桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号7番「遅刻常習犯」⑯

春に知って、夏前に見つかった行方不明の怪異だった。俺にとっちゃ珍しく時間が速く過ぎている気がした。

季節は既に秋になっていた。

 

結局何回行っても、家に父さんが帰ることはなかった。

 

 

 

行方不明になってた人たちもなんとか帰すことができて、俺は一人づつ葬式へ足を運んだ。みんな、寂しいくらいあっさりと遺灰へと変わっていった。

線香に火を着けて、煙がたなびく前で手を合わせながら何度も祈る。どうか、来世があるならその時こそ幸せになってくれ。俺と出逢って、笑ってくれて、また今度と言ってくれてありがとう。だから、ゆっくり眠ってくれ。

 

俺も、きっともうすぐ其方へ逝くから。

 

同窓会の案内を握り締めながら、俺は亡き知人たちの元を去った。

 

 

 

 

 

 

手懸かりのない日々がまた続いた。小学校での仕事もちゃんとやった。ただ、なんとなく裏庭の切り株の所に立っているモノがこっちを心配そうに見ている、気がした。

気がしただけだぜ? 俺は何も怪異サマと親しいわけじゃない。ただ、他の奴らよりちょおっと近いとこにいるだけだ。意思疏通はできねえよ。

できるはずなんてねえよ、怪異となんかさ。わかったつもりになって理解できない。人の常識の外をいく奇妙奇天烈不可思議なもの。そういうのが怪異っていうんだ。

そうだろ? 怪奇オタク。

 

 

 

今回の行方不明とは違うんだけど、よく知らんけど別の話が同じ時期に進んでいたみたいなんだよな。それが「出席番号14番」の話。眠りウサギの「砂時計」だ。

この話は後で出てくるからその時に聞いてやってくれや。

前にも言った通り、眠りウサギは病院に搬送されてそのまま入院。何ヵ月も目を覚まさない。そんな状況が続いてた。それでオーケー?

ああ、これも俺の方と同じだよなぁ。話が進まないで八方塞がり。どうしようどうしよう。話が前に進まない。もちろん後ろになんて進むはずがない。

 

 

 

でもさ。おかしいなって俺、思ってたんだよな。

眠りウサギって………

 

 

 

まあ、いいか。

あいつらが決めたことなんだろ。俺が横から口出しすることじゃねえな。

なんでもねえよ。これはあいつの、あいつらのとっておきの話だ。

順番が回ってくるまでは話さない。そうだろ?

 

何で突然こんなこと言い出したのかっていうとさ、今更だったんだけど、ほんっっっとうに今更だったんだけど。

俺の母さん、何で亡くなったんだろって疑問に思ったんだ。

今更だろ?

今更なんだけどさ、本当のことは全く知らなかったわけよ。母さんは俺を産む前に亡くなった。その事実だけが異様に重くのし掛かってて、「何で」亡くなったのか知らないままだったんだ。

妙に気になったんだよ。今までそんなに気にならなかった。だって、知ったからって亡くなっちまってる母さんが生き返るわけでも助かるわけでもないじゃんか。

それに、俺の産まれる前の話だ。ほんとに何にもできなかったんだ。できるはずなかったんだよ。

どうにもできない。どうすることもできない。そう、割り切るしかないんだ。

 

助産師さんは言った。

母さんのことで俺が自分を責めることは何もない。寂しそうな笑顔で俺に言った。

そして何も言わなかった。母さんがどんな人生を送って、父さんと出会ったのか。

彼の口から聞いた「母さん」はほんのわずかなものだった。でも、俺にとってそれは桜の散っていく花みたいに綺麗なものに思えていた。

様は、自分の中で勝手に「母さん」っていう人のイメージを作っちゃってた。それも知らない分、かなり美化してたんじゃないかって思う。しょうがないだろ、憧れてたんだ。

だからそれを崩したくなくて、無意識に知ろうとしてなかったのかもしれないな。

訂正。もし、知りたくもない事実に当たったらと思うと嫌な気分になる。だから知りたくなかった。知りたくない。

 

知りたくないけど、知らなきゃいけなくなった。

 

俺は母さんから産まれた。それは確かだ。証人だってたくさんいる。で、その母さんは本当に「あの」父さんと子どもを作ったのか。そこが疑問なんだ。

母さんが亡くなったことで父さんはああなったのかもしれない。違うかもしれない。

わからないんだ。知らないんだ。

 

俺は今まで、両親について知ろうとしなかった。自分のことだけに精一杯だった。

 

 

 

俺は遅刻常習犯。

いつだって遅刻野郎だった。だって、母さんからも父さんからも声が聴こえなかったから。

 

「遅刻だよ」

 

本当は自分を見て欲しかった。どうしても遅れがちな自分を気にして見て欲しかった。

それに気づいたのはつい最近。

遅いよな。

遅すぎるよな。

 

もう両親は俺を見てくれない。

俺は確かにあの人とその人の子だったはずなのに。

いつから一緒にいられなくなっちゃったんだろう。

 

 

 

 

 

俺は家の自室と呼んでいた押し入れの中を漁った。暗闇の奥の奥、知りたくなくて隠していた物がそこにはあった。

 

誰かの話みたいに遺骨とは言わねえよ。でもそれに近いかな。

押し入れから這い出てきた俺の手には一冊の小さな古い手帳があった。助産師さんから貰った遺品だった。本当のことが知りたくなった時、これを持ってここに行くといい。

彼はそう言って、一ページ目を開いた。

俺が産まれて、母さんが死んだ病院の名前が書かれていた。

 

其処へ行けば全部がわかる。そう信じて、俺は肌寒くなってきた道を歩いた。

 

その事は、誰にも言っていなかった。







友人Aと連絡が取れなくなっていたことに俺は全く気がつかなかった。ポストの中に、一枚の手紙が押し込められていたことにも。
そして、それを俺が手に取るより先に誰かが取り出していたことにも。






俺は病院へと向かった。









チクタクちくたく時計は回る。秒針長針短針がおいかけっこを繰り返す。
回る。廻る。
時計はまわる。
規則正しく、終わることのない鬼ごっこを巡り続ける。

件の砂時計は止まったまま。
砂を落とさず時を止めた砂時計。
誰かを待って、たった独りで夢を見続ける。



チク、タク。
チク、タク。
時計はまわる。
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