みんな。竜宮城の話、知ってるか?
むっかしーむっかしー
うーらしーまはー
たーすけーたかーめにー
つーれらーれてー
りゅーぐーじょーへ
きーてみーればー
えーにもかーけなーい
うーつくーしさー
あれな。
簡単に言うと、
浦島さんはいじめられていた亀を助ける。
実は亀は竜宮城のお姫様の乙姫様の使いだった。
亀に乗って竜宮城へ。
亀を助けたお礼に乙姫様は色々もてなしてくれて時間が経つ。
やばいと思った浦島さんは帰りますって乙姫様に言う。
乙姫様からお土産の玉手箱を貰って浦島さんは帰還。
家に帰ると知らない人が。
実は竜宮城と現実は時間の流れが違っていて、浦島さんが帰ったときはもう何十年も時間が経っていた。
なんでやー!と、浦島さんは玉手箱を開ける。
後はいくつか説があって、浦島さんの時間が正しく経過してお爺さんに…とか。
鶴になって飛んでいった…とか。
そういう「竜宮城の話」。
俺の親父の地元じゃ結構有名な話なんだ。
すぐ近くに海があったり、大きな川が流れてたりして。
だから、亀って言ったら竜宮城の亀を連想するらしいんだ。
そんで、竜宮城への憧れもかなり大きいらしい。なにせ、「絵にも描けない美しさ」らしいからな。
これは俺の親戚、親父の兄貴の話だ。
最初に言うけど、俺は自業自得ってこういうことだなって思ってる。
欲が深いとろくなことにならないんだな、って。
親父の兄貴、伯父さんだな。
伯父さんは結構パチンコとか麻雀とかの賭け事が好きだった。
さすがに借金するまではいかないけど、結構使った。って聞いてる。
要はさ、伯父さんは一攫千金狙うタイプだったんだよ。
ある年、親父が里帰りして伯父さんと出掛けた時の話だ。
ぶらぶらと実家の近くにある大きい川に釣りに行った。
戦果は上々。さあ、帰るか、という時に俺たちは見つけた。
大きい大きいカメ?を。
川だったけど、海ガメ級の大きさ。
というか、俺としては本当にカメか?というレベルだった。
その日はいい天気で暖かくて、布団を干したいって感じの陽気。
そのカメ?は動いてなくて、岸に乗り上げてる状態だった。多分、甲羅干ししてるんだなって感じ。
微笑ましい光景だったよ…大きさ以外は。
具体的に言うと、ランドセルより大きい。多分、ランドセル3個分位はありそうだった。
俺と親父は、うわぁ凄いもの見ちゃったな、位にしか思ってなかった。
でも、伯父さんは違ったんだよな。
数日後、俺たちは実家から帰った。
それから約一週間後、また実家に戻ることになるなんて思いもしなかった。
家に帰って数日後。
実家から電話がかかってきた。伯父さんの様子が変なんだってさ。ちょっと前に会ったばかりだし、その時はいつもと変わりなかった伯父さん。でも、俺たちと丁度入れ替わりで実家に戻った伯父さんの息子が変化に気付いて電話をかけてきたんだ。
俺とそいつは同い年で親しかった。
聞くと、今までの数倍以上の水分をとっているらしい。
まあ、まだまだ暑いしな。
聞くと、でも痩せていってるらしい。それもガリガリに。
病気か?食欲はあるのか?
聞くと、魚とキュウリをよく食べているらしい。
なぜにキュウリ?
それは確かにおかしい。
それと、そいつは見てしまったと。
『父さんの部屋にあるはずのないものが…
はぁ?あるはずのないもの?
でっかい甲羅があった。
甲羅?………あ!!』
俺は思い出した。川にいたカメ?を。
『なんか知ってるか?
あのさ、それって尋常じゃないくらいどでかいやつだよな?
うん。
俺、親父たちと川に釣りに行ったんだ。その時いたやつかも。
でもさー、カメ、関係ないよな。
ないよなー。』
そんな感じで原因は分からなかった。
分かったのは伯父さんがかわいていること。
まあ、暑いしな。
伯父さんは常に喉が渇いているし、物理的にも乾いていた。
まあ、暑いしな。
それでしばらく放置してたんだ。カメ?のことも。
伯父さんも病院には行ったらしいけど原因不明。
どうしようもなくて日に日に伯父さんは乾いていく。
そして、とうとう伯父さんは倒れた。
それだけならやっぱりかで済ますんだけど、それだけで済まなかった。
倒れた次の日の朝には伯父さんは実家からいなくなったんだ。動ける状態じゃないのにって、あいつから電話が来たからすぐに実家に向かった。親父は時間がとれなくて俺一人。
実家に着いてすぐ、俺はあいつに連れられて伯父さんの部屋へ向かった。
時間はもう夜中になり、満月が高くのぼっていた。
向かう途中、ピチャン、と水音が聞こえた気がした。
そして、雨も降っていないはずなのに、あの独特の雨が降る直前の臭いが庭に立ち込めていた。
部屋に入ると、何となく生臭い臭いがした。
魚臭いっていうか、血なまぐさいっていうか。
それに、キュウリが食い漁られた跡があった。
キュウリかよ?伯父さんそんなに好きだったっけ?
でも、よく見ると変だった。キュウリの食い口がギザギザだった。明らかに人の歯で食べた跡じゃない。
じゃあ、何が食べたんだ?
それと、あれがなかった。
でっかいでっかいカメ?というか、甲羅が。
川に帰ったか?と俺たちは思った。
実際、その考えは合ってた。
そのカメ?は川に帰ったんだ。
伯父さんを連れて。
ある日、ある日、伯父さんは
でっかいカメに連れられて
竜宮城へ来てみれば
って話。
だったらよかったんだよ。
伯父さんも憧れていた竜宮城の話。
現実はそんなに甘くなかった。
むしろ非常だった。
伯父さんと親父の実家がある地域には、竜宮城とは別の話が強く残っている。
そう。
カッパだ。
川に棲む妖怪。頭に皿のようなものを乗せて、甲羅を背負っている。
キュウリが好物。
人を水辺に、引き込む。
それと、その地域にはもうひとつ。
カッパは非常食として好んで人を食べている。
俺たちが伯父さんの部屋へ行ったとき、部屋から外へ水跡が続いていた。いや、外から部屋へかもしれないけど。
どちらにしても、その先には伯父さんがいる。そう思って後をつけたんだ。
その水跡は家の外へ。
そして、俺と親父、伯父さんが釣りをした川に続いていた。
川に着いて、辺りを見回すと変な音が聞こえた。
水の音、枝が折れる音
ピチャン、パキ、ポキッ、バキッ
そして、
人の呻く
声。
月明かりの下で、影だけが浮かび上がっていた。
大きな甲羅を背負ったなにかと、人の形をしていたはずのもの。
俺たちは怖くて恐くて、その場から動けなかった。
ほんの一瞬だけ、俺は見た。
音をたてているのは枝じゃなくて、人の形をしていたものだった。
伯父さん、だった。
ミイラのようにガリガリに痩せた伯父さん。
腕を割かれ、足をもがれ、乾いた音を立てながら喰われていく。
まるで、乾物のスルメを食べるかのように易々と喰らい尽くしていく影。
音が止み、影がひとつだけになった頃。
甲羅を背負った影は満足そうに体をぐぐっと伸ばすと、川に入っていった。
最後に、ちゃぽん、という音と共に甲羅は水に沈んだ。
川の脇の草むらからは、虫の鳴き声だけが聞こえていた。
俺たちは泣きながら帰った。
恐怖からなのか、悲しさからなのか。
俺たちは笑われることを覚悟で、ありのままを話した。
不思議なことに、誰も疑わなかった。
遺体がないから、後日寺の和尚さんが実家に来てお経だけ詠んでくれた。
その時に、和尚さんは俺たちに教えてくれた。
年に数回、同じようなことがあるんだと。
ふと甲羅をどこからか拾ってきて、ガリガリに痩せ細っていく。まるで何かの呪いにかかり、体から水分が奪われていくように。
最後には、甲羅を拾ってきた者は「痩せ細る」を通り越して、乾物の様にミイラとなる。
そして、姿を消す。
伯父さんのように。
その先は、俺たちが見た通りなんだろう。
変な話だって言うなよ?
俺、カッパってかなり賢いと思うんだ。
あんなに目立つ甲羅を「ほぅら、気になるでしょ~?」と言わんばかりに堂々と干しておく。
売れば結構な金にもなるだろうし、伯父さんみたいに「竜宮城」の話に憧れを持ってる人は特に…持って帰るだろう?
それでさ、その甲羅には何かの呪いをつけておく。例えば水分を奪うとか、な。
甲羅を持っていった人は乾いていく。
笑うなよ?
俺、この段階でカッパは非常食を作ってるんだと思うんだ。乾物な。保存きくように水分しっかり抜いて干しとくんだよ。
良い感じになったら取りに来る。
それまで放置すればいいんだし、楽だろ?甲羅を干しておくだけなんだから。
単に人を食べるつもりだけなら川でもどこででも襲えばいいだろ?
それでも腹が減ったら非常食を食べればいい。
賢いな、おい。
更に腹が減ったら、畑を漁ってキュウリを盗むしさ。
魚だって乱獲して生で食べるだろ。外来種、もっと食べていいんだぜ?ワニとかアリゲーターガーだっけ。あいつらには気を付けろよ。
伯父さんにはほんと悪いんだけどさ。
あんた、夢見すぎだろって思う。精々カメ助ければ竜宮城へにでも連れてってくれるかもとでも思ってたんだろ?
(ぽりぽり)
伯父さんが亡くなった後、息子のあいつがどうしたか知ってるか?
伯父さんの部屋の物、全部売っ払ったんだ。
あの人の賭け事で奥さんとか親父も泣かされたからな。あいつもあいつで悪いと思ってたんだよ。
俺はあいつが悪いとは欠片も思ってないんだけどな。
おう、もっと食えよ。
(ぽりぽり)
無駄に欲を出すとろくなことにならないって。
伯父さんの結末もそうだし、やたらと人を襲おうとすれば俺らだって黙っちゃいないんだぜ?
適度、ほどほどが一番なんだよ。
(ぽりぽり)
じゃあ、俺帰るな。
あいつのこと、助けてやってくれよ。
(がぁ)
あ、最後にさ。
(ぽりぽり)
(がぁ?)
お前の甲羅って、結局お前の一部?それともマジでカメの?
(くいくい)
ああ…そっち。
川の岸には山になって眠るカメたちと、その中に混ざる幼いカッパがいるのだった。
スッポンもいくらか混ざっている気がする。
俺の横には、あの夜伯父さんを喰らっていたであろうカッパが手土産であるキュウリの浅漬けを食べていた。
伯父さんの息子のあいつは、その後議員となった。地元の自然を残した住みやすい町を造ろうとしてる。
それをよく思わない奴がいるのも事実で、危険な目にあうこともあるそうだ。そういうときは、こっちもちからわざで応戦する。
地元の天然記念物「カッパ」はこっちの味方だ。
あるかも分からない「竜宮城」よりも、今では俺たちと彼らカッパの距離はかなり近くて。
それでも辛うじてエンカウント(遭遇)しない絶妙な距離。
これが俺たちが望んだ「お伽噺」との距離だ。
今日も川岸にはでっかい甲羅が干されている。
何かが沈む水音が、確かに俺の耳に聞こえた。
幽霊とか、妖怪とか、都市伝説とか、怪談とか。そういうのは「普通に」生きていれば出逢わないものだろ?
でもさ、確かにすぐそばにはあるんだよ。
目に見えなくてもすぐ隣に立っている。
まさに共存しているって言ってもいいくらいだ。
俺たちの桜ヶ原に桜がありつづけたように、あいつの町にカッパが住み続けるように。
違和感が全くない程溶け込んで、世界があるんだと思う。
それに気づけた俺たちはさ。
特別に幸運なんだなって俺は思うわけよ。
これが、俺が一生をかけて気づいたとっておきの話。
なあ、桜のお姫様。
俺たち、どれだけあんたの近くに来れたんだ?
『甲羅干し』
大きな大きな甲羅が干される川の横
そこは竜宮城の言い伝えと
河童の伝承が共存しておったとさ
甲羅を持ってく欲見せりゃ
そいつは河童の非常食
干物にされて食われちまう
守って守られる関係望めば
あいつらだって応えてくれる
キュウリと酒で一杯やろうぜ
俺らは友だち
肩を組め!