桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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星隠しのお呪い④

私が成人式を迎える前に、あの子から手紙が来た。私の大事な大事なお姉さんのあの子から。

私は跳び跳ねて喜んだ。その頃、何度あの子に手紙を送っても返事が返って来なかったから。心配で心配で何も手につかなかった。だからその瞬間、すごく安心したの。

 

でも現実は優しくなかった。

 

あの子が送ってきたのは住所だけだった。それも調べたら病院のもの。

一体どういう事かパニックになった。これは就職先なのか、入院しているのか、それとも誰かの時みたいに何か他の意味があるのか。

わからない。何を言いたいのか、何を私に伝えようとしているのか。全くわからない。

病院は名前も知らない遠い場所にある。キャンプの時と同じように。行ったことのない外の場所。またたった一人で余所者扱いされる。怖かった。

でもそれ以上に恐かったのは、あの子が送ってきた手紙の中身だった。

住所だけだなんて、普通の人はそんなもの寄越さない。あの子は今、きっとフツウの状態じゃない。

私は知っていた。私たちは知っていた。普通じゃないほど言葉が少なくなる。フツウじゃないほど言葉が異様に増える。どちらも本当の事を隠してしまう。

 

私は外に出た。あの子の送ってきた住所にある病院を探して、見つけ出して、入り口を潜った。受付の看護師さんにあの子がいないか訊いた。

 

 

 

 

 

 

あの子は其処にいた。

 

 

 

 

 

 

白いベッドの上にいた。

 

 

 

管に繋がれていた。

 

 

 

 

 

身長が伸びていた。でも体は酷く痩せていた。

髪がとても伸びて二つに縛っていた。キャンプの時、私がそうしていたように。でもあの時みたいな艶はなかった。

 

 

 

 

 

目を開いた。

私を見た。

驚いた顔をした。

とても、とても、驚いた顔をした。

 

私は呼んだ。

あの子の名前を。

あの時より大人になった声で、あの子を呼んだ。

 

あの子は。

笑った。

あのキャンプで出逢って、島に行く船に乗るまでの間に声をかけてくれた、あの笑顔で。

あの子は、笑った。

 

 

 

そして、掠れた声で、私の名前を、呼んだ。

 

 

 

 

 

 

あの子の手首には包帯が巻かれていた。

 

 

 

 

 

 

その包帯を見て何も察しないほど私は子どもじゃない。利き腕と反対の手首にある傷。きっとアレだ。でも何故だ。何でそうしなきゃいけなかったのか、私にはわからなかった。

 

私たちは話をした。山ほど積もった話を。あの子はベッドで横になって、私はベッドの隣のイスに座って。たくさん、たくさん、たくさんたくさんした。

でも本当に訊きたいことは言えずにいた。

あの手紙はなに? その腕の傷は? どうして入院しているの? いつから

それはきっと聞かれたくないこと。どうしてなんでのお子さま時代はもうとっくに卒業している。でも私はあの子をなくさないために彼女を傷つけなくちゃいけなかった。だから私、言ったの。一言だけ。

私のこと、信じてくれるかって。

信じて、全部を任せてくれるかって。

私はもう大人だった。あのキャンプの時の子どもはもうどこにもいない。ここにいるのは大人になった子どもなの。

私は彼女を守りたかった。どうしても、何があっても、彼女を守りたかった。そのために自分や彼女が傷ついてもいいと思った。なくさなければ傷は癒すことができる。でも繋いだ手だけは絶対に放しちゃいけないことを、私は知っていた。

取り返せなくなる前にどうか、どうか。私は彼女を信じた。彼女が私を信じてくれることを望んだ。

そうするしかなかった。他に、方法はなかった。

 

握ったあの子の手は、骨と皮だけだった。

生きているのに、其処にいるのに、骸骨みたいだなんて。そんなの、そんなの、だめだよ。だめなんだよ。

あの子は生きていなきゃだめ。ちゃんと笑って生きていかなきゃ。

だから賭けたの。

 

 

 

あの子は黙って窓際にあるテーブルを指差した。そこには花が活けられるのを待っている花瓶が一つ置いてある。それじゃない。

あの子はテーブルの下のチェストを指差している。三段に積み重なったチェストは一番上だけが鍵つきだった。そこじゃない。

あの子は二段目の印象の薄いチェストを指差している。鍵つきじゃないそこは大したものが入っていないように感じられる。そこだ。

私は立ち上がって窓際に向かい、その二段目のチェストを引っ張った。何か重いものが引摺り出されるような感覚があった。出たくない、見つかりたくない。そんな風に何かが言ってるように感じた。

私はそれでもチェストを引き出した。

 

其処にそれはあった。

大きめのお菓子のアルミ缶。私はテーブルの上にそれを置いて、蓋を開いた。中には見知った手紙の山と、隙間を埋めるみたいにぴったりと別の箱がはまっていた。

手紙たちは私があの子に送り続けた物だった。ああ、全部残していてくれたんだな。そう思うと胸が熱くなった。でもそれじゃない。あの子が伝えようとしているのはそれじゃない。

箱の中に入れられた箱が気になった。私は窓を閉め、カーテンを引いた。誰にも見られたくないと思ったから。それから、あの子を見た。

あの子は何も言わないでじっと私を見ていた。

 

 

 

私は箱の蓋を開いた。

そしてすぐに閉じた。

 

 

 

其所にはあの小さな箱があった。

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