シンフォギア異伝 防人れ! 風鳴一族!   作:とりなんこつ

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第2話 必ずそこに辿りつく

 

 

 

 

「な、何が起こっているの!?」

 

自分のお腹が謎の光を放ったことに、一番驚いているのは当の響だった。

光が眩しくて目を開けていられないだけではない。

お腹の奥の奥から、凄まじい熱気が噴きだしてくる。

その熱さは、もはや痛みさえ感じさせるレベルで―――。

 

「があッ!?」

 

何かが腹部から飛び出した。

光で真っ白に染まる世界で、飛び出した何かが、自分の両手足、それから胴体を覆っていくのを響は感じる。

何やらガチャガチャン! といった機械音に続き、排気音が轟く。

プシューっという煙に包まれながら自分を見下ろして、響は素っ頓狂な声を上げた。

 

「な、なにこれーッ!?」

 

いつの間にか、黄と黒のツートンカラーの鎧のようなものが装着されていた。

同時に響は思い出す。これ、トライウイングのみんなも着ていたのに似ている…?

 

「うわ、おねえちゃん、かっこいいー!」

 

女の子の声で我に返る。

その称賛は嬉しかったけれど、ノイズが迫りくる中で悠長にポーズを決めている暇はない。

 

「こっちへ!」

 

女の子を抱き上げて、同時に響の口から歌が溢れ出す。彼女自身そのことに気づく余裕もなく、唄いながらノイズの群れを見回していた。

狭い燃料タンクの上の四方はノイズに囲まれていて逃げ場はない。

 

いや、一つだけ、あるッ!

 

女の子を抱えたまま響は跳躍。

だがそのジャンプは、彼女の思惑を超えたレバー上入力のようなスーパー大ジャンプ。

 

「わわわッ!?」

 

予想以上の巨大な放物線を描くことになった響は、斜め前方にあったビルの壁面に女の子を庇うようにして背中から衝突。

 

…あれ? 痛くない…ッ!?

 

そう思いつつ、重力に引かれて地面へと墜落。

こちらも女の子を庇いながら両足で着地。

衝撃に、アスファルトの道路が放射状に陥没するも、やはりほとんど痛みはない。

 

「どーなってるの、これ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、ガングニールの反応が…?」

 

特異災害機動部二課発令所。

モニターを凝視する櫻井了子の横で、風鳴弦十郎は矢継ぎ早の指示を飛ばす。

 

「至急、翼とクリスに連絡して現場へ急行させろッ!」

 

「ですが司令! 二人とも、先ほど和歌山沖での戦闘が終わったばかりで…!」

 

友里あおいが悲鳴じみた報告をしてくる。

 

「可能な範囲で急がせるんだッ! 藤尭ァッ!」

 

「了解! ランデブーポイントの調整に入ります! …しかし、この距離では間にあうかどうか…ッ!」

 

モニターの中では、女の子を抱えたまま逃げまどう少女の姿が小さく動いている。

孤軍奮闘はしているものの、ノイズの数はあまりにも多かった。

おまけに場所がよりによって危険物満載の工業地帯とあっては、自衛隊を要請しても迂闊に発砲することも出来そうにない。

 

「…くッ」

 

短く呟き、弦十郎はくるりとモニターへ背を向けた。

 

「司令ッ! どちらへ?」

 

気づいた友里が声をかける。

 

「…俺が撃って出る」

 

「まさかッ!」

 

「司令がッ!?」

 

驚愕する二人の側近の声を背中に聞き、弦十郎が発令所を出て行こうとしたその時―――。

 

『ちょいと待ってくれよ、ダンナ』

 

新たな声が発令所内に響いた。

 

「おうッ?! その声はッ!」

 

『こんなことで、総司令さまが直々に出張ることもないだろッ?』

 

大型モニターの中にウインドウが開き、そこに映るのは赤毛をたなびかせ不敵な笑みを浮かべる若い女。

かつての『トライウイング』不動のセンターだった天羽奏だ。

 

「奏かッ!? いま、どこにいるッ!?」

 

『こっちは間もなく現着予定さ』

 

「だが、今のおまえは…ッ!」

 

『安心しな。ギアは使えなくても、二人が来るくらいまでの時間は稼いでやるよ!』

 

弦十郎は少しだけ考え込む素振りを見せたが、毅然と顔を上げる。

 

「わかったッ! 頼むが、くれぐれも無茶だけはしてくれるなよッ!」

 

『合点承知ッ!』

 

画像は消え、通信から流れるエキゾーストが長い音を引く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わわわわッ!」

 

工業地帯の命懸けのチェイスはまだ続いている。

女の子を抱えたまま響は疾駆しているのだが、どこの横道へ逃げてもノイズが待ち構えていた。

ならばと空を飛べば、響はよくても女の子には結構な衝撃を与えてしまうので多用は出来ない。

更に言ってしまうと、響自身、急に自分が身に着けた力を持て余していた。

全力で動けば振り切れるかも知れない。けれどそうした場合、腕の中の女の子は生卵のように割れてしまいそうな直感がある。

 

「…くそッ!」

 

そもそも唄いながら動き回るということ自体が、慣れない身には苦行となる。

息を切らせば歌を唄えず、歌が唄えなければ身体が超人的な動きをしてくれない。

 

(このままジリジリと追い詰められちゃうの…?)

 

諦めてこそはいないものの、濃い疲弊の色を浮かべる響の耳に、遠く排気音が聞こえた。

それは徐々に近づいてきたかと思えば、ノイズの隙間を縫うような鋭角なドリフトを決め、響の前に停車。

クリーム色の三菱ジープだ。幌はなく、フルオープンの座席から、夜であるにも関わらずサングラスをかけた赤毛の女がこちらを見下ろしている。

 

「乗りな、嬢ちゃんッ!」

 

この時点で否応はない。

 

「は、はいッ!」

 

まずは女の子を後部座席へとほうり上げ、響自身も飛び乗った。

 

「よしッ! しっかり掴まってなッ!」

 

言うが早いが赤毛の女はシフトレバーをセカンドへブッコんでアクセルを全開。

直列4気筒OHCICターボディーゼルエンジンが唸りを上げる。

神速のギアチェンジで一気にスピードを上げ、巧みなハンドルさばきを駆使し、ジープはたちまちノイズの群れから遠ざかる。

 

「…ぷはーッ! 助かった…ッ!」

 

思わず響が座席にそっくり返れば、運転席からは挑発的な声。

 

「はッ! そうは問屋が卸さないみたいだぜッ!?」

 

大通りを疾駆するジープの前方にはまたもやノイズの群れ。

その中でも一際目を引くのは、緑色の巨人のような大型ノイズ。

 

「わわわッ! 右にもッ! 左にもッ! 逃げなきゃッ!」

 

「慌てなさんなッ!」

 

不敵な声とサングラスに、街灯の光が反射している。

 

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありッてな!」

 

ジープは更に真正面へ向けて加速。

 

「うっそでしょーッ!?」

 

思わず響が女の子に覆いかぶされば、ジープはノイズの隙間と隙間をタイトロープダッシュ。

ほんの数瞬前通った場所をノイズが次々と飛び交う様は、まるで水族館のイルカショーのジャンプアーチのようだ。

凄まじいハンドリングを披露し、たちまちジープは巨大ノイズの足元へと達する。

更に加速を重ね、踏みつぶそうと高々と上げられた足の下をくぐるように、響一向を載せたジープは駆け抜けていた。

 

「ひゃっはーッ!」

 

ノリノリの声と一緒にジープは工業地帯を脱出。

 

「…凄い」

 

海岸沿いの国道ひた走るジープの後部座席で、響はようやく周囲を観察する余裕が出てくる。

 

「も、もしかして、天羽奏さんですか?」

 

ハンドルを握り赤毛をたなびかせる彼女のシルエットは、響に見覚えがあるもの。

 

「お? あたしのことを知っているのか?」

 

「もちろん! 『トライウイング』の絶対的エースにしてレッドウーマン! ですよね!?」

 

「レッドウーマンってのは初耳なんだけど…」

 

天羽奏が苦笑している雰囲気。

 

「二年前の事故で大怪我したってニュース流れてから、心配してましたッ! あれからさっぱり見かけないから、同級生なんか死んじゃったんじゃないかって噂も…!」

 

「おいおい、ひでぇな。勝手にあたしを殺すなよ。こんな風にピンピンしてるさ」

 

「も、もちろんわたしは噂なんか信じてませんでしたよッ!?」

 

「そりゃありがとよ」

 

興奮気味に力説する響に奏はバックミラー越しに笑顔は向けるも、その表情は一瞬で凍りつく。

 

「掴まれッ!」

 

言うなりハンドルを切れば、すぐ隣を飛行型のノイズが槍のように通過。

そのタイミングで逆方向から来たノイズも避けようとした結果、タイヤはグリップ力を失う。結果、ジープは盛大にスピン。

 

「しくったッ!」

 

奏の絶叫を聞いて、ほとんど響は条件反射で車外へと飛び出していた。

回転する車の側面へと取りつき、足と地面の摩擦でブレーキをかける。

 

「どっせーい!!」

 

アスファルトの上に盛大な火花が散る。

ずんッ! と重々しい衝撃が走ったが、乗車している人間は無傷だ。

響の機転でどうにかジープはガードレールへの衝突を免れるも、代償に響はジープとレールの間に挟まれる格好に。

身動きが出来ない響の視界を、次々とノイズが埋めていく。

 

「くッ! 奏さん! その子を連れて早く…ッ!」

 

響の必死の声に、天羽奏はサングラスを外して空を仰ぎ見る。

 

「いや、もう大丈夫だ」

 

「な、何言ってるんですかッ! 早く逃げて下さいよッ!」

 

「今度こそ正真正銘の騎兵隊のお出ましだぜッ」

 

「へ?」

 

釣られるように響も空を見上げた。

キラリ、とまるで星のような小さな光が瞬くのが見えたと思った次の瞬間、空から降り注ぐ無数の真紅の矢、矢、矢。

土砂降りのように降ってくる矢の数々は次々とノイズへと突き刺さり、たちまち駆逐していく。

それどころかジープの周囲に突き立った矢はそのまま消えることはなく、簡易な防壁のようなものまで形成する。

ただただ呆気にとられる響の視線の先で、こちらに追い付こうとしていた巨大ノイズもこれまた巨大な剣で両断されているのが見えた。

 

「な、何がどうなって…?」

 

眼を白黒させる響の前に、赤と蒼の二つの影が降り立つ。

 

「大丈夫か、奏ッ!?」

 

「カナデ、無茶しすぎだよッ!」

 

未だガードレールとジープに挟まれたままという間抜けな格好だったが、二人の姿を認めて響は感無量だ。

ずっと憧れてきた存在が、いま、確かに目の前にいるのだから。

 

「ワリィワリィ。ま、おまえたちが来るまでの繋ぎ要員ってことで」

 

「まったく…」

 

腰に手を当てて呆れて見せるのは、蒼い鎧に刀のようなものを引っさげた風鳴翼。

 

「ところで、こっちの車に挟まれているのは? …あら?」

 

赤い鎧に弓を携えこちらを見てくるのは雪音クリスで、彼女はどうやら響に見覚えがあったらしい。

なので響は元気に挨拶。

 

「お二人とも、ご無沙汰しています! わたしは、立花響ですッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空をライトを点けたヘリコプターが飛んでいた。

その下で黒塗りの車両が並び、何やら天幕のようなものが張られている。

天幕の中では折り畳み椅子に座らされた女の子が、ジャンパーを羽織らせてもらって飲み物を飲んでいた。

そして響はというと、ひん曲がったガードレールの上に腰を降ろし、すっきりとした表情でその光景を眺めている。

 

とにかく、あの子を助けられて良かった―――。

 

「はい、どうぞ。温かいもの」

 

気づけば、目の前に制服姿のお姉さん。彼女の差し出してくれた紙コップを遠慮なく受け取り、響は礼を言う。

 

「あ、あったかいもの、どうもです」

 

柔かい香気が鼻腔をくすぐる。

ふーふーと冷まして一口飲めば、何とも言えない芳醇な旨味が口の中に溢れた。

こんな美味しいコーヒー、生まれて始めて飲んだよ!

その瞬間。

湧き上がってくる感動を押しのけるように、響の胃袋は盛大に鳴動。

未だ夕飯も食べておらず、強烈な空腹を意識すると同時に、響の身体を鎧っていたものは淡い光とともに消え去る。

 

「え? え?」

 

驚いて腰を抜かしてしまう響は制服姿に戻っていた。

そんな彼女は後方へ倒れ込む寸前、誰かに受け止められる。

 

「…あれ?」

 

振り向けば、そこには風鳴翼が立っていた。

 

「あ、ありがとうございますッ」

 

思わず礼を言う響に、翼はなんとも複雑な表情を浮かべている。

しかし、憧れの人に受け止められた響は、興奮してそれどころではない。翼もリディアンの制服姿なことにも気づかないほど。

 

そんな二人の目前で、女の子が椅子から立ち上がっていた。

そのまま走って天幕を飛び出す。

 

「ママッ!」

 

「ああ、良かった! 無事だったのね!」

 

母親らしい女性が女の子を抱き止めている。

その光景を微笑ましく眺める響の前で、先ほど温かいものを渡してくれた制服姿のお姉さんが親子に話しかけた。

 

「それでは、この同意書に目を通してサインしていただけますでしょうか?」

 

「え…?」

 

「本件は国家特別機密事項に該当するため情報漏えいの防止という観点から、 あなたの言動及び言論の発信には、今後一部の制限が加えられることになります。 特に、外国政府への通謀が確認されますと…」

 

その説明は響にとって懐かしい覚えがある。

 

そうそう二年前、わたしもこんな風に説明されたっけ…。

でも、今回は二回目だし、同じ説明を受けなくてもいいよね?

 

「それじゃあ、わたしはそろそろ。お腹も減ったし、未来も心配しているだろうし…」

 

翼たちとこのまま別れてしまうのは名残惜しいが、未来を心配させ、万が一怒らせてしまったりしたらそちらの方がよっぽど怖い。

 

愛想笑いを浮かべて立ち去ろうとした響だったが、振り返った目前には柔和そうな男性が立っている。

 

「すみません。あなたを拘束させて頂きます」

 

柔らかい声でそう告げられた途端、響は自分の両腕にゴツイ手枷が嵌められていることに気づく。

 

「え? え? なんで? どうして? いつの間にッ!?」

 

思わず狼狽える響の頭を、ポンと誰かが叩いた。

その手の主を辿れば、天羽奏が笑っている。

 

「さあて、期待の新人ちゃんを、我らが特異災害対策機動部二課へとご招待だッ!」

 

有無を言わせず黒塗りの車の後部座席に放り込まれる。

 

「ちょ、ちょっと待って~! せめて未来に連絡を~!」

 

響の哀れな叫びは、当然のように忖度されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ここってリディアンじゃ?」

 

車が到着したのは、なんと在学している私立リディアン音楽院。

夜の九時も回り、人気のない敷地内を歩かされ辿りついたのは教員棟だ。

例の物腰の柔らかそうな男性が先導し、次に風鳴翼が続く。

その後に雪音クリスがいたが、彼女の後を歩く響も、さすがにこの雰囲気で気軽に話しかける気にはなれない。

最後尾を天羽奏が歩いているのだが、彼女が左腕に持つ松葉杖をつく音が、カツンカツンと夜の学園に響いている。

 

…そっか。車に乗っている時は気づかなかったけれど、奏さんは足を悪くしたんだ。

だから、トライウイングとして復帰できないんだ…。

 

響がそんなことを考えているうちに、一向は教員棟の奥まった場所へと到着。

両サイドに開いたドアは、教員専用のエレベータであることは響も知っていた。

 

上に行くのかなあ?

 

暢気に構えている響に、男の人は彼女の手をとって近くの持ち手へと摑まえさせた。

 

「危ないですから、しっかりと掴まっていて下さいね」

 

「え?」

 

意味が分からずそれなりに広いエレベーター内を見回せば、壁際に立つそれぞれがしっかりと持ち手に手をかけている。

 

「え? え? 危ないって…?」

 

訊ねた瞬間、全身の血が一斉に下に持って行かれるような強烈なG。

 

「どおおおおおおおおおおおおおッ!?」

 

ようやく響も、このエレベーターが猛烈な勢いで地下へと降下していることを理解。

 

「あ、あははは…」

 

狼狽えてしまった恥ずかしさを誤魔化すように愛想笑いを浮かべれば、

 

「初めての人はびっくりするのは仕方ないかも…」

 

雪音クリスが微笑を浮かべて見返してくれた。

 

「ま、要は慣れさ。慣れ」

 

天羽奏はむしろ楽しんでいるような余裕さえ伺える。

ただ一人風鳴翼だけが、「この程度で狼狽えるなど…」と苦言のようなものを呟いていたが、憧れのクリスと眼があった響は気づくどころではない。

ついでに、エレベーターの外に謎の紋様が描かれた異様な空間が存在したことも、全く認識出来ていなかった。

 

うわー、本当にクリスちゃんって可愛いなッッ…!!

 

ひたすらクリスに見惚れていれば、エレベーターはどうやら目的地に到着した様子。

ドアが開くなり、幾つものクラッカーが鳴らされ、響は驚くよりもきょとんとしてしまう。

 

「ようこそ! 人類最後の砦、特異対策機動部二課へ!」

 

赤シャツを着た大男がやたらフレンドリーな笑みで出迎えてくれたのも、響にとって完全に想定外。

フリーズするしかない響に、今度は奇妙な髪型をした女性が近づいてくる。

ピンクの眼鏡に白衣を着た女性は、初対面にも関わらず響のパーソナルスペースを粉砕。

馴れ馴れしいとさえ言える仕草で制服ごと響の首を抱え込むと、自前のスマホを取りだして斜め上にかざす。

 

「さあさあ、笑って笑って。お近づきの印に、2ショットの写真を撮りましょ」

 

そう言われ、反射的に身を引いてしまう響。

 

「い、嫌ですよぉ! 手錠をしたままの写真だなんて…きっと悲しい思い出として残っちゃいます!」

 

自分の発言を皮切りに、ようやく響の中で現状の異常さが認識されていく。

どうやら自分が歓迎されている雰囲気はともかく、でかでかと『熱烈歓迎! 立花響さま!』という看板に違和感を抱いた。

トライウイングの三人は別にしても、どうしてこの人たちはわたしの名前まで知っているの?

 

「まあ、我々の殆どが君と直接顔を合わせるのは初めてだが、君のことは以前のデータに残っていたのだよ」

 

響の不審を察したのか、赤シャツの大男が苦笑しながら言ってくる。

 

「データ…?」

 

「二年前のライブ会場の生存者の立花響くん。君のことだろう?」

 

ここにきて、トライウイングに会えたことで浮かれきっていた響の頭も、ようやく正常に状況の処理を開始。

 

そういえばさっき、女の子とお母さんへ女性職員が説明してたの、二回目だって思ったっけ。

二年前の人たちと、今日の人たちが同じ組織に勤めているなら、二年前のわたしの記録は残っているよね…。

 

 

 

 

 

当たり前のことを当たり前に認識する響から少し離れた場所で、翼とクリスが小声で会話を交わしている。

 

「…そうか! あの時、奏に助けられた子の名も確か立花響…ッ!」

 

「正直に言えばね、わたしも今日、本人から言われるまで思い出せなかったよ」

 

「ふうむ。確かに面影はある。それにしても良く育ったものだな。正直、うらやま…いやいやけしからんッ!」

 

「…翼、どの部分を見て言っているの?」

 

 

 

 

 

 

 

「御無礼しました」

 

手枷を外してくれた優男は緒川慎次と名乗ってくれた。

自由になった手をぶらぶらさせている響に、赤シャツの大男が言ってくる。

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

その隣で、眼鏡に独特な髪型をした女性も、これ見よがしに豊満な胸を張った。

 

「そして私は―――デキる女と評判の櫻井了子。よろしくね」

 

「はあ。こちらこそよろしくお願いします」

 

とりあえず、礼儀に則り響はぺこりと頭を下げる。

 

「君をここへ呼んだのは他でもない。協力を要請したいことがあるのだ」

 

弦十郎の言葉に、

 

「協力って……はッ!?」

 

響の脳裏に展開されるは、急に溢れ出した光と鎧。そしてもたらされた謎の力。

 

「教えて下さい! あれはなんなんですかッ!?」

 

喰い気味に訴えてくる響に、櫻井了子はスッと右手の指を二本立てる。

 

「あなたの質問に答えるためにも、二つばかりお願いがあるの。最初の一つは今日のことは誰にも内緒」

 

言いながら、またしても響のパーソナルスペースを踏破する了子。

響の腰を引き寄せながら、耳元へ甘く囁くように声を潜める。

 

「もう一つは…とりあえず脱いでもらいましょっか」

 

「…え? うぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

 

 

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