僕は暇だった。
暇すぎて暇が余っていた。
観たかった映画も、読みたかった本も漫画も、聴きたかったCDも、終わらせたかったRPGのゲームも。全部、全部、尽きてしまった。
面白くなかったわけじゃない。でも、一通り終わってしまうと、「さあ、2回目だ」とまではやりこもうと思えない。できれば次の新しいものが欲しい。
僕はホラー風味が好きだった。
「風味」というのは、もうコッテコテのドッロドロに恐怖のどん底へ叩き落とされるようなホラーよりも、これやらせか? 編集か? というくらいのわざとらしさが多少ある、所謂B級ホラーと呼ばれる作品が僕にとっては好ましかった。
しかし、この好みの線引きは微妙である。当たりハズレがあるのだ。だからなかなか「これだ!」というものに出会えない。
ホラーというジャンルを抜きにしても、いつだって僕の好みのど真ん中をいく作品は本当に少なかった。
そんなときだった。
僕は、SNSで変なものを見つけた。
アカウントの名前は「ホラー動画を探し隊」。そのままな名前だったけど、ホラー動画が好きな僕としては気になる名前だった。
早速フォローしてみると、プロフィールに書かれていたのは「ホラー動画を探したいメンバーその1山田」。
どうやら全部で4人いるらしい。
というか、名前そのまんまじゃないか笑。
メンバーは山田の他に佐藤、田中、鈴木がいる。おい、名前笑笑。
僕は確信した。これ、絶対本名だろ。って。
彼らの投稿する内容は簡単。その名の通り面白いホラー動画を探して記事に載せる。ちゃんと引用元も出てて、なかなか面白い。何より4人の性格・好みがはっきり出てて、更にコメントが笑える。
とりあえず4人全員フォローをして、僕は更新を楽しみにしていた。
彼らは国内はもちろん、海外の動画も紹介してしっかり説明も加えてくれる。
一本の動画自体はそれほど長いものじゃないから、空いた時間にさらっと見ることができた。更新の間隔も3日に1回位でかなり早い。
気づけば彼らは僕のオススメユーザーになっていた。
彼らは本当に趣味でやっているらしくて、動画サイトや掲示板と呼ばれる、書き込み板? みたいなところには投稿していないらしかった。本当にそのSNSだけ。
コメントを送れば全部じゃないけど返信もしてくれて、「どういう動画見てみたい?」って向こうから聞いてきてたりもしてた。
ある日、彼らはこういう内容を載せた。
「自分たちで動画作ってみることにした!
楽しみにしてて!!」
それが載ってから、もう数月が経った。
僕は心配になってて、ある時急に更新されたそれを見たとき、とうとうやっちゃったなって思ったんだ。
いつか、彼らはやるかもしれないと思っていた。良い意味でやらかしてくれるかも。悪い意味でやってしまうかも。その両方を感じていた。
僕は、その記事を笑いながら開いた。
まずは。
一人目、山田さんの動画をご覧いただきたい。もしかしたら、もう観たことがある人もいるかもね。
動画のタイトルは、これ。
『あの廃病院…移動しました』
毎度、ご利用ありがとうございまぁす。
ホラー動画を探し隊、山田でぇっす!
えー、今日は動画を紹介じゃなくって
(画面が少し上下に揺れている)
(暗い中、道を歩いている)
(足音と虫の鳴き声だけが聞こえる)
自分たちで動画を作ろうってことになりました!
いぇーーーい!パフパフ!!
ということでぇ
さくさく進めていきましょう!
第一回目はこの山田がお送りする「病院」!
(→ここまでオープニング)
(ばばーーーん!)
(効果音と共に字幕が現れる)
「以前ここには病院があった。別に事件があったということではないが、他にいい感じの場所が見つかった為移動することに。
機材やら何やらはもちろん全て運び出され新しい病院へ。古い方にはもう何も残されていない、はずである。」
そう。何も残っていないはずなんですよ。
でもね。新しい病院での営業が始まってから、変な噂が流れ出したんですよ。
(後ろに真っ暗な病院が。電気はひとつも着いていない)
古い方の病院のとある部屋には、まだ電話が残っている。ってね。
はーい、失礼しまーっす。
(がちゃ)
(病院の入り口を開けて入っていく)
(画面下に許可は得ていますの文字が)
(懐中電灯の灯りだけで病院の廊下を進んでいく)
(カツンカツンと靴の音だけが響いている)
でぇ、その電話が残っているという部屋がこちらです。
(懐中電灯の灯りに浮かび上がった扉)
(プレートには編集でモザイクがかかっている)
おかしいですよねぇ、電話だけ残っているなんて。
で、噂には続きがあります。
その部屋に入ると電話がなるんだと…
んなバカな…
というわけで…
いってみよーう!
(ぎぃ)
(鈍い音と共に扉が開かれる)
(真っ暗な部屋)
(物は何もない)
(机と椅子が残っている)
(懐中電灯で部屋をぐるりと一周照らす)
(一瞬電話が写るがスルー)
ほらー。やっぱり何もな…
???!!!
(電話を二度見)
あったー!
ありやがったーーー!
まさかここで鳴るなんてこと…
(電話が鳴り出す)
鳴ったー!
電気とか来てないはずなのに
鳴ったーーー!
(電話のコードをアップにする)
(コンセントは刺さっていない)
(コードは途中で切れている)
そんなばなな!?
(字幕で死語(笑)と出る)
やばい…
ここは出るべきか、否か…
ここは…
(字幕で
→出る
出ない
と出る)
俺は、出ない!!
(しばらくして電話が鳴り止む)
セーフ!セーフ!!
今の出たら絶対ヤバイやつだった!
(額の汗を大袈裟に拭きながら)
ふいーーー…んんん?
(電話が置かれている机の上に万年筆とメモ書きが)
(近づいてアップに)
(「御用の方はこちらへおかけください」)
かけよっか。
(ボタンを押して電話をかける)
どーせかかんないってー
(3コール目で繋がる)
?!?!
もっもすもす?!
(字幕で噛んだ(笑)と出る)
「お電話ありがとうございます。
こちら○○病院、受付でございます。
当病院は移動しました。
繰り返します。
当病院は移動しました。」
(女性の声で案内が入る)
ありゃ?
移動したって案内じゃんか。
しょーがねーなー。
これで動画はおわ
(目の前に大きなガラス窓)
(懐中電灯を着けているためガラスに自分の姿が写る)
(電話をかけている男(自分))
(その後ろに写る
看護婦の姿
自分以外いるはずない。
いるはずないのだが、窓にははっきりとナース服の女性の姿が写る。
その女性も受話器を手に持っている。
今、俺が聞いている案内をしているのは、あの女だ。
俺、この部屋に一人のはず。
窓に写っている女は…?)
窓に写る女と目が合う。
女はにやりと笑った。
真っ赤な口紅に塗られた唇が目をひいた。
う し ろ に い る よ
女の口がゆっくり動く。
俺の うしろ
う し ろ
(ぞくっ)
ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!!
(大声をあげて逃げ出す)
(画面に大きく「しばらくお待ちください」と出ている)
(→ここからエンディング)
というわけで、山田は無事に帰還しました!
いぇーーーい!
怖かった!俺が!怖かった!
廃病院に電話が残ってても!
もしその電話が鳴っても!
みなさん、無視してください!
ましてや、かけ直しちゃいけません!
山田お兄さんとの約束だぞ☆
では、次回の「ホラー動画を探し隊」を楽しみにしてください!
チャンネル登録よろ!
そいえば、かかってきた電話にすぐ出てたら別ルートに?
に、二度目は行かないんだからね!!
『ニュースです。
本日市内にて絞殺死体が発見されました。
場所は○○アパート、被害者は山田○○さん、32才、男性、職業ユーチューバー。
繰り返します。
本日…』
後日、僕はあの動画を再び見ると、「女性がうしろにいるよと言っている」シーンで女性の手が山田さんの首に伸ばされていることに気がついた。
初めて見たときはこんなことになっていなかったのに。
昼にやっていたあのニュースは、「あの」山田さんのことだ。
山田さんは一応顔出しユーチューバーだったから。
この動画と何か関係があるのだろうか。
あるのだろうな。
そうそう。この廃病院の動画なんだけど。
多分出席番号17番さんが観たやつだよ。
あいかわらずイイ趣味してるね。