博麗の巫女。霊夢の未来。
【博麗霊夢の終わり】
「霊夢~、大丈夫か?」
「大丈夫よ。ありがと萃香」
「無理しちゃダメだぞ?もう年なんだから」
「余計なお世話よ!」
「いてっ!」
私は寝転んだまま、笑いながら萃香の頭を軽く小突く。
少し動かしただけで体が軋む。関節に痛みが走る。
痛みに耐えながらも私は自分の手を見る。
皺だらけの手。いや、皺だらけなのは全身か。
自分のジョークに少し笑う。
萃香は不思議そうに私を見ている。
フフフ、何も変わらない。
妖怪はやはり変わらない。性格も、顔も何もかも。
しかし、私は違った。
博麗霊夢、齢は61歳。
私は人間だった。どう足掻いても人間だった。
40年と少し前、私と萃香は愛し合っていた。
それは今も変わらない。
変わったのは私。少しずつ少しずつ。変わっていった。
人の一生は妖怪の一生に比べれば遥かに短い。
いくら異変を解決し、妖怪を倒してきた私でもそれは変わらない。
博麗の巫女は譲った。二十数歳の頃に孤児だった子を拾い、
その子を育てた。萃香はその子を霊輝と名付けた。
私が30になる頃には霊輝も16歳になっていて、
もう少し弱っていた私は霊輝に博麗の巫女を譲った。
今、私は神社にはいない。今いるのは霊輝だ。
私は人里に下りている。萃香は始めこそ恐れられていたが、
少しずつ馴染んでいった。
今では私より知り合いが多いんじゃないかと言う程だ。
私も萃香も、人里に馴染み、暮らす。
幸せだった。
でも同時に苦しかった。
萃香は変わらない。私は変わる。そして何時か私は死に、萃香は一人になる。
残された萃香はどうする?
そんなことを悩んでいた私に萃香はこう言い放った。
「私だってそれくらい覚悟してるさ。
怖くないわけじゃい。でもそれはどうしようもないんだよ。
受け入れるしかない世の理なんだ。
私が惚れたのはそんな弱い霊夢じゃない。
昔みたいに能力の如く自由に飛ぶように楽に生きろ!」
その時、私は泣いた。
萃香は泣いている私を慰めてくれた。
その時、迷いは消えた。
私は決めた。
萃香と生き、幸せに死ぬと。
それからは何も起こらない平凡な日々だった。
特殊な点は妖怪がよく来る点か。
でも、もう里の皆も妖怪に慣れていて、普通に話している。
幻想郷も変わった。
良きか悪きかは分からない。
ただ変わった。
どちらでもいいんだ。世界なんて簡単に変わる。
ただ私は変化を喜んでいた。
幸せで、幸福で。そして私は幸運だった。
この世界は私にとって良い世界だ。
この世界だから萃香にも会えた。
ただ、幸福な日々は突然崩れ去った。
私は血を吐いた。
一ヶ月と二日前のことだ。
永淋のところに行き、どうなのかと聞いたところどうやら先は長くないらしい。
余命一ヶ月と一日だそうだ。
永淋は延命治療を勧めてくれたが私は断った。
何故かは分からない。
しない方がいい。
そう思ったからだと言えばそれまでだが、何か大きい力が働いたのかもしれない。
きっとそれはわからないのだろう。だが、それでもいい。
そんなことは大したことではないから。
萃香に断ったことを言うと私がいいならそれでいいと言っていた。
その時は酒を呑みながら気丈に振る舞っていたが、
こっそり泣いていたことを私は知っている。
そして今日、言われてから一ヶ月と一日。永淋が言うのだ。確実だろう。
萃香には半年と言ってあるから死んだら驚いて、そのあと泣くかもしれない。
自分勝手だなぁと自分に苦笑いする。
でもこれでいい。
萃香も落ち着いた頃にはあいつらしかったと言うだろう。
それ私にとっては嬉しいのだ。
だから、私は嘘をついた。
「少し縁側出ましょうか········」
「お、いいねぇ。月見酒だ」
「あんたは酒のことばっかね·····」
「私らしいだろう?」
「えぇ、そうね。萃香らしい」
笑いながら私達は縁側に座る。
綺麗な満月だ。
·······そうだ。良いことを思い付いた。
これを言おう。
シャレにもならないけど。
「私·········もう死んでしまってもいいわ」
「アハハハ、シャレにならないな·············」
わからないか········。まぁ、大体予想はついていたけど····。
あぁ、月が綺麗ね············。
·············そうだ。これがあるじゃないか。
これなら前に萃香に教えたし覚えているだろう。
よし、言お-
「月が綺麗だなぁ」
萃香は微笑みながら言った。
私の顔は真っ赤になっていたことだろう。
自分でもわかった。
萃香も直ぐに照れたように笑った。
じゃあ、私も言おう。
同じことを。
「ねぇ、萃香」
「ん?なんだ霊夢」
「月が·················」
あれ、おかしいな。意識が。声がでない。
視界が少し暗くなった。あぁ、そうか。死ぬんだ。
私は倒れたようで、萃香の足が見えた。
萃香の声が聞こえた。
「大丈夫か!?霊夢!霊夢!」
私は最期の体力を振り絞って声を絞り出した。
「萃·······香·····」
「なんだ!?」
萃香が顔を近づける。
「月が·······綺麗ね········」
「あぁ、そうだな。月が綺麗だ············」
泣きながら萃香は言う。
大好きよ。萃-
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霊夢が死んだ。
それはもう数十年前のことだ。
今でも私は近所との仲がいい。
霊夢のお陰だ。
私は夜、酒を呑む。かつて霊夢が死んだ縁側で、
月を見ながら。
一人、酒を呑む。きっと私は変わらないだろう。
ずっとこうやって過ごすんだろう。
それでもいいさ。それはそれでいい人生だ。
私は今日も一人呟く。
誰に言うわけでもなく一人呟く。
「なぁ、霊夢。月が綺麗だ················」
-fin-
萃霊。
暗いですね。
新シリーズ増やしすぎてヤバくなってきた。
あと、もしかすると幻想の京都にてと東方鬼人録は打ちきりになるかも。