桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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どうか聞いてください。
話す人がいなくなれば、この話も聞く人はいなくなります。だから今、聞いてほしいのです。そして、できれば覚えていてもらいたいのです。

どうか聞いてください。

どうか、聞いてください。
私の声が出なくなる前に。この話を、私の口から出るこの話を、どうか聞いてください。
私の口が動かなくなる前に、私からあなたへ、この話をいたしましょう。














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過去から「時報」

あなたは何年生まれでしょうか。令和? 平成? 昭和? もしかして大正? まさか明治なんてこと、ありませんよね。

19××年? 20××年? おや、まだまだお若いではありませんか。

 

生まれる前にあったことなど他人事。そう、思ってらっしゃるでしょう。

大空襲、大地震、大飢饉に大津波。疫病、公害、人災。どれも経験したことがなければ他人事としか思えないですよね。

私とてニュースで見ただけのことは「だろう」としか言えないのです。見ていない、聞いていない、触れていない、感じていないことなど他人のこと。自分のことではございません。

「他人の気持ちになってみて」。そんなのただの想像でしょう? 感情移入するだけのただの同情です。本当の痛みも、ソノ瞬間も、当人にしか理解できないのです。

 

 

 

マモナク、時報ガ聴コエテクルデショウ。

 

 

 

どうか聞いてください。

 

私の。

 

ぼくの、見たことを、感じたことを、きいてください。

 

 

 

あなたがまだ平和な世界に生きていられているのなら、どうか、ぼくの声をきいてください。

 

 

 

 

 

 

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正午をお知らせいたします

ただいま30秒前

 

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20秒前

 

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10秒前

 

あと5秒

コァーーーーーーン

正午をお知らせいたしました

 

 

 

(ジジッ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アノ時、ぼくは国民学校に通っていました。年の数は両手で足り、まだ赤紙はいただいてはおりませんでした。

父も、上の兄も、下の兄も、既に赤紙によって遠い戦地へと旅立って行かれました。皆、お国のために誇らしい姿で旅立って行かれました。

残されたぼくは母と二人の妹とともに疎開しました。家族揃って住んでいた町は、とうに焼け野原となっているらしいというラヂオを先日ききました。帰る家はございません。

 

疎開したところは母方の実家でした。ぼくは妹たちの世話をしながら学業に勤しみました。そして、近所の子どもたちと兵隊さんごっこをしながら来るべき赤紙を受け取る日を待ちました。

ぼくの名前が書かれた赤紙が届くより先に、兄の死亡通知が手元に届きました。間をおかずして、父の死亡が電報にて通達されました。

妹たちは泣きました。ぼくはそれを隠しました。母が泣くところは見てはおりません。見ていないのです。

ぼくはみていない。

みていない。

ナイテハイケナイ。お国のためだ。

ダカラ、ぼくはミテイナイ。

 

赤紙は未だ届かず。

 

 

 

 

 

 

(ジジッ…)

 

 

 

(ジッ…)

正午をお知らせいたします

ただいま30秒前

 

(ジッ…)

20秒前

 

(ジッ…)

10秒前

 

あと5秒

コァーーーーーーン

正午をお知らせいたしました

 

 

 

(ジジッ…)

 

 

 

 

 

 

アノ日、ぼくは国民学校へと向かっておりました。年の近い子どもたちと一緒に、集団登校をしておりました。

いつも通りの朝でした。

 

いつも通りの道でした。

 

いつも通りのみんなでした。

 

いつもと同じ朝だったのです。

だから、登校中に警戒放送が流れることもよくあることだったのです。

 

 

 

 

 

 

(ジジジ)

 

 

 

警戒警報

警戒警報

 

×××は××を×××

×××××時に××を×に向かって×××

×××は××、××××を×××…

 

 

(ジジジ)

 

 

 

 

 

 

バクダンを積んだ戦闘機はぼくたちの方へと向かっていました。逃げることはできません。教わった通りに、ぼくたちは一列になって脇の側溝へ入りました。

身を屈めて小さくなりました。頭を抱え込みました。

目を閉じて、目を閉じて、空をやって来る戦闘機の音に怯えました。

そして。

 

 

 

 

 

 

ぅウウウウウウウウウウウウーーーーーー

ぅウウウウウウウウウウウウーーーーーー

ぅウウウウウウウウウウウウーーーーーー

ぅウウウウウウウウウウウウーーーーーー

 

 

 

 

 

 

そして、頭を抱え込みながら、目を閉じて、両手で耳と目を押さえました。口は少し開いて、荒い息をしていました。

 

 

 

まっくらな中で、ぼくは爆弾が近くに落ちたことを知りました。

音なんてきこえません。ただ、ものすごい風と、乱暴に体を叩きつける衝撃がぼくたちを襲ってきたのです。

ぼくたちはただ教わった通りに隠れるしかありませんでした。

 

 

 

長い時間でした。長い長い時間でした。

ぼくは痛む体からやっと力を抜けるようになると、目を開けました。

頭がくらくらしました。

周りがよく見えませんでした。

地面がえぐれて、木が折れていることがわかりました。

誰かが咳をする音が遠くで聴こえました。それはぼくのすぐ後ろに並んだ妹のものでした。耳が、よく聞こえなかったのです。

 

前から「生きているか」という声が聞こえました。一番の年長さんの声でした。

ぼくたちは側溝から這い出しました。妹の一人は鼻血を出していました。もう一人は耳鳴りがすると言います。ぼくは、叩きつけられた肩が痛むだけですみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年長さんの点呼に全員が変わらず応えることはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思った以上に近くへ落とされたらしい爆弾は、地面の中へめりこんでいました。

近くには家がなかったことが幸いし、火事にはなっていませんでした。

 

ぼくたちはカレラを置いて、学校へと向かいました。向かわなくてはいけなかったのです。

遺品だけを持ち、ぼくは泣くこともなく立派に兄を務めたのです。

カレラはそこに残されました。

ぼくが、置いていったのです。

 

 

 

カレラの中には数時間前まで仲良く話をしていた親友もいました。

彼は、高い木の上から上半身だけとなってぼくを見ていました。

 

ぼくは、彼に最期手を振りました。

風に揺られて、彼の手も振られました。

 

ぼくたちはカレラをその場に置いていったのです。

そうするしか、なかったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴメンネ、××くん。君と約束した明日はもうコナイヨ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

 

 

 

 

 

よくあることです。

そう、よくあることなのです。

 

あちらの町には爆撃機が何機もやって来たと。遠い地では兵隊さんたちが敵をやっつけたと。別の地ではすごい作戦が展開されているのだと。

 

 

 

やがて戦争は終わりを告げるのだと。

 

 

 

 

 

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

カチ、

 

 

 

 

 

 

その噂の通り、季節が一回りもしないうちに終戦を迎えました。

我が国は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どおん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が国は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

カチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かえってきたひともいました。かえってこなかったひともたくさんいました。

ぼくたちは、ぼくたちは、なんのために産まれてきたのでしょう。

なんのために生きてきたのでしょう。

 

 

 

天皇陛下のお声をラヂオでききながら、ぼくは思いました。

 

 

 

 

 

 

今でも覚えております。あの夏は酷く寒かった。

私たちは飢えていた。着るものもなかった。

 

結局最期まで、私の元には赤紙が、召集令状が届くことはありませんでした。

その後どうなったか、私よりも歴史の勉強をされたあなたならお分かりでしょう。

 

大日本帝国は戦争に敗れたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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私は今でも怖くなります。頭上を、あの金属の塊が飛んでいると思うと。また、私たちの町に爆弾を落としていきやしないかと。

サイレンの音がこわいのです。敵がこちらに向かってきていると告げられるのではないかと。

 

私たちはたくさんのものを壊し、奪いながら生きてきました。だから奪われても仕方がないのです。壊されても仕方がないのです。

特にあの数年間、どれだけのものが世界から消えていったか。

 

 

 

なくしたものはもどらないのです。

ぼくたちは、戦争に勝てば全部もどってくるのだと思っていた。そういう部分もあったのかもしれません。

自分たちがなにをしているのか、おとなもこどもも理解していなかったのです。

 

 

 

後悔した時には全てが遅く、何十年も後になって「あれ」が間違いだったと気づかされるのです。私たちは愚かだった。

その愚かさに気づかぬほど、気づけないほど、世界は「戦争ごっこ」に夢中となっていたのです。

 

 

 

 

 

 

みなさん、聞いてください。

これは私が幼かった、もう何十年も昔の話です。過去の話です。

 

若いあなた方にはわからないでしょう。ですが、この国のこの町で、確かに起こったことなのです。

昭和二十年×月××日の××時××分に起こったことなのです。

 

 

 

もうすぐ私ハ事切れるデショウ。

毎日毎日思い出すのです。あのサイレンの音を。落とされた爆弾のことを。亡き親友のことを。父のことを。二人の兄のことを。

いつもおもうのです。この日本の地で焼かれ苦しみながら、亡くなっていった人たちのことを。遠い祖国ではない国の地で亡くなっていった兵隊さんたちのことを。

 

 

 

 

 

 

ナンデ、ウマレテシマッタノカ。

 

 

 

 

 

 

全てのものが終わるために始まるというなら、それでいいでしょう。ですが、なぜそのために私たちはあれほどの苦しみを受けなければならなかったのか。

「平和」である世に産まれたあなたにはわかりますまい。ええ。解らなくていいことなのです。

そのために私たちは死んでいくのです。

 

 

 

知らなくてイイのです。

ですが、聞いてください。私の声を。

私たちの、声を。

 

理解してくれなくてもイイのです。

ですが、聞いてください。私の話を。

私たちの話を。

 

 

 

ああ、もうすぐ時報のオトがキコエテクル。

 

 

 

 

 

 

そういえば、木の上から振られた親友の手。あれは、アレハ、ソウ、テデハなかった。

だって、カレの手はぼくの足下に落ちていた。草むらから、カレの靴をハイタ足が見えていた。そう、アレハ、アレハ、カレの、彼の、腹からタレテいた。

 

 

 

 

 

 

あの日の時報の音が私の耳に聴こえた。爆撃機の飛ぶ音と、子どもの悲鳴が、その音に、紛れていた。

 

 

 

 

 

 

(ジジッ…)

 

 

 

(ジッ…)

(ザザッ…)をお知らせいたします

ただいま30秒前

 

(ジッ…)

20秒前

 

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10秒前

 

あと(ザザッ…)秒

コァーーーーーーン

(ザザッ…)をお知らせいたしました

 

 

 

(ジジッ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私の心電図モニターが、今、停止を告げた。




一人の人の歩く人生は一本でございます。
人の目はふたつ、鼻はひとつ、耳はふたつ、口はひとつ。私の場合はそうでした。
一人の人のみるものはひとつなのです。後になって知ることはあれど、その時みえるものはたったひとつだけ。

戦争という事柄において、私はあなたにそのひとつの話を聞いてもらいたいのです。もちろん他にも話はあります。しかし、あえて私はその話をするのです。あの日「ぼく」がみたものを伝えたいのです。
そう、カレが後世にノコセと言うのです。






ぅウぉウウウぁウウウウぉウーーーーーー
ぅぁウウウぉウウウウウウウーーーーーー
ぅウぉウウぁウウぉぉウウぁーーーーーー
ぅウウウぉぉウウウウぉウウーーーーーー






別のカタは別の話をノゾムでしょう。ほら、また時報がきこえる。時報がきこえる。時報がキコエテクル。






(ジジッ…)



(ジッ…)
ネェ…をお知らキャァたします
たゴブいま3ゲホ秒前

(ジッ…)
20秒前

(どおん)
10秒前

あとボト秒
コァーーーーーーン
正午をお………いたしまイタ



(ジジッ…)






過去をうつしたフィルムなど、何処にも残っていないのです。あれらは全て燃やされました。
一枚の写真から何を得ろと言うのでしょう。そこからは音など聞こえてきません。動かぬ絵から学べることなど、ほんの紙一枚の厚さしかないのです。






カチ、

カチ、

カチカチ、

カチ、

カチ、カチ、カチ

カチ。

カチカチカチカチカチカチ

カチ、

カチ。カチカチ。

カチ、

カチ、

カチ、カチ、カチ、






聞いてください。
みなさん。
聴いてください。

ソノ音を、きいてくだサイ。

ソノ音を、よぉくきいてみてクダサイ。
ほら、聞こえるでしょう?
ほら、ほら、聞こえてくるでしょう?



カチ、タスケテ、

カチ、カチ、

カチ、ア、

カチ。カチ。カチ。

カチ、

……、オ、

カチ、

カチ、

カチ、

アアアアアアアアアアアア

カチ。カチカチ、

カチ、



知っていましたか?
時報は、時間を報せる音なのです。

知っていましたか?
その時報は、時間を刻む音なのです。

ほら、また時報がキコエテクル。

その時報には、



カチ、カチ、

イタイ、イタイ、イタイ、アツイ、カチ、

ガチ、ガチ、カチカチカチカチカチカチカチ

カチ、ガチャン、

ああああああああああああ、カチ、ああああ

カチ、あああああああああああああ、カチ。

カチ、

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ

カチ、

カチ、

ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ

カチ、



カレらの音が、



(ジジッ…)



(ジッ…)
(ザザッ…)をお知らせいたします
ただいま(ザザッ…)

(ジッ…)
(ザッ)秒前

(ジッ…)
(ザザッ)秒前

あと(ザザッ…)秒
コァーーーーーーン
(ザザッ…)をおジラゼいダしましア



(ジジッ…)



カレらの、××が。






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どうか聞いてください。
話す人がいなくなれば、この話も聞く人はいなくなります。だから今、聞いてほしいのです。そして、できれば覚えていてもらいたいのです。

どうか聞いてください。

どうか、聞いてください。
私の声が出なくなる前に。モウデナイケレド。この話を、私の口から出るこの話を、どうか聞いてください。
私の口が動かなくなる前に、私からあなたへ、この話をいたしましょう。マダマニアウ。

どうか、聞いてください。
この時報を聞いてください。時が刻まれたあの時報を。私たちの×が刻まれた時報を。
この声を。
あの時言えなかった秘密を。あの時言えなかった言葉を。感情を。真実を。



告白しましょう。時が流れた後世にうまれたあなたに、告白しましょう。
聞いてください。
聞いてください。
これは告白なのです。














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