ドクター 主人公
ヘイズ 猫耳の魔女。泥棒猫
プラチナ 純白の弓使い。ダウナーに見せかけて芯は強い。
ドクターはよくオペレーターとハイタッチをしにくる。よく分からないがロドスの挨拶はハイタッチと決まっているのだ。ゴキゲンな職場である。そして、ヘイズはあまりハイタッチは好きではなかった。
「イエエエイ!」
「アップルパーイ!!」
「ノーパーティ・ノーライフ!!」
(なに言ってんだかにゃ〜・・・)
ヘイズは足音を忍ばせ、そっと宿舎から抜け出す。ロドスの屋外に出ると、夜風が心地よかった。その辺に腰を下ろし、帽子を軽く撫でる。ごろごろと猫のうめき声のような低い音が帽子から鳴った。
(ここに来てから、どれくらい経ったかなあ)
それなりに楽しんではいたけど、それでも自由という感覚は得られない。目を閉じてぼーっとする。物思いにふけるとまでは行かない程度に、取り留めもない思考を楽しむ。背後から足音がした。
「よく会うね、ヘイズ」
「プラチナか〜。君も逃げてきたのかなぁ?」
真っ白な髪に真っ白な服の少女。しかし、無骨で巨大な黒い弓を使う、名狙撃手。芯は強いが物静かなプラチナの性格は、ヘイズの性に合う。
「まあね、楽しいことは好きだけど。それに、多分アンタがいる気がしたから」
「うにゃ?」
意外な台詞だった。ヘイズの猫のような耳が帽子の中で動く。プラチナは特に断りを入れることなく隣に腰を下ろし、鞄から缶ビールとビーフジャーキーを出した。
「いる?」
「貰おっかな〜」
しばらく二人で硬い干し肉を齧り、ビールでほぐしながら流し込んでいると、唐突にプラチナが口を開いた。
「ドクターさ、どんな人なんだろうね」
「それ、性格の事かなぁ」
「そうそう」
「惚れてるのかにゃ?」
プラチナは少し首を傾げる。
「たぶん」
「妙に素直じゃん」
「誤魔化しても仕方ないじゃん」
「まあね〜」
ヘイズは袋からジャーキーを取る。
「何も分からないよ。消されてるしね」
「・・・やっぱ、そうだよね」
「記録も、記憶も、なぁんにも無いよぉ。わざとだろうね〜。確証はないけどね」
プラチナが唇を噛む。
「あの人がもし『取り戻した』としたらさ、何が変わっちゃうかな」
「分かんない」
ヘイズは率直に答える。と言うより、考えても仕方ないという意思表示だ。
「私は、あの人が空っぽだから好きなのかもしれない。そう思うと、余計にむかつくんだ」
「何に?」
「たぶん、自分と、ドクターに」
「逆恨みじゃないかにゃ」
「そうだね」
あ〜あ、と大きくプラチナはため息をついた。「あほくさ・・・」と呟く。
「さっさとヤっちゃえばいいのにゃ」
「そういうのは興味無い」
「純情派?」
「私が光栄にも純情に振り分けられるとするなら・・・世も末だね」
プラチナはビールを啜った。
「都合がいい相手が好きなのかもね、私は。うるさくなくて、話が分かって」
「手に入らないから、欲しくなるのかもよ?」
「なにそれ、乙女じゃん」
プラチナがくすっと笑う。珍しい。プラチナは持っていた缶を揺すり、立ち上がる。
「ビールも無くなったし、戻ろうかな。じゃあね、白猫魔女さん」
「はいよ〜、次の仕事でもよろしくねぇ」
ヘイズは黒い霧を使う。敵を惑わし、弱らせ、煙に巻く。そんな自分に、プラチナは何を求めているのだろう。いや、何も求めてはいない。彼女は、自分と同じ・・・。
「ま、あたしは暇を潰せるなら、なんでもいいんだけどねぇ」
ヘイズは残っていたビールを飲み干した。
※
プラチナが宿舎に戻ると、みんな遊び疲れたのかその辺でごろごろと眠っていた。死屍累々と言うべきかもしれない。ソファにドクターが沈没しているのを見つけ、プラチナは歩み寄る。
「ドクター、風邪ひくよ」
「ん・・・。プラチナか。今何時?」
「日付が変わったくらいだよ。みんなその辺で寝てるし、部屋まで送ろうか」
「大丈夫だよ、一人で」
最後まで言わさず、プラチナはドクターをソファから引っ張りあげた。
「だめ、今から私と飲み直すの。まだ構ってもらってない」
「え? でもパーティに居なかったじゃ・・・」
「ほら行くよ」
「えぇぇぇ」
ドクターの部屋に辿り着き、プラチナはやっとドクターの手を離した。ドクターがベッドに倒れ込む。
「もう飲めない・・・」
「じゃあ寝る?」
「そうしようかな」
「ふーん・・・」
ドクターはベッドが軋んだのを感じ、顔を上げた。プラチナがすぐ側に横たわっている。
「えっ、なにしてるの」
「私も寝る」
「なぜここで」
「迷惑なら帰る」
「迷惑じゃないけど・・・一緒に寝る理由もわからない」
「・・・・・・」
プラチナは目を開け、ドクターに顔を寄せた。彼はただ、きょとんとしている。深い知性を湛えた瞳を、ほんの少しの疑問に揺らして。
「はあ・・・」
プラチナは自分に呆れ、ドクターに呆れた。自分は何を期待していたのだろう。このまま抱かれるとでも信じていたのだろうか。そして、ドクター。貴方はいったい、どれほどの物を失ったのか・・・。
「なんかむかつく」
「えっ、ご、ごめん」
「違う、ドクターにじゃない。ごめん、気にしないで」
「??」
プラチナはベッドから立ち上がり、ドアへ歩いた。
「おやすみ。今度の作戦も、私を使ってね」
「必要なら・・・。おやすみ」
プラチナは部屋を出た。『必要なら』、そうドクターは言った。むかつく。
(ほんと、乙女心の分からない人だね)
プラチナはぼりぼりと無造作に頭を掻き、購買部へぶらぶらと歩いていった。