桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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「わらう老婆の絵」from 桜ヶ原

この町の何処かに、誰が描いたかわかんない絵があるんだって。詳しいことは何にもわかんなくて、タイトルでさえわかんない。わかっているのは、その絵は老婆がわらっている。そういう絵っていうことだけ。

 

何でそんな絵のことを話すのかって?

だから、この町の何処かにその絵があるらしいんだって。

 

その絵を持ってるとね。視線を感じるらしいよ。誰から? 決まってるじゃん。この話の流れだと、絶対に描かれてる老婆からの視線。

で、ね。その絵を持ち続けていると、行方不明になっちゃうんだって。絵だけ残して、持ち主は消えちゃう。

残った絵は、しょうがないから別の人の手元に行く。なんでか、女性の所が多いらしいよ!

それを繰り返して、巡り巡ってこの町に来たってわけ。

 

何処にあるんだろうねぇ。

 

何で探してるのかって?

その絵は「外」から入ったヤツなの。余所者だよ。

そんなヤツにこの町のか弱い女性を行方不明にされてみなよ。か弱くない? そこはいいの。とにかく、この町で好き勝手にされるなんて地元民のプライドが許さない!

 

ねえ、そうでしょ?

余所者さん。

貴女が誰であれ、この町に入ったからには好きにさせない。

この町は、桜ヶ原は、貴女が思っているよりもずっと面倒なんだよ。

 

そう言って私たちが見る先には、件の老婆が絵画の中でわらっていた。

 

 

 

 

 

 

桜ヶ原の図書館に、新参物が仲間に加わったのはつい最近のことだった。

古くさいにおいのする展示物の中にそれはあった。壁にかかった一枚の絵画。題名が記されていない、異国の老婆がわらう絵である。訪れた人たちはその絵を「わらう老婆の絵」と呼んでいる。

 

老婆は一人、今日もわらっていた。

 

 

 

「まじ、信じらんなーい! なによ、ここ!?」

 

絵画の中で、誰かが不満を叫んでいた。老婆の声ではない。しかし、発しているのは「老婆」の姿をした誰かであった。

高い、少女の様な声を彼女が絵の中で発して いた。

 

ここは、飾られた絵画の中の世界。

動く現実の世界に向かって、彼女はいつだって表情を変えることはなかった。そう、今までだったらそうであったのだ。

世界各地を転々とし、持ち主となった女性を絵画の中へと引きずり込む。引きずり込んだ女性は。

 

現実の世界で行方不明となった女性たちは。

 

老婆の胃袋の中へと収まった。

 

老婆は、絵画の中で生き続けていた。

 

 

 

彼女は何処か遠い、この星とは別の次元からやって来た異星人であった。そう言えば満足だろうか。

理解を越えた何かの力によって彼女は一枚の絵画の中に亜空間を作り上げた。そして、棲みついた。空腹となった彼女は、食事となるニンゲンの側にのうのうと座り込んだ。一枚のただ、飾られる絵画として。

 

そんな話、聞いたことない。そんな話、あり得ない。あるはずない。

 

そう。そう思ってくれて構わない。

なにせ、この話の絵画は描かれた物ではないのだから。

これは「怪奇」なる「不思議」な話である。

 

「マジでなによ、ここー! アタシよりヤバい奴らの巣窟じゃない!」

 

こんな所では落ち着いて食事を捕ることもできやしない。老婆の仮面を被った若い女性は、とうとう泣き目を見ることとなってしまった。

男は不味い。筋肉と筋だらけで歯が通らない。

できれば女がいい。もっと言えば若い女がいい。

欲を言えば子どもがいい。だが、子どもがいなくなれば親が探す。町の警備が厳しくなる。子どもも女も男さえも手に入らなくなる。彼女は妥協した。空腹には勝てない。こうなったら女でいい。だが、若い女だ。これ以上は妥協できない。

彼女は笑った。絵画の中でひたすら女性が目の前に立ち、近づいてくるのを待ち続けた。

 

そして、近づいてきたところを。

 

「え」

 

ずるりと引きずり込んだ。

材料を手に入れた彼女は人知れぬ時間に調理し、優雅に口へと運んでいった。肉を削がれた女性らはどこへ行ったのか。

カランカランと音をたてて、彼女の足下へと落とされていった。

 

今、絵画の中で椅子に足を組んで座る彼女の下には、白骨の山が出来上がっていた。

 

「あー、おなかすいたわー」

 

いつも満腹であった彼女がなぜ再び空腹を訴えているのか。それは、絵画が桜ヶ原という町へやって来たためである。

 

絵画の前には美味しそうな女がたくさんいる。獲物は選びたい放題なのである。

しかし、その町では捕食者の数が多すぎた。角のコンビニ跡には桜の木の根が残っている。何処かには地下通路と呼ばれる大蛇がぽっかり口を開いている。化け狸と喋る猫は町を闊歩し、死人を運ぶバスが毎日走る。美しい言い伝えで上書きされた砂時計は手に取られるのを待ちわび、子どもたちが七不思議を謳い続ける。

どれも長年いきつづけた強者である。そんな中で新入りが生き残るのは容易くない。

 

「あー、もういっそのこと帰っちゃおうかなー」

 

一枚の絵画がこの世界から消えるのも近いことかもしれない。

空腹続きでは、わらってばかりいられないのだから。

 

 

 

絵画に棲む彼女は誰なのだろうか。

 

 

 

彼女は、此処とは別の世界からやって来たとある魔女である。




彼の魔女の名を「レディ・ペイント」という。
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