もし、【鬼滅の刃】の世界に『転スラ』キャラが転移したら《リメイク版》 作:とあるスライム好き
前回の投稿から大分時間がたってしまいました。
後ろを振り返った炭治郎の見たのは、さっき確かに頚を切り落としたはずの
―――それは、紛れもない絶望だった。
その
そんな中、
その瞬間、頚を切っても再生したのだから最早倒す手段などないのだと、炭治郎も悟ってしまう。しかし、それなのに、それなのに!彼の拳は日輪刀を離さなかった。例え無駄だと分かっていても諦める事などできないのだろう。例え無駄と悟ったとしても抗う事をやめられなかったのだろう!
その証拠に、彼の紅色の瞳は、しっかりと
そして、遂に
・・・しかし、衝撃は上からではなく
―――それをしたのはいったい誰なのか?その考えが炭治郎の薄れていく意識の中、脳裏によぎる。しかし、そんな彼の考えに対する答えも直ぐに判明する。彼の鼻に匂ってきたからだ。いつも、一緒に生きてきた者の匂いが・・・・・・
*
炭治郎を突き飛ばした本人、禰豆子はその見た目だけでも怒っているのが分かる。額には血管が浮き出て息も荒々しい。
だが、それでも彼女は飛びかからなかった。自分では勝つことができないのだと、冷静に判断したのだ。本当は兄をあれ程傷つけた相手を今すぐ殺したい衝動で一杯だったのだろう。その想いは相当のものだと思う。その証拠に、彼女の握りしめられた拳からは血が滴り落ちていた。
しかし、そんな彼女はその手についた血を
一瞬の後、
その理由は禰豆子の血鬼術にある。彼女の血鬼術は「鬼のみ」を燃やす攻撃。鬼ではない、人型カリュブディスには通じないのも当然なのである。
禰豆子にもそのことが分かっていたのだろう。大して驚いた様子もなく、次の行動に移る。
突然、禰豆子は踵を返しその場から走り始めた。単極に言ってしまえば「逃亡」である。しかし、これは炭治郎達を助けるための「逃亡」でもある。
人型カリュブディスは当然禰豆子を追いかけ、その場から離脱する。
そう。禰豆子は人型カリュブディスを炭治郎達から引きはがすためにわざと「囮」になったのだ。
*
森の中を木々をすり抜け走り抜ける禰豆子。そんな彼女の後を木々を押し倒しながら人型カリュブディスが追いかける。
禰豆子にとって幸いだったのは人型カリュブディスの鱗が再生していたと言う事だろう。素早さが低下していたのだから。速さで善逸と互角の、鱗の落ちた状態のカリュブディスであったなら禰豆子がこうも逃げる事など出来なかった。この点で言えば、炭治郎達の奮戦は無意味でなかったと言えるだろう。
―――だが、そんな状況は一瞬の内に切り替わる。
禰豆子を、空気が一瞬硬直する感覚が襲う。その感覚を禰豆子はさっきも体験していた。まだ、箱の中にいた時に善逸が喰らった技だ。
一瞬で進行方向を横へとずらす。次の瞬間、赤黒い閃光が彼女の膝から下を消滅させた。
「―――!」
そのまま、その光線で生じた衝撃波が禰豆子を吹き飛ばす。禰豆子が吹き飛ばされた先は、木々がなくなっており、ちょっとした広場のようになっている場所だった。
このせいで禰豆子はかなりの危機に陥ったこととなる。なぜならここは障害物のない広場。しかも彼女の足は消滅している。禰豆子も鬼である為それ自体で死ぬようなことはないが、機動力が損なわれるという点については致命的だ。
禰豆子は人型カリュブディスが鬼ではないのだと理解している。
あの時、炭治郎の日輪刀は確実に人型カリュブディスの頚を切り落としたのだ。禰豆子はその瞬間を箱から覗き見ていた。しかし、人型カリュブディスの体は塵となって消え去るどころかどんどんと再生していっていた。
だから、その時には既に鬼ではないと思っていたのだが最後の確認として血をかぶせた。そして、結果として火は人型カリュブディスに痛痒を感じさせなかった。
この時、禰豆子は人型カリュブディスが鬼ではないと断定したのだ。
だからこそ、この状況に焦っている。正体の分からない存在が目の前にいるのだからそれも当然だ。
それに、今はまだ夜も深いが確実に朝日は昇ってくる。禰豆子は鬼である為、日光に当たればその存在は消滅してしまう。無論、禰豆子とて馬鹿ではない。通常であれば日が昇る前に日陰へと逃げれる、のだが今回は違う。もし、人型カリュブディスに捕まってしまえば逃げるのは困難なのだ。そのまま日光により消滅させられてしまうだろう。
これは捕まれさえしなければ大丈夫だが、逆に言えば、追いつかれてしまえば終わりという事。だから、機動力の削がれてしまった今がかなりの危機なのである。
ズシン、ズシンと森の中から大きな足音を立てながら
―――しかし、そんな鈍い音はなんの前触れもなく掻き消えた。
その理由を禰豆子はすぐに理解した。
・・・何故なら禰豆子の目の前に人型カリュブディスの首が転がってきていたからだ。
因果応報という言葉があるが、その姿はまるで人型カリュブディスが殺した鹿の様になっていたのだった。
現状を飲み込めない―――そう禰豆子は思った。いったい何故人型カリュブディスの頚がここにあるのか?しかも、人型カリュブディスの鱗は未だ健在。炭治郎達ですら切るのを諦めた、その鱗を軽々と切り落としたという事に他ならないのだ。
だが、それでもなお人型カリュブディスは息絶えなかった。骨組み、筋肉、血管と凄まじい速度で体を再構築させていく。
そんな現状を飲み込めない禰豆子をよそにその頚を切り落とした張本人が現れる。
「はぁ・・・ようやく追いついたのう!今更じゃがヴェルドラ様は何を考えておったのじゃ⁉―――しかし流石はカリュブディスの姿を似せているだけあるか。クロベエの打ったこの
その人物は老人だった。白い髪を背中で束ね、その手には鍔のない日本刀が携えてある。目つきは鋭く、佇まいも隙が無い。如何にも達人、といったような雰囲気を漂わしている。その姿にはどこか炭治郎の育手『鱗滝佐近次』に重なるものがあった。
禰豆子がそこまで考えた時人型カリュブディスの咆哮が空気を揺らす。
思わず耳を手で押さえ、禰豆子は薄目で人型カリュブディスの動きを追う。人型カリュブディスは禰豆子に目もくれず、一直線にその老人に向けて突進する。超重量の人型カリュブディスの体は当たればただそれだけで致命傷だ。
しかし逆を言えば当たらなければどうという事もない。伊之助と同じようにその老人は軽々とその突進を躱す。―――だが、人型カリュブディスはさっきのようにそのまま通り過ぎていくなどという事はなかった。
老人の傍に来た時人型カリュブディスはその剛腕を地面へと叩き付け衝撃波を生む。己の動きを止めつつ老人にもバランスを崩させたのだ。
その時、人型カリュブディスの巨眼は赤々とした光を青白がかった地面に落としていた。
―――人型カリュブディスは本家に対して圧倒的に劣っている。だが本家のカリュブディスに勝る点がたった一つだけあった。それは、学習能力。まるで人の様に学習することができたのだ。
だからこそ、伊之助の時も二度目に背中に乗った時は返り討ちにすることができたのだ。一度目の失敗を踏まえ、
そして、今回はそれの応用だ。突進で老人まで近づき、そこで地面に攻撃を加える。これで自分の勢いを殺しつつ老人のバランスを崩させたのだ。万が一にも避けられないようにするために。
それに、例えその一万分の一が出ても鱗を落とした自分であれば老人にも直ぐに勝てる。先程は不意打ちを食らったから頚を飛ばされてしまったが今度はそうはならない!人型カリュブディスはそう思っている。
そんな思いを表すかのように、その口はうれし気に吊り上がっていた。
その時、体中の鱗が弾丸のように老人に向けて発射される。一発一発が弾丸というよりも砲弾と言った方が正しいのではないかと思えるような威力を秘めた鱗が何十、何百も襲い掛かってきたのだ。
そこに見事に巻き込まれた老人の影を見て人型カリュブディスは勝利をほぼ確信する。―――しかし人型カリュブディスの思考は見事に打ち砕かれることとなる。
刹那、景色が二つに割れた。
「ぬるい技じゃ。こんなものでワシを殺せると思っていたのかの?」
眼を切られた?―――人型カリュブディスは一瞬そう思ったが直ぐにそれは間違いだったと気づく。切られたのは眼ではなく、
再生しようとしても身体はその意思に反してどんどん崩れていく。
―――勝てない。その思考を最後にそのまま再生することも抵抗することもせずに意識が―――魂が、消えていったのだった・・・。
*
禰豆子は目の前で起きた事が信じられなかった。それも当然だ。なにせ、完全に鱗の攻撃に巻き込まれた老人が何事もなかったかのようにそこに立っており、それと対照的に人型カリュブディスは頭から二つに割れて地に臥せていたのだから。
再生するようには見えない。完全に死んでいるようだ。
次に老人はこちらに近付き禰豆子をちらりと見やると一言漏らし、
「怪我は・・・なさそうじゃな」
すぐさまその場を去ろうとする。足の傷はとっくに治っている。
その老人の戦うさまを見て禰豆子は直感的にたった一つの希望を抱いたのだ。もしかしたら、あの老人なら今の炭治郎達を何とか助けてくれるんじゃないかと。
このままいけば炭治郎達が向かう先は死。これは予想でも予見でもない純然たる事実だ。
その場を去ろうとする老人の服の裾を弱々しく握りしめる。
「・・・?どうしたのじゃ?」
再び、禰豆子の姿を見直す老人。この時、老人は禰豆子の着物についた血痕に気が付く。
「ッ!もしや、他にも襲われた者がおるのか⁉」
走り出した、禰豆子の後を老人が追いかける。
そんな時、ふと禰豆子が立ち止まった場所には陥没した地面や幹から折れた木々、血痕が散乱していた。
・・・そう、戻ってきたのだ。炭治郎達が人型カリュブディスと戦ったあの場所へと・・・。
森の中から運び出されてきた炭治郎達。一人一人が辛うじてではあるがまだ息があった。しかし、その身に刻まれた傷は相当のものだ。
特に酷かったのは伊之助。至近距離であの鱗の攻撃を食らったからか、体中に裂傷を負い、森に飛ばされたからか後頭部からの出血も酷かった。
どう見ても手遅れ。こんな彼らをこんな老人に見せて何とかなるはずがないと、今の禰豆子でも分かってしまう。―――しかし、そんな禰豆子の思いはいい意味で裏切られる。
「よしッ!まだ息があるようじゃ!助けられるのう!」
口元へと手をかざした老人の顔に笑顔が灯る。そして、懐から取り出した水色の液体を炭治郎達へとぶっかけた。
一瞬、炭治郎達の体が青い光に包まれた。思わず眩しくて目を閉じる禰豆子。
光が治まり、再び禰豆子が見たのは傷が全くなくなった、炭治郎達の姿だった。
禰豆子が炭治郎の顔を覗きこむ。如何やら今はまだ寝ているようだ。最早、先程までの傷など全く感じさせないような姿だ。
それを見て禰豆子の頬を涙が伝う。きっとその涙には複雑な想いなどなくただ無意識にこぼれ落ちただけなのだろう。しかし、その涙は止まることなく炭治郎の顔に落ちていく。
そんな時、老人が口を開く。
「お主、すまんがその少年を担いでくれぬか?ワシはこの二人を運ぶ故」
何故?と思わなくも無かったが、禰豆子は老人の指示に従った。先程までの場所よりかなり離れた地面に老人は彼らを降ろし、少し考えるしぐさをすると、炭治郎達の羽織に手を翳していく。すると、衣服の気配がほんの少しだけ変わった。
そして、老人は禰豆子に近付きポンと肩に手をやる。その時、自分の羽織ものも一瞬だけ妙な気配を放った。今まで感じたことのない気配だが、それはどことなく安心できるものであった。
「すまんかったのう。しかし、今日の事は他言無用じゃ。その詫びと言ってはなんじゃが、主らの衣服にちょっとした細工を施した。きっと朝日が射すころには衣服も治っているであろうて」
その言葉が終わるころには老人の姿はどこにもなく、ただ暗い夜空に輝く月と、それに照らされた森があるだけだった。
何の根拠もないただの直感。そんな、か細い希望の糸。しかし運命は、本来ならば握ることすらなかった
―――炭治郎達の人型カリュブディスを「自分達の力」で倒すための努力は確かに無意味だった。
しかし、「伊之助を助ける」ための・・・いや、「全員が生き残る」ための努力は無意味ではなかったのだ。
もし、あの中の誰かが諦めていればこの事態はどうなっていたのか分からない。悪い方向に進んでいたかもしれないし、もっといい方向に進んでいたかももっとしれない。
しかし、訪れた結果はこの現実だけ。全員が助かった。この結果だけなのである。