博士の異常な日常〜楽園ロドスより〜   作:シベリアの騎士

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登場人物

エクシア 天使族のガンナー。かつてはパリピではなかった

テキサス クールなオオカミ耳の女性剣士


番外1 テキサスが煙草を止めたわけ

 エクシアは「テキサスがイキイキしてるのは自分のおかげだ」などと吹聴しているようだが、私からしてみれば『お互い様』だ。

 ペンギン急便で初めて出会った時の会話は今でも覚えている。

 

「初めまして。あたしはエクシア。よろしくね」

「・・・・・・テキサスだ。よろしく」

 

 ただの挨拶だ。だが、自分は確かに言葉に詰まった。あの時のエクシアは紛うことなき『天使』だった。平坦な声音と絵画のような微笑みに、私は恐怖したのかもしれない。こいつは、この顔のまま人を撃つのだろうか・・・・・・と。その恐怖は半分当たりで、半分外れだった。

 

 あいつはいつも不敵な笑みを浮かべたまま戦う。スポーツに熱中している少年のように無邪気で、一種の爽やかさすら感じさせる。だがその笑顔に返り血が飛んだ時、私は目を背ける。そういう顔をして血を浴びる奴を、一人知っているから。

 

 ある日、私はエクシアの部屋を訪ねた。戦闘があった日は、エクシアはしばらく部屋から出てこない。『もし日が沈むまでにこれを読んだら屋上に来てくれ』と書き置きして、私は屋上に向かった。

 夕日を見ながら一服し、私はなんと切り出すか考えていた。エクシアを呼んだのはペアを解消したいと伝えるためだった。

 

 太陽がだいぶ赤味を増した頃、エクシアが現れた。やけにその目元が赤く見えた。

 

「煙草、やめた方がいいよ」

「煙草は嫌い?」

「どっちでもないよ。ただ、君には長生きして欲しいなって思ったから」

「・・・・・・」

 

 私は返事をしなかった。代わりに煙草を灰皿に捨てた。エクシアは嘘はつかない気がした。まあ、捨てたのはフィルター近くまで既に吸い終わっていたからだが。

 

「わざわざすまない。話があったんだ」

「うん」

「ペアを解消したい」

 

 エクシアは夕日を見ていた。赤っぽい髪が光に輝いていて、天使の輪は朱色の中でも真っ白なままだった。

 

「そっか」

 

 彼女は手すりに肘を預けながら、ぽつんと呟いた。

 

「あたしの事、気に食わなかった?」

「いや、そういう訳じゃない。私の問題だ。気にしないで欲しい」

「・・・・・・寂しいな」

 

 私は耳を疑った。失礼な話だが、そんな感傷的な感情があったのかと思った。だから思わず「なんだって?」と聞き返していた。

 

「寂しいって言ったの」

「なぜ?」

「なぜって、一人は寂しいじゃん」

「そういうものか」

「そうだよ。人は一人じゃ生きていけないんだよ」

 

 それもまた意外な台詞だったが、私は本音を打ち明けることにした。エクシアの意外な程の正直さに引っ張られたのかもしれない。

 

 

「私は、君と居るのが怖いのかもしれない。君は・・・・・・」

 

 『完璧』という言葉を私はその時使わなかった。何か違う気がしたからだ。だがなんと言えばいいのかわからず、私は「真面目すぎる」と続けた。それもなんだか違う気もしたが、当のエクシアは目を丸くしていた。

 

「君みたいな堅物に、真面目すぎるなんて言われるとは思わなかったな」

「語弊はあると思う。だが他にどう言えばいいのか分からない」

「もしかして、あたしが部屋でお祈りしてるの知ってたり?」

「いや、初耳だ。祈ってたのか?」

「うわ、言わなきゃ良かった」

 

 彼女がバツが悪そうにため息をつくのを見て、その時になって初めて、なんとなくエクシアに興味が湧いた。私が知ってる奴は、何かを信じ、祈ったりしない。ましてや、懺悔の涙なんて流さない。

 

「神に何を祈っているんだ?」

「まあ、大した事じゃないよ。ご冥福を祈ってるんだ」

「なるほど」

 

 それは分かる。初めて感じた共感と言って良かった。

 

「来世で仲良くなれるといいなって、そんな事を思うんだ。勝手な話だけどさ」

「・・・・・・そうだな」

 

 私が新しい煙草を取り出すと、エクシアが肩を叩いてきた。

 

「なんだ。線香くらい上げさせてくれ」

「えっ、なに。仏教徒なの?」

「そっちこそ、『冥福を祈る』のは仏教徒じゃなかったのか? とにかく、この箱を吸い切るまでは止めないぞ。結構高いんだ」

「別に止めやしないよ。そうじゃなくて、一本ちょうだい」

 

 突拍子もない発言に私はくわえた煙草を落としそうになった。

 

「なに考えてるんだおまえ」

「なんていうか、お近付きの印ってやつ?」

「驚いたな。ラテラーノじゃお近付きの印は要求する物なのか」

「テキサスの嫌味なんて初めて聞いたよ。ジョークと、あと皮肉も」

「これからもっと聞くことになるかもな」

「えぇ〜。・・・・・・え?」

 

 私は煙草に火をつけ、ライターを仕舞った。夕日がもう街並みに隠れている。

 

「煙草はあげない。だが、一杯奢ろう。酒は飲めるか?」

「飲んだことは無いけど、たぶん大丈夫。慣れてみせるよ。でもなんで煙草は駄目なの?」

「ああ、そりゃあ・・・・・・」

 

 私はエクシアにふっと煙を吹いた。彼女は顔をしかめながら煙を手で払った。思わず笑ってしまう。

 

「エクシアには長生きして欲しいと思ったからさ」

「それもテキサス流の嫌味だったり?」

「さて、どうかな」

 

 それは紛れもなく本心だった。どうせ戦わなくては生きて行けない世の中なら、せめて葬った者を悼む奴の方が良い。

 あれからというもの、私はチョコレートを買うようになった。時々エクシアにせびられている。あいつはどうも、私が持っている物をせびるのが好きらしい。煙草は・・・・・・なんでかな。近頃いつも『買い忘れる』んだ──

 

 

 

 

 

 

 

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