桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号××番 「今日のよき特別な日に」

今日は特別な日。さいごの特別な日。

だから。だからさ。

さいごくらいは行儀よく椅子に座ってその時を待つんだ。

自分の番が来るのを、静かに静かに待つんだ。

 

 

 

目の前には蝋燭に灯った炎。ゆらりと揺れる、その炎。それを見ていると、意識もゆらりと揺れるんだ。揺れるだけじゃない。時折、ぶつりと意識が途切れるんだ。

そう、それは自分が事切れる音。

だけど炎がなくたって人は其処にいられるものさ。火を灯していない蝋燭なんて、この世界にはいくらでもいる。いくらだっていたんだ。

そういう蝋燭は燃える瞬間を待っている。心に火がついて、何かを燃やしながら何かを成す瞬間を待っているんだ。

だから、突っ立ったままのお飾りなキャンドルなんていくらでも目につく。そういうもんなんだ。自分もそうだった。

 

目の前のテーブルの上にはゆらゆら揺れるキャンドルたち。よく見れば同じものなんて一本もない。

そのキャンドルたちの集団の中に、自分だけの特別な蝋燭は揺れている。

炎に揺れて。

他の存在に揺れて。

揺られて。

一本の蝋燭は燃えている。

そうやって自分達は生きてきた。そうやって自分は燃えて、燃やされてきた。

 

人の人生っていうものはその他大勢の中に紛れる時間だ。他の人たちと同じ。他のキャンドルと同じ。

変わらないんだと。たかがキャンドル一本が消えたって世界は変わらないんだと思っていた。でも、知ってしまえば現実は違った。

そっくり同じものが大量生産できると思っていたキャンドルは、蝋燭だったんだ。材料も、作り手も、色も、形も。全部が同じものなんて一つもない。一人もいない。

それは誰かの特別な一本だったんだ。

 

その「キャンドルの集団」が揺れるのは、全部がそれぞれ違うから。同じ動きをしないから重なり合って、邪魔をし合って、独特な空気の動きを作り出す。

それが「自分たちの世界」だったんだ。

 

 

 

もうキャンドルの残りが少なくなってしまったな。

もうすぐ、蝋燭の蝋が溶けきってしまう。自分の、時間が、終わってしまう。

 

 

 

それでもいいんだ。それで、いいんだ。

 

いつかは宴に幕が降りる刻がやってくる。

タノシイ時間に終わりが告げられる。

 

 

 

 

 

 

キャンドルたちから懐かしいにおいが漂ってくる。人の焼ける臭いだった。

 

ああ、きっとこの蝋燭の材料にも、人の、自分の、体が、使われているんだな。

今燃えているのは自分であり、同じ時間を共有した友人たち、同級生だったんだ。

 

 

 

ゆらゆらと、それらは燃えていた。

 

 

 

 

 

 

テーブルの上には数々の料理たち。その中にはまだケーキだけが登場していない。甘い甘いケーキ。特別な日に用意される、甘い夢が詰め込まれた甘いお菓子。まだ、登場していない甘い夢。特別な日の最後を彩る、甘い夢。

 

ゆらりと揺れる。

もうすぐ蝋燭が終わろうとしている。火が、これまでずっと一緒だった火が消えようとしている。

それでもいいさ。

これからは暗い闇の中でだって甘い夢を見続けていられる。甘いケーキがないから、同じくらい甘い夢を闇の中で見ていよう。

 

 

 

さいごのキャンドルのひとつを、今、吹き消した。

 

「ふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は特別な日だから。

これからは終わらない夢の中で揺らめいていられるんだ。あのキャンドルたちに灯った炎のように。

もう、火は灯らないけど。もう、この蝋燭にも火は灯らないけど。

 

テーブルの真ん中には火の灯らないキャンドル。それと、甘いケーキが置かれる。

そのケーキは、素晴らしく甘い夢と涙の味がしたそうだ。

 

 

 

 

 

 

テーブルの下には骨だけが山積みにされていた。

からん、と自分の亡骸もその上に置かれた。

 

桜の木の下には死体が埋まってる。そんな話、ありきたりだよ。

 

今までずっと、どこかで怯えていた。何かに恐怖を抱いていた。暗い暗い、真っ黒な部屋の中で、闇に喰われることに怯えていた。

たくさんのとっておきの話を同級生たちから聞いたよ。自分も、とっておきを披露した。

今日は特別な日だから。全てが終わる、特別な日だから。

その恐怖から解放されて、自分たちは眠り始めるんだ。甘いケーキみたいな夢の中で、覚めない夢を見始めるんだ。

 

今日は特別な日。

七つの不思議な客と、桜の姫様の宴が終わる、特別な日。狂った楽しいタノシイ宴の時間は終わりを告げた。

だから、今日は自分たちにとっても特別な日なんだ。

全てが終わって、終わらせて、再会した同級生たちと眠りにつく、特別な日。

まるで誕生日のように特別な日。全てが始まったあの日のように笑っていられるよ。笑って、蝋燭を吹き消すことができる。

今、恐怖の先には安堵というプレゼントが置かれている。

 

 

 

 

 

ハッピースペシャルデイ。今日のよき特別な日に、幸あれ。

 

君たちのこれからに、どうか幸あれ。

 

 

 

 

 

 

これからの続きがないってことは、みんな知っていた。

 

 

 

だから笑って吹き消すんだ。

 

 

 

その部屋には、もう、一つも蝋燭は燃えていなかった。




『今日のよき特別な日に』

今日のよき特別な日に
キャンドルを吹き消そう
ふ、と
だって今日はこんなにも特別な日
ふふふ、と笑っちゃうくらい
はしゃいだっていいじゃない

出会えたことに感謝をしよう
始まりと終わりに感謝をしよう
これはとっておきの話
そう、みんなのとっておきの話

君の笑顔を忘れない
君の涙も怒った顔も
ずっとずっと忘れない
思い出させてくれたね
懐かしいあのガーネットの夕陽
また会えた桜色の景色

今日はよき特別な日なんだから
最高の別れを君に言おう
惜しむ時間は残っていない

これがさいごの宴の時間
ねえ、こんなとっておきの話
どうだったかな
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