完全でしょう洒なメイド、十六夜咲夜の未来。
【十六夜咲夜の終わり】
私の名は十六夜咲夜。歳は57歳。紅魔館のメイドだ。
いや、実は57歳ではないが。
私は、自分の歳を知らない。
····知らないという表現は少しおかしいか。言い直そう、わからないのだ。
私は先天的な能力で、時を止めることができた。
そして私はこの力をお嬢様のために使ってきた。
時には紅茶を用意するため、時には戦うため、時には移動時間短縮のため。
何度も何度も、止めて、沢山の時間を止まったなかで過ごした。
色も音もない、白黒で静かな空間。それが止まった時間の中だった。
始めこそ落ち着かなかったが次第に変わっていき、最終的には、最も落ち着ける空間になっていた。
だから私は長い時間その空間にいた。
ただ、私の時間は周りが止まっていても少しずつ進んでいた。
そしてそのまま過ごしていった結果、今私はベッドの上にいる。
一週間ほど前に私は倒れ、大急ぎで永遠亭の医者、八意永琳が呼ばれた。
彼女に診断してもらった結果、原因は二つあるとのことだ。
一つは、過労。もう一つは老化。
確かに私の体は57歳というにはあまりにも弱々しかった。
まるで70歳かのように細くて、シワだらけだった。
彼女にどれくらい休めばいいのかと聞いたところ、
あまりにも体にかけた負担が大きすぎたせいで、もうどうしようもなく、
余命はあと一ヶ月持てばいいくらいだと言われてしまった。
その言葉を聞いた途端、美鈴、妹様、パチュリー様の三人は泣き出してしまった。
聞いてもいつも通りのお嬢様の顔が印象に残っている。
もう持たないならと私は働こうとしたが、
お嬢様の休めという鶴の一声で、働けなかった。
そして今日は余命宣告から3週間と2日目だ。
あの日から少しずつ眠りが深くなっている。
きっと今日にでも永遠の眠りにつくのだろう。
美鈴は門番の仕事を放り出して、私の看病してくれている。
私が仕事をしなさいと言えば、
「いつもいつも咲夜さんの言うことを聞くわけではありません。
何を言われても私は看病します」と言い、
お嬢様が言えば、
「咲夜さんが事切れたらどんな罰でも受けます。
だから、今だけは私のしたいことをさせてください」と言う。
今では私もお嬢様もなにも言わないでいる。
美鈴は元から優しいが、私は嬉しかったりする。
パチュリー様は美鈴のサポート、
氷を用意したり、薬を用意したりしてくれている。
妹様は心配してくれている。
「なにもできないでごめんね」とか「大丈夫?」とか言ってくれている。
妹様は、紅霧異変から優しくなった。監禁されなくなったからだろうか。
お嬢様は···········ずっと会っていない。
何をしているかも知らない。
この3週間と少し、私は紅魔館の者からの優しさを受けてきた。
その間、私は幸福だった。
だがもうそれも終わりだ。
もう眠たくなってきた。
この部屋には今、誰もいない。
一人で死ぬのか。
心のなかで少し悲しむ。
嗚呼、お嬢様に会いたいなぁ·········。
心のなかで少し願う。
「咲夜、入るわよ」
ノックと共にお嬢様の声が聞こえる。
そして、入ってくる。
入ってきたのはお嬢様だけではなく、他の者達も一緒だった。
「どうして、集まっているんですか·············?」
「当然でしょう。あなたの最期だからよ」
お嬢様以外の者が泣き出す。
「何故わかるのですか·········」
「吸血鬼だから········かしらね」
「そう···ですか」
「咲夜、死ぬ前に一つ聞いておきたい事がある」
「なんでしょう」
「私の本当の意味での下僕にならないか?」
「········と言いますと?」
「私が貴方の喉を一噛みして、血を送れば、あなたは不老不死になる。
私の、吸血鬼レミリア·スカーレットの下僕として永遠に生き永らえる。
昔の若々しい体を取り戻せる。
あなたも死にたくないでしょう?最後に、最期に聞いておこうと思ったのよ」
「····················すみません、お嬢様。私は遠慮しておきます」
「···················何故」
「私は、私は人間です。妖怪とは違って、短い生を持つ人間なのです。
妖怪は長く、永遠に生き、人は短く生きる。それが自然の理。
私はただ自然の理に逆らわず、人として死にたいのです」
「·····················そう、わかったわ」
「お嬢様··············雨が降っているようですね」
「····何を言っているの?」
「私を含む全員の顔に水が流れています。きっと雨でも降っているのでしょう」
「そうね···········塩っ辛い雨が降っているわね········」
私は微笑む。
だがもう気を抜けば私は眠ってしまいそうな状態だった。
この意識が持つ時間はあと一分もないのだろう。
「お嬢様··········一つお願いがあります」
「何·····?言ってみなさい··········」
お嬢様がボロボロ涙を溢しながら言う。
「お嬢様は何千年も何万年も生きるのでしょう。
そのなかで、私の名前を、私自身を忘れてしまってもいいので
名前だけでも覚えておいて欲しいのです」
「うん········!うん·····!ずっと、ずっと覚えてるわ。
十六夜咲夜という名を、ずっと覚えてるわ·········」
目の前が暗くなっていく、いつもの眠りに入るときとは違う感じ。
死が目の前にあるのだと実感できる感じ。
そのなかで私は最期に一言だけ言う。
「お嬢······様········愛していました」
「さくやぁ········さくやぁ··········」
そして私の意識は途切れる。
お嬢様の涙を頬で受け止めると同時に。
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私の名はレミリア·スカーレット。
吸血鬼で、既に1341年生きている。
私には信用していた部下、メイドがいた。
名は十六夜咲夜。時を止めることができた人間。
彼女死ぬ寸前に永遠に生き永らえることを拒否して、死んだ。
生き続ける私にその真意は未だわからない。
だが、私は彼女が願ったことを実行している。
名を覚えておいて欲しいという願い。
私は800年ほど彼女の名、そして人格、姿までもまだ記憶している。
いつか人格や姿は色褪せて消えてしまうのだろう。
だが、名だけは、名だけは永久に覚えておく。
絶対に、彼女のためにも。覚えておく。
「今日は綺麗で、紅い月ね····それに十六夜だわ········」
私は記憶し続ける。彼女の名を。
すごく長い。
ちまちま書いてました。
でもなんか自分でも変な感じに仕上がってると思ってます。