残された期間は四日。
ゼストはエレンに死神云々の話を抜きにして急ぎニューヨークに行かなければならないことを話す。
本来であれば現世で現地の生者との接触は避けるべきなのだが、方向感覚が疎いゼストにそんなことを言っている暇はなかった。
話を一通り聞いたエレンは静かに部屋を後にする。
「そういうことなら任せなさい。私のマシンで連れて行ってあげる」
「マジか!」
「でも、道中の病院でクソ親父にエリーを預けるから。この辺治安が悪いからこの娘一人にしておくわけにはいかないのよ」
「.....さっきから聞こえる銃声はまさかとは思ったが」
「うん、害獣駆除の猟師さんが頑張ってくれてるの!」
「あれ?俺の思ってたことと何か違う」
しかもその人私の叔父さんなのよー、と自信満々に無駄にでかい胸をボヨン、と張る。
その行為にエレンの隣でエリーが自分の胸をぺたりと触っていた。
そこでゼストはある問題に気がつく。
「待て、バイク三人乗りすんの!?」
「え、今更?」
「すんのかよ!危ないだろ、車とかないのかよ!」
「えー、あれ風に当たりながら走れないから免許取る気ないのよね」
「ないんだな」
ゼストはガクリと肩を落とす。
本来ならば頼んでいる立場で贅沢は言ってられないのだが安全は第一である。
仮に自分のせいでエレンとエリーが死んでしまったら、それこそ死を呼ぶ死神と言われかねない。
「...............俺じゃん!」
「ゼストー、早く行くよー」
エリーに手を引かれゼストは諦めた様子でエレンの後ろに乗り込んだ。
ちなみにエリーはエレンとゼストの間に小さく縮こまって挟まっている。
......エレンは最初ノーヘルで行こうとしていたので流石にいくらなんでも危険なので説得の末何とかなったというゼストの苦労もあったのは別の話。
※
その頃、来世では。
「ゼスト君と連絡が途絶えて三日。こちらから脳波を飛ばしても反応がないということは何らかの事情がありそうだよな」
自室に籠もったシャークが自慢の顎鬚を撫でるようにして何かの機械を弄っている。
暗視ゴーグル越しで目の表情は読み取れないが口元は笑っていた。
「シャーク、こいつは本当にただの暗殺なのか?俺にはどうも依頼自体が怪しいと見るが」
「.....はて、どういうことでしょうかね?」
「俺だっていくつも暗殺をしてきた、大量の依頼書や依頼人も見てきた。だが、この依頼書は見てきた中でも胡散臭すぎる」
同席していた死神第二部隊の隊長が依頼書を見ながらシャークを睨みつける。
火の元を切らした煙草がポトリと地面に落ちる。
「あのねぇ、たしかに部下のゼスト君が心配になる気持ちもわかりますがね」
「違うな、俺はあいつの心配はしていない」
新たに煙草を取り出して火をつける。
その動作一つ一つが凄まじく見えてしまうのは彼にそれなりの貫禄があるからだろう。
「あいつは強い。心配する必要すらない、俺が疑ってんのはテメェだよシャーク」
「.....いやはや、随分と嫌われたものだ。ですがこの暗殺の依頼側に関して私は顔も知りませんしあなたにとって有益な情報は持っていませんよ?」
「.........そういうことにしといてやるよ」
依頼書を乱暴に投げ捨てて部屋を後にする。
シャークは地面に落ちた依頼書を拾い上げる。
「やれやれ、中々勘の鋭いお方だ」
その呟きが誰かに聴かれたのか、それとも誰かに見られたかはわからない。
シャークはそれでもニヤリと笑みを浮かべた。
そして額に指を当ててそのまま脳波を展開した。
※
バイクに乗ること二時間弱、ニューヨークの郊外にある小さな病院にゼスト達一行は無事到着した。
エレンの乱暴な運転に何度か事故が発生しかけたが、ゼストの何気ないフォローと相手方の良心(おそらく近づきたくないため離れただけだと思われる)があり全員無傷だ。
エリーはエレンの運転に慣れていたようで道中英語で気持ちよさそうに叫びまくっていた。
ゼストは何度か吐き気に襲われたため道中何度か止まることもあった。
乗り物酔いと脳波の使用によるフォローのせいでゼストは現在ふらふらの状態である。
ピンピンしているエレンとエリーはゼストを置いて先へ先へと進んで行く。
「Zest! It is early early!(ゼストー!早く早く!)」
「お、おぅぅ」
「急いでるんでしょ、早く行くわよ」
「エレン、ニューヨークまでは安全運転で頼むぞ」
「?あれ以上どう安全にしろと?」
「え、あれで安全だったの?」
何やら聞いてはいけない言葉が聞こえてきた気がするが、エレンはきょとんと小首を傾げるだけだ。
これがカルチャーショックというやつだろうか、ゼストはアメリカでは時速200kmの速度で道路ギリギリまで車体を傾かせてノーブレーキで信号無視して目的地にたどり着くということを新たに学んだ。
何とかついていけるレベルにまで回復した頃にはエレンは既に面会をするための受付を済ませていた。
「Are older sister, father strong very much?(お姉ちゃん、お父さん大丈夫かな?)」
「It is Elly great Takeo. Because that fellow burnt a whole body, and he shakes it from head to foot with pleasure, I do not need worry!Because father is strong(大丈夫よエリー。あいつは全身に火傷をしたくらいじゃ喜んで全身震わせるから、心配なんていらないの!お父さんは強いから)」
「Well!(そうだね!)」
「え、納得しちゃうの!?」
「大丈夫よゼスト。あいつはただのマゾヒストだから」
「それ大丈夫なのか!?」
余計な予備知識のせいでゼストは彼女達の父がどのような人物か想像ができなくなってきた、ていうか会うことが若干怖くなってきてもいる。
「大丈夫、父親としてはやることはやってるから」
「....あまり聞きたくないけどお仕事は何をなされてるんだ?」
「密輸」
「いや、アウトだろ!」
もしこの会話が英語で行われているものだとしたら、その辺の看護師さんが緊急ボタンを押しかねない会話だった。
「ちなみに主な商売品は大麻らしいわよ」
「もういいよ!危ない人だってことはよく理解したから!そんな人にエリーちゃん預けて大丈夫なのかよ!」
「仮にも父親よ、問題ないわ。もしエリーに手を出したら私があいつを殺すから」
「冗談に聞こえねェ」
もしかしたら近い将来、彼女の父の暗殺依頼が届く日が来るかもしれないな〜、なんて現実逃避している間にルーフォードと汚い英語でで書かれた表札の下げられた扉の前に到着した。
何やら部屋の中で物音が聞こえる。
もしかしたら看護師さんか主治医さんがやってきていて検査をしている時間なのかもしれない。
そうなった場合例え親族であっても面会は難しいだろう。
エレンは軽くノックをして扉を開けようとしてピタリと動きを止めた。
「.....エレン?」
ゼストが気になってエレンに近づくと扉の向こうから声が聞こえてくることに気がつく。
『Ah...!Ym...!(あん、ぃや...!)』
『How's that this street I am healthy!Let's do it still more!(どうだ、この通り俺は健康だ!まだまだやろうぜ!)』
『No,no...!(や、ぃやぁ....!)』
『Is here good?Is that this here soft is good...?(ここがいいのか?この柔らかいここがいいのか、ん?)』
「...................ゼスト、エリーのことお願いね」
「お、おう」
エレンはエリーの手を手離しゼストにエリーの身を預ける。
何やら只ならぬ殺気を感じ取ったゼストは一歩二歩とゆっくりと後ずさる。
そして、エレンはノックもせずに扉を蹴り開いて、
『こんの変態クソ親父ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!一回死にさらせェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!』
.....とてつもない日本語の怒号とともに無惨な暴力音が響き渡った。
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