おにごっこ。覚えてる? 鬼事だよ。
けいどろ。覚えてる? 警察と泥棒だよ。
昔から追われる遊びが嫌いだった。
鬼に追われる。捕まれば鬼になる。
警察に追われる。自分は泥棒役。捕まれば刑務所行き。
追うのも追われるのも嫌いで苦手だった。早く終わらせたくて遊びから逃げた。
何が楽しいんだろう。自分には理解できなかった。
何が苦手だったんだろう。幼い自分は「キライ」とだけ決めつけて、その遊びの何が苦手なのか考えることを放棄した。
考えてもわからないことだった。いつまでも答えは出ない。でもやりたくない。
自分は逃げた。
大人になって、あの遊びをしなくなって、やっと気づいたことがある。
ああいう遊びは一人じゃできない。追われる役と追う役がいるから成り立つ遊びだ。
追われる役は前をいく。追う役がいるのを知っているから、捕まらないように駆けていく。設定が何であれ、追う役は自分を追いかけてくる。
追う役は後ろをいく。追われる役を捕まえるために工夫して、前をいく背中を追い続ける。
そうだ。両者は互いの姿が見えていないとつまらない。前にいる、後ろにいることを知っているから「遊び」として成り立っていた。
「遊び」だと認められる人とした「ごっこ遊び」だから楽しかったんだ。ふざけて笑えるから楽しい。そういうものなんだ。
走るのが苦手でもお遊びで終わるから苦しくない。それなのに、何で自分はあれほどあの遊びを嫌ったんだろう。
だからさ、ほら。「遊び」の中に「遊びじゃないもの」が紛れていたからだよ。
ねえ覚えてる?
追いかけてくる人の中に知らない人が混ざっている、あの時の恐怖。知らない笑い声が中に混じって、親しげに言葉をかけてくるあの恐怖。
後ろから聞こえる足音がひとつ多い。ふたつ多い。みっつ多い。
振り返っちゃいけない気がする。見てはいけない気がする。追いかけてくるモノは誰なのか。それとも何なのか。知ってはいけない足音が聞こえた、あの時の恐怖。
ねえ覚えてる?
追わなきゃいけない人の足がやけに速くて速くて、絶対に追いつけない恐怖。
いくら走っても追いつけない。捕まえなきゃ遊びは終わらない。だからそれは遊びを終わらせてくれない。終わらせる気がないんだ。
帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。終わりたい。帰りたい。終わらせて。帰らせて。帰らせて。お願い。お願い。帰らせて。
夕暮れが闇に沈んでも、月が夜空で嗤っても。朝が来ても昼が来ても、また、太陽が役目を終えて沈み始めても。
それは家に帰らせるつもりなんてない。終わらないつもりで遊びを始めるんだ。
そういうのとは、「ごっこ遊び」であっても最初から付き合っちゃいけない。
知らずに始めて、後戻りができなくなって、いなくなっちゃった人。知らないかな。
人であっても人じゃなくても、そういうものを中に入れて遊んじゃいけないよ。特に、追われる系の遊びは、ね。
自分達だってそうだったよ。招きたくなかったのに招いてしまった。中に入れたくないのに入れてしまった。
自分達だけのアソビだったのに、関係ないものまで遊びに入れてしまった。
お遊びは楽しかったかい? 自分は苦しかった。辛かった。
でも、みんなが追われているのに自分だけが外れて逃げるなんてできないよ。だから追いかけた。みんなを追いかけた。
みんなが追われた先に何があるのか、よく見えた。みんなの表情もよく見えた。
自分もそうなんだってわかった。追われる人の様子が見えてしまったから。でもごめんね。それでも自分はみんなの後ろを追いかけることしかできなかった。
自分達の後ろを振り返ることはできない。だって、あの笑い声が聴こえるんだ。
これはお遊びなんだって。絶対に帰してやらないって。あいつらが笑いながら言うんだ。
ほら。だからこんな遊びは始めちゃいけなかったんだ。
追いかけられるのは嫌いだ。追いかけるのも嫌いだ。
ねえ、はやくこんな遊びは終わりにしようよ。みんなで別の遊びをしよう。
ねえ、みんな。待ってよ。置いていかないでよ。
ひとりにしないで。
待ってよ。待って。
どこにいくの。置いていかないで。
サイゴノヒトリニしないでよ!
そうか。
自分はひとりになるのが嫌で、みんなを追いかけ続けたのか。
ごめんね、みんな。
でも、追いかけるのをやめることはできないんだよ。
だって、まだ後ろから足音が聞こえてくるんだから。
これはごっこ遊びなんかじゃないよ。捕まったら本当にそれでオシマイなんだ。
だから捕まるわけにはいかない。絶対に。
みんな、逃げて。後ろからあの足音が聞こえてくる。
待ってて。みんなの後ろを追いかけるから。
みんなで一緒に逃げきろうね。
そんな自分にはもう追いかけるための足がのこされていないんだけどさ。