おいおい。
うーん、これって。
あのさぁ。
あいつ、結局何が言いたかったの?
うん、俺も思った。
とっておきの方はわかったよ。それぞれいろいろあるんでしょ?
いろいろあるって知ったんだろ?
人生色々、十人十色、隣のお家は柴の色。
お、やるねぇ。机の数は三十一個、されど話は三十個。
べべべん、雷爺さん背中に背負い、ババアの床下骨埋まる。
だよねぇ。
そういう話、なんだよねぇ。
よくある話、なんだよなぁ。
そうそう。土砂崩れだって経験してる人は他にもいるよ。
はいはーい、ここにいまーす。って言っても巻き込まれてはないけど。
巻き込まれたらそこで終わりだろ。
運が良かったら生きてるよ。
運が悪くて良かったらな。
雷爺さんって結構有名でさ。そん時の子どもが間では、さ。ほんとに気難しい爺さんだったんだ。
うんうん。
あたしも見たことある。挨拶したけど無視された。
公園で遊んでたらうるさいって怒られたなー。
そうそう。そういう爺さん。
婆さんは、俺、知らないな。
え、そう? 旦那さんと一緒によく犬の散歩してたよ?
旦那さんと犬、亡くなってたんか。
奥さんと犬の話じゃなくて?
え。
あ。
あ。
え?
あ。
あ?
か、雷爺さん、ツンデレだったんだな!
そ、そう! ツンデレだったんだよ!
ツンデレだね!
ツンツンデレだったんだね!
ツンデレ言うな! 天邪鬼言え!
はは、で、婆さんの話なんだけど。
床下に骨を埋めただけでしょ?
うん、そうなんだけどさ。
土砂崩れが彼と雷爺さんの家を避けた。
雷爺さんの幽霊が守ったってことなの?
わかんない。
そうじゃねえの?
うーん、ボクはこっちかもって思うな。お婆さんの家が土砂を引き寄せた。
は? なにそれ。
お爺さんと彼の家に来るはずだった土砂も含めて、お婆さんの家に土砂が来た。避雷針になったってこと。
爺さんじゃなくて、婆さんの方があいつを守ったって?
その場合ってこと。わかんないよ。
お婆さんっていうか、床下の旦那さんと犬が、ってこと?
んんんー。更にわかんない。お婆さんなら彼のこと親切にしてくれてたんだから、死んだ後も守ろうとしてくれる、のかも。
ダメー。全然わかんない。そもそも私たち、彼とその両隣の家の人たちの関係を知らないんだもん。正解なんて出るはずないよ。
だから色々あるんだろうな。
彼ってさ、言葉足らずなとこあるよね。うまく言葉にできないの。きっと色々言ってないこともあると思うよ。
うんうん。
でもあれが彼のとっておきの話なんだ。受け取ってあげようよ。
まあ、そんなとこもあいつらしいよな。
でも想像なんだけどさ。その旦那さんと犬が亡くなった後も寂しくて、婆さんを連れていったとしたら?
でさ、雷爺さんはそうなることわかってて彼を巻き込まないように守っててくれたとしたら?
隣には隣の話があるんだな。
隣の隣の話?
隣と隣の話。
で、何の話だったっけ?
はいはい、それでは続きの話でごんす。
これもよくある話なんだよね。
そうそう。
ただ、この話って彼が死んだ後の話なんだよね。
うん。彼のお母さんが亡くなったのは彼が死んでかなり経ってからだよ。私、お通夜出たもん。
でも普通に語ってるんだよね、彼。
これははっきり言ってるな。死んだあいつが亡くなった母親と犬を迎えにいった。
死んでるね、彼。
死んでるな。
あいつ、俺たちの中でも死ぬのは早かった方だよ。
待ってた?
見守ってた?
さあ、どっちかねえ?
たださ、あたし思うんだけど。お母さんをあの世に連れていったんでしょ? 彼。
迎えに来たんだからそうなんじゃないの?
で、犬も?
連れていったんでしょ?
え、往復? 往復?
でしょ? お母さんをあの世に連れていって、戻ってきて犬を今度は連れていった。そういうこと?
かもなあ。
RPG状態って考えは?
なにそれ。
後ろに新たなメンバーを引き連れてー。
列になってる!?
ちょ、それって。
お父さんを連れていけばグループが完成しまーす。彼、お父さんが亡くなるの待ってるかも。
グループ完成してからみんなであの世にいくってか。
ありそう。
ありそで怖い。
どっちにしろ彼が連れていった感じだよね。
彼ってそんな人だったっけ?
え、そんなんじゃなかった。ビビりだったし、気が弱いけど優しい、そんなやつだった。
だよね。
だよなぁ。
なあ。
彼、変わった?
なあってば!
え、なに? なに?
あいつには雷爺さんが憑いてたんだろ? それなのに何であんな早死にしたんだよ!?
え、え、彼、そんなに早かったの?
結婚自体が早くて、その流れで子どもも若いうちにできてた。あれって一歩間違えば学生婚だよ。
そんなに?!
確かに早かったよね。
うん、早い、ね。あれ? 早すぎない?
生き急ぐっていうの?
何を急いでるんだよ。
生きるのを…
結果、早死になってる!
爺さん、守っててくれたんでしょ?
守ってなかったら?
守ってなかったら土砂崩れの時に死んでるんだよ、彼。
爺さんは守っても守ってくれなくても憑いていた。それは確かなんだろうな。
そういう前提だよ。
じゃあなんであんなに。
彼、自分で出ていったんだって言ってなかった? 雨の日に…
爺さんが守ってくれるのわかってたから、死ぬようなことしたって?
わかってたけど、の間違いじゃないの?
なんでそんなこと…
なぁんかさあ。あいつの話って、誰かに呼ばれたみたいな話だったよな。
呼ばれた?
あ、確かに。
どういうこと?
話してるあいつ、自分で気づいてなかったみたいだけどさ。死ぬような雨の日に外へ出ていくなんてあり得ないんだよ。
死ぬかもって思ってなかった、とか?
かもしれない。
彼、元気だったよ。あの日まで。お爺さんのこともあっただろうけど、彼は絶対に早死にするような人じゃない。
ああ、だからこそあっちに呼ばれたみたいに感じるのか。
そう、呼ばれたんだよ。きっと。
呼ばれたって、誰に。
何に?
で、何の話だったっけ?
そろそろ終わろうぜ。
まあ待て。もうちっと知恵を搾ろうじゃねえか。
で、何に呼ばれたって?
誰に?
何に? の方?
誰だよ、呼んだの。
あのさ、彼って遺体は全部見つかった、んだよね?
は? 今さら何だよ。
泥に埋まってたんでしょ? 隣の家のお婆さんも、床下に旦那さんと犬を埋めたんでしょ? で、そのお婆さんも土砂に埋まったんでしょ?
おいおい、何言い出すんだよ。
あのね、「骨を埋める」って言葉、あったよね。
ドコニ?
お前の場合は「骨が埋まる」だろ?
でも彼、ミツカッタんでしょ?
見つけてやったよ。見つけてやったさ。
あのね! あのね! 私、思ったんだけど。
ん?
彼、×がなかった、気が、するんだ。
は
棺の中の彼に挨拶しようとして、私、彼の顔よく見たんだ。
だからって何の繋がりが。
彼の一部が、まだ、あそこに埋まったままだったら。
見つからないよ、そんなとこ。あたし気がつかなかったもん。
だからって、あ。だから「骨を埋める」って話なのか?
骨を埋めに、あの場所へ行った?
彼が自分で埋めに行ったってこと?
あ、そういえばさ。あー、何があいつを呼んだかって話なんだけど。
うん。
不動産の奴が言ってた。あそこって、元々墓地だったらしい。
え。
げ。
そんなことって。
あるの? あり得るの?
マジか。
つまり、あいつを呼んでたのは墓地に埋まる骨たちってこと。
うげ。
そいつが言うには別の町の不動産がやらかしたって話。
やらかしたなぁ。
とんでもないことを、また。
ホラネ。やっぱり彼は呼ばれたんだよ。一人っきりで土の下は寂しいんだ。だから見つけて欲しいんだ。だから墓地に埋まる骨たちは誰かを呼んじゃう。
婆さんは旦那さんと犬に呼ばれたのか。
じゃあお爺さんは?
墓の下になら同じような境遇の人、いくらでもいるって。独り身で子どももいない人。そんな人が同じような人を呼ぶのはおかしくないよ。
でもさー。それって彼らしくないよねー。
誰かを巻き込んで呼ぶこと?
うんうん。
ああ、だってさ、埋まってるあいつが呼んでるなら違うだろうさ。
埋まってるのは一部であって、カレラの全部じゃないんだよ。
俺たちのとこに帰ってきたのだって、あいつの全部じゃないんだ。ほら、あいつ、自分で何かが変わっちまったって言ってただろ。変わったんじゃなくて、欠けたんだ。
土砂の中に埋まりっぱなしの彼の一部が欠けちゃってたんだね。
あーあ、聞かなきゃよかった。そんな話。
だなぁ。一緒に骨を埋めろって呼ぶんだろ?
骨の一部を埋める。一部は全部に戻りたい。寂しい淋しい。だから呼ぶ。
はい、まとめてまとめてー。
彼の家が建っていた所は「骨が埋まる場所」、墓地だった。以上!
埋まっちゃった彼、気づいてないみたいだけどね。
で、あいつ、どこが欠けたままだって?
歯だよ。
は?
で、何の話だったっけ?