お天道様が見てる   作:落伍者

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フェイトエピソード:燃え盛る鉄拳

 

 とある島での依頼を終えたグラン一行は、街の通りがやけに騒がしいことに気が付く。

 

「なんだぁ……?行ってみようぜ、グラン!」

 

 ビィが興味を示したのを皮切りに、ルリアも通りを気がかりそうに見つめている。

 

「うん、行ってみよう」

 

 

 通りに入った一行が目にしたのは――

 

「反省じでま゛ず……もうしません……」

 

 赤髪の少女がガタイの良い男を叩き伏せている姿だった。手には赤い籠手を着け、時折独り言をぶつぶつと呟きながらしゃがみこんで男と話している。そんな恐ろしい様子にもかかわらず、辺りの野次馬は嬉しそうにその様子を見守っている。

 

「『もうしません』じゃなねえんだよ。どうすりゃいいと思う?」

 

「善行します……!」

 

「良く言えました!じゃあ教会行こっか」

 

 倒れている男の襟を掴んで引きずっていく少女。野次馬がそれを咎める様子はない。周りの様子と空気感からして、荒くれものを少女が一人で退治したようだが「教会へ行く」という言葉が気になった。

 

「後を追ってみよう」

 

 ルリアとビィを連れて男を引きずる少女の後を追う。歩いていくうちに街の人通りに溶け込んで、誰も少女の方を気にしない。それがかえって不自然で、グランはこの光景がこの街では当たり前になっていることを察した。

 

「あの!」

 

「あん?私か?」

 

 粗雑な口調の少女が振り返る。燃えるような赤い瞳に見つめられると、心の奥まで照らされて見透かされたような気持ちになる。

 

「その人をどうするんですか?」

 

 おそらくグランと同年代であろう少女だったが、振り向いた威圧感で意図せず敬語になってしまっていた。

 

「コイツは詐欺をやってたんだ。金を返せとせがむ老人がいてなぁ。私が代わりに改心させてんのさ」

 

「姉ちゃん、強ぇーんだな!」

 

 ビィが純粋な目で言う。

 

「まぁ、強くなんなきゃいけなかったからな」

 

 どこか遠くを見て語る少女の迫力に気圧される。

 

(何カッコつけてんだよ)

 

「うるせぇな、黙ってろ」

 

「えっ!?」

 

「はわわ……」

 

 突如放たれた暴言に驚く一行。と、少女はすぐに笑顔に戻って弁解する。

 

「ああ、すまねえ、今のは気にしないでくれ」

 

「なんだか忙しい姉ちゃんだなぁ」

 

 

 話を聞けば、少女はレナトゥス教という宗教を信仰しているらしい。普段は修行も兼ねて旅をしていて、偶々今はレナトゥス教の教会があるこの街に滞在しているという。手あたり次第悪人を捕まえては改心させるのが日課だと嬉しそうに語っていた。

 

「私はファム。君らの名前は?」

 

「グラン」

 

「オイラはビィ!」

 

「私はルリアです!」

 

 到着したのはレナトゥス教の教会。そこには老若男女、様々な種族がいた。と、人相の悪い者たちがぞろぞろと集まって来る。

 

「なんだなんだぁ!?」

 

 ビィが怯えた表情でグランの後ろに隠れる。

 

「ファムさん、新入りですかい?」

 

「ああ。詐欺をやって老夫婦を騙してたらしい。後は頼んだぞ」

 

 ファムが男を受け渡すと、人相の悪い集団は男を抱えてどこかへと去っていった。

 

「アイツらは私が更生させたヤツらさ」

 

「そうなんですね……!皆さん顔は怖いですけど、なんだか優しそうです!」

 

「ありがとう、ルリア。見た目じゃなくて中身で見てくれて嬉しいよ」

 

 そう語りながら、誰かを思い出すようにファムは笑った。

 

(あのオッサンも悪人面だったもんなあ)

 

「今は黙ってろって!」

 

「ひっ!」

 

 突然声を上げたファムにルリアは驚く。

 

「ああ、悪い悪い。ちょっと事情があってな」

 

「――その籠手?」

 

 グランが本質に触れて、ファムの纏う空気が張り詰めたものに変わる。穏やかだった眼差しは今にも戦わんとするほど険しくなり、籠手がぼぅ、と熱気を生み出す。

 

「グラン、アンタかなり強いね。何者だ?」

 

「僕は騎空士だ。星の島を目指して旅してる」

 

「そうか。手合わせ、願えるか?」

 

「いいよ。ファムほどの使い手なら大歓迎だ」

 

 ふたりは徒手で構え合う。ファムの籠手がゴウ!と闘気を熱気に変換していく。ルリアとビィが固唾を呑んで見守る中、両者が同時に動き――

 

 

「凄かったなぁ、あいつらの戦い!」

 

「はい!」

 

 ルリアとビィが戦いの感想で盛り上がる中、大の字に倒れたファムとグランも言葉を交わす。

 

「私はこの籠手と繋がってんだ。この籠手には意思があって、私と会話できるんだ。信じるか?」

 

「うん。信じるよ」

 

「あはは!とびきり純粋で善人だな、君らは」

 

 屈託なく笑う少女の顔には、通りで詐欺師を懲らしめている時のような険しさがない。年相応の純粋な笑顔だった。

 

「ところで――」

 

 グランが勧誘しようと口を開いたとき、同時にファムも口を開いた。

 

「勧誘だろ?私は他に目的があるんだ。嬉しいお誘いだけど、断らせてもらうよ」

 

「そっか、残念だ」

 

 離れて聞いていたビィとルリアも少し残念そうにしている。

 

 

「また出会う事があれば、一緒に旅をしようじゃねえか」

 

「ああ!また会おう!」

 

 握手をしてから、一行はファムと別れて教会を出ていく。意外にも、ファムと再び出会うのは数か月後だったが――。

 

 


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