探っていたらしい――を熱心に追いかけてくれた警察官がいたが、彼は懲戒免職処分を受けてしまう。件の警察官とは何度か交流を重ねていたけれど、どう考えても、彼が懲戒免職に相当する犯罪を犯す人間とは思えなかった。だから、詩織は警察官を志したのである。弟の仇を打つために。

 

 

(……あれからもう、5年が過ぎたのね。――京都に来て丁度3か月、か)

 

 

 詩織は窓の景色を見つめる。眼前に広がるのは、都会でありながらもどこか風情と伝統の色合いが滲んだ京都の町並みであった。

 

 現在、詩織は京都府警に勤務している。『珠閒瑠が浮いた』という都市伝説が流れた騒ぎが収まった頃、異動話が持ち上がったのだ。詩織は自らの意志で珠閒瑠を離れることを選び、辞令を受けた。

 あの町を嫌いになったわけではないし、あの町で起きた出来事から逃げ出したかった訳でもない。……ただ、今の自分が珠閒瑠に留まり続けたら、悪い意味で過去に捕らわれてしまうと思ったのである。

 今年になって、詩織は京都府警へとやって来た。赴任してから日は浅いものの、それなりに充実した日々を送っている。あの頃と比較すれば、良くも悪くも『自然と昔のことを忘れてしまう』ことも増えた。

 

 

(“達哉くん”、元気かしら)

 

 

 詩織が思いを馳せる相手は、周防達哉という青年であった。……と言っても、それは、少しばかり複雑である。

 

 宮代詩織が思いを馳せている周防達哉は、警察官になって活躍する彼ではない。5年前の珠閒瑠市で出会った青年である。彼は不思議な力を宿しており、それを行使して異形たちと戦っていた。達哉が戦っている姿を偶然見つけた詩織は、彼を自分の住むマンションへと招き入れたのだ。以後、詩織は彼に拠点として自宅を提供した。

 丁度その頃、詩織は【JOKER呪い】の真犯人を捕まえるため、自分自身に【JOKER呪い】をかけていた。正直な話、警察官としての責務だけで動いたと言い切る自信はない。弟・拓也を死に至らしめた犯人を捕まえられない自分に嫌気がさしていたし、仇をとれなくて疲れていたのも事実だった。自身の命を囮に使ったのは、自殺願望もあったのかもしれない。

 後に達哉は詩織の元を去った。詩織も【JOKER呪い】の餌食となり、須藤竜蔵のお膝元であった研究機関で人体実験を施された挙句、異形となってしまったらしい。詩織が意識を取り戻したときには、既に“何もかもが終わった後”だった。達哉の関係者から『彼は二度と帰ってこない』と告げられたのだ。

 

 関係者の言葉は本当で、“詩織が知っていた周防達哉”とはもう二度と会えなかった。詩織の前に現れた達哉は、珠閒瑠で発生した事件のことに関する記憶をすっかり無くしてしまっていた。

 ただ、彼の影響はほんの少し残っていたのだろう。達哉は今までの素行不良を改め、兄や父親と同じ刑事となったそうだ。彼の情報は、時折、兄の克哉から齎されている。

 

 

「異形が絡んだ事件を率先して追いかけているのは、“達哉くん”の影響なのかしらね。周防刑事……」

 

 

 断片とは言えど、詩織も怪異事件に首を突っ込んだ1人だ。その影響なのか、異形の気配を感じる事件に対して、ある程度の見分けがつくようになった。

 ……と言っても、その事件を詩織が解決できるはずがない。怪異事件に詳しく、且つ対抗できる力を持っている人間から見れば、詩織は一般人と同等なのだ。

 情報をくれる克哉からは、「一般人でも異形関係の事件を経験しているため、ある程度の対策に見当がつくために助力をしている人がいる」らしき噂を耳にしたか。

 

 彼らが今、どのような事件と対峙しているのかは分からない。詩織を含むその他大勢にとっては“平穏な光景”にしか見えないだけで、実際は地獄絵図が広がっている危険性だってある。

 

 達哉の後輩たち――異形と戦うための術を持った少年少女――のために、詩織ができることはそう多くない。警察官としての地位はそこそこだから、精々多少の便宜を図るくらいか。……彼らの役に立つか否かは分からないし、そもそも達哉の後輩にあたる人間が“誰なのか”すらもよく分かっていないけれど。

 もっと言うならば、怪異事件の舞台として京都が選ばれる可能性だって不確定だ。詩織が赴任している期間中に発生するか否かも分からないし、詩織が京都を離れた後に発生することもあり得る。現実的に考えれば、詩織が再び怪異事件の渦中に飛び込むことは難しい。

 

 

(……拓也のことも、“達哉くん”のことも、私は忘れられないまま……)

 

 

 前に進んでいると思っていた。あの事件のことはもう既に、過去として偲べるようになったと思っていた。真正面から向き合って、悼むことができるようになったと思っていた。

 それでもまだ、忘れられないまま。まだ捕らわれたままなのだと、詩織は嫌でも自覚している。――でも、想い続けることはきっと間違いじゃない。忘れられないことは、罪ではないのだ。

 

 

(――あ)

 

 

 眼下の光景に、詩織は思わず目を留めた。

 

 子どもを連れた女性が、署の玄関で誰かを待っていた。程なくして、1人の男性が弾丸のように飛び出してくる。黒髪を肩まで伸ばし、眼鏡をかけ、ワイルドな無精髭を生やしたスーツ姿の男性であった。彼の姿を視界に捕らえた少女がぱああと表情を輝かせ、駆け寄っていく。男性は少女を愛おしげに抱き上げた。それを見た女性も、嬉しそうに微笑む。

 ……成程、あの2人は男性の家族らしい。窓の近くを通りかかった警察官たちが「長谷川ん()の家族か」や「羨ましいなあ。綺麗な嫁さんと可愛い盛りの娘さんがいて」と呟き、仕事へ戻っていく。どこにでもある、微笑ましい光景だ。理想的な家族像をそのまま具現化したと言ってもいい。見ていて微笑ましい気持になり、詩織も口元を緩ませる。

 嘗ての詩織にも、家族の光景があった。須藤竜也によって滅茶苦茶にされて以来、詩織にとってはあまりにも縁遠い光景になってしまったように思う。当時は『その光景を滅茶苦茶にした犯人を捕まえて、弟の仇を取る』ためだけに邁進していたため、正直な話、『無辜の人々の幸せな光景を守る』という意識は薄かった。

 

 達哉との別れと、珠閒瑠からの旅立ち。そうして5年という年月を経て、詩織はようやく、『無辜の人々の幸せな光景を守る』ことを意識できるようになった。

 “これ以上、詩織と同じ哀しみ背負う人間を増やさないため”に、詩織は何ができるかを考えられるようになった。あの事件に一応の区切りができたから、余裕ができたんだろう。

 

 

「……よし、頑張ろう」

 

 

 詩織は自分に言い聞かせるように呟き、歩きだした。

 亡くした者は戻らないけれど、救える人、救うべき人は存在しているのだから。

 

 

 

*

 

 

 

 最近の京都は物騒だった。詩織が所属している少年課や刑事課等が、同一人物を追いかけているためである。

 

 

『頼みを聞いてくれたら、3万円払うって言われたんだ』

 

『あの家の住人とちょっと話をしたり、周囲にある空き家とかの写真を撮るだけだって。……まさか、強盗殺人の片棒を担がせられるなんて思わなくて……』

 

 

 件の犯罪者は空き巣と強盗殺人で手配されていた。犯行を行うためならば、無辜の人々――特に未成年を利用することだって厭わない。しかも、片棒を担がされた未成年は皆、京都の中でも名門と謳われる学校ばかりだ。中には東京の名門学校へ進学を控えていた者もいる。『自分の人生が懸かっているとなれば、余計なことは言えないだろう』という魂胆だ。

 未成年を引き込む以外でも、指名手配犯のやり口は非道であった。奴は犯行現場に鉢合わせした人間を軒並み殺傷している。若い女性に至っては、“死ぬよりも酷い目”に合わせていたらしい。……聞くだけで胸糞の悪い話であった。過去の憤怒と憎悪が湧き上がってきたのは当然といえよう。被害者の仇を取るために、これ以上被害を増やさないために、詩織は捜査に邁進した。

 

 

『お願いだあ! こいつを、こいつを助けてやってくれ! ――幾ら何でもあんまりだァァァ!!』

 

 

 ――そのクソ野郎が出頭してきたのが、つい数時間前であった。

 

 顔の穴という穴から液体を垂れ流した指名手配犯は、パトロール中だった宮代詩織に全てをぶちまけた。自分が指名手配犯であること、犯行動機や犯行時のアレコレを泣きながら語った。

 『出頭するつもりなんか微塵もなかったんだ』とハッキリ言い切ったクソ野郎は、べそべそ泣きながら映像媒体と記録媒体を差し出した。『男が女に酷いことされてる』と言いながら。

 尚、奴が自首する対象として宮代詩織を選んだのは、『男に酷いことしている女とは正反対のタイプだった』ことと、『詩織なら女を止められると思ったから』らしい。閑話休題。

 

 そいつの身柄を送り届けた後、関係部署の面々で証拠映像及び記録媒体に目を通した。――結果、今、眼前に地獄絵図が広がることとなった。

 

 婦女暴行――特に、性的暴行――に関する証拠資料を見て、気分を悪くしたり、生理的不快感及び嫌悪感を抱く女性警察官はいる。被害者と同じ『女性』という観点から資料を見るため、どうしても他人ごとに思えないのだ。感情がこみあげてしまい、取り乱すのは致し方ないことだろう。

 だが、女性警察官の大半は、映像や資料にドン引きしていた。取り乱して情緒不安定になっているのは男性警官ばかりである。彼らは総じて顔を真っ青にして、吐息のような悲鳴を零していた。最近補導した少女の「屈強な男だって幼女になるんだ」という発言が脳裏をよぎったのは致し方ないことだ。

 

 どうして男性警官が取り乱しているのか――答えは“加害者が女性で、被害者が男性”だったためだ。

 

 

「ひどい」

 

「むごい」

 

「もうむり」

 

「たすけて」

 

「この前押収した証拠品よりやべぇ」

 

「お前たち、気をしっかり持つんだ!」

 

 

 死屍累々と言っても過言ではなかった。正気を失いかけた男性警官の集団を目の当たりにするのは、詩織にとっても初めてのことである。

 正気を失った群衆なら珠閒瑠で見たことがある。それで鍛えられたことによる耐性があったおかげか、面々の中で比較的冷静を保っていられた。

 

 一般的な情報を思い返す限り、『性的なアレコレに対して強い欲を持っているのは男性側』というイメージが強い。他にも、『異性の裸を見たら十中八九興奮するのも男性側』という印象もあったか。

 

 しかし、そんなものは只の思い込みに過ぎない。男性側が消極的なことだってあるし、女性の裸を見ても興奮しない男性だっている。マイノリティ側とみなされやすいが、男性でも“一般的な印象”と真逆のタイプがいるのだ。女性側に『性的なアレコレに対して強い欲を持っている』人間がいるのはおかしいことではない。

 女性に対して卑劣な狼藉を働く男がいるならば、男性に対して卑劣な狼藉を働く女がいることだって充分あり得るのだ。勿論――今回の話では関係ないが――、それが成り立つなら、同性に対して卑劣な狼藉を働く輩もいて当然であろう。……ただ、今回の資料が、今まで見てきたアレコレよりも、斜め上にかっ飛んでいただけで。

 

 

「もう嫌だァァ……! 葵ちゃんと茜のいるお家に帰りたい……!!」

 

「しっかりしろ長谷川! これ終わったら帰れるから! 終わったら暫く休暇取ろうな!!」

 

 

 一番取り乱していたのが長谷川という警察官であった。彼はしきりに妻と娘の名前を呼んで「帰りたい」を連呼する。彼らの会話から又聞きして得た情報だが、ここ暫く署に缶詰めだったことも理由だろう。

 

 長谷川氏が愛妻家で親馬鹿であることは周知の事実であった。特に彼は、自分の妻にベタ惚れである。幼馴染同士、長い間愛を育んで結婚したらしい。そのため、時々、当時の名残――あるいは、彼本来の地――が出て妻を「葵ちゃん」と呼んでしまうことがあるようだ。そんなギャップが受けたのか、一部の関係者(ファン)からはひっそり愛されているとかいないとか。

 唯一残念だと思うのが、「自分はイケオジである」と頑なに主張するところだろうか。詩織の知っている限りで、何らかの愛称や肩書等を自称している人物が“それに当てはまる人間”だったケースは非常に珍しい。正直、詩織の見立てでは――大変失礼なのは理解しているし、本人に対して真正面から言うつもりはないが――、“世話焼きのオッサン”が関の山だろうか。

 長谷川氏の評判は耳にしているし、遠巻きから彼の姿を見たことがあった。その面影は、嘗て拓也の事件や須藤竜蔵の汚職事件を追いかけていた周防刑事――克哉や達哉の父親――を連想する。息子との仲が拗れても、彼は息子のことを信じ続けていた。すべてが終わった今もきっと、達哉や克哉のことを信じ続けるのだろう。長谷川氏も、きっと彼と同じタイプなのだ。今は大分参っているけど。

 

 幼児退行や精神崩壊一歩手前になっていた男性警官たちも、どうにか落ち着きを取り戻したらしい。早速裏取り調査の段取りを始めた。

 長谷川氏も「葵ちゃん」連呼をやめ、妻のことを「葵」と呼び捨てるようになったあたり、彼も正気に戻ったのだろう。詩織はひっそり安堵した。

 

 

(この事件が片付いたら、久々に珠閒瑠へ戻って墓参りをしようかしら……)

 

 

 心を整えるため、詩織は一端現実逃避をした。脳裏に浮かんだのは、忘れられない青年2人。

 須藤竜也に奪われた拓也の笑顔と、ここから去ってしまった“達哉”の寂しそうな横顔だった。

 

 

 

*

 

 

 

 ――尚、指名手配犯が持ってきた証拠資料は、日の目を見ることはなかった。

 

 

「大丈夫です。僕、彼女と結婚するので」

 

 

 被害者――丸喜拓人側に、『自身が被害者である』という意識が微塵もなかったためである。

 被害者側がそう判断しているのならば、被害届を出す等の意志が無いのは当然であった。

 ……ある意味『丸喜拓人は助からなかった』とも言えそうだが、最早、誰も何も突っ込まなかった。

 

 

 

 

 

「――なあ、聞いたか!? 【怪盗団】の予告!」

 

「ああ。東京では大騒ぎになってるらしいからな」

 

 

 東京で発生した【改心事件】及び【心の怪盗団】の騒ぎは、爆心地である東京から離れた京都でも話題になっていた。

 直接何かできるわけでもないのに、多くの警察官や一般市民が【心の怪盗団】の動向を注視している。

 それは、9年前の珠閒瑠で怪奇事件に首を突っ込んだ経験がある宮代詩織も同じであった。

 

 珠閒瑠の事件に関わった詩織は――勘ではあるが――、『【怪盗団】に関する一連の事件は、“周防達哉と同じ力を持っている人間”が関わっている』ことに気づいていた。『【怪盗団】こそが、“周防達哉”の後輩である』と確信していた。方法や方向性は違えど、怪盗団は異形と戦う運命にあるのだと。

 周防刑事兄弟が【怪盗団】絡みの事件で協力を要請されていたことは、噂で聞いていた。彼らが東京へ引っ張られたということは、『“周防達哉”が振るった力が無ければ、相手/【怪盗団】に対抗できない』ことを意味している。彼らにとって【怪盗団】が敵だったならば、【怪盗団】は既に壊滅させられていただろう。

 

 

(でも、【怪盗団】は未だに健在。獅童正義への改心予告が流れているのに、周防刑事たちは動こうとしない。これが意味するものは――!!)

 

 

 詩織はテレビを見上げながら、ぎゅっと手を握り締めた。

 

 9年前のあの日、詩織は自分を助けてくれた“達哉”に対して何もできなかった。命がけで自分を助けてくれた周防刑事や天野舞耶に対し、礼を言うだけで精一杯だった。今だって、詩織は蚊帳の外にいる。

 それでも、詩織は知っていた。人ならざる者の力を行使する悪党から無辜の人々を守るため、不思議な力を行使して立ち向かう人々がいることを。彼らが命を懸けて戦ったからこそ、世界が救われたことを。

 

 

(……頑張って、【怪盗団】)

 

 

 警察官が、法を犯して人の悪事を暴くような連中を応援することは間違っている。

 でも、【怪盗団】が“周防達哉”の後輩であるなら、【改心事件】には何らかの意図があるはずだ。

 故に詩織は、【怪盗団】を信じる。あの日の青年を思い起こさせるような活躍をする彼/彼女らを信じている。

 

 

 

 

 

 

 20XX年、8月のこと。

 

 

「詩織さんは、怒らないんですか?」

 

 

 少女の問いかけに、詩織は首を傾げた。

 

 

「茜ちゃんは、どうしてそう思ったの?」

 

「だって私、警察官の娘なのに、【怪盗団】を応援してるから……」

 

 

 少女――茜は俯きがちに言葉を紡ぐ。

 

 茜の母親がひき逃げに合ったのは、丁度2年前のことだった。しかも、ひき逃げ事件は彼女の目の前で発生したのである。茜は犯人の顔を見ており、ひき逃げ犯のことを証言した。警察官たちに対しても、「必ず犯人を捕まえて」と訴えたのだ。

 だが、茜の証言は握り潰された。茜が犯人だと言った男は有力な政治家で、警察関係者に圧力をかけてきたためだ。それでも、茜は訴え続けた。茜の父親である警察官も、娘の証言を信じて犯人を追いかけ続けた。自分が捜査から外されても、彼は諦めなかった。

 

 それから暫くして、1人の男が自殺した。茜が犯人だと主張した大物政治家の秘書。『茜の母親をひき逃げしたのは自分である』という彼の遺書が発見され、被疑者死亡で幕を閉じたのである。

 秘書の遺族は彼の遺書を信じたらしく、憔悴しきった様子で謝罪に訪れた。遺族の中には、明らかに人為的な怪我をしている人や、精神的に追い込まれていた人たちだっていた。

 大人も子どもも、女性も男性も、みんな険しい顔をしていた。『悪いことをした人間の関係者なのだから、断罪されるのは当然なのだ』と諦めきった顔をしていたのだ。

 

 

「お父さんがおかしくなったのも、ちょうど同じ頃だった。……急にやる気を失って、お母さんの事件を追いかけることもやめちゃった」

 

「茜ちゃん……」

 

 

 泣きそうな顔を浮かべる茜の表情は、拓也の事件に直面した当時の詩織とよく似ていた。

 思わず、詩織は茜の名前を呼ぶ。茜は堪えきれなくなったのか、絞り出すように喉を震わせた。

 

 

「――私には、もう、お父さんしかいなかったのに……!!」

 

 

 詩織には、茜の気持ちが痛いほど理解できた。

 

 権力者の圧力に屈した警察等、最早何の役にも立たない。権力に屈せず戦おうとしていた唯一の希望も、結局、悪党によって摘み取られてしまった。愛する人を奪った犯罪者は今ものうのうと生きている。何不自由なく普段通りに生活し、一切の罰も下されない。事件は奴らの手によって葬り去られ、何事もなかったかのように世界を動かしている。

 宮代詩織は、『我慢できなくて立ち上がった』人間だ。警察は弟を殺した犯人を捕まえられないし、正義を貫こうとした警察官は汚職事件をでっちあげられて、警察を辞めなければならなかった。もう誰も、拓也の無念を晴らせる人間はいなくなってしまった。――だから、宮代詩織は警察官になった。『誰も犯人を捕まえてくれないから、自分で仇を討つ』ために。

 その果てに自分がどうなったのか、詩織はきちんと理解している。仇をとれない自分の無力さに心を削り、復讐を成し遂げられない事実に疲れ果て、最後は仇によって異形にされてしまった。――目の前にいる茜は、あの頃の詩織と瓜二つである。だからこそ、彼女には、詩織と同じ轍を踏んでほしくない。踏ませるわけにはいかないのだ。

 

 彼女の父親は、京都にいない。警察庁の公安部に出向しているためだ。

 噂では、『【怪盗団】の【改心事件】を追っている』ようだが、真偽は定かではない。

 

 

(今の私に、できることは――)

 

 

 珠閒瑠の出来事を思い返しながら、詩織はゆっくりと口を開いた。

 

 

「――ねえ、茜ちゃん」

 

「何ですか?」

 

「私が警察になったのは、弟の仇を取るためだったの」

 

 

 




「僕と黎は、一時期珠閒瑠に住んでたんです。それで、舞耶さんや達哉さんと一緒に事件を追いかけてたことがあって……」


 宮代詩織は確信した。
 『彼らが、“周防達哉”の後輩にあたる人間たち』だと。


――

珠閒瑠から京都に赴任した、とある女性警官のお話。尚、珠閒瑠を離れてから10年目に、再び怪異事件に遭遇・“彼”の後輩たちと邂逅する模様。

後、足立の代役に関するアンケートが終了しました。
奴は名無しのまま進めていきます。回答ありがとうございました。
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