「おい」
「知ってたけど君に言わなかった」
「おい」
「だって、知ってもなんにもできないでしょ」
「う」
「ほらね。どうしていなくなったのかわかんないんだからさ、防ぎようがないよ」
せめて、何処へいってしまったのか。生きているにしても死んでいるにしても、現在の状態を知ることができたら。
何かわかるのかもしれない。
俺は大学生になった友人Aに連絡を入れながら考えた。
単なる偶然が重なったのか。
事件か。
事故か。
それとも、神隠しか。
俺たちは考えた。
これ以上リストに名前を増やさないためにできることはないか。
「十五年前っていえばさ」
池が埋められたのって、それくらい前じゃなかったっけ。
桜ヶ原の七不思議、三つ目。
何処かの池に沈む砂時計。時間が進まなくて困ってる。さあさあ返してあげましょう。ひっくり返してあげましょう。
お礼に砂時計は未来を見せる。
さらさら流れる砂時計。
池に眠る砂時計。
この町にはさ。池なんて一ヶ所しかないんだよね。
「え、七不思議死んだの?」
そんなばかな。
桜ヶ原では絶対に起きない怪異がある。それは、神隠し。
全国各地で起こってる代表的な現象のはずだろ? でも、それは此処では起こらない。
だって神様がいないんだから。
俺たちの国は八百万、数え切れない数の神によって監視されている。言い方が変か。
人の信仰心によって無数の神が存在し、信じて崇めることで加護を得ている。知らんけど。
いや、ほんとに知らないけど。
桜ヶ原には神がいない。神が見放した土地は荒れた。
救いを求めた昔の人は、この土地に桜の木を植えた。それは昔々の話らしい。
桜の木たちは人々を護った。護って潔く散っていった。それも昔々の話らしい。
たった一本残った桜は、独りきりで今でも咲き続ける。町の人たちは彼女をこう呼ぶ。
「桜の姫様」
七人の従者を従える、桜の姫様。
七不思議という怪異を従える、桜の精霊。
桜ヶ原は、かつて「戦場駅」と呼ばれたらしい。この町は、桜の姫様のお膝元にある。
姫様は七つの怪異によって町を封じた。
人がこれ以上戦場へ身を投じないように。自分がこれ以上命を見送って、悲しい想いをしないように。
そんな願いを込めて、姫様は町を綴じ込めたらしい。
全部、らしいという話。
根拠もない話だろ?
でも、俺たち地元民はそんな話を信じてる。
信じて、もしかしたら気づかないうちに閉じ込められているのかもしれない。俺たちはそれも受け入れて、此処にいる。この町で生きている。
はははっ。バカみたいだって笑ってくれてもいいぜ。
笑ったおまえらだって信じてるんだろ?
知ってるさ。
だって俺たち、友だちだもんな。
まあ、とにかく。桜ヶ原には神様がいないんで神隠しなんて起こるはずがない。隠そうとする神様がいないんじゃ話になんねぇだろ。
だから、怪異として人が消えるっていうのは他の怪異。つまり七不思議とかどっかのナニカが持っていった。そういうこと。
意外と人を喰う怪異は多い。
ただ、そういうのはすぐに噂になるんだよ。この町は広くはないから。
人だって喰われたくない。だから互いに危険だ! 危険だ! って叫んで回避しようとする。
普通だったらな。
俺は身近に起こっていたはずのこの「行方不明」を知らなかった。だって誰もそういう話、しなかったから。しなかったから、聞かなかった。
誰もそんな話、桜ヶ原にあるなんて話してないんだ。
俺とか友人Aの間だけだったらまだわかるよ。でも、他の人や、ましてや怪異オタクまで口を開かないなんてあるはずない。
だから、この「行方不明」は昔からあるものではない。
昔から桜ヶ原にいる怪異だったら誰かが口にしている。じゃあ、新しく此処で生まれた怪異か。それも違う。新しく生まれたにしては規模が大きすぎる。それだけの数を、俺はリストで目の当たりにした。
一体この「行方不明」は何なのか。
俺たちにはわからなかった。
まるで、外から入り込んだような未知の存在がいるようだった。
桜の姫様は町を綴じ込めた。外へ出ていかないように。そして、逆に外から入ってこられないように。
七不思議によって、綴じ込めた。
もし、七不思議の一つが崩れたら?
穴が開いたところからナニカが入り込んでいたら?
「どうなるんだ?」
こうなるんだよ。
桜ヶ原の七不思議・三つ目「砂時計」→出席番号14番「砂時計」