明日は特別な日だからね。今夜はゆっくりとお風呂に浸かるの。
最後に会ったのは四十八日前になるのかな。大好きなあなたに、私は明日会いに行く。明日だから、会いに行く。
シャンプーで髪を洗っていく。頭を真っ白にして、綺麗にする。
コンディショナーで整えてサラサラにする。何も残らないように、水に流していく。
石鹸を泡立てて体を洗う。爪の先から指の間、細かなところまで忘れずに。
歯もよく磨く。爽やかなミントの味のする歯みがき粉を使って。キスなんて期待していないけど、あなたに会うのは最後だからしっかり磨く。
そうしたら、熱めのお湯を湯船に溜めていく。お茶やコーヒーを淹れる時みたいに、じっくりじっくり注いでいく。
子供の頃はこの時間がつまらなかった。早く早くと急かして、急いで、焦って、転んで。おとなしく待っていることもできなかった。
待つことを覚えて、この時間が楽しくなった。本を読んで、歌を聴いて、映画を観て、同じ時間を楽しむ方法を知った。
そこでやっと、待つ間の時間も楽しいと知った。
湯船にお湯は溜まっていく。
大人になって自分を磨くことが楽しくなった。好きなことを学んで、お化粧をして、服で着飾って。スポーツもした。旅行で行ったことのない場所の景色を見た。
他人の意見を聴くようになった。自分の意見を言うようになった。
もちろんお金もかかるようになった。でも、その時にはもう大人だったから。自分でお金を稼ぐようになった。稼いだお金を自分の好きなように使うようになった。
お金の価値を知った。働くことの意味を知った。お金の使い方を学んだ。自分の使い方を学んだ。
私は大人になった。
私たちは、大人になった。
ほら、もうすぐお湯が溜まる。
産まれて生きて死んでいく。
それはあっという間の出来事で。本当は待っている暇もないくらい貴重な時間。それに気づくのはお湯が溢れる間際のこと。
明日は特別な日だからね。今夜だけはゆっくりとお風呂に浸かるんだ。
あなたと私のお気に入りの入浴剤。何処かへ置いたままだったとっておきの入浴剤を持ち出して、最後のさいごを染めるんだ。
一粒の赤い球をお湯に沈める。お湯は真っ赤に染まっていく。
真っ赤に、真っ赤に、染まっていく。
あなたと最後に会った日からもう四十八日が経ってしまった。明日、私はあなたに会いに行く。
この体ひとつで、あなたに会いに行く。
ゆっくりと真っ赤に染まったお風呂へ体を沈める。綺麗にした体を、赤いお湯が包み込む。
あなたの好きだったガーネット。私も好きになったガーネット。この色で、さいごを彩らせてほしいの。
思い出の詰まった赤いガーネット。私の記憶を、最後にそれで塗り潰してほしいの。
もうすぐ日付が明日に変わる。
目の前が真っ赤に染まっていく。
とても綺麗なガーネット。赤に揺られて、私は眠る。
もう二度と見ることはできないけれど、きっとそれは残酷なくらい鮮やかなガーネットの色をしている。
あなたが亡くなってから、今日で四十九日。特別な日だから、私は今日あなたと同じように逝なくなる。
この命を絶って、あなたに逢いに逝く。
『今朝未明、××在住の××××さんが自宅浴室で亡くなっているのが発見されました』
最期を染めたガーネット。
私はその色がとても好きだった。
だって、その赤は生きている証の色でしょ?
だから、好きだった。
だから、最期の時間はその色に見送られて揺られたかった。懐かしい赤く染まったお湯の中で、静かに眠りにつきたかった。
久しぶりだね、×××くん。×××ちゃん。
あなたの最期も、こんな色で染まっていたのかな。