桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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同窓会の案内状が、彼らに届いた。


同窓会の案内状③「彼らの約束」

桜の木の下で私たちは出逢って、遊んで、学んで、一緒の時間を生きてきた。それが一時のことだったとしても、私たちは幸せだった。楽しかった。どこか、懐かしかった。

そういうのを愛しいって言うのかな。すごく、すごく大事で大切な時間だった。

 

知ってたよ。そんな時間こそずっとは続かないって。楽しい時間ほどあっという間。だから俺たち、みんなで約束をしたんだ。

 

 

 

「またみんなで、ここに集まろう」

 

 

 

同窓会の案内状にも書かれていたアレだね。

 

ちゃんと覚えてたよ!

 

忘れるはずないわ!

 

うん、覚えてた。覚えてるんだ。でもさ、その約束って、ほんとは違うもののはずだったよね。

 

あー、もっと簡単なやつ?

 

あれかな? 「選ばれし勇者たちよ、今こそ我が名の元に再び集いたまえ」ってやつ?

 

あはは! そんな遊びもやったっけ!

 

あたしはこっちが好きだったなー。「集まれー。そして散れー」

 

ぶは、集まった意味がない!

 

それ、集めた集めた!

 

みんなで集まるんじゃなくて、花びら集める遊びでしょ! それ!

 

あ、そだったー。間違い間違いテヘ☆

 

毎日よく飽きずに遊んだよな。散ってく桜の花びら、地面に着く前にどれだけ掴まえられるか、とかさ。

 

町中探検隊とかガチだった。

 

うん、マジだった。

 

その延長の七不思議捜索でしょ?

 

そうとも言う。

 

え、そうだったの?

 

そういう気分の連中もいた。俺がその一人。

 

あ、実は私もそうだった。

 

え、君も?

 

実は僕も。

 

お前もかよ!

 

じゃなくて。案内状の文って、もともとは「また明日」の約束だったって話。

 

 

 

「またね」

「また明日」

「また今度」

 

 

 

全部、別れの言葉?

 

さよならみたいな。

 

でも「また」っていうからは次を望んでるんでしょ?

 

そうだよね。次もまた、もう一度っていう願いを込めた別れの言葉。ぼくはそう思うな。

 

っていうか、明日も集合な! っていう挨拶。決まり文句。実際みんな来てたじゃん。

 

卒業まではね。

 

あ、それ言っちゃう?

 

言う言う。小学校卒業して別のとこ行ったやついただろ? さすがに毎日は会えねえの。

 

ずっと一緒だったのにね。

 

高校行ったら更に分断。 残ったの、どんだけいたっけ?

 

大学行くなら完全に上京の流れだよね。近場で専門すらないから。

 

 

 

「またね」

 

 

 

またねの「また」っていつになるんだよ。って話になってくる。

 

何日が何週間、何ヵ月、何年になっちゃうのよね。

 

最後まで誰が残ってた?

 

あたしじゃないよ。

 

私でもない。

 

俺も違う。

 

誰も、覚えてないの?

 

 

 

「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」「またね」「マタネ」

「絶対に、また会おうね」

「ゼッタイダヨ」

 

 

 

ねえ、誰が私たちをまたここに呼んだの?

 

え、約束だったでしょ? また会おうって。だからあたし、またここに来たんだよ?

 

そうだよ。またみんなで集まろうって。みんなで、集まるんだって。

 

全員が、そう思ってた? 思わなかったやつは?

 

いないよ。いるわけない。だって、だって!

 

同窓会の案内状が、来たから。

 

うん、来たんだよ。同窓会の案内状。みんなで集まる約束を思い出させた。集まれって、誰かが呼んだんだ。

 

いかなきゃって、思ったの。それを見たとき。

 

自分の番だって、自分を呼んでるんだって。

 

誰が、出した?

 

誰が俺たちに案内状を出した?

 

え、お前だろ?

 

違う。俺にも、送られてきた。

 

じゃああの約束はなかったってこと?

 

ちゃんと私たち約束したよ! みんなで! あの桜の木の下で、約束した!

 

同窓会をしようって?

 

同窓会って、言ったっけ?

 

誰が言い出したんだよ。

 

でもさ、確かに集まろうって約束したよね。それが次の日の遊びでも何年後の同窓会でも、変わらないと思わない?

 

理由はどうあれって?

 

うん、みんなでまた揃って会えるなら、ぼく理由なんてどうでもいいな。

 

約束、してなくても?

 

約束すればさ、約束を守らなきゃって思うでしょ? 守らなかったら罰ゲーム。それがいつものぼくたちでしょ?

 

そうだね。約束は守らなきゃ。

 

ちゃんと約束したよ。忘れちゃったの? ほら、あの日。

 

ああ! あの日! そうだ、俺たち約束した!

 

あの日、あの日。先生が、亡くなった日?

 

そう、僕たちの恩師。あの人が亡くなった時、約束したよ。ほら、思い出して。

 

そうだ、桜の木の下で、約束した。

 

 

 

「約束、シチャッタヨネェ」

 

 

 

だから、私たちのとこに同窓会の案内状が来たの?

 

約束を守れって?

 

俺たちが決めたことだよ。みんな納得して、あの約束をした。集まろうって、集まるって約束したんだ。

 

それで、こうなった?

 

 

 

「最期の同窓会を、みんなで開こう」

 

 

 

こう、なっちゃったんだ。

 

約束したんだもん、しょうがないよ。

 

そうだね。みんな一緒だし、いいんじゃない?

 

 

 

「誰が案内状を出したか、知りたくないの?」

 

 

 

犯人探しはしない。みんなで集まって、ワイワイ騒ぐことのどこが悪い?

 

むしろ、最期に集まれてラッキーって思うくらいがいいんだよ。

 

 

 

 

 

 

「ほら、また会えたね!」

「おかえり、待ってたよ」

「ただいま、遅れてごめん」

「信じてた、戻って来てくれるって」

「遊ぼう! みんなでまた!」

「いっぱい話そう」

「言いたいこと、たくさんあるんだ」

 

 

 

「これがさいごだ!」

「サイゴの同窓会だ」

「集まろう!」

「集まれ!」

 

 

 

「あの場所へ」

 

 

 

「桜の木の下へ」

 

 

 

「あの日約束したものを果たそう」

「とっておきの話を、みんなでしよう」

「マッテルヨ」「待ってたよ」

「あの日言えなかったことを伝えよう」

 

 

 

「またね」

「また会おう」「また会えるね」

「ぼくたちは

 

 

 

また、あえる。桜の木の下で。

 

 

 

 

 

 

だって、あの日、約束したんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜の木の下には死体が埋まってるという。有名な話だろう。

だから、その桜の木の下から三十一人の死体が出てきても。

全くおかしなことじゃない。

 

笑い声が聞こえる。

桜の木の下で同窓会を開くという彼らの笑い声が。

もう一度、その桜の木の下で会おうと約束した彼らの声が。

 

桜ヶ原という小さな町の七不思議、最後の一つ。それは同窓会。

 

生きてきた間に得た「とっておきの話」を、死後集まった同級生に披露するという同窓会。

 

彼らは約束した。確かに約束したのだ。

それは、桜の木の根本に埋められた古い缶の中身が物語っている。

いつか埋めたタイムカプセル。今はもうどこにも見られない古いパッケージのお菓子の缶。包装が剥がれ、錆びた金属の缶。

その中に、彼らが書いた「約束」の契約書が入っている。

 

その契約書の最後には、彼らの名前がずらりと直筆で書かれている。そして。

 

 

そして、その名前の上に被さるよう、一人一人の血で印が押されていた。

 

 

 

彼らは誰もその約束から逃れることはできない。

約束は、守らなくてはいけない。誰かが言ったように。

 

それは、彼らの卒業の日に笑いながら約束したものとは違っているのかもしれない。

だがそれでもいいじゃないか。

結果として、彼らはまた会えるのだから。

また会おうって、約束したじゃないか。だから、それでいいのだ。

彼らはその命を散っていく桜の花びらのように一枚一枚散らしていくだろう。それもまた、風情があっていいのかもしれない。

 

人の命は儚く散っていく一時のもの。なんとあわれで美しいものか。

 

 

 

契約書は、いつの間にか赤黒い血で染まっていた。




誰が送った案内状だったのだろう。
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