照明が落とされ、スクリーンにその映画が映し出され始めた。
ポケットから着信を知らせるバイブの振動が伝わってきた。私は、席を立った。
文化祭で映画が流れたんだ
ずっと昔の、アイドルをやってたらしい先輩たちが主演の映画
女の子四人のユニット
その人たちが、更に昔の話を題材にしてつくった映画だった
内容はよく覚えてない
私は途中で席を外したから
見たのは最初と一番最後の絵だけ
本当に、内容は知らないの
その先輩たちが海で×××の××を×××したらしい話だったって誰かから聞いた気がする
絵には先輩たち四人と海が写っていた
覚えてないの
でも、体育館でその映画を誰かが流したらしいの
どこにそんなのが残ってたのか、誰も知らない
知ってるはずないの
だって、ずっと昔の作品なんだから
だから、知らないんだって
そんな作品が学校に残ってたなんて
知らないよ! 知らないの!
聞かないでよ、知らないの、見てないの、私は!
その先輩たちが何を題材にしたのか、なんでそんなことを題材にしたのかはわかんない
わかんない
わかんない
わかんないけど、その映画を先輩たちはつくっちゃったの
その先輩たち
先輩たち
五人の
五人?
絵に写ってた、五人?
四人の、先輩たちは、亡くなったんだって
ほら、ずっと昔の先輩たちだから
ずっと、昔の話だから
変な、死に方だったんだって
まるで
なにかに
ノロワレタ
みたいな
変な死に方だったんだって
その映画の内容は知らないの
覚えてないの
覚えてない!
ちがう
その、映画
その映画をつくってみんなに見せて、亡くなった先輩たちの話だった
だから私、先輩たちがどうなったか知ってるんだ
奇妙な死に方
四人の先輩
内容は、ほんとに知らないの
見てないの
でもね、始めの絵と最後の絵だけ、ちらりと見えたの
始めは海をバックに四人の先輩の顔が写ってた
アップだったから、一人一人の顔がよく見えた
可愛い女の子
笑っている、四人の女の子
今より昔の女の子
見てないの
私、そこにはいなかったんだから
席をはずしたの
戻ったのは映画が終わる頃
ほんとよ
ほんとだってば!
最後に見えたのは、始めと同じ絵だった
同じ、だったんだ
戻ってその絵を見たとき、始めと同じ絵だと思ったんだ
でも、
五人、だった
写ってたのは、
五人の、
女の子だった
始めと同じ場所に四人の先輩
バックには同じような海
多分、海で何かがあった
そんな話じゃないのかな
知らないよ
でも、五人、だった
先輩たちの顔が、どんどん苦痛に歪んでいった
女の子とは思えないくらい歪んで、ぐちゃぐちゃになって、人とは思えない最期だった
先輩たちは、あんな風に死んでいったんだ
奇妙な死に方
不可解な死に方
ショックだった
同じ年代の女の子が、なんで、あんな、死に方を?
何があったのかは、知らない
知りたく、ない
こわくて
こわくて
こわくて
知らない、女の子の顔だった
先輩たちよりさらに昔の雰囲気があった
女の子?
大人の女性って言ってもいい年齢だったかもしれない
若く見えてたのかも
老けて見えてたのかも
わかんない
よく見てないんだ
こわくて
彼女から、目を、反らした
その映画は、確かに動く絵だったよ
先輩たちが
目の前で
目の前の絵の中で死んでいったみたいに
絵は動いたの
映画だったの
五人目の、彼女も、
動いたの
目をあわせたくなかった
こっちに気づかれたくなかった
見ないで
見ないで!
私、知らないよ!
見てないよ!
貴女のことなんて知らない
貴女のことなんて見てない!
お願い、見ないで
見ないで!
その映画の題材は、五人目の彼女だった
先輩たちは、彼女のことを知ってしまった
だから、呪われた
だから、変な死に方を、した
そう、なの?
彼女は自分のことを知られたくなかった
貴女は、知られたくなかったの?
だから、貴女を知った人たちを呪ったの?
知らないよ
私、貴女のこと知らない
お願い、許して
私、貴女のこと知りたくない
見てない
見てないよ!
知りたくない!
見たくないよ!
だからお願い、こっちを見ないで!
その映画は、偶然誰かの目に留まってしまったんだと思う
不幸にも
その映画には、彼女の秘密そのものが写っていたのかもしれない
彼女は、秘密を、自分を暴かれたくなかっただけなのかもしれない
私は、その映画を見ていない
だから貴女の名前を呼ぶこともない
私が上映されていた体育館に戻ると、
もう、
息をしている人は誰もいなかった
みんな、貴女をみてしまったから
その映画を、みてしまったから
みんな、映画の中の先輩たちとおんなじ表情をしていた
呪われた人の顔をしていた
同級生も先輩も後輩も先生も
みんな、みんな、
死んでいた
知らないよ
だからこうして、誰かにその時のことを話せるの
知らない
知らない!
知らない!!
みてない!
私は、何も見ていない!
私は、映画のフィルムが回り続ける体育館の扉を、何も言わずに閉じた。
これが、私の高校生活最後の文化祭だった。