一ヶ月も空いてしまいましたが、読んで頂けるとありがたいです。では、どうぞ!!
沈みきれない夕陽に照らされ、橙色に染まる街道。沙綾もその中に溶け込んでいた。
先程の路地裏と比べると当然ながら人通りも増えて、賑やかになっていく。前を見れば、小さな男の子が友達であろう女の子と歩いていた。
2人はとても親しげに話し合い、笑い合って。互いに手を取り合って彼女の横を通り過ぎる。
その刹那。子供達の姿にまた別の影が重なったように、沙綾は見えた。
とても懐かしく、そして幼い影。手を引いて先に先にと走る姿は、見間違えようのない、
男の子……は……
「……あれ?」
不意に、思っていたことを口に出してしまった。幸い誰にも気付かれることは無かったが。だが彼女にとって気にする点はそこではない。
沙綾は鼓動が早まるのを感じつつ、後ろに振り向く。そこには横を通り過ぎていった彼らが走っていた。仲良く手を繋ぎながら。
今度は一瞬だけ。一瞬だけだが、先程と同じように影が重なった。
手を引く私。そしてその手で引かれるか……れ…。
ここで、分かった……否、
私は一体、
その面影は……いや、最早それは影と言えるモノではない。全体を白で覆い、髪を生やさず目を無くした……人では無い何か。唯一存在している口は嬉しそうに口角を上げている。
身体から力が抜けていく。息も先程よりも浅く、小刻みに吐いていた。
動揺。彼女の心境を語るなら、この言葉が相応しいだろう。
何故幼い私はアレの手を引いているのか。アレの正体は何なのか。そもそも何故こんな幻影を見せられているのか。一つの謎を解いた先に待っていたのは、無数に聳え立つ絶望の壁。
ゆらりと揺れて壁へと寄り掛かり、ゆっくりと身体を崩す。呼吸も正常では無いに等しい。
彼方を走る幼い2人。遠く遠くへ消えているはずなのに。幼い私は消えたのに。何故。何故何故。何故あの影は消えないのか。
遂に沙綾はげんなりとその場に座り込む。
息を荒くし、胸を抑える。苦しい。苦しいと叫ぶように。やめて、やめてと嘆くように。彼女は道を行き交う人々に助けを求めた。
だけれど、誰も助けることはなかった。助ける素振りどころか、見向きもしない。まるで、その場に彼女がいないように。気付かずに人々は歩く。
路地裏から抜け出せたと思ったらこの有様。息を荒くし汗を掻いて倒れる彼女。どうしてこんなことになったのか?何故私だけこんな目に遭わなければならないのか?
定まらぬ思考を回して得られたのは、心の嘆きだけ。ただ1人胸を抑え息を荒くしようとも、誰からも助けられることなく地に落ちる。
薄れゆく意識の中、沙綾は白い何かに目を向ける。
その何かは、いつの間にか彼女のことを見ていた。
苦しむ彼女を、まるで嘲笑うように笑いながら。奴は彼女を––––
「……ちゃん!沙綾ちゃん!!」
「へっ!?」
誰かに肩を揺さぶられ、失いかけた意識を取り戻す。
「あれ…りみ?それにおたえも…」
呼吸のリズムを取り戻して後ろを振り返ってみると、そこにはバンドメンバーである2人が沙綾の方に顔を覗かせていた。沙綾のことをとても心配に思いながら、りみは沙綾に手を貸す。
彼女にありがとうと一言伝えて立ち上がる沙綾。少しふらっと揺れたが、たえが身体を支えたので崩れる事はなかった。
「ごめん、2人とも」
「ううん。それよりも、なんで沙綾ちゃんが…」
「ちょっと、ね…」
2人に先程のことを伝えようとした沙綾だが、そうはせずに口を塞ぐ。
このことを……自分の気持ちを伝えて何になる?確かに彼女達はとても大切な、同じPoppin'partyの仲間。互いを尊重し合える友達だ。
けれど、このことを伝えても何か変わることがあるのだろうか。もしかしたら、みんなを混乱させるかもしれない。それだけは絶対に駄目だ。
複雑な思いを胸に秘めた沙綾。だがここで、ふとあることに気づいた。
「沙綾ちゃん?どうしたの?」
「…いない」
「……沙綾?」
右左、先に続く道を繰り返し確認する沙綾。その様子に二人は、何をしているのかと困惑する。
「ね、ねぇ二人とも」
何か気になることがあったのだろう。沙綾は切羽詰まったような表情で二人へと話しかけた。
「この道に「あれ?お前まだこんな所にいたのかよ?」」
しかし、沙綾の台詞は誰かの声によって遮られてしまった。
沙綾を含めた女子3人は、謎の声がした––––沙綾から見て後方へと視線を向ける。そこにいたのは。
「…あっ、さっきの小さく…」
「だぁれがアリンコチビ助だってぇぇぇぇ!!?」
曲がり角から顔を覗かせていた筈の蓮司がいた。……今は飛び出ておたえの目の前まで迫っているが。
「私そこまで言ってないよ?ウサギみたいに小さくて可愛いって言おうとしただけ…」
「いやそれはそれで嫌なんだが?兎と同等とか許せねぇよ?」
「お、おたえちゃん…そこまでにしておこ?」
「…あれ?私何か悪いことした?」
「あああぁ!!天然だコイツ!!コイツ天然だぁぁぁ!!遠回しに貶してるって気づいてねぇぇぇ!!」
1番扱いづらいキャラだと気付いた蓮司は、道のど真ん中で発狂してしまう。天然は恐ろしいのだ、発狂するのも無理はない。
「えっと……」
「あぁぁぁぁ……あ?」
元気のない、疲れ切っているような声。不意にそんな声が耳に入った蓮司は、音のする方へと顔を向ける。そこには、頬を掻いて気不味そうに沙綾が立っていた。
何故気不味そうなのか分からない蓮司。試しにおたえ、りみの顔を交互に見て、顎に手を添えて思考する。そして数秒の後、頭の中で合点ついた。
「なる程、この二人と話してたってわけか」
「ま、まぁあながち間違ってはない……かな?」
「……なんで疑問形なんだよ」
蓮司は自分でもわかっていない沙綾に対し、怪訝そうな顔で睨む。
「まっ、別にいいんだけどよ。ついでだ、お前らも来いよ」
「えっ私たちも?」
指名を受けたりみとおたえ。突然のことでりみが声を出して聞いてみるも、まるで蓮司は聞いていないかのように受け流し、店へと続く道を歩み始めていた。
「すまねぇがこっちも時間がないんだ。話があるってんなら店の中でやってくれ」
「……ねぇ沙綾?お店に戻って何するの?」
「…あっ、そういえば二人にはまだ行ってなかったっけ」
ここで沙綾、これからの目的について話していないことに気付いた。
「アップルパイをご馳走してくれるんだって。あの人が迷惑かけたお詫びにってことで」
「「アップルパイ!?」」
アップルパイ。この単語を聞いた途端、二人の瞳がキラキラと輝き出した。これには沙綾もビックリ。思わず半歩下がってしまう。
「ど、どうしたの?そんな食い気味に…」
「あっごめんね沙綾ちゃん!実はね?さっきミカさんにご馳走になっちゃって…」
「それが甘くて美味しかったんだ〜」
その時の味を思い返しているのだろう。二人は頬と涎を垂らした。そうとう美味しかったようで、二人の顔はご満悦だ。
「おーいお前ら!!なにボサッとしてんだ。こっち時間ねぇって言ったんだろうが!!」
そんな中、甘々な世界から引き抜くように向こうから蓮司の怒声が飛んできた。二人もその声に反応して、無事現実の世界へと回帰することができたようだ。
「早く行こっ!沙綾!!」
「えっ?……ってちょっ!?」
もう待ち切れないのか、おたえは沙綾の腕を掴んで駆け出した。
二人を虜にしたアップルパイ……その魅力に少し慄きながらも、楽しみだと期待する沙綾。その正体を気にしながら、彼女達は
次回こそ、沙綾編を終わらせる!……と思います。