––––痛みの伴わない教訓には意義がない。
人は何かの犠牲なしにはなにも得ることができないのだから。
ならば俺は、何を犠牲にしたのだ?
俺は『力』を得る為に、一体何を捨てた?
その何かは、俺にとっては大切な物ではなかったのか?
……これは、その『答え』を探し出す物語。
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4月10日、晴れ
『…間もなく日本空港に到着いたします。シートベルトをお締めになっていない方はお早めに–––』
「……グゥ、グガァ…」
「……おい、起きろ。もう着くぞ」
「グケッ…!?……んあ?」
横から肩を叩かれて、俺は意識を覚醒させる。そして上がり切らない目蓋を擦り辺りを見渡した。
少し暗めに設定された照明。通路で乗客の安全確認をしている女性乗務員。窓の向こうでは下の方で雲がぷかぷかと浮遊している。
ふむふむ、成る程。
「まだ着いてないから寝る。おやすみ」
「馬鹿野郎」
「ぐぎっ!?」
今度は頭に軽めのチョップを受けました。ありえんわぁ、これは暴行罪で訴えなければ。
「アナウンスを聞いていなかったか?あと数分で日本に到着だ」
「クカァ……」
「だから寝るなと言ってるだろうが!!」
「どふっ!?」
痛い……今度はうなじをチョップされた…。畜生、俺の『死角』に座り込んでるからって調子乗りやがって……。
「時差ボケなのはわかるが、シャキッとしろシャキッと」
「そんな無茶苦茶な…」
だってあそこから日本まで約8時間も時差あるもん。えっとだから……今何時だっけ?
「なぁ先生、今何時?」
「む?えーっと今は……丁度10時半だな」
先生が右腕に付けた腕時計を直接見せてくれた。
ほうほう、今は10時半か。となるとそこから8を引いてみると……午前2時半か、成る程。……って、まだ夜中じゃねえか。それじゃあシャキッとなんか出来ねぇよ。まだ夢の中に居座ってるわ。
「ハァ〜眠い〜寝たい〜」
「パラシュート無しのスカイダイビングをしたいなら別に寝てもいいが?」
おっとぉ?先生つまり俺を窓を突き破ってポイ捨てしようとしてます?いけないなぁ、ポイ捨てはしちゃ駄目だって習わなかっ……あ、やばい。めっちゃ睨まれた。うん、これ以上この話題を上げないようにしよう。
「あの、すみません……機内ではお静かにお願いします」
「え?……あ、あぁこれはすまない」
おっとっと、ついつい騒ぎ過ぎてしまったようだ。……いやでもこれは先生が俺に攻撃したのが悪いよ。日本に着いた時に起こしてくれればいいのに。確かに今謝まったのは先生だけど、その謝罪を俺にも––––
「
「ブフッ」
……ん?ちょ、ちょっと待ってくれ。今この乗組員さん、親子って言ったか?
「え?わ、私何かおかしな事を……?」
「い、いや……なんでも…ク、ククッ…!」
「え?え?だってそちらがお子様で、貴方がお父さ…」
「アハ、アハハハ!!」
……お、俺がお子様?
「す、すまない大丈夫だ…!行ってくれて構わんよ……フフッ…!」
「は、はぁ……」
は?は?は?ちょっと待てや。あの人誤解したまま行ったんだけど?え、ちょっ、ま……
「お前が……お子様とは……やはり身長が…クフフッ……!!」
「あ"?」
カッチーン。はい、俺もう怒りました。
「……先生先生」
「な、なんだね?……あっ」
右手を握って広げて握って広げて……うん、ちゃんと動く。やっぱり先生が整備士でヨカッタナー。
「スカイダイビング、してみようか、先生」
「まっ、待て待て!!謝るから!!今の謝るから!!だから右で窓割ろうとするなぁぁぁ!?」
嗚呼、今の俺めっちゃ笑顔なんだろうなぁ。ハハッ、サイコー。……っと、太陽さんはいつにも増して輝いてんねぇ。やっぱり雲の上にいるからかな?
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ある商店街の一角。そこには小さなパン屋があった。その名は『山吹ベーカリー』。商店街では匂いも旨味も評判で、長年、街の人々によって愛されていた。
「いらっしゃいませー!」
そんなお店で働く少女。名を山吹 沙綾。このお店を経営する山吹家の立派な長女である。
「さーや〜、おはよう〜」
「あっモカ!今日は何にするの?」
店内に入ってきたのは、常連客である同い年の少女の青葉 モカ。お気楽な口調で入店した彼女は、入り口付近のトレイとトングを両手に持ってどんなパンを買おうかと吟味する。
「ふむむ〜、いつもながらにして悩みますなぁ。今日のおすすめはありますか〜?」
「あはは、モカは食いしん坊だからなぁ。えっと今日のおすすめは–––」
「沙綾ー?時間大丈夫なのー?」
モカに今日の出来立てのメロンパンを勧めようとすると、店の奥から彼女の母の千紘が呼びかけた。そんな千紘に促され、彼女は店内の時計に目を向ける。
時計は10時45分を指していた。
「あー、ちょっとヤバいかも…」
予想以上に時計が進んでいる事に焦りを感じつつ、彼女はエプロンの紐を解きながら店の奥へと消える。店の奥では両親が丹精込めてパン生地を作り込んでいた。
「ごめん、行ってくる!」
「はーい、頑張って!」
「気をつけるんだぞ、沙綾」
彼女は事前に用意していたバックを背負い、両親に手を振ってパン工房から立ち去る。
「あ、モカ。メロンパンが焼きたてだからね!」
「はーい行ってらっしゃーい」
最後にモカに言い忘れていた事を伝えて店を飛び出す。
「すぅ……ふぅ」
春の暖かな陽気を一身に浴び、乱れかけた呼吸を整える。
「よしっ!」
気持ちを一新に彼女は春の風が吹く道を走り抜ける。待たせてしまっているであろう、大切な仲間の下へと。
そんな彼女の頭上で飛行機が着陸態勢を作って飛行していた。
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「はぁ…予定より20分遅れてしまった…」
「はぁ……耳がまだキンキンしてる……」
えー、ただいま俺たちは空港のバス停前にてバスの到着を待っております。いやーでもホント、係員の人、説教長すぎるわ。ったく。
「元はと言えばお前の責任なのだからな?お前が機内であばれようと……」
「あーあー聞こえなーい。耳がキンキンしてて聞こえないやー」
「お前なぁ……!?」
耳がキンキンしてるって言ってるのにこの人は……。それに、深く掘り下げていけば俺をお子様扱いしたこの人がいけないだろ。さらにいけばあの乗組員が元凶だし。俺が悪いところ一つもないやん。はー萎えるわぁ。……って。
「……先生?そんな睨まないで下さいよ」
「……」
なんかめっちゃ視線感じるなぁと思ったら先生がめっちゃ睨んでた。いやもう先生の顔が般若のお面被ってる時並みに怖いんですけど?なに、謝れって事?……しょうがないなぁ。
「分かりましたよ、すいませんでしたお騒がせして!」
「……はぁ、こんなのではこの先真っ暗闇だ……」
は?どのツラ下げてそんなこと言ってんだ?元はと言えば先生が……と、いかんいかん、怒りで我を忘れそうになってしまった。平常心平常心。
「……っと、バスが来たか」
「おっ、ホントだ」
そんなこんなで、11時30分着のバスが到着した。流石空港前のバス停。バスの流れが早くて助かる。
「それでは行くか。そっちの荷物を頼む」
「うえーい。……って、大きい方頼みやがったなこの野郎…」
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ある街の一点。そこには学生に人気のライブハウスがあった。その名を『CIRCLE』。大ガールズバンド時代の今、それに拍車をかけるように学生……強いて言えば女子学生に絶大な人気を誇っている。
そんなCIRCLEの一部屋にて、これまた学生達に絶大な人気を誇るガールズバンドが汗水を流していた。
「……少し休憩を入れましょう」
「えぇ、そうしましょう」
「ふぇー疲れたー……」
「あこ、もう腕がパンパン……」
「あこちゃん……これ、冷えたタオル…」
彼女達の名前は『Roselia』。vo.湊 友希那を筆頭に一年ほどに結成されたバンドである。だが結成から月日が浅いと侮るなかれ。彼女達は数々の大会に出場しては、会場の観衆達の心を虜にしてきた実力派バンドなのである。それ故に、彼女達の熱狂的なファンは数が知れない。
そんな彼女たちは、ある大会に向けてより一層練習に磨きをかけていた。
「FWF予選まで、残り二ヶ月…」
給水をしながら友希那は目標の日時が刻一刻と迫っていることを再確認する。
彼女達の目的それは
最初は友希那個人の目標ではあった。だが、結成してからの濃密な一年により、その目的はやがてRoseliaとしての目標に変わっていった。そしてその過程で各々が確固たる成長を感じている。
今年こそは……と昨年の雪辱を果たすために。友希那は内心で心を滾らせていた。
「あっそうだ!アタシクッキー作ってきたんだ☆」
「わーっ!リサ姉のクッキー!」
すると、友希那の幼馴染でありRoseliaのBa.担当の今井 リサが鞄からクッキーの袋を取り出した。
「はい友希那!」
「いつもありがとう、リサ」
どういたしまして!といつものやり取りを交わす二人。
いつも通りの、何気ないやり取り。こうする度に友希那は数年前のことを思い出す。自分がまだ個人の目的として行動していた時期のこと。
そこで彼女は、
「今井さん。その、水をさすようで悪いのですが……今はお昼前なので食べ過ぎには…」
「あっそっか。まだ11時半ぐらい……って紗夜!?」
「?ど、どうかしましたか?」
「紗夜それ何枚目……?」
「えっ、これは4枚目……はっ!?わ、私としたことが……!?」
「もう紗夜〜!お腹空いてるなら言ってよ〜」
そうして彼のことを思い出す度に、友希那は胸が苦しむ感覚に陥る。
「友希那ー!ちょっと早いけどお昼にしない?」
「……あら、もうそんな時間なの?」
「あ、あれ?友希那今の話聞いてなかった?」
「ごめんなさい、少し考えごとをしていたから……」
だから。彼女は達成しなければならない。
「もー、友希那ったら!」
頰を膨らますリサ。それを見て友希那は申し訳なく思い、持っていたクッキーを一口で食べ切る。
ほんのり甘い、リサ特有の味。メンバーが納得のいくその甘味に友希那は少し満足気に微笑む。
「……みんな、申し訳ないけれど」
「?」
「どうしたんですか友希那さん?」
この味に、あの子の味を混ぜてみたい。
「あと一曲、合わせてみてもいいかしら?」
その為にも、彼女は今日も目標にむけて奮闘するのであった。
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「ふぃー、やっとついたー」
えー、ただいまの時間は12時半頃。近くの公園に設置された時計はその時間を指している。
いやぁ、ここまで来るのに約1時間。バスを乗り換えては揺れて、乗り換えては揺れて……もう腰痛い。若い身体の筈なのに痛ぁい。まぁでも、目的地まであとちょっとの筈。
「気を抜くな、目的地まであと数十分かかる」
「は?」
嘘、だろ……?まだかかるのか?座りっぱなしの次は歩きっぱなしなのか?ハハッ、乾いた笑いしか出てこねぇ。
「あぁそれと」
「あ?どうし……どわぁ!?」
おいおい、この人急に荷物をこっちに投げてきやがったぞ?え、なに?空港での一件まだ根に持ってるの?……いやそれは流石に幼稚すぎるか。
「ここから先は別行動だ」
「え、先生どっか寄るとこあんの?」
「あぁ、少しそこの施設に用があってな」
先生はそう言うと、すぐそこの建物を指さした。建物の入り口付近には堂々と店の看板が立てられている。なので俺は目を凝らしてその看板の文字をなんとかして読み取った。
「うーん…と?……『CIRCLE』?」
なんだそれ。円陣でも作ってんのか?
「なんでも、あそこは今の学生に人気のライブハウスらしい」
「ほーん……」
ライブハウスか……あぁ確かに、店の名前の上にライブハウスって書いてあるわ。早合点だったね、うん。
……いや待てよ?なんで先生がそんなところ行く必要があるんだ?用件ってどんなの?
「それでは、後はよろしく」
「はっ、え?ちょっ待てや!?」
畜生、どんなのか聞く前に行っちまったよ。ケッ、何ポケットに手突っ込んで歩いてんだ。カッコつけてるつもりか?……いや、あの人以外にイケメンだからああいう事すると女の人が寄ってきそう。それに身長も高い……チッ、良いよな身長のあるやつはよぉ。
『ピロリンッ♪』
「ん?メールか?」
ポケットに仕舞い込んでいたスマホに着信が来たので、俺はすぐに取り出して内容を確認する。
宛先は、さっきまでそこにいた先生。
『すまない、目的地の詳細を伝えていなかったな』
そんな文面とともに、一枚の写真が添付されてきた。
……ああ成る程、目的地を示した地図かこれ。ふむふむ…ここからそう遠くないのか。ってか数十分もかからなくないか?おい誤情報流したぞあの人!……まぁいっか。
「んじゃま、行くとしますか……!」
一度だけ伸びをしてから、俺は増えた荷物を持って歩き出す。
……って、荷物多すぎだろ!?こうなったらヘイタクシー……あっ、今お金持ってねぇや。ハハッ、本日二回目の乾いた笑いが入りまーす(なき
取り敢えず前後編で分けます。長すぎると大変なのでね。
近日に後編を投稿しますん。