俺たちはいつだって閉鎖的な空間にいる。
とじられた「桜ヶ原」っていう町にとじこもって、一緒にとじたものたちと身を寄せあって生きている。
だから友達や家族や近所の人たちを大事にする。心を許した間には、一種の絆みたいなものが生まれる。
ほら、俺たち同級生みたいにさ。
互いを許せるし、情も厚い。それは好きだとか嫌いだとか、そういうもんじゃないんだ。好きな奴だって嫌いな奴だっている。そういうのを引っくるめて受け入れられるんだ。
俺、知ってるぜ?
こういうのって、普通外の世界じゃ異常に見えるんだ。
古いしきたりを守り続ける田舎、独特なルールが存在する学校、こうでなきゃいけないって押し付ける会社。
古い考え、常識、思い込み。それにとらわれかこまれた閉鎖的な世界。
俺、知ってるぜ。この桜ヶ原も似たような空間だって。
遅れてるよなぁ。
俺がいるから遅れてるのか?
俺が遅らせているのか?
そんなわけないよな。
俺たちは一人一人選んで、決めて、ここにいる。
最期に戻る場所を、俺たちは自分の意志で決めた。
そのための約束だ。
ちゃんとここに戻って来れるように「同窓会」っていう約束をした。また、逢おうっていう約束を桜の木のもとに交わしたんだ。
好きとか嫌いとかじゃないんだよ。
俺たちは同級生なんだ。一回しか生きられない道の上で出逢った、唯一の同胞たちなんだ。
遅れることがわかりきってる俺を、いつまでも待っててくれる仲間たちなんだよ。
そうそう。だからさ、仲間内には甘い。大きく見ると、町全体がこんな感じになるんだ。
例外を除いてね。
外から来た奴。まあ、俺たちも人の子だからさ、ほかの奴らとだって付き合うわけよ。人並みにさ。向こうはどうだか知らないけど。
だから、あの時の先生の態度は過剰に見えたんだ。
俺、助産師さんから聞いていたんだぜ?
君の両親は二人とも桜ヶ原の人だよ。これって、母さんも、父さんも、地元の人間ってことだよな。だからもちろん俺も生粋の地元人間。
だからこそ、俺はそれまで生きてこれたんだ。地元の人間は他の地元の人間を助ける。地元の人間が悪いことをしたら。あー、何て言うのかな。ここにすむ「住人」たちが制裁を降す、とでも言うのかな。
ほら、例えば七不思議とか。
『一ツ、切り株
二ツ、停留所
三ツ、砂時計
四ツ、地下通路
五ツ、化獣
六ツ、地図
七ツ
同窓会』
悪いことをしたらさ、人が裁くんだよ。これは罪です、悪いことです。そういうルールを作っておかないと悪いことってし放題になるんだよな。
ニンジンを食べ残しました。悪いことです。だからおやつは抜きです。
こんな感じ。
でもさ、結局人が人を裁くんだよ。法律を作って平等に、公平に。そう言いながら、悪いことをするのもおしおきするのも人なんだろ?
じゃあ、裁ききれないじゃん。
人は隠す。誰だって悪いことを、罪をおかす。心は機械じゃない。常に冷静を努めても冷静でい続けることなんかできない。矛盾が生じる。
悪い人に罰が下される。罰したのが人だと、納得できないと言う人が出てくるかもしれない。
あいつはあんなことをしたのに、たったこれっぽっちの罰しか与えないの?
罰っていうのはさ。本人が自覚しないと意味ないと思うんだ。自分は悪いことをした。それを受け入れて、どうして悪いか、何が悪いか理解するんだ。そんでもって、頭を下げて謝る。
「申し訳ございません」
ごめんなさいって言うのはこういうことなんだろうな。本当だったらさ。これが謝罪するっていう事。
だから自覚しない限り裁くことに意味がないんだ。本当は悪いのに、本人は悪く思ってない。
これじゃ罰にならない。罰を与えられない。
人は間違いを繰り返す生き物だよな。何回間違っても間違いに気付くまで繰り返す。後悔しても、繰り返す。
俺の、父さんみたいに?
俺の父さんが本当に悪いことをしていたら、地元の人が裁くはずなんだ。でも、父さんはずっと変わらなかった。
俺に対しての扱いも、ずっと変わらなかったよ。
俺が悪いのか、父さんが悪いのに受け入れようとしなかったのか。もちろん、俺は父さんが悪いとは思っていなかった。
うわ、みんな、そんな顔するなよ。
怒るなって。違うんだよ。
そう思ってたのは先生が家に突撃してくるまでの話。
まあ、聞いててくれよ。
それまで俺はずっと父さんに頭を下げ続けてきた。それは、自分が悪いと思ってたから。
人が裁かなくても、ここには、この桜ヶ原には七不思議を始めとする怪奇現象が人を裁く。人じゃないから、理不尽に裁ける。
でも、父さんがそういうのに遭ったとは思えない。そう見えなかった。だって、いつも変わらなかったんだから。
じゃあ、俺の方が悪いじゃん。
父さんの言っていることが正しくて、俺は悪い子なんだ。悪い鬼の子なんだ。
そうとしか思えなかった。
人が裁かなくても、桜が裁く。父さんは裁かれなかった。
なんで? なんで? 俺が悪い。全部、俺が悪い。
ごめんなさい、ごめんなさい。生きててごめんなさい。生まれてきてごめんなさい。
この世に産まれてきてごめんなさい。
俺のその声を聞いた時だよ。先生がキレたの。
俺、こう思っているんだ。
罪っていうのは、痛みを伴って喰われるべきもの。それが罰となる。どんなに罪深い悪だって、いつかは喰われ尽くす。
罪がある限り痛みは続く。どんな悪人だっていつかは喰われ尽くされて、その罰は終わる。
ただ、唯一終わることなく喰われ続けないといけない罪がある。
何だと思う?
冤罪だよ。
ないはずの罪はなくなるはずないんだ。だって、始めから喰われるべき罪がないんだから。
冤罪を持たされた人は、永遠に喰われ続けなきゃいけない。痛みは、終わらない。
俺、冤罪だったんだ。悪くなんてなかった。
でも、父さんに悪い子だって言われ続けて、俺、自分が悪いんだって、罪人なんだって。そう、思ってた。思い続けていたんだ。
だから、だから、俺、父さんに叩かれても、殴られても、どんなこと言われても、自分が悪いんだって、悪いんだって、うぅ、思ってたのに。
思ってたのに。
思って、たのにぃ。
俺を家から連れ出したあの先生は、まず最初に教えてくれた。
「君は悪くない」
俺は悪くない。悪い子じゃない。
先生は、俺に優しく教えてくれた。
俺が一番欲しかった言葉だった。
俺、心のどっかで自分は悪くないって思ってたんだ。でも言えなかった。表に出せなかった。
父さんがこわかったから。
誰も父さんのことを悪いとは言わなかった。
地元内で甘いとこがあるから、誰も言えなかったんだと思う。きっとそうなんだよ。
それか、みんな父さんのことが恐かったんだ。
俺と同じように、みんな父さんのことを恐怖していたんだ。
今更思い出すと、町の人たちはみんなどこか父さんと距離をおいていたように思える。
単に他の町から来たとか、人柄的にちょっと付き合いづらいって理由じゃない感じだった。
何て言うのかな。えっと。
そうだそうだ。それこそあれ。
「余所者」
先生の言ってたあれ。過剰だとも思えたあれが、やけにしっくりくる。
なんでだろうな。
なんでだろうね。
まあ、答えはもう出てるんだけど。
それを言っちゃったら、俺のとっておきの話もおもしろくないからさ。
まだ、言わないでおくよ。
最後まで聞いてくれよな。
おい、そこの友人A。
特にお前だ。
この話はお前のためでもあるんだぜ?
ちゃんと最後まで聞いててくれよ。