もし、【鬼滅の刃】の世界に『転スラ』キャラが転移したら《リメイク版》 作:とあるスライム好き
「うぅーうぅーー」
どこか不安そうな声が朧げな意識の中で俺の耳に届いた。明晰夢という奴だろうか?俺は自身が寝ている事が認識できていた。
俺何時間くらい寝てたんだ?というか、昨日は何時に・・・
「―――ッ!禰豆子!アイツは⁉」
この時、俺の意識は目覚めた。思い出したのだ。あの出来事を!
思わず反射的に、日輪刀を構えてしまう。だがしかし、どこにも青鮫鬼の姿はなかった。周りにあったのは森の木々と禰豆子の入っている箱だけ。
しかし、代わりに俺の眼には黄金色に輝く太陽が映されていた。本来であれば、太陽は鬼を打ち倒す俺達にとって非常に重要な存在だ。・・・だが、今日に限っては違った。
日が上っているという事はあの時からかなりの時間が立っているという事。それが指し示すことは・・・
俺の脳裏に傷だらけの伊之助と善逸の姿が蘇る。あの傷ではあと数分も持つかわからない様な傷を負った伊之助と善逸の姿が・・・。
―――そんな景色が蘇ると同時に、俺の視界は涙で歪んでいた。
「ごめん・・・ごめんよ、善逸!伊之助!俺、助けられなかった・・・!必ず助けるって誓ったのに・・・それなのになんで⁉俺だけは、生き残って・・・!」
膝をくじき何度も何度も拳を地面に叩きつける。血が滲むがそんな事気にもならなかった。ただただ、悲しみと喪失感、そして自身と禰豆子だけが何故か生き残ってしまったという背徳感が俺の心を埋め尽くしていく。
―――それはまるで嘗て禰豆子以外の全てを失ったあの雪の日を連想させるかのような感情だった。
そんな俺に箱の中から禰豆子が声をかけてくれる。だけど、そんな事じゃ俺の心は治らなかった。後悔ばかりが俺の心の中で渦巻いている。
・・・もう、伊之助や善逸と生きて会うことは出来ない。
・・・もう、伊之助や善逸と話すことはできない。
・・・もう、俺は彼らと一緒にいられない。
そんな時、強い風が数々の匂いを運んでくる。
あの日、禰豆子が鬼となったあの日。風が運んできたのは不幸の匂いだった。―――だがしかし、今回は?
泣き崩れた俺の鼻に禰豆子以外の二人分の匂いが香ってくる。その時、俺に話しかける声があった。
「おーい。やっと起きたのか・・・ってどーしたんだよ⁉炭治郎?」
「うおッ!流石に俺様でも引くぜ、聡一郎」
何気なく話しかけてきたのは善逸と伊之助だった。二人の姿を見た瞬間、涙で歪んだ景色が更に歪んでいく。もう前も見えないような視界の中でも俺は、匂いを頼りに二人に抱き着いた。
「―――ッ!善逸⁉伊之助⁉良かった!生きててくれたんだな!」
ボロボロと溢れてくる幸福故の涙。止めようとすら思えなかった!
ただただ、善逸と伊之助が目の前に生きていてくれた!これだけで俺の心は埋め尽くされたんだ!
しかし、そんな俺とは対照的に善逸達は戸惑い顔だ。
「え⁉ちょッ、なんだよ炭治郎⁉」
「うおッ!いきなりなにすんだッ!離れろ、気持ち悪りい!」
そう言いながら伊之助が俺を引きはがそうとしてくる。だが、俺は伊之助と善逸の体を離さない。この感触が夢でないと確信できたから、伊之助を善逸を、離したくなかったんだ!
―――だが
「それに、生きててくれたって何の事だよ⁉」
「伊之助の言ってる通りだよ!炭治郎。何言ってんの?」
この二人の言葉を聞いて伊之助達に抱き着く俺の腕の力が緩んだ。
「・・・どういう意味だ?昨日の事、覚えてないのか?」
俺は弱弱しい声を発すると共に伊之助達に回した腕をほどき、自身の眼に溜まった涙を拭きとる。
今まで涙で歪んでいた景色は正しく俺の瞳に映し出された。その景色の中の伊之助達は俺の記憶の中と違い、傷など何処にもなく、更には羽織ものにさえ傷跡はおろか血痕さえも残ってはいなかった。
「傷は・・・傷はどうしたんだ⁉」
俺の意識と関係なく、俺の口から勝手に言葉がこぼれ出る。
今、目の前に広がる光景を信じれない・・・!なんで・・・どうして・・・だって伊之助も、善逸も、あの時・・・・・・。
脳裏には沢山の記憶が流れてくる。しかし、それはあいまいなものばかりだ。
ダメだ・・・混乱しすぎて考えが纏まらない。
「傷ぅ?なんだそりゃ。なんで傷なんて言葉が出てくんだ?」
俺は匂いで相手が考えていることが分かる・・・。だからこそ俺は分かった。伊之助は噓をついてない。本心から俺の言っている事の意味を分かってない。
そんな時、ふと思いついたように善逸が声をあげる。
「まあまあ、落ち着けよ炭治郎。いやに現実的な『夢』でも見たんだろ?分かるよ?俺だって怖い夢見た時とかは、ギヤァァアアアアとか叫んで錯乱しちゃうしね」
善逸が俺に対して同情の笑みを浮かべている。だがしかし、俺が気になったのはそこじゃない。
俺が気になったのは・・・
「・・・夢?」
*
ザック、ザックと聞こえてくる、土を掘り起こす音。近くには真っ二つにされた、青い鮫が死んでいた。
それをしているのは、白髪の老人ことハクロウである。何故こんな事をしているのかといえば、極端に言えば「証拠隠滅」だ。誰に対しての「証拠隠滅」かと言えばそれはリムル様―――ではなくこの世界の住人達に対してである。
もし、こんな化け物がこの世界の住人達に見つかれば騒ぎになる可能性が非常に高い。
それでは、出発時に主人よりかせられた『トラブルを起こさない』に違反してしまう。だからこうして青い鮫こと人型カリュブディスを地面に埋めているのだ。
「ふう。ようやく埋め終わったか・・・。しかし、こう言ってはなんじゃがあの少年達が気を失った状態でよかった」
ハクロウにとって一番の不安要素は人の口だ。物的証拠であるならこうして隠滅することができるが、人の記憶というのはそうではない。
本来であればこの時点で、現場にいた全員を殺すしか人型カリュブディスが存在しなかったという事にはできないが―――今回は違った。
ハクロウが駆け付けた時、彼らは意識を失っていた。そこでハクロウは即席の作戦を思いついたのだ。
その名は「夢オチ作戦」。前に彼の主人であるリムル様が話していた会話の中で出てきた単語だ。その意味は、現実で起きたと思っていたことは夢だった、という結末を作ること。
しかしこれには大きな問題があった。それは、複数の人間が同じ夢を見たとなってしまうということである。だが、そこであえてハクロウはこの作戦を決行した。
・・・いや、するしかなかった、と言った方がいいか。ここで行動を起こさなければ確実にあれは現実として受け入れられる。だからこそ、ハクロウは僅かな希望にかけたのだ。
だがしかし、幸運はハクロウに微笑んだ。
四人の少年少女のうちの一人である善逸は眠った状態での戦闘の為、記憶はなく、伊之助も後頭部に強い衝撃が加わった為に軽い記憶障害を引き起こしていた。
その結果、記憶が残っているのは二人だけ。しかも、ハクロウは知らぬ事ではあるが禰豆子は意味のある言葉を発することが出来ない。
つまり、キチンと昨日の記憶を他者に伝えることができるのは一人だけ。
そんな状況では現実と虚構は容易く覆る。結局のところ、トラブルを避けるには「あれ」は夢であり現実ではない、と錯覚させれば良い。
今回は全てがとんでもない確率でハクロウに味方した。それだけなのだ。
服に関しては
「・・・はぁ。この事態も、ヴェルドラ様から目を離してしまったワシの落ち度、か。今更、無駄じゃと思うが一応ヴェルドラ様等が待っておるか確認しに戻るかの」
そうして、ハクロウは最初にヴェルドラ達と共に転移して来た場所へと足を急がせたのだった。