お天道様が見てる   作:落伍者

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始まりの日

 

「何だよ、これ……!」

 

 商家が燃えている。音を立てて、煙を立てて。今日あの商家に手伝いに行っていたタックがいない。私同様にアラナンに拾われた孤児だ。商人も、用心棒も近くには見当たらない。

 

「まだ改心してないってのに……!」

 

 炎の勢いは強く、とても近付くことはできない。懸命に消火を試みていた人たちも、危険になってしまいもう離れている。

 

「うぅ……ッ!ぐずっ……!」

 

 力が抜けて、膝から崩れ落ちて涙が止まらない。いくら私を口汚く罵ろうと、彼らも尊い人間だ。悪因に満ちてしまっていたけれど、いつでもやり直しがきく人なのだ。死んでいい道理などない。

 

 

 どれくらいそうしていただろうか、辺りはすっかり暗くなり、黒焦げの跡だけが残っている。周りに人はおらず、自分が声を掛けられても無視して泣き続けていたことに気が付いた。町の光も消えており、深夜になっているらしい。

 

「……あれ?」

 

 焼け跡の中で何か薄赤く光るものが見えた。炎のような光り方だったが、それが炎ではないと不思議にも直感して近付いた。

 

「これって……」

 

 商家が保管していたのであろう赤黒い籠手。マグマのように赤や橙に光っていて、私の髪色と同じ赤さに魅かれた。それからのことはよく覚えていない。部屋に戻って気を確かにした私にわかるのは、不偸盗を破ったという事実だけだ。

 

「返しにいかねえと」

 

 泣きはらした目が重く、擦った目の下が赤くヒリヒリする。鼻の奥は未だに痛く、顔全体が熱い。それでも私はこれを返しにいかなければいけないことは確かだ。ショックで動揺していた中で魔が差してしまったとしても、太陽神の名前の下に私は罪を告白して、償わなければならない。

 

「ホントにそう思うか?」

 

「ッ!?」

 

 私しかいないハズの部屋で声が聞こえた。辺りを見渡しても人はおらず、不気味になって布団にくるまる。疲れすぎて幻聴が聞こえるのだろうか。

 

「ここだ。手元だよ」

 

 手元を見れば赤く光る籠手があるだけ。まさか籠手が喋るわけが――

 

「その籠手だよオレは」

 

「うわッ!」

 

 驚いて取り落としてしまった。埃を払って籠手を見つめる。赤から橙、黄、と変化していく色合いが力強く表れている。

 

「オレは見てたぜ。あの商家で何があったのか。聞きたいか?」

 

 

 この籠手は、波長の合う私だけに声が聞こえているらしい。

 

「そんな……オッサンが……?」

 

「あぁ、間違いないさ。3人を殺して金品を奪い、火を放ったのは間違いなくそのエルーンのジジイだぜ」

 

 事の顛末はこうだ。出善行に行っていたタックが商家の宝石を盗もうとして用心棒に捕まったらしい。その件でアラナンが商家に呼び出され、被害の代金として法外なルピを要求されたのだ。教会にそんな金はなく、アラナンが払えないことを伝えた瞬間、用心棒がタックへと襲い掛かった。当然アラナンはタックを守ろうとして用心棒と争いになり、奪った短剣で用心棒を殺してしまう。そこからは転がり落ちるように事が進み、怯えた商家の主は剣を抜いてアラナン襲い掛かり、またもアラナンは人を殺した。

 そして守られた当のタックは金庫を開けて大喜び。それを目の当たりにしたアラナンはタックも殺してしまったと。

 

「私たちが甘かったのか……?」

 

 あの商家の主は救いようのないほど悪い人間だった。用心棒も、タックも。私は()()()()()が為に涙を流していたのか?人を殺してしまった時、アラナンはどんな気持ちだっただろう。そうして命を張って救ったタックに裏切られたとき、どんな気持ちだったのだろう。苛立ちと不安がぐるぐると回る。

 

「改心なんて、人間はできないのか……?」

 

 タックも、口は不平を言いつつも改心していると思い込んでいた。機をうかがっていただけだったのだ。

 

「金庫から金品を盗んだんだぜ?あのオッサンも」

 

 どうしてアラナンが、という思いが頭から離れない。

 

「おい、オレと組んで暴れねえか?」

 

「え……?」

 

 気付けば手が籠手を装備していた。籠手の熱が手から流れ込み、胸の奥、心臓にぶつかって力が漲る。同時にこの籠手の考えていることが流れてくる。また、私の記憶も籠手に流れていく。

 

「オマエはよーくやってるよ。信じてた師が人を殺し、物を盗んでもまだ人間を信じてる。でも人間はオマエらの言うアクイン?に満ちてんだ。どうやったらあの商家は改心したと思う?」

 

「それは……」

 

「善人の姿を見せ続けること?本当に?それでアイツらは改心するのか?」

 

 タックを殺そうとしていたあの二人にそんな考えが通用するだろうか。

 

「力だ」

 

「え?」

 

「力がなけりゃ、アイツらは話を聞かない。オマエらを貧乏人つって下に見てるから、何も声が響かないのさ。もしもアイツらに恐れられたなら?力づくで話を聞かせられるんじゃねえのか?」

 

 これは甘言だ。この籠手は宿主を探してるだけだ。――だけど、私はその手を取った。今と違う景色が見られるのなら。今よりもっと多くの事が知れるのなら。

 

「契約成立だ。『善行』していこうじゃねえか。オレは『クリムゾンフィンガー』って人間に呼ばれてる」

 

 皮肉っぽく籠手が嗤う。

 

「私はファム。力づくでも改心させてやる……!」

 

「そういうの、何ていうんだっけ?あ、そうだ。テッケンセイサイだっけ?」

 

 

 その日のうちに、私は教会を出た。クリフィン(クリムゾンフィンガーの略だ)曰く、アラナンには"よくないモノ"が憑いてるとか。嘘ではないことは繋がっているので直接理解している。その影響で今アラナンと会えばどうなるかわからないらしい。

 

「必ず改心させるよ。オッサン」

 

 今は力を付けなければいけない。フードで顔を隠しながら、島を出る便に乗った。

 

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