クロワッサン ペンギン急便のトランスポーター。力持ちな女の子。関西弁。
エクシア パリピ。天使の輪と羽を持つナビゲーター。
テキサス 寡黙なオオカミ耳の女の子。しっぽを狙われている。
「よっこいしょ、っと」
クロワッサンが大きな箱をトラックに乗せ、リヤドアを閉める。助手席からひょこっと顔を出しているエクシアに手を振った。
「積み込み、終わったでー」
「おっけー」
エクシアが親指を立てる。トラックのエンジンがかかり、暖機が始まった。クロワッサンは助手席に駆け寄り、ステップを軽やかに登る。エクシアが三人掛けのベンチシートの真ん中に寄り、場所を空けた。
「いやー、クロワッサンのおかげで助かるよ。積み込みしんどくてさ〜」
「ええねん任しとき。力仕事は十八番やからな」
運転席に座っているテキサスがドアをロックした。周囲の確認をしつつ「シートベルトは締めたか?」と言う。
「締めたで〜」
「締めたで〜!」
クロワッサンの真似をするエクシアに、テキサスは思わずふっと笑った。車が動き出す。高速道路に乗った所で、テキサスがカーナビを指さした。
「すまない、いつもの奴をかけてくれないか」
「ソラの歌ね。はいよ」
慣れた手つきでエクシアが音楽をかける。女性アイドルのポップスが流れ出した。ソラという名のそのアイドルは、れっきとしたペンギン急便のメンバーだ。今日は歌の仕事があるということで不在だが、ここに居なくとも歌声はいつも共にある。
「今日もいい声だね〜」
「いやいや、録音したテープが急に下手なったら恐怖やで」
「テープじゃないよ、今時はデータなのだ」
遅れてるう〜、とエクシアがクロワッサンの横腹を突っつく。クロワッサンが虫でも追い払うように手をはたいた。
「さいで。は〜、生意気なパイン飴やなほんま」
「あー!? いまあたしの輪っかバカにしたでしょ」
「ちょ、眩しい眩しい。つむじ向けんとって! あ、せや。アメちゃん食べる?」
「しょーがないなあ。貰ってあげようじゃん」
露骨に物で釣ろうとするクロワッサンに、エクシアは鼻を鳴らした。あーんと開けたエクシアの口に、飴が放り込まれる。
「リンゴ味、どうや」
ころころと飴を転がしてから、エクシアが憮然と答えた。
「悪くないね」
「素直やないな〜」
「ふんだ」
二人のやりとりにテキサスはこっそり笑いを堪えていた。毎回こうなので慣れてしまった、と言いたい所だが、いつ見ても笑ってしまいそうだ。笑うと後でエクシアに『天使のいたずら』をされるので頑張って耐えるのだが。
「テキサスはんも食べへん?」
「ああ、貰おうかな。なにがある」
「リンゴのやつと、メロン、イチゴ、ハッカと・・・・・・」
眠気覚ましにハッカにしようかと思った所で、クロワッサンがにやりとした。
「あとパイン飴やな」
テキサスはやれやれと微笑む。どうやら『共犯』になれと言う事らしい。うーむ、と勿体ぶってからテキサスは「じゃあ、エクシア味で」と答えた。
「お、分かっとるな〜。ほいっ」
「どうも」
「もー、揃いも揃って馬鹿にして〜!!」
輪っかで邪魔をしようとするエクシアの頭越しに飴を受け取り、口に含む。甘酸っぱい風味が心地良い。今日も彼女達の仕事はご機嫌だった。
※
エクシア達は順調に仕事を片付け、最後の配達が終わった。時刻はちょうど昼過ぎくらいだ。昼食を取らずに一気に仕事を片付けたので、三人はとても空腹を感じていた。
「うあ〜、お腹減ったよ〜」
エクシアがトラックの中で天を仰いだ。テキサスがポーチから携帯性の良いブロック菓子を取り出す。
「食べるか?」
「貰おうかなあ」
しかしクロワッサンが「ちょい待ち」と制止する。
「せっかくこんな西の方まで来たんやから、もうちょっと我慢してグルメ街行こうや」
「あー、そういやこの辺だっけ。行ったことないんだよね。せっかくだしそうしよっか。テキサスはどう?」
「ふむ・・・・・・。興味あるな」
「ほな、決まりやな!」
テキサスはトラックが停められそうな駐車場を探した。適当に車を停め、三人はぶらぶらと歩き始める。しばらくクロワッサンに率いられるように歩いていると、商店街が現れた。通りの入口にアーチ状の看板が掲げられている。
「着いたで〜」
「わあい、気になってたんだよね」
この商店街は龍門では有名な観光スポットのひとつだ。西の端の辺りに存在し、外との交流も盛んなため様々な食文化が入り乱れている。
「クロワッサンはよくここに来るのか?」
テキサスが辺りを見回しながら訊ねる。
「うん。休みの時はよく買い物ついでに食べ歩きするねん」
「ふむ」
テキサスが露店やカウンターになっている店などに興味を示す。エクシアがクロワッサンに囁いた。
「見て、テキサスのしっぽ」
「なんかいつもよりぴこぴこしとるな」
「かわいいよね」
そのまましっぽを掴みそうだったので、それとなくクロワッサンがエクシアの手を取る。
「たこ焼きって食べた事ある? 美味しいねんで」
「なにそれ。タコ・・・・・・?」
「そうそう。まあ見たらわかるわ。おーい、テキサスはん」
クロワッサンがテキサスを呼び、三人はたこ焼き屋のカウンターに向かった。
「おっちゃん、たこ焼き12個入りちょうだい!」
「あいよー」
たこ焼きを受け取り、クロワッサンがエクシアに見せる。
「伝統的な粉もんやで。小麦粉の生地を丸めて焼いたやつにタコの足が入ってんねん」
「凄くいい香りがするね。食べていい?」
「熱いから気ぃ付けや〜」
クロワッサンがエクシアにたこ焼きを食べさせる。ほふほふと湯気を吐き出してから、エクシアがたこ焼きを飲み込んだ。とろっとした生地の中で、弾力のあるタコがアクセントを付ける。香ばしい鰹節とソースの甘辛い風味の、なんと食欲を刺激することか。エクシアは頬を緩ませた。
「おいしい!」
「せやろ。テキサスはんもどうや」
「いいのか?」
「運転疲れたやろ。ええねんええねん」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
クロワッサンがテキサスにたこ焼きを食べさせる。
「食べた事が無い味だ。とても美味しい」
「このソースが肝心やねんな。いつも食べてまうねん」
「ねえねえ、もいっこちょうだい」
「しゃあないな〜、ほら」
「あーん」
まるで雛鳥の餌付けだ、とテキサスは笑う。三人は仲良くたこ焼きをつつき、平らげた。そのあとも三人は龍門のグルメを堪能した。塩気が効いたジューシーな肉饅頭、分厚いパテとみずみずしいレタスを挟んだハンバーガー。甘酸っぱく、魅惑的な香りのミックスベリージュース。あらゆる文化圏の料理にみんな夢中だった。まるで子供の遠足の様に、三人は無邪気に食べ、笑い、豊かな時間を過ごす。
「あー、お腹いっぱい! 幸せだ〜」
帰りのトラックの中、エクシアが満足そうにため息をつく。ソラへのおみやげを大量に抱えたクロワッサンが微笑んだ。
「テキサスはんもよう食べてたなあ。眠くなったら遠慮なく言うてや、交代するで」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
ハッカ飴を舐めているテキサスが頷く。美味しい物を食べた後は無性に一服したくなるな、とテキサスはふと思った。メンソールもいいなと一瞬考え、だが忘れる事にする。
「いやー、やっぱこうやって働いてご飯食べて、楽しく過ごすのが一番だね」
エクシアの言葉にクロワッサンが同意した。
「これこそ文化的生活ってやつやな。平和の賜物や」
「だね。ソラにもおみやげ沢山買ったし、今夜はパーティだ」
「アイドルに食べさせるにはなかなかこってりしとるけど、大丈夫やろか」
「へーきへーき、たまにはいいでしょ」
賑やかな二人の会話とソラのアルバムを聞きながら、テキサスは思いに耽ける。ずっとこうであればいいと感じる自分が居る。居場所を見つけたという事なのだろうか。少なくとも、失いたくはない。失いたくないなら、守る必要があるだろう。
「どうしたの、テキサス。遠い目してるよ」
「え、ああ・・・・・・なんでもない」
「なになに、気になるじゃん」
エクシアが悪戯っぽくにやつく。テキサスは肩をすくめてみせた。
「別に。煙草が吸いたいなと思っただけさ」
「あーっ!? まだやめてなかったの〜?」
「やめたなんて一言も言ってないぞ。買い忘れるだけだ」
必要のない物は忘れるものさ。そうテキサスは胸の内に呟いた。いつだったかエクシアに聞いた事がある。
『金さえあれば何でも手に入るなんて、自分には通用しないと言っていたが。昔何かあったのか?』
『別に何も。なんにも無いよ』
多分、初めて聞いたエクシアの嘘だった。ああ、こいつも何かを失った奴なんだと気付き、テキサスはそれ以上何も聞かなかった。あの時はエクシアが何を求めているのか分からなかった。今なら分かる。
(お前の欲しかった物がここにあるなら、私も手伝ってやるさ)
血の味がしたような気がして、テキサスはハッカ飴を噛み砕く。甘苦く、少し辛い。微かに顔を強ばらせたテキサスに、知ってか知らずかのんびりとエクシアが話しかけた。
「ねえテキサス、お願いがあるんだ」
「・・・・・・なんだ?」
「しっぽ貸してっ」
クロワッサンが「え〜」という顔をした。テキサスは苦笑し、背もたれに挟んでいたしっぽを出す。
「これで満足か」
「うん!」
「ええんかい・・・・・・」
もふもふとしっぽを抱えて、エクシアが寝落ちする。
「やれやれ・・・・・・、朝の借りを返されたな」
「天使のいたずら、やな」
クロワッサンとテキサスは、エクシアの寝顔越しに顔を見合わせてから、楽しそうに笑った。