シンフォギア異伝 防人れ! 風鳴一族!   作:とりなんこつ

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第11話 我ら思う、故に我ら在り

~オープニング・ナレーション

 

櫻井了子ことフィーネは、永遠の刹那に存在する巫女である。

彼女が恋をしたのは、人類の創造主エンキである。

エンキに告白するために、統一言語を取り戻すべく、フィーネは輪廻転生を繰り返すのだ!

 

 

 

 

 

 

 

かつて地球という星に降り立ったカストディアン。

彼らは大地に人類という自分らの姿に良く似た生き物を解き放つ。

比類ない寵愛を受け、人類は文明を築き、目覚ましい成長と進化を遂げた。

フィーネは、それら人類を代表し、カストディアンの神託を受ける巫女だった。

創造主の言葉を聞けることだけでも無常の喜びを覚えていた彼女だったが、ふと神の一柱に恋心を抱く。

大それたことと自戒しつつも、その心は止められない。

いよいよ胸の内を打ち明けようとしたその時。

―――神々は消えた。

同時に、創造主と語り合うことさえ出来た統一言語も失われた。

共通の言葉を奪われた人類は、意思の疎通もままならない。

産まれた軋轢は誤解を生み、誤解は怒りを呼び、怒りは血を求めた。

地球全土で勃発した戦争は、多くの古代叙事詩や神話として後の時代へと伝えられる。

高度な文明は失われ、超技術は散逸した。

この時に作られたものの多くが、数千年の時を経て聖遺物としての歴史を積み重ねられていくことになる。

栄華を極めた都は焼かれ、崩落していく時代を嘆きながら、それでもフィーネは恋慕の想いを忘れらなかった。

残された超技術を結集し、彼女はリンカーネション・システムを構築する。

自分の遺伝子を持つ次世代に、己の記憶を保ったまま人格を転写する禁忌の装置。

 

生きたままその装置へと身を投じた彼女が覚醒したのは、荒野の果てだった。

複数の人間と、家畜と思しき動物が数頭いるだけのコミュニティ。

火を熾し、獲物を狩り、夜は闇に脅えて過ごす。

 

人類同士の戦争は、文明を大きく後退させていた。

予想通りと嘆きつつ、フィーネの長い旅路が始まる。

 

 

紀元前、西暦に至る人類史において、多くの偉人英雄が存在したのは世界史を紐解けば自明だろう。

その何割かがフィーネである。

彼女は、ある時は苛烈な女王に、ある時は傾国の美女に、ある時は博識の少女に、と幾つもの時代と姿を移り歩く。

彼女の当座の目的は、後退した文明の復興だ。

人類の科学力と文明レベルを底上げしなければ、とてもカストディアンが住処としていた月までには至れない。

細心の注意と、計算された大胆さを持って、彼女は記憶の中にある先史文明の技術の種を撒く。

とても一代で成せる事業ではない。撒いた種が芽吹くのを待つ必要もある。

だが、彼女の存在と彼女がもたらしたものが、人類史においてどれだけのブレイクスルーを与えたことだろう?

結果として、より多くの人が死ぬことになってもフィーネには何の躊躇いもない。

統一言語が奪われた以上、人は争うものだと彼女は割り切っている。

その最たるものが、先史文明の遺産でもあるあの『ノイズ』だろう。

人類が造り出した、人類にとって最悪の対人兵器。同時に、殺したノイズも殺された人間も炭に返るのだから、どこまでも星に優しい。

何世代もかけ、フィーネは己の計画を続けていく。

前世の記憶を持っていたとして、覚醒した彼女はただの人間だ。

少なくとも、その肉体は百年も持たず寿命を迎える。そして、同時代に、フィーネは二人存在することはない。

 

彼女は根気よく研究を重ね、計画の道筋を立てていく。

自分で成せない場合は、次の時代の自分へ。

記憶を積み重ね、思いを積み重ね。

かつての胸を焦がす気持ちだけは、決して冷めることはなく。

 

そうやって連綿と次世代に思いを受け継がせる行為こそが、人類の歴史の歩みそのものであることを、彼女自身はついぞ気づくことはなかった。

 

そして、この時代のフィーネとして櫻井了子は覚醒した。

覚醒後、了子とフィーネの意識は混然一体となる。

自分の計画を阻害しそうなシンフォギア・システムを開発したのも、多分に了子の人格に引っ張られたからに他ならない。

いや、実際にフィーネも楽しんでいたかも知れない。

この時代に至るまで繰り返してきた転生人生の中でも、あえて敵対する陣営に有利な差配をしたことがある。

その反動でイレギュラーな因子が発生することを期待した部分もあったが、単純にワンサイドゲームに終始するのは味気ない。永遠の刹那を生きる身にとって、いや、だからこそ、分かりきった結末で時代を(けみ)するのは詰まらなすぎる。

もっとも、大元の計画が頓挫するような不確定要素にまで至らせるつもりはない。

不穏な芽は、目につく端から摘んできた。

 

―――そのつもりだったのに。

 

特異災害対策機動部二課技術主任。

それが現在の櫻井了子の肩書である。

そんな彼女の視線の先には、特異災害対策機動部総司令がいた。

 

風鳴弦十郎。

 

その姓、風鳴は、神州日本を守護する防人の一族。

 

フィーネ=櫻井了子をして、人類の規格外と認める男の一人だ。

歴史上、様々な英雄に身をやつし、同じような英雄を見てきたフィーネであったが、この男は過去の彼らと比べても何ら遜色はなかった。

もしかしたら、人類が造られる折に組み込まれた創造主の遺伝子を色濃く引いているのかも知れない。もっとも現在の技術でそれを確認する術はなかったが。

むしろ、このような異能の人間が、一族を形成して連綿と極東の国に根を張っていたことに、フィーネは驚いている。

何千年と積み重ねた知識はあれど、今のフィーネはただの人間だ。

膂力でなど、とても太刀打ちできるものではない。

であれば、権謀術数を駆使するしかなかった。

日本国の秘密組織に属しつつ、組織内の情報と自分が持てる技術の一部分を、フィーネは米国などの他国へと提供している。

徒手空拳でとても国などは動かせない。

だが、己の立場と情報を使い、翻弄することが出来れば。

国同士の綱引きを意図的に発生させ、自分は高みから結果だけを得るのが最上。

最悪、どちらの陣営に転んでも大丈夫なように保険も利かせてあった。

 

にも関わらず、この風鳴一族は、フィーネにとっての不確定要素(ガーヘッジ)のまま。

 

弦十郎だけでも正直お腹いっぱいなのに、その上にはあの風鳴訃堂がいる。

今は国防の第一線を引いたとはいえ、日本の黒幕(フィクサー)と呼ばれた男。

彼の立ち位置こそ、フィーネがかつての幾つもの時代で担ってきたポジションである。

親近感を覚える一方で、割と頻繁に特機部二の本部へ出入りしていることに眉を顰めざるを得ない。

訃堂自身も規格外人類であるとフィーネは見抜いていた。

そんな不確定要素が、すぐ近くに二つもあるなど、生じる不安は二乗どころの騒ぎではない。

しかし。

それはそれで、やりようがある。

二つの強力な存在が同じ陣営にあれば脅威そのものだが、その片方だけでも叛意させることが出来れば良い。

同等の存在を互いにぶつけ合い、脅威度は限りなくゼロに下げることが可能だ。

まずのフィーネの策謀は、訃堂と弦十郎の間に不和の種を撒くこと。

赴堂の厳粛苛烈な性格からして、親子間の仲はあまり良くなさそうだ。

 

推察してフィーネ=櫻井了子はほくそ笑む。

歴史上、実の親子ほど、骨肉相食む話はない。

 

風鳴訃堂は、特異災害対策機動部総司令を更迭され、後進を息子である弦十郎へ譲った。

なので、本来的に赴堂はもはや影響力を持たないはずなのだが、なぜか本部へ用意されている訃堂の個室へ、特機部二創生期のメンバーは報告に赴くのが定例化していた。

今日も、櫻井了子は、訃堂の個室へと足を運ぶ。

シンフォギア・システムの開発、進行の頃から報告を重ね、信任を得ているという自負がある。

さすがに訃堂の前では、櫻井了子のお茶らけたパーソナリティーも影を潜めていた。

一応神妙に、シンフォギア・システムとLiNKERに関する改修結果の報告を済ませる。

鋭い目つきでレポートを一瞥し、訃堂は重々しく頷いた。

これは「承知した」「もう行って良いぞ」という合図だったのだが、了子は動かない。

 

「…どうした?」

 

顔を上げてくる訃堂に、了子はゆっくりと眼鏡を押し上げる。

 

「歌が世界を救うと思われますか?」

 

そう質問した彼女の瞳は金色に変わっていた。特製の偏光眼鏡で見えていないはずだが、訃堂の視線は全て見透かすようで、了子は背筋に冷たい汗を掻く。

だが、そのスリルを味わうように、了子は顔に笑みさえ浮かべていた。

実はこの質問を、了子は弦十郎にもしてきている。

訊かれた弦十郎は「無論だ。俺は心の底から信じているぞ」と予想通りの返答。

 

対して、訃堂はどう答えるだろう?

了子の知る限りでは、風鳴訃堂は超のつくリアリストだ。

いかにこの歌という意味がシンフォギアとの関連を仄めかしていても、歌などといった目に見えない不確かなものに加え、世界を救うという大仰な物言いは全く好みではないはず。

一喝されるであろうことを想定内に、弦十郎の答えを提示して、二人の不和を煽る。

多くの時代を権謀で駆けてきたフィーネにとって、ここからが腕の見せ所。

―――そのはずだった。

 

「無論だ。歌は世界を救うだろう」

 

「…え?」

 

「例えば、ブラジルでは、日本の特撮ソングが日本語のまま盛大に唄われていると聞く。フィリピンでは当時の軍事政権を倒したのは日本の子供向け番組の歌という流言飛語まで飛び交ったらしく、今でもその歌い手が赴けば国賓待遇で迎えられるそうな」

 

「…そ、そうなんですか?」

 

「まっこと魂の込められた歌は、言語を越えて世界に響くものよ…」

 

「ア、ハイ」

 

もし仮に、ここで了子が興味を示す素振りでも見せたら?

おそらく彼女の今後の予定は大幅な修正を余儀なくされていただろう。

あの秘密の地下室という魔窟へ連行されたとすれば、フィーネといえども精神的に無傷ではいられなかったに違い。

だが、実現されなかった以上この仮定は無意味だ。

了子は這う這うの体で訃堂の個室を辞し、更なる不確定要素を積み重ねたことに頭痛を覚えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよだな…」

 

「うん…」

 

ガウンを被り、部屋の隅で膝を抱えて蹲る風鳴翼と雪音クリスがいる。

二人ともガウンの下はそれは煌びやかな衣装なのだが、反して顔色は冴えない。

そんな二人に陽気な声が降ってくる。

 

「なんだよ、緊張してんのか?」

 

同じくガウンを来た天羽奏だった。

 

「当たり前でしょ」

 

翼はそう応じたが、クリスは顔を上げただけ。

これから10万人もの大観衆の前でライブを敢行するのだ。緊張するなという方が無理な相談だろう。

 

「つっても、前にはもうちっと小さな箱でもしたことあるだろ? 1万人だっけ? それの10倍と考えりゃいいじゃん」

 

奏の物言いは呑気なものだ。

当然、

 

「そんな単純なものじゃないでしょ…?」

 

クリスが苦言を呈する。

10万人に、二つの視線。合計20万の視線に晒されるのだ。

ぶるるとクリスは小さな身体を震わせる。

 

「ねえ、翼? おかしなところはない?」

 

ガウンを脱ぎ、クリスは衣装のチェックを要求。

 

「うん、大丈夫。…次、私も見てもらっていいかな?」

 

今度は翼の格好をクリスが点検。

さっきからお互いに同じことを延々と繰り返してるので、さすがに奏も呆れ顔。

 

「ノイズと戦っている時の方がよっぽど緊張するだろ?」

 

「それとこれとは別!」

 

仲良くハモって断言する二人だったが、すぐに翼が顔を曇らせた。

 

「ところで、奏、身体の調子は…?」

 

「あん? すこぶる絶好調だぜ!!」

 

そういって腕をぐるぐる回す奏に、クリスも心配顔を向けた。

今日のライブに向けて、奏はLiNKERの投薬を止めている。

以前から、制御薬の影響で喀血や鼻血をよく出す奏だったが、今日は4時間を超える長丁場だ。

最中にそんなことにならないよう、この日に向けて制限していたものの、それはそれで離脱症状的なものが出現。

投薬しなければしないで喀血や鼻血が出る様子に、LiNKERはつくづく劇薬であることを思い知らされる。

もっとも今の奏は離脱症状も収まり、本人の言うとおり快調のようだ。

 

「三人とも、準備はどうだ?」

 

控室のドアが開き、風鳴弦十郎が姿を現す。

いつもの赤シャツ一枚ではなく、同色のジャケットを着ていることが、今日という日が特別であることを主張していた。

 

「兄さん…」

 

顔を向けてくるクリスの姿を見て、弦十郎は破顔。

 

「うむ。その衣装も良く似合っているぞ」

 

照れるクリスから、弦十郎は姪っ子へと視線を向ける。

 

「翼も頼むぞ。今日は『ウラヌス・ガーデン』のこけら落としでもあるからな」

 

「う…。叔父さまは、そうやってまたプレッシャーを…!」

 

眉を寄せる翼の肩を笑いながら叩き、奏は弦十郎へと確認。

 

「それよかダンナ。このライブが終わったあとの約束、忘れてないだろうな?」

 

弦十郎は苦笑して答える。

 

「ああ、任せておけ。廻らない寿司だろうが、帝国ホテルのフルコースだろうが、なんでも食べ放題でご馳走するさ」

 

「よっしゃッ!」

 

パチッと指を鳴らす奏。

それを待ち構えていたように控室に忍び込んでくる一人の影。

 

「みなさん。そろそろ時間ですよ」

 

マネージャー緒川慎次の柔らかい声に、

 

「待ってましたッ!」

 

奏は颯爽とガウンを脱ぐ。

翼とクリスも頷きあってガウンを脱いでいる。

 

「…今日は、本当に頼むぞ、三人とも」

 

見送る弦十郎の顔は、一転して神妙なものになる。

トライウイング結成二年の節目の超大規模ライブ。

そしてその影で行われる完全聖遺物の起動実験。

今日のライブの結果によって、人類の未来が大きく変わるかも知れない。

 

「大丈夫さ、ステージの上はまかせとけッ!」

 

奏が笑顔で請け負い。

 

「常在戦場の心持ちで、頑張ってきます」

 

力強く翼が頷き。

 

「兄さん、行ってきます」

 

クリスが精一杯の笑みを浮かべていた。

 

応じて、弦十郎も大きく声を張り上げる。

 

「思い切り唄ってこいッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、会場の外。

入場待ちの客でごった返すウラヌス・ガーデンを見上げる道路で、一人の少女が途方にくれていた。

彼女の名前は立花響。

耳に携帯電話を当てて、周囲の喧騒に負けない大声を張り上げる。

 

「未来ッ? いまどこ? わたしもう会場だよー!」

 

『ごめん。わたしちょっと行けなくなっちゃった…ッ』

 

「えぇーーーっ!? どうして!? 今日のライブって未来が誘ったんだよーッ」

 

『盛岡の叔母さんが怪我をして…。お父さんが今から車を出すって…』

 

「…じゃあ、仕方ないね…」

 

『ごめん。本当にごめんね…』

 

友人との通話を終え、響は盛大にぼやく。

 

「わたしって、呪われてるかも~」

 

だが、そこで彼女はぶんぶんと頭を振る。

未来が応募してくれたとはいえ、本来的にトライウイングのチケットなど激レアだ。

今日の10万人規模のライブだって、抽選倍率は相当なものだったと聞く。

 

「せっかくだし、楽しまなきゃ損だよね!」

 

気を取り直した響は、ライブ会場へのエレベーターに乗り込む。

到着したフロアで、まずは人混みを掻き分けて物販コーナーへ。

そこで定石通りのサイリウムとパンフレットを購入。

ぱらぱらとパンフレットを捲り、トライウイングの三人の全身写真を見つけた。

 

「う~ん、やっぱりクリスちゃんは可愛いなあッ!」

 

三人娘の中で、彼女は雪音クリスが一番推し。

小柄で愛らしい姿は保護欲をそそり、とても中学二年生の自分より一歳上とは思えない。

もう一度じっくりとクリスの写真を眺め、それから響は自分の胸をぺたぺたと触る。

 

「………」

 

とても自分より一歳上とは思えなかった。

 

「っと、早く席にいかなきゃ」

 

取りだしたチケットを片手に響は会場内へと足を踏み入れた。

 

「わあ…ッ!」

 

10万人のキャパを誇る広さに、内装は新品で豪華極まりない。

満面の笑みを浮かべ、響は思う。

 

 

「しっかり見て、未来へのお土産話にしようっと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――役者は出揃った。かくして惨劇(グランギニョル)の幕は開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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