博士の異常な日常〜楽園ロドスより〜   作:シベリアの騎士

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Wちゃん眼鏡概念を全人類に捧げます


Wちゃんはオシャレしたい

 ドクターはドキドキしていた。今日の秘書当番がWなのだが、彼女の雰囲気がいつもと違うのである。

 

「・・・・・・なに? ジロジロ見て」

「いや」

 

 そう、『眼鏡をかけている』のである! 赤いフレームの眼鏡をかけた彼女はどこか知的で文学少女のような優雅ささえある。

 

「それ、似合ってるね」

 

 さりげなくドクターが話題を振ると、Wはこの世の終わりを見たような顔をした。

 

「あんた・・・・・・誰?」

「は??」

「ああいや、なんかあたしの中のあんたの解釈がどんどん崩れていくのを感じただけよ」

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

 Wは読んでいた本を閉じ、ふっとため息をついた。タイトルは分からなかった。というか仕事しろ。

 

「この眼鏡はね、貰ったのよ」

「へえ、誰に?」

「あんたの知らない人よ」

「そっか。彼氏?」

「久しぶりに殺したくなったわ。違うわよ。テレジア・・・・・・」

 

 その名を口にして、Wは頭を掻く。

 

「やっぱり、殺したくなるわ」

「え?」

「なんでもないわよ。仕事溜まってんじゃないの?」

「お前もじゃい!」

 

 

 山積みの書類を片付け、ドクターはコーヒーを飲みながら一息ついていた。Wも書類を手際よくやっつけ終わっており、また本を読んでいる。

 

「なんか意外だったな。君が本を読むのは」

「自分でもそう思うわ。だけど必要な事なの」

「なんで?」

「自分がした事ないことって、自分の弱さに繋がると思わない?」

「そういうもんかな。見識を広めるのが大切なのはよく分かるけど」

「腐っても研究者だもんね。あとあんた、本当にこの本に見覚えないの?」

「へ?」

「これはね、あんたが書いた本よ」

 

 ドクターはWの本をまじまじと見つめた。タイトルは『鉱石病がもたらす新時代』。Wは唇を歪める。

 

「吐き気のするようなタイトルよね」

「確かに」

 

 他人事のように頷くドクターにWはふっと短く嗤う。

 

「まあそんな事はどうでもいいのよ。最近洋服を買ってみたの」

 

 ドクターはコーヒーを飲むことで相槌に代えた。

 

「色んな服があったわ。色んな時間の過ごし方。その象徴」

 

 Wは眼鏡を外し、丁寧にレンズをクロスで拭き始めた。

 

「あたしは確かに強くなったと思うわ。ひとりで生きていけるくらいに。でも、ひとりじゃないと生きていけなくもなった」

「ほう」

「そろそろ、もうひとつの力を手に入れてもいいんじゃないかと思ってね。ほら、だってあたし」

 

 Wは眼鏡をかけ直す。

 

「こういうのも『似合う』でしょ?」

 

 ドクターはWの言葉を理解し、感心したように微笑んだ。

 

「なるほど、本当に君は優秀な傭兵なんだな。とことんまで自分を武器としてしか捉えていない」

「あら、分かる? そういうとこだけは信頼出来るわね、あんた」

 

 業務時間終了のベルが鳴る。ドクターはマグカップを洗い、片付けた。

 

「W、今度食事でもどうかな?」

「イヤ」

「そりゃ残念」

 

 Wは本や眼鏡を鞄に入れ、立ち上がった。

 

「あんたと食事をするのは最期の時だけよ。それじゃね」

 

 部屋から出ていくWを見送り、独りごちた。

 

「君は銀貨で寝返るタマでもなかろうに」

 

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