英語や地理に関しては知識不足ですので多少の間違いがあると思いますが、ご了承ください。
シャークの指示でアメリカに降り立ったゼストはフードを被り人目をはばかるように移動を始めていた。
(さて、ニューヨークはこっちで合ってるのかな?)
薄暗い路地裏を駆け抜けながら時折大通りに出ては標識で現在位置を確認する。
来世からやって来る時点で目的地に座標を合わせて、いや合わせたのだが微妙にズレていたようで目的地であるニューヨークではなくどこかわからないアメリカの州にやって来てしまったのだ。それに加えてゼストは極度の方向音痴で目的地から遠ざかった隣国であるメキシコとの国境線に近づいて行ってしまっていることに彼は気がついていない。
陽も暮れはじめ辺りが闇に染まっていく、夜が訪れてしまえばアメリカは無法者の溜まり場となり面倒な輩と絡まれることも多い。
だからこそゼストはさっさとホテルにチェックインして今後の計画を練ったついでに観光を楽しみたかったのだがどうもそんなことをしている余裕はない。
一度路地裏を抜け出して大通りに出てみると、もうすぐ陽も暮れるというのに大勢の人々が楽しそうに駄弁り平和な光景が広がっていた。そして現在位置を確認したところアリゾナ州の州都であるフェニックスであることがわかった。
アリゾナ州と言えば隣の国のメキシコとかなり近くにありニューヨークとは全くの正反対の位置にあるアメリカの中でも大きな州の一つだ。
「ちくしょう、目的地と全然違うじゃん。どうしようかな、今日はここに一旦泊まろうかな?」
ゼストは溜息を吐きながら独り言を呟く。一週間以内の暗殺のため時間的にも余裕はあるが宿を転々と巡り巡ってニューヨークまで向かうとなると費用もかかるし何より無事にニューヨークまで迷わずに行ける自信が彼にはなかった。
一応地図は購入してあるがあまり目立った行動はしたくない。
ゼストが移動しようとフードを再び深く被り直すと、突如背後から流暢な英語で話しかけられる。
「Excuse me.(すみません)」
「い、いぇす?」
ゼストは戸惑いながらも英語で返す、先に言っておくとゼストは英語がカタコトでしか話せない。聞いて意味を日本語に変換することはできるのだが、何故か自分が話すとなると英語に聞こえないのだ。
そんなゼストの事情も知らない相手の女性はペラペラと続ける。
「Is there not the coffee shop in this neighborhood?(この辺りに喫茶店はないでしょうか?)」
「あ、アイムソーリー、あいどゥんとノゥ」
「I see, thank you.(そうですか、ありがとうございました)」
「ゆあーウェルカム!」
女性は笑顔でその場を去って行きゼストも手を振り返し笑顔を作った。ゼストが一刻も早くニューヨークに向かい仕事を終わらせたい理由はなるべく人との会話を避けたいという思いもあった。
ここが日本ならば問題ないのだが生憎だがここはアメリカである、英語圏の国である。
ゼストには何故国によって言語が違うのか全く理解できなかった、統一してしまえば良いのにと何度思ったことだか。
「とりあえず宿を探すか」
ゼストは観光客用に設置された地図に従い、この場所からそんなに遠くないホテルへと向かった。
※
『それは申し訳ないですね〜、まさかゼスト君が英語を話せないとは』
「話せないわけじゃねぇんですよ、ただ話すのが苦手なだけなんです」
とりあえず今夜一晩だけ泊まることにしたゼストはチェックインを済ませて部屋のベッドに横になりながら指を頭に当てて脳波を来世に飛ばしてシャークと脳話を行っていた。
一応報告と時間がかかるということだけは伝えておいた方がいいと判断したのだ。
誰にも聞かれるわけにはいかなかったので監視カメラや盗聴器の類は全て警戒しながら捜索を済ませて鍵は完全に締めてある。
「それでシャークさん、何かターゲットに関しての追加情報とかないですか?」
『残念ながらないんだわな、君が期待するほど私は情報収集が得意なわけではないし必要な情報は伝えたのでね』
「そうっすか、それじゃ切りますね」
ドッと眠気が襲って来たゼストは否応なしにシャークとの脳話を切り、脳波の放出も抑える。
そして自らの影に物資を収納する収影術により影から一本のボトルを取り出しゴクゴクと飲み始める。
ボトルの中身は来世の住人が生きていくのに必要な霊素と呼ばれる物質を液体化したもので現世に行くならば絶対に持っていかねばならない必須品なのだ。
ついでに影からイヤホンと音楽機器を取り出してラジオを流す、少しでも情勢や情報も知っておけば行動の方法やいつ動くかなどのタイミングを決める点においても非常に重要なポイントとなってくる。
そしてそのまま目を瞑り体を休ませるように明日の計画を頭に思い纏める。
刹那、ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!とイヤホン越しでも聞こえる大きな爆音が外から響き渡った。
「なんだ!?」
ゼストはイヤホンを外して勢い良く立ち上がってから部屋の窓を開く、すると目の前から火の手が上がっていた。
放っておけばこのホテルまでも飲み込みそうな激しい炎だった。
「クソ、何で俺の行く先々はこんなことばっかり起こるんだよ!」
ゼストはチェックアウトの支度を済ませてロビーを抜けてホテルの外に駆け出した。
※
ゼストは死神だ、生者を助ける道理なんてない上にそういう義理人情は捨てるようにと教育を受けてきた。
だからこそだろうか、だからこそゼストは真っ先に駆け出したのだろうか。
どうやら無断駐車されてあった車に腹を立てた家主が車に銃弾を撃ったところ当たりどころが悪かったようでガソリンが引火して発火してしまったようだ。
車の中に人がいるのかはわからないが現在駆けつけた救助隊や警察、消防隊が近隣の住人の避難と野次馬の対処に追われている。
かくいうゼストは野次馬側である。
野次馬だからこそ仮に人がいたとしても助けに行けないし、事の流れを傍観することに徹する。
彼は死神なのだ。
「I chase it! A child jumps into flame!(お、おい!子供が炎に飛び込んで行くぞ!)」
「Stopped it, and the parent did it how!(誰か止めさせろ、親はどうしたんだ!)」
ざわざわと野次馬達がざわめき始める。ゼストもそちらに視線を向けてみると小学生ぐらいの幼い少女が泣き叫びながら炎の中に走っていく様子が見えた。
「チッ...!」
ゼストは気がつけばテープを乗り越えて炎に向かっていく少女のことを追いかけていた。
「Hey I intended to do what !?(おい、どうするつもりだ!?)」
警官の一人がゼストに声を掛けるもゼストは止まらない。
そう、ゼストは死神だ。死期の近い人間など何人も見殺しにしてきたつもりだった、だがゼストは人殺しの仕事をするにあたって標的以外は絶対に殺しもしないし見殺しにはしないと心に刻みつけたルールがあったのだ。
だからこそゼストには目の前の少女を救う義務があった。
ゼストは少女が炎に触れる直前に彼女の体を持ち上げて炎から回避する。
「Dad !Dad !(おとうさん!おとうさん!)」
少女は泣きながら炎に向かって叫び続ける、その叫びを聞きつけたゼストは少女を警官に預けて炎の中に飛び込む。
少女はかつての自分と重なっている気もした。
親の顔も知る前に、物心つく前に親を亡くした自分と。
身内は姉だけ、その姉も突然ゼストの前から立ち去り命を落とした。
だからこそ、少女の心を満たすために、自分のような者が仕事以外で増えないように。
ゼストは炎の中に飛び込んだのだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
炎はより一層、メラメラと音を立てて燃え始めた。
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