–––春の陽気を感じるある日の事。清流流れる河原の側に、2人の少年少女が居ました。
少年は土手の斜面に寝そべりながら、春の陽気を一身に浴びて寝息を立てています。その顔は、とても気持ちよさそうにしていて。
「……ふふっ」
そんな少年の顔を、少女は微笑みながら見つめていました。
河原には、珍しくも2人以外の影は無く、音は川のせせらぎしか聞こえません。そんな河原は、まるで2人だけの世界を実現しているようでした。
そんな世界に、一風のそよ風が吹きました。風は桜の木を撫でて、そのまま一枚の花びらを掠め取ります。
花びらは風に身を任せるようにして宙を漂い、最後にはある一点に止まりました。その一点は……奇しくも少年の鼻の天辺。
「……お寝坊さんだなぁ」
それでも尚起きる事はない少年に、多少呆れながらもいつものことだと割り切る少女。
不意に鼻についた花びらが揺れたので、また何処かに行かない内に少女は花びらを摘みます。そして、鮮やかに色付いた花びらを指先で裏返しながら、少女は一言呟きました。
「……ほんっと、綺麗だなぁ」
2人しかいない世界。そんな世界を、春の日差しは暖かな温もりで包んでいました。
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正午12時45分。私達『Poppin'party』5人は、いつも通り、中庭で昼食を取っていた。
––––とても懐かしい思い出。確かあの時はお店が休みになったから彼と遊んだんだっけ。……でも結局、ちょっとしか遊ばなくてその後の時間はお昼寝したんだっけ。
……楽しかった。
「–––や?」
……もっと、遊びたかった。
「さ––や?」
なのに、なんで……?
「さーや!?」
「うぁあ!?」
いつの間にか、香澄が目の前まで迫ってた…。び、びっくりしたぁ…。
「か、香澄、脅かさないでよ…」
「えー?だって何回呼んでも、さーや反応してくれないんだもん」
「えっ…そうなの?」
リスみたいにぷくりと頰を膨らませた香澄は、首を縦に振った。
全然気付かなかった……てことは、それぐらいになるまで私、考えこんでたって事?
「大丈夫か沙綾?今日ずっと浮かない顔してるけど」
「さ、沙綾ちゃん!困りごとなら相談に乗るよ?」
「沙綾、これあげる」
有咲、りみ、おたえ…みんなが私の様子を見て心配そうな顔をしている。おたえに至っては大好物のハンバーグを渡すぐらい。
……心配、かけちゃった。
「べ、別に大丈夫だよ?今日ちょっと寝坊しちゃってさ?夜更かしはいけないなぁって…」
苦し紛れの言い訳。でも、これは本当の事。嘘じゃない。だから……
「さーや」
心配しないで、と心の中で言いつけるよりも早く、香澄が私の名前を呼んだ。
こっちを覗き込んで、下唇を噛んでいる。こんな顔をする香澄は、心の底から心配してる……っていうサインだ。
……はぁ。私、何やってるんだろ?みんなこうして心配してくれてるのに、そんな皆を騙してるみたい。…私って、本当に馬鹿だね。
「……えっと、その…」
「さっきの嘘?」
「……うん」
私の受け答えに、またも頰を膨らます香澄。……なんて思っていたら。
「さーやの嘘つきー!えーい!」
「えっ!?ちょっ、香澄…うわぁっ!?」
急に私の胸元にダイブして押し倒してきた。
倒された衝撃で閉じた目蓋を開けてみると、何故か私のお腹の上で座ってやらしい手つきで迫る香澄の姿が。
……あれ?なんだか嫌な予感…。
「か、香澄?何をしようとして……」
「てぇーい!」
「!?」
瞬間、香澄が私の脇腹を両手で思い切り擽ってきた!
ま、まって…!脇、脇弱いの私ぃ!だ、駄目…耐えられないぃぃ…!
「こちょこちょー!」
「あはっ、あはは!!ちょっ、香澄待って…!」
「こら香澄。沙綾がもう死にかけてるからやめとけ」
私が笑いを堪え切れずにいると、有咲が香澄の首根っこを掴んで引っ剥がしてくれた。
た、助かったぁ…。
「ったく……でも沙綾」
「?なに、有咲?」
有咲に名前を呼ばれたので、私は一度乱れた呼吸を正して彼女の方に向き合う。
「ホンットに困ってるんなら、私達に相談しろよ?……その、仲間なんだから…」
「…有咲……」
少し恥ずかしがりながらも私の事を気遣う有咲。それを機に、他の2人がこっちに身を乗り出した。
「沙綾ちゃん!」
「沙綾」
「……みんな」
みんなの顔は真剣な眼差しで、それでいて心配する目。そんな表情に私は心を打たれてしまう。
……うん、決めた。みんなに話そう。やっぱり1人で考え込むのは駄目だよね……よし!
「実は……みんなに相談したい事があって」
みんなに知ってもらおう。
蓮司を…私の幼馴染のことを!
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「……こんな感じなんだ」
数分ぐらいの短的な説明。そんな話を、みんなは黙って聴いてくれた。
彼との出会い、お店のお手伝い、そしてお母さんと妹と弟を助けてくれた事……どれも大切な思い出。だけどその思い出は、今まで誰にも話すことがなかった。だからかな…?凄く新鮮な気分。
「うーん、蓮司くん……どこかで聞いたことあるような…?」
「えっ香澄、蓮司のこと知ってるの!?」
香澄が蓮司の名前を聞いたことあるなんて……!?もしかして、香澄も蓮司と会ったことあるのかな?……その時に、香澄も助けてもらったり…。
「うーん……どこだったっけー…?」
「どーせ違う人だろ?香澄って、ちょっと信用ならないからなぁ…」
「えーっ!?そんな事ないよ有咲ー!!」
「わっ!?ちょっ、抱きつくなーー!!」
……やっぱり、そんなことなさそうだなぁ。有咲の言う通り、香澄ってちょっとドジな所あるし。
「沙綾ちゃん、その…蓮司くんの容姿ってどうなの?」
「容姿?うーん…」
香澄に対して心の内で苦笑いを浮かべていると、隣からりみがどんな容姿なのかを質問をしてきた。
えーっと……今日の朝に見かけた姿は…。
「……髪の毛が橙色の短髪、背格好は…多分有咲ぐらいかな?」
「小さいんだね、蓮司くんって」
「おいおたえ、それ間接的に私を侮辱してねぇか?」
有咲、多分おたえはそんな事考えてないと思うよ。……でも、男子にしてはホントに小さかったなぁ。
「他には何かあるの、沙綾ちゃん?」
「他に?えー…?」
他にって言われても、あの時は一瞬過ぎてパッと見でしか分からなかったからなぁ。他に他に……えーっと……
あ、そうだ!
「…眼帯!」
「え?眼帯?」
そうそう!確かお父さんがあの後に、『可笑しな子だったなー、眼帯なんて付けて』って言ってた!……その時わたしが涙が出てたことに気を取られてて、あまり聞き取れなかったから忘れてたよ…。
「眼帯ってあまりいないよね…」
「眼帯……もしかして、伊達政宗!?」
「おたえちゃん、それは違うと思うよ…?」
だけどみんなの反応はイマイチ。でも、この辺りで眼帯なんて目立つ物付けてたら、ちょっとは噂になると思うけど…もしかしてこの辺りには住んでないのかな?
「眼帯って……確か」
「…有咲?」
でもそんなイマイチな反応の中で、有咲だけは携帯で何かを調べていた。
もしかして有咲、何か知ってるのかな?
「なぁ、もしかしてこのお店のことじゃねぇか?」
『お店?』
有咲が疑問を投げかけるとともに、検索結果の載った携帯ページをみんなに提示する。そこにはあるお店の名前が載っていた。
「《MICA》……?」
「そ。最近この辺りで開いた店でな?お昼に喫茶店、夜にバーをやってるんだと」
「一つのお店で昼と夜、違う事するんだー!」
「凄いお洒落」
「でも、バーってなんだか怖そう…」
確かにお洒落で凄そうなお店。ホームページの写真も広々として快適そう。……でも、眼帯とどう関係してるの?
「それで、眼帯とどんな関係があるの?」
「あぁそうだった。えっとちょっと待ってろよ…?」
一旦画面を戻して下にドンドンスワイプしていく有咲。それで見つけたのか、また私達の方に画面を見せてくれた。
コホン、と一つ咳払い。
「……店内がお洒落ってのも特徴の一つなんだけど、他にもあってな?それが店員達がそれぞれ個性的……なのも特徴らしい」
「個性的な…?」
「特徴……?」
「それでな?この写真見てみれば分かるんだけど……うっ!」
「……えっ、有咲どうしたの?」
何だか急に有咲の顔が渋った表情になったけど…?何か変な写真でもあったのかな?
「いや、ちょっと私には無理な写真が……」
「えっ!?どんな写真なの有咲!!」
「これ……」
そう言って見せてきたのは、男の人の写真だった。
とても顔の整っていて、かなりの男前な気がするけど……なんでそんなに嫌悪感を抱いているんだろう、有咲は……?
「わっ!カッコいい!!」
「男前だね」
「うん、おたえちゃんの言う通り凄く男前だけど…?」
「はぁ!?お前ら、何言ってんだ!?」
どうやらみんな、同じ意見だったみたい。でもだとしたら、有咲はなんでこんなにこの人の事嫌ってるのかな?
「えぇ、ホントにお前ら何も感じないのか?」
『うん』
「満場一致かよ…」
えっ?なんで逆に有咲はゲンナリするの?
「まぁいいや……取り敢えず、コイツの紹介文読んでみてくれ」
…ちょっと疑問は残るけれど、有咲の促す通りに私を含めた4人は写真の下の文に目を向ける。そこにはこう書かれていた。
「……[どうも、《MICA》の店長の『ミカ』です。突然ですが、写真を見てゲンナリした女性の方々。そんな貴女方はしっかり者ですのでどうか安心して下さい。]……ん?」
あれ?なんか遠回しに私、常識人じゃないって否定されてる……?ってそんな事は取り敢えず隅っこに運んでおいて。
「[当店では昼に喫茶店、夜にバーを営んでおります。特に昼の部では、我らの従業員特製の《アップルパイ》が自慢となっております。偶に接客として働く事もあります。
えっと、つまりこれって……!
「蓮司…お店で働いてるって事……!?」
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時間が少し経って、午後4時頃。
私は蓮司が働いているとされる喫茶店《MICA》に向かっていた。
「香澄ちゃんと有咲ちゃん、一緒に来れれば良かったのにね…」
「まぁでも仕方ないよ、あの2人は」
本当ならポピパ全員で行きたかったんだけど、有咲が生徒会の仕事が入っちゃって、香澄も授業の居残りで来れなくなっちゃったから。……まぁでも、香澄のアレは仕方ないよ。宿題の提出、忘れてたからね?
だから今日は私とりみとおたえの3人で行く事になった。
「蓮司、覚えてるかな…私の事」
「えっと、急にいなくなっちゃったんでしょ?蓮司くん」
「うん……」
ホント、なんで急にいなくなっちゃったんだろう……。
ちょっと前…私が小6の時、蓮司は急に姿を消した。なんの前触れもなく急に。それに、その時ぐらいからお店の手伝いも来てくれなくなってたし……。
「沙綾ちゃん元気出して!!きっと覚えてる筈だよ!!」
「りみ…」
「大丈夫だよ沙綾。私達がついてる」
「おたえ…」
……私って、心配され過ぎだなぁ。でも、どれもこれも急にいなくなった蓮司のせいだよ!!会ったらたっぷり怒らなきゃ!
「……あっ、ここだよ沙綾ちゃん」
「……ここ、か」
「わぁ、写真で見た時より大きく見える〜」
そうこうしている内に目的地についた様子。
うん、おたえが言ってるようにこのお店凄く大きいや。三階建てになってるのかな?写真によれば内装も広いらしいけど……。
「……じゃあ、入ろっか」
私はお店の扉に手をつける。
……やっと。やっと会える。ずっといなかった彼に。
心臓の鼓動が早くなる。……何だか緊張してきた。ライブでも感じた事ないような焦りを感じる。
「ふぅ…すぅ…」
ゆっくりと息を整える。……よし、気持ちも落ち着いてきた。
気持ちが落ち着いてきた所で、いよいよ私は、店内に通じる扉を開いたーーーー!
カランカラン、と鈴の音が鳴り響く。
「いらっしゃいませー!」
「うわっ!?」
いざ入店してみると、すぐに男の人が此方に駆けつけてきた。
ガッシリとした体型に、体長2mに及ぶか及ばないか程の身長。スキンヘッドにちょろんと垂れた前髪と、毛先がカールした口髭。
……何だろう、突っ込みどころが多すぎてちょっと困ってるよ私。
「むむっ!お嬢さん方3名ですな!ミカ殿、3名様です!!」
「おやおや、これは可愛らしいお嬢さん方だ。どうぞこちらへ」
「えっ!?ちょっ、まっ……」
少し慌てながら、私達は大柄の男性と食器を拭く男性に促されてカウンター席に着いてしまう。
目の前の食器を拭く人……この人って確かホームページに載ってた店長の《ミカ》さんだよね?……でも隣の男の人はそのページに載ってなかったけど……誰?
「すみませーん、注文いいですかー?」
「はいただいま!……ミカ殿、お嬢さん方をお任せいたしますぞ!」
「おいおい、私を何だと思っているんだ?…ほら、お客様を待たせては悪い。さっさと行きたまえ」
「では…」と律儀に会釈をした大柄の男性。そしてすぐ様、注文のあったテーブルに足早に向かっていった。
「……それじゃあ、まずは自己紹介から。私は店主を務めている、名前は《ミカ》だ。憶えやすいだろう?」
濡れた両手を拭いた後にミカさんは、私達にお手拭きとメニュー表を渡してくれた。
初対面の私達に自己紹介をするなんて律儀な人。このお店の決まりみたいなものなのかな?
「なら店長さん。あっちの店員さんは?」
大柄な人に顔を向けながらおたえが質問をした。
それは私も思った。お昼に見たページには、ミカさんの紹介文しかなかったから、他の人達がどんな人かは分からないもん。
「ん?……あぁ、アイツは店員ではないよ」
「「「…えっ!?」」」
ミカさんの発言に私達は一斉に声を上げてしまう。そのせいで、他のお客さんの目が此方に向いてしまった……大柄な男性も含めて。
アハハ…ちょっと声大きすぎたかも。
「おっとっと……すみません皆様。特に問題はありませんのでお構いなく」
だけどミカさんがその場を収めてくれたので、お客さん達の視線が元に戻った。大柄な男性も何か納得したようで、ニコッと笑ってお客さんの接待を続けた。
「す、すみません……」
「いやいや、此方こそ驚かせてしまってすまなかったね」
申し訳なく思って、私は小さく頭を下げる。けれどミカさんはなんとも思っていないようで、笑って許してくれた。
見た目も言動も優しい雰囲気を醸し出していて、良い人だなぁ。……ふと思ったんだけど、なんでお昼の時の有咲はミカさんの写真見てあんな不機嫌そうな顔したんだろ?益々分からない。
「それで話の続きだが……アイツは他の店で働いていてね、今日は手伝い人として来ているんだ」
「へぇ、お手伝いさんなんだ…」
私がなる程と納得すると、「ほんと、お節介な奴だよ」とミカさんが苦笑いを浮かべながら付け足す。……満更でも無さそうだけど。
「…ミカ殿」
今の会話を聞いてたのか、大柄な男性は、私の横で伝票を片手に立っていた。その表情は少し迷惑そうに困っている。
「本当はそちらから尋ねてきたのでしょうに。お嬢さん方に嘘の情報を流さないで下さい」
「ハハハ、これは失敬!」
伝票を渡す男性の不満を、ミカさんは声を上げて笑い飛ばす。ハァと小さく溜息を吐く男性だったけど、その際に私達3人と男性の目が奇遇にも目が合う。
私達はそのまま唖然として見てたけど、男性の方は逆にニコッと笑って、ポケットから何やら名札のような物を取り出した。
「自己紹介が遅れましたな。吾輩は『アルベルト・ゼクス・アームストロング』と申します」
「な、長い……!」
え、えっとアルベルト・ゼクス……ええっと分からなくなっちゃった…!?
「ハッハッハ、あまり無理に覚えなくても大丈夫ですぞ。気さくにアームストロングと呼んで下さい」
「あぁっと、すみませんその…アームストロングさん」
ミカさんに続いてアームストロングさんも笑って和ませてくれた。
このお店の人って優しい人ばかりだなぁ…まだ2人しか会ってないけど。……そういえば、アームストロングさんって別のお店で働いてるって言ってたけど、どんなお店何だろう?
そんな疑問を抱いた私だったけど、りみもそう思っていたようで先にアームストロングさんに質問していた。
「あの、アームストロングさんって別のお店で働いてるって聞いたんですけど……」
「おぉ、その話もされておりましたか!……実は吾輩、こう見えて魚屋を営んであるのです!」
「「「さ、魚屋!?」」」
衝撃の事実!そんな驚きに私達はまた驚嘆の声を上げてしまった。再度、周囲の目線が此方に向いてしまう。
……またやっちゃった。
「うおおっとっと!皆様ご心配なさらないで大丈夫ですよ!」
ミカさんの次はアームストロングさんがこの場を収めてくれた。少し緊迫していたのか、アームストロングさんの額には少々汗が滲んでいる。
「……すみませぬな、驚かせてしまい…」
「いやその、私達もごめんなさい……」
……お互い申し訳ない雰囲気になってしまった。
どうしよう、この状況のままだと気まずいよ…。
「……確か、アルベルトの長女殿が北国に住んでいるそうだな?」
「…お、おぉそうですそうです!」
だけどここでミカさんから助け舟が出された!
……まだ会って数分だよね?何だかこんな状況に手慣れてるような気がするなぁ、ミカさん…。
「北国……凄く寒そう…!」
「ハハハ、寒いでは済みませんよ?なんせ極寒の海で漁業を営んでいるのですからね」
さりげないおたえの発言に、アームストロングさんが注釈を付け足す。
極寒の海……うぅ、想像しただけで寒気がする。
「……って事は、アームストロングさんのお魚ってお姉さんが仕入れた物?」
「えぇ、それは勿論!それに、姉の仕入れる魚類達は皆、過酷なる海を渡り歩いたモノ。味は中々のものですぞ!」
フフンと誇らしげに語りながら、何故かマッスルポーズを決めるアームストロングさん。盛り上がる大胸筋はまるで険しい山のようだ。
……って、なんで私頭の中で解説始めてるの!?
「っと、長く語りすぎて注文を聞くのを忘れていた。お嬢さん方、メニューはお決まりかな?」
「……え?…あ!」
危ない危ない…ミカさん達の勢いに乗って長話になってたから、本来の目的を忘れる所だった…!
「あの、実は私達人を探していて……」
「……人を?」
「はい……それでその人の特徴が…」
眼帯を付けている…と、言う直前。
店内にカランカラン、と鈴の音が鳴り響いた。
「先生、今帰ったで〜」
「……全く、お前と言うやつはなぁ……?」
赤く色づいた夕焼けの光と共に、1人の人影が入り込む。
とても小柄で、私より小さい男子だった。
「裏口から入って来いといっただろうが!?」
「えー?別に良いでしょうに」
夕焼けに照らされてもなお色褪せない、橙色の髪色。店内の照明の明かりを呑み込んだかのように輝く黄金色の片目。
そして何より、もう片方を包み隠す黒い『眼帯』。そんな彼に、私の目が釘付けになっていた。
「いけませんぞ?お店の方々に迷惑がかかりますからなぁ」
「そんな堅っ苦しい事言わないでよ、アルベルトさん」
やっと……やっと会えた。
「……あの人って眼帯つけて……って、沙綾ちゃん?」
「沙綾?」
あの時から私は…この時を待ち望んでた…!
「いやしかし……む?」
「……お嬢さん?」
……無意識に、私の脚が彼の方へと歩み寄っていた。
身体が無意識に動く位……頭が決断する前に動いたぐらいに。私は君に会いたかった–––!
だから、言わせてよ。
「…すぅ…!」
下がった視線を上げるとともに小さく、小さく息を吸い込む。
こんな時に限って胸がキュッて締まる感じがしちゃう。……緊張してる。こんな時に限って、緊張してる。
でもダメだよ私。言わなきゃきっと後悔するかもしれない。
あの時まで一緒にいた君が……突然いなくなっちゃって。
だから気付けたんだ。君が側にいると安心するって事を。
だから、言わせてよ。君にまた会えた喜びを。再会の言葉を、私の口から––––!!
「……?」
でも言えなかった。
今こうして会えた喜びを。また再会出来た感動の言葉を……私の口から出す事は出来なかった。
……どうして?
……どうして、君は。
「……なんで、そんな顔するの?」
君の顔は、とてもじゃないけど、喜んでいるようには見えなかった。
「え?いやそれは……」
君はどうして、何も分からないみたいような顔をするの?
「……てか、まず言わせてくんね?」
……どうしてなの?どうしてどうしてどうして––––!
「お前、誰?」
どうして、そんな事を言うの–––蓮司……!?