シンフォギア異伝 防人れ! 風鳴一族!   作:とりなんこつ

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第13話 TAKE ME HIGHER!!

 

 

突然の訃堂の出現に、フィーネは目を剥く。

いったいどうやって? 交通手段は全て潰したはず。

まさか元から会場内に潜んでいたのか…!?

 

かつて神々に仕えた巫女フィーネであったが、リンカーネーション・システムで人間の生を渡り歩いた結果、その常識も人間拠りになっていた。

だからといって、普通に誰が信じられよう?

(よわい)百にも喃々(なんなん)とする老人が、路上を疾駆し、ビルを飛び越えて、この空中の殺戮舞台へ辿りついたなど。

 

しかし、長い時を経てきた老獪さから、一瞬でフィーネは思考を立て直す。

風鳴訃堂とはいえ、素手ではノイズに触れることすら叶わない。

如何な超人であれ、人であれば対人兵器のノイズに敵うはずはないのだ。それは自明を通り越してもはや哲学的な摂理。

 

ならば、これは訃堂を抹殺する絶好の機会ではないか?

普段は、周囲に忍者の手練れを配して隙を見せない訃堂である。

もし成し遂げれば、米国を始めとした諸外国へと大きな貸しを作ることが出来るはず。

 

今さら現れて小手先を弄したとて、私の絶対有利は変わらない…!

 

満面の笑みを浮かべ、フィーネは全てを鏖殺すべく新たなノイズを召喚した。

 

 

 

 

 

 

突然の訃堂の出現に唖然としたのは、シンフォギア装者たちも一緒だった。

ボロボロの身体を引きずり、奏は訃堂を見上げる。

 

…遅いぜ、隊長。

 

そう視線に込めたつもりだが、訃堂は微動だにしない。

 

『遅くなった』

『済まなかった』

 

そのような言葉を訃堂は決して口にしない。

 

替わりとばかりに、太い腕が翻る。

咄嗟に飛んできたものを受け止めた奏の手には、直接注入できるカートリッジ式のLiNKER。

躊躇いもなくプシッと首筋へ打ち付けて、奏は眉を顰める。

体内に異物を注入する感覚。全身に電気のようにビリビリと走る激痛は、どうやったって慣れるものじゃない。

 

けれど、これのおかげでまた戦える…!!

 

それを証明するが如く、ボロボロだったガングニールのシンフォギアは、形と色を取り戻していく。

 

これで奏はどうにか戦線へと復帰。

されど目前のノイズの群れは、更にその数を増していた。群れ全体が膨れ上がるように続々と湧き出してくる。

 

奏はチラリと訃堂の隣でへたり込む少女―――立花響へと視線を向けた。

 

…コイツを逃がしている暇はないか。

 

それから訃堂へ視線を戻せば、その巨躯はすぐ奏の目前に来ていた。

力強い眼差しが自分を見下ろしている。

 

やれるか。

 

白眉の中の強い眼差しは、無言でそう問いかけてくる。

 

ああ、やるさ。やらいでか!

 

覚悟を決めて頷き返せば、訃堂の引き結ばれた唇がゆっくりと動いた。

 

「〝奏〟」

 

「………!!」

 

奏は震える。

 

訃堂は身内以外の人間の名を呼ぶことなど滅多にない。

奏も特訓を受けている頃から今日にいたるまで、ずっと『小娘』呼ばわりされていた。

 

そんな隊長が、あたしの名前を呼んでくれた。

それはつまり。

 

…あたしを、いっぱしの戦士と認めてくれたのか?

 

大きな感動が、彼女の全身を揺らしている。

家族を殺された復讐のためにノイズを皆殺しにしてやると誓った。

誰もが無謀だと窘める中、この人はそのための特訓を施してくれた。

結果として、あたしはノイズをぶち殺せる力を手に入れることが出来た。

 

奏にとって至極当然の積み重ねも、他者から見れば命懸けの綱渡り。

 

別に理解して貰わなくても構わない。これは、あたしの、あたしだけの復讐(アベンジャー)の物語だ。

 

そう思っていたのに。

それで構わなかったのに。

 

目の前のこの人は、あたしのやり方、生き方を認めてくれているんだ…!

 

隊長と呼ぶのは、彼女の偽悪の発露であっても、敬う気持ちは存在する。

おそらく、人生で最も尊敬の気持ちを抱いた相手が、自分を認めてくれた。

その嬉しさで、胸の内は膨れ上がり、はち切れそうになる。

それらが両目から溢れ出す寸前、奏は涙を飲み下し、威勢よく訃堂を見返していた。

無言の勇壮な返事に、赴堂も力強く頷き返してくれる。

 

「死ぬでないぞ」

 

「合点承知の助さぁ!」

 

奏はガングニールの槍を自らの顔の前に持ってくる。

構えるままにひたすら気分は昂揚してたまらない。自分の中の力が、かつてないほど活性化しているのをを感じる。

今ならいける。

今なら、真っ直ぐ、空の果てまで飛んで行けそうだ。

そんなイメージそのままに、彼女は心の底から歌を唄う。

 

 

Gatrandis babel ziggurat edenal…

 

 

そのフレーズを耳にして、迫りくるノイズを蹴散らしながら翼は血相を変えた。

 

 

Emustolronzen fine el baral zizzl…

 

 

クリスも同様だが、間断なく矢を放ち続ける彼女にそちらを向く余裕もない。

 

「いけない奏! 唄ってはダメーッ!!」

 

奏は再び絶唱を撃とうとしている。そう確信した翼の魂の絶叫。

果たして奏は、ノイズへ向けて命を燃やす最終手段を―――行使していない。

 

「…ッ!?」

 

振り返り、二人の目を見張る先。

真正面に槍を両手で構え、その握り手ごと真っ直ぐと額に当てる奏がいる。

すると、彼女の纏うプロテクターが変形した。

肩の部分が、足の部分が、それぞれが伸長、巨大化して、赤毛の少女の身体を、余すことなく覆い隠していく。

それは、もはやガングニールの形ではなかった。直立する奏は、長方形のひと塊へと成り果てた。そのフォルムに翼は直刀を幻視する。

反りはなく、刃の幅は広い。

奏が全身をシンフォギアで覆い尽くしたその姿は、無骨であれど一振りの刀と呼ぶに相応しい形。

 

大地に直立する大刀に、いつの間にか諸肌を脱いだ赴堂が手をかける。

大質量を無造作に宙に浮かせたと思えば、奏の脛の部分を空中で掴む。

そこは大刀の柄に相当する部分で、訃堂はその無骨な刀を高々と持ち上げた。

 

「むうん!」

 

ゆったりと八相に構える姿に、恐ろしいほどの鬼気が満ちる。

とても老齢とは思えぬ筋肉が隆起した次の瞬間、大刀は薙ぎ払われていた。

生まれるはスダジアムを駆け抜ける一筋の剣風。

風が吹き抜けたあとに、ノイズの群れのおよそ1/3が消失。

 

凄まじいまでの斬撃に、誰もが―――フィーネでさえ―――驚愕に動けない。

自らがもたらした沈黙を破るように、訃堂は大刀を天へ掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よッ!」

 

 

 

 

 

持った刀の切っ先をノイズへと突きつけ、吠える。

 

 

 

 

 

「これぞ、FG式回天特機装束転身斬艦刀なりッ!!」

 

 

 

 

 

シンフォギアはノイズの位相差障壁という絶対防御を調律し、こちらの世界への出現率を固定して撃滅する。

ゆえに、ノイズを倒せるのはシンフォギア装者だけ。

装者自身は武器を使わなくても、拳や蹴りで、極端な話、身体のどの部分をブチ当ててもノイズを倒すことは可能だ。

だからといって、装者そのものを只人が振り回してノイズを叩き潰すなど、一体誰が予想できよう!?

 

されど、これが奏と訃堂の切札。

ノイズ滅殺の大願のために、今日の今日まで特訓を重ね、温存していた超絶秘技。

 

長大な剣と化した奏を構えたまま、訃堂はノイズ目がけて突進。

そうして訃堂が振るったのは、左右袈裟斬りの二刀のみ。

雲霞の如きノイズの群れは全て消し飛んだ。

一振りで1/3ならば、残り二振りで全滅するは必然。

 

スタジアムに静かな風が吹く。

炭と化した人もノイズも吹き散らされ、先ほどまでの惨状が幻のよう。

 

「ッ! そこかッ!」

 

巨大な刀を地面に突き立て、訃堂は懐から小刀を投じる。

小刀はスタジアムの分厚い内壁を貫通したが、それだけだ。

 

「…手ごたえはあったのだが」

 

呟く訃堂の隣で、刀に転身した奏の身体を覆っていたシンフォギアが剥落して行く。

全てがボロボロと砂のように崩れ落ちると、後にはステージ衣装に戻った奏が横たわるのみ。

 

「か、奏ッ!?」

 

「…カナデッ!!」

 

アームドギアを放り出して翼とクリスは駆け寄った。

訃堂の足元で、真っ青な顔の奏は微動だにしない。

 

「奏ッ! 目を覚まして!」

 

「お願いカナデッ! 目を開けてぇッ!!」

 

二人とも涙を流していることにすら気づかず、奏の身体を抱き起す。

泣きながら彼女の剥き出しの肩を揺する。そうやって親友の魂を取り戻そうとするかのように。

 

すると。

 

「…がふっ!」

 

口から血の塊を吐き出して、奏はゆっくりと薄目を開けた。

 

「…へ、へへ。よう、おまえら…」

 

「奏ぇッ!!」

 

翼がその身体を抱きしめ、クリスは口元を押さえてその場へとぺたりと女の子座り。

 

「よ、良かった。良かったようぅ…」

 

その三人を静かに訃堂は見下ろす。

橙色の空は黒く染まり、幾つもの星が瞬いていた。

 

 

 

 

 

そして、その光景を、ぽかーんと口を全力全開で眺めていた立花響。

バカみたいな大口に、宙から何かの欠片が落ちてきたのと、冷たい夜風に首筋を撫でられ彼女がぶるぶると全身を震わせたタイミングは全く同じ。

その拍子に口の中のものを飲み込んでしまい、たちまちごほごほと咳き込む響。

「ぺっ、ペッ!」と吐き出そうとしたが、どうやら少し飲み込んでしまったようだ。

 

自分が飲み込んだものが、訃堂が先ほど宙へ吹き飛ばしたガングニールの欠片であることを、今の彼女は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬおッ!」

 

気合と共に、瓦礫が吹き飛ぶ。

その下から弦十郎以下、特機部二の研究班が這い出してきた。

 

「大丈夫ですか、司令…?」

 

研究員の一人が気遣わしげな声をかけてくれるが、弦十郎は大きく頷く。

 

「生憎と、身体は頑丈な方でな」

 

背中の痛みを誤魔化してそう笑えば、研究員の笑顔は引き攣っている。

弦十郎は、背部に重度の熱傷を受けつつも、身を呈して瓦礫の崩落からも研究員たちを護っていた。

研究員の顔付きは、頑丈とかそういうレベルを超越していることに驚いているのだが、弦十郎には全く自覚はない。

どうにか歩けるほどに体力が回復しているのも、もはや化け物と形容しても良いだろう。

が、命を助けて貰った手前、研究員の誰もがそのことを指摘できずにいる。

 

最後の一人を陥没した穴から引き揚げ、弦十郎は皆の無事を確認。それから急にハッとした顔つきになる。

 

「そ、そうだ! 了子くん!? 了子くんはどこだッ!」

 

慌てて周囲を見回せば、積み重なった瓦礫の奥から櫻井了子が姿を現す。

自慢の巻き髪も崩落した彼女は、長い髪を引きずりながら歩いてくる。

白衣姿は全身煤に塗れ、横腹を押さえていた。

そこに血が滲んでいることを認めた弦十郎は、自分の身体の痛みを忘れて了子へと駆け寄る。

ふらりと了子の身体が傾く。床に倒れ込むギリギリで、弦十郎の太い腕が抱き上げた。

 

「大丈夫か! しっかりしろ了子くんッ!」

 

青ざめた顔で弦十郎を見上げる了子。

 

「あはは…。わたしもドジっちゃったみたい…」

 

そう言って、彼女は弦十郎の腕の中で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下は後日談となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライブ会場の惨劇。

死者、行方不明者の総数、8547人(内、ノイズによる死傷者はおよそ3000人と推定)。

緒川慎次の影縫い、分身を駆使した避難誘導の成果も空しく、ノイズや爆発事故と関係ない要因で大小の怪我を負った人もカウントすれば、その被害数は30000人にも及ぶ。

その中に、『トライウイング』の天羽奏も重症者としてカウントされていた。

このことを受け、『トライウイング』は無期限の活動休止を宣言。

解散こそはしてないものの、三つの翼が空を舞う姿が見られないことは、多くのファンを嘆かせた。

 

 

また、このライブの影で極秘裏に行われていた完全聖遺物の実験は一応の成功を見たが、起動時に多量の破壊エネルギーを放射。

これが惨劇の端緒になったのか、大量のノイズの出現したタイミングは偶然であるのか、今なお調査中である。

また、起動後の聖遺物『ネフシュタンの鎧』は、爆発の混乱に紛れ、何者かに強奪された。

こちらも併せて調査が指示されていたが、全ては極秘裏に行われている。

 

 

そして訃堂の振るった『FG式回天特機装束転身斬艦刀』は、転身した奏の受けたダメージも鑑みた結果、通常運用は困難として封印指定を受けることとなった。

その正式名称は『Symphogear(シンフォギア) Solid(ソリッド) Changed(チェンジド) Arms(アームズ)』略称『S2CA』として特機部二の極秘ファイルに記載されている。 

 

 

 

 

 

 

 

 

傷付きながらも天羽奏はその命を永らえた。

翼は、友が救われたことを喜び、護るために更に自分を高めようと心に誓う。

そしてクリスは、歌を唄うことの素晴らしさと、その怖さに思いを馳せるようになる。

 

今、三つの魂は、その翼を休めている。

彼女たちが再び羽ばたくまで、およそ二年の月日を待たねばならない。

 

そしてその切欠は、ライブ会場で助けたあの少女によってもたらされる―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トライウイング編 完

 

 

 

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