なんで母さんを落としたんでしょう。俺は誰がとは聞かなかった。俺の中で、母さんを落とした犯人は父さんだって答えが出ていたんだ。
それまでの話じゃ、どうしても人を落とすような狂った鬼には聞けなかった。どうしても彼の言う「先輩」と「父さん」が結び付かなかった。
彼は一呼吸置いてからこう言った。
「僕は、君たちみたいに元々ここの住人じゃないから」
自分は余所者だから。そう前置きして続けた。
彼が俺の両親と出会った時、彼らが学生の時から、母さんたちはよく後ろを気にしていたそうだ。本当によく後ろを振り返って背後を確認するもんだから、彼は尋ねたんだ。
後ろに何かいるのか? それに、両親はこう答えたそうだ。
「鬼ごっこでもしている気分だよ」
鬼ごっこ。後ろから誰かに追われていたのか? 何に?
少しだけ、背筋にぞくりと寒気が走った。
彼は言った。僕にはよく解らないことなんだ。だけど、同じ場所に生まれた君なら解るのかな。
そう、言った。
余所者には解らないこと。地元民には解ること。ピンときた。怪異だ。
俺は鬼ごっこなんて怪異を桜ヶ原で聴いたことがない。聴くのは「鬼事」。ごっこなんかじゃ済まない、鬼の戯れ事。聴くも見るも無惨な、鬼のする怪異。
俺たちはそんな怪異を「鬼事」と呼ぶ。
だから、背後を追ってくるような、それこそ子どものする遊びの「鬼ごっこ」のような生易しい「鬼」を地元民は知らない。
もしいるなら、その鬼は桜ヶ原の外にいる鬼だ。
オマエハ鬼子ダ
不意に、父さんの言葉が頭に響いた。子どもの俺を、鬼の子だと罵ったあの声を。
その子どもは誰の子だ? 父さんの子だ。
鬼子は鬼の子だ。
トウサンハ、オニナノカ?
それなら母さんを屋上から落としたりもするだろう。でもいつから?
どうしても目の前の彼の言う「先輩」と「父さん」が同じ人に思えなかった。俺の頭の中では、人の「父さん」と鬼の「父さん」が立っていた。
どちらが本当なのか。どっちが真実か。
「ここを出てから、何かに追われるような気がしてたらしいよ。だからずっと後ろを気にしてた。
地元に戻ればきっと大丈夫だって言ってたけど、その結果があの人の事故なんだろうね」
何かに背後を取られて、背中を押された。
母さんの死は、その後の行方不明事件の怪異に繋がっていたんだ。
父さんが犯人の。
父さんが犯してきた罪の。
「君は、父親が亡くなった時のことも詳しく知らないんだろう?」
「え」
父さんはずっと生きてきたはずだ。ずっと、家にいたはずだ。亡くなってなんていない、はずだ。
彼の言う俺の「父さん」って誰のことだ?
そこでやっと何かが違うと気がついた。
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