「.....どうも、先ほどは大変お見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」
「しばらくその態勢維持ね、じゃないと殺すから」
「は、はひぃ!!」
ガチャ、とエレンはどこからか拳銃を取り出して土下座を強要させている実の父親に向ける。
ちなみにエリーは自動販売機に四人分の飲み物を買いに、看護婦さんは頬を紅潮させたまま涙目でどこかへと行ってしまった。
今後の仕事に支障をきたすことがないように願うゼストだった。
「本当ごめんね、ゼスト。こんな駄目親父助けさせちゃって、一回死んでみるのもありかもね」
「エ、エレーン!?何酷いこと言っちゃってるの、ていうかその人が俺のこと助けてくれたんだ、ありがとね」
「誠心誠意込めて感謝せんかい、クソ親父!」
「す、すびばせん」
ドゴ、ドガ、とエレンがただでさえボロボロの父親の顔面に拳の跡をしっかりと残す。
何本かいった音が聞こえた気もしたが果たして大丈夫なのだろうか?
「エ、エレン、その辺にしといた方がいいんじゃ」
「甘い!ゼストは甘いわ、コイツは喜んでんのよ!」
「マジでドMだったのよ!」
ここが病院であることを忘れて思わず叫び声を上げてしまう。
たしかにエレンの父親はどこか清々しい様子で倒れていた、心なしか表情も緩みきっている気がする。
「ってて、相変わらず手厳しいなぁ」
「でも嬉しいんでしょ?」
「否定はしません」
「そこは否定してください!」
現世で出会う人物を間違えた気がした。
※
「改めてエレンとエリーの父のブライアンです。仕事上6ヶ国語話せるのが特技です」
ブライアンは豪快に笑いながらゼストに自己紹介した。
仕事の内容は伏せているが、エレンから既に内容を聞いてしまっているため他に活かせる仕事があるんじゃないかと思ってしまった。
「あ、あと改めて助けてくれてありがとう。いやー、マジであの時はビビったね、まさか酒の威力があんなに強烈だとは」
「.....はぁ」
ゼストはもはや呆れを通り越してしまっていた。
しかも酒を飲んだ理由が第一の愛人に第二の愛人とベッドの上でイチャイチャニャンニャンしているところを目撃されて、修羅場となり一度に二人の女を失ったことを忘れたいがための自棄酒なのだから。
同時に助けなきゃよかった、とゼストは割と本気で思ってしまった。
ゼストは頭を抱えながらブライアンに自己紹介で返す。
「俺はゼスト、訳あってニューヨークを目指している」
「ニューヨークに?」
「まぁ、道に迷ってしまった挙句地図が把握できずにタクシーで真反対に行ってしまってからここまで何とかやって来たんですけどね」
ということにしておいた。
即興ながらも中々筋の通った嘘を作れたとゼストは自分自身を心の中で盛大に賞賛していた。
ゼストが苦笑いを浮かべていると、隣にいたエレンがピト、と肩をくっつけて腕を絡めてきた。
「それで私の婚約者でーす」
「.....................」
「.....................」
場の空気が凍った。
ゼストとしては全く身に覚えがない上に意味がわからないままエレンは放心しているブライアンに説明を続けている。
「というわけで、式は一週間後に」
「「ちょっと待て!」」
思わずゼストとブライアンが同時にストップをかけた。
「おいエレン、俺それ認証してないよな!?ていうか何でそこまで話が飛躍しちゃってんの!?」
「え?」
「可愛らしく小首を傾げてもダメだからな!ったく、ブライアンさんも何とか」
「うぅ、エレン、お前ェ、立派になりやがって」
「だぁー!面倒くせぇー!」
ブライアンは両手で顔を覆いながら悲しそうだが何処か嬉しそうな表情でエレンを見ていた。
エレンは止まることなく更なる爆弾を投下する。
「あ、それと実は私妊娠しましたー」
「はぁ!?」
もはや意味がわからなかった。
「んもぅ、ゼストったら。あの日の激しい夜を忘れたとは言わせないわよ」
「忘れたも何も記憶にすらないわ!頼むから少し黙っててくれないか!?」
「ゼスト君、君は俺の命の恩人だ。娘のことをよろしくお願いします」
「何でそんな今までにないくらいカッコつけてるんですか!?あんたも頼むから止めてくれ!」
「ねぇ、ゼスト、息子の名前はアルスで娘の名前はティアにしたいんだけど、どうかな?」
「どうかな?じゃねぇよ!!頼むから俺を現実に返してくれ!」
「ここが現実だよ?」
「知ってるよ、コンチクショー!」
もはやどこから手をつければいいかわかったものではなかった。
場の空気をぶち壊すように部屋の扉がスパーンと勢いよく開かれた。
「I would like it calmly in a visitor, the hospital!(お客様、病院内では静かにお願いします!)」
「知ってます、どうもすみません!」
乱入してきた看護婦さんに通じるはずのない日本語を叫んでゼストはどうしようもない混沌とした現場に涙を流した。
※
その後、何とかブライアンの誤解を解いてエレンを落ち着かせて事態は収まった。
いいタイミングでやってきたエリーが必死で四つの缶ジュースを持っている姿に場の一同はほんわかと癒されたのもある。
そしてエレンは事情を説明してエリーをブライアンの元に預けてゼストと共に病院を跡にした。
現在、ゼストはエレンの後ろで彼女の腰に手を回して座っている。
「なぁエレン、ここって今どの辺なんだ?」
「ニューヨークの手前よ、もうそろそろで到着するわ」
「そうか、やっとか」
長かったようで短い道のりだった。
「ねぇ、ゼスト。もしまたもう一度私たちが会えたらさ、私の想いをもう一回伝えてもいい?」
「.....本気だったのかよ」
「ある意味ね。親父を助けてくれたことに関しちゃどうでもいいけど、私は個人的にあんたに惚れちゃったからさ」
「.....そうだな、もしそんなことがあるなら頼むよ。俺はこの先何年も待つからよ」
「浮気しちゃダメよ」
「保証しかねないな」
何せ寿命が違う、エレンは人間だがゼストは死神。
しかもゼストは来世のヒトだ、現世からの認識では既に死んでいるようなものである。
だからこそ一緒になる訳にはいかない、だからこそ現世での人との接触は避けなくてはならなかった。
ゼストは目を細めて受け止めるわけにいかないエレンの声色に混じる恋心をしっかりと聞いていた。
凄まじい速度を出しているバイクだったが、関係なく彼女の言葉がゼストの耳に痛いほど突き刺さった。
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