ドクター 主人公
アーミヤ ロドスのリーダー
ドーベルマン ロドスの頼れる教官
ロドス基地宿舎。ドーベルマン教官が突然現れるなり、奇っ怪な機械を机の上に置いた。のんびりしていたアーミヤが耳をビクッとさせる。
「ドーベルマンさん、どうしたんですか。その輪っかのようなものは」
「これは『リングマッチョアドベンチャー』だ」
「は?」
「R・M・Aだ」
「はあ・・・」
いきなり略されても、とアーミヤは怪訝な顔を隠さない。ドクターは興味津々で輪っかを手に取った。
「これはどうやって使うんだい」
「簡単だ。モニターにゲーム画面が映るから指示されたとおりに体を動かせばいい。輪っかは使ったり使わなかったりする」
「なるほど。で、どの辺が筋肉なの?」
「やれば分かるさ」
ドーベルマンが慣れた手つきでゲームを起動した。アーミヤに輪っかを手渡す。
「いいか、画面にモンスターが映っているな? あれを今から倒す」
「私がですか」
「世界を救えるのは君だけだ」
「ほんとに?」
「そうだとも」
「・・・ほんとn」
「ドゥーイット!!!」
アーミヤの耳がぺたっと倒れた。頭の上のうさぎみたいな方の耳が、だ。しぶしぶ輪っかを操作し、ナビゲーター役のキャラクターの台詞を読む。
『繰り出す技を選んでくれ!』
爽やかなボイスと共に3つほどコマンドが現れる。『プランク』『プッシュアップ』『スクワット』。技によって威力が違うらしい。ドーベルマンがアーミヤに耳打ちする。頭の横に付いた人間の耳の方に。
「スクワットは罠だぞ。プッシュアップじゃないと倒せん」
「そんなあ・・・」
「まず手本を見せてやろう」
ドーベルマンが腕立て伏せの姿勢をしたかと思うと、なんとそのまま逆立ちになった。全体重を腕で支え、肘を曲げ伸ばしする。ドクターが感嘆した。
「なんという筋力・・・! 私たちにできないことを平然とやってのける」
「なに、朝飯前だ。ではアーミヤ。次のターンからやってみるんだ」
アーミヤが腕立て伏せの姿勢を取った。一回、二回。腕立て伏せをする毎に謎の腕が敵の頭上から降り注ぎ、体力ゲージが削れていく。しかしそれ以上に現実世界のアーミヤの生命力が削れているようにも見える。
「ふう、ふう・・・。終わりました」
「あと一セットすれば倒せるな」
「す、スクワットにします」
アーミヤがスクワットすると謎の足が降り注ぎ敵が死んだ。しかし、明らかに腕立て伏せより時間がかかっていた。アーミヤがへたり込む。
「しんどいです・・・」
「ならドクターにやらせるか」
「そ、それはダメです! ドクターはまだ意識を取り戻したばかりで過度な運動は」
「解っている。つまり、お前がやるんだ」
「うう・・・こんなの、こんなのパワハラです」
「それは違うぞ、アーミヤ」
涙をうかべるアーミヤにドーベルマンが熱のこもった声で説得する。
「お前は強い。あの炎使いにも互角に渡り合った。しかし、それはアーツあってのこと。互いのアーツが尽きた時、何が勝負を分けると思う?」
ドーベルマンは腕をパンッ、と叩いた。
「筋肉だ」
「そんなばかな」
「そこで差をつけずして何で差をつける! ジャスッッドゥーイッッ!!」
ふえぇと泣き出すアーミヤの肩をそっとドーベルマンが持つ。
「無理強いはしない。止めるのは自由だ。だがお前がやらなければ誰がやると思う?」
ドーベルマンが親指で後ろを指す。
「ドクターだ」
「や゛り゛ま゛す゛」
アーミヤが輪っかをびよんっと操作した。このゲームはボタンを押すだけでは台詞を進めてくれない。輪っかを潰すように押し込まないといけないのだ。なんてストイック。
『繰り出す技をえら』
台詞が終わる前にアーミヤがスクワットを選ぶ。そんなに腕立てが嫌か。アーミヤ決死のスクワットにより敵が死んだ。
「うっ、うう・・・! はぁ、はぁ・・・」
アーミヤの荒い呼吸がこだまする。脚ががくがくと震え、額に汗が滲んでいた。画面の中のキャラクターは邪魔者の居なくなった道を足取り軽く駆け抜けていく。敵が現れた。今度は、同時に三体。アーミヤが絶叫する。
「どおぉしてええええ!?」
『繰り出す技を選んでくれ!』
「い゜やぁあああああ」
アーミヤの理性がピンチだ。薬は要るかい?
「アーミヤ。いい事を教えてやる」
ドーベルマンが微笑む。アーミヤは潤んだ目でドーベルマンを睨んだ。
「プランクは範囲攻撃だ。好きだろう? 範囲攻撃」
「当て付けですか!??」
アーミヤが腕立て伏せのような姿勢を取る。腕立て伏せと違うのは肘から手首を床に着けて身体を支える所である。
「あっ・・・がぁぁ・・・!!」
「いいぞ、効いている」
敵の体力が二割ほど削れた。ドクターがのんびりと「あと四セットくらいかなあ」と呟いた。アーミヤの目が死んでいる。機械的な動きでプランクを選択。
「いっ・・・。痛い・・・肘が、お腹が・・・」
「そうだ。効いているんだ。パンプアップ!」
「いや、嫌・・・! あぁあああっ!!!」
アーミヤの悲痛な叫びをよそに、モンスターの体力が半分ほどまで削れる。アーミヤの手が止まった。
「もう、私は・・・戦えません・・・」
「そんな事であの炎上系ポン刀女を倒せるのか」
「やったんですよ、必死に・・・!」
「ドクターはお前が守るんじゃないのか! ロドスのリーダーとして無敵の筋肉を手に入れたくはないのか!」
このドーベルマン、ノリノリである。なにか恨みでもあるのか?
「アーミヤ、その。代わろうか・・・?」
さすがにドクターが声を掛ける。しかし、アーミヤがプランクの姿勢を取った。
「任せてください、ドクター。私が全て倒す・・・!」
聞いたことの無いような獰猛な声にドクターは引き下がった。なんだか見てはいけないものを見ている気がする。アーミヤがこわい。
「はぁ、はぁ・・・。ぐっ、うぅ・・・あぁああああ」
アーミヤの身体がうねる。下がりそうになるのを必死にこらえているのか、波打つように腰が痙攣し、激しく上下する。あと十秒。九、八、七、六・・・。
「あ、ああ・・・っ!!」
アーミヤは倒れた。ぱたっと呆気なく。モンスターの反撃。画面の中のキャラクターが死んだ。
『コンティニュー?』
アナウンスが尋ねてくる。倒れたアーミヤをドクターが抱き起こした。
「大丈夫か、アーミヤ」
「ドクター、私・・・弱いですよね」
「そんなことは無い。よく戦ったよ」
力無くアーミヤが微笑んだ。震える手で輪っかを持ち上げる。
「芯まで乳酸に汚染された私の身体は、もうドクターのお役には立てないでしょう。どうか、私に構わず先に進んでください・・・」
斬新な疲労の表現だ。というかしれっとドクターにやらせる気である。アーミヤはこわい。
「分かった。もう疲れたろう。ゆっくりおやすみ」
・・・・・・このあとドクターの理性が枯渇するのに五分と掛からなかったのは言うまでもなかった。