桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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出席番号7番「遅刻常習犯」22

そこからしばらくは覚えてない。

当然だろ? いきなり父親は別人ですって言われたんだ。何で気づかなかったんだよって話なんだけどさ、実際そうだったんだよ。

頭の中、ぐーるぐるでもうほんと混乱状態。

 

泣いたよ。泣きすぎて鼻水も涙も出し尽くしたって感じだった。土砂降りの中、外を傘なしでほっつき歩いたみたいだった。

そんな俺が落ち着くまで、助産師さんの後輩さんは待っててくれた。

助産師さんみたいに、困った顔で笑いながら待っていてくれた。やっぱり先輩と後輩って似るんだな。

親と子も、似るのかな。そうだといいな。

 

やっと落ち着いた時、彼は俺にあいつのことを聞いた。

 

 

 

どんな顔をしているのか?

覚えてない。

身長は? 痩せているか、太っているか?

覚えてない。

髪型は?

覚えてない。

何か、覚えていることはあるか?

あいつは、俺をよく殴った。蹴った。刃物で切ったこともあった。

俺を悪い子どもだと言った。鬼の子だと言った。言い続けた。

 

 

 

彼は絶句した。

あいつの下でどんな生活をしてきたか先に言ってたけど、それを具体的に言われて言葉もない。そんな感じだった。

 

「虐待どころじゃない」

 

君を家から連れ出してくれた先生には感謝しきれないよ。

彼は頭を抱えながら言った。それで、冷めたコーヒーを一口喉に流し込むと携帯でメールを打ち始めた。俺はそれを、同じように冷めたココアを飲みながら見ていた。

 

少しして、彼に誰かから携帯メールが届いた。

 

「ちょっと、場所を移そうか」

 

そう言って彼は俺の手を引っ張った。

 

コーヒーもココアも、カップの中には半分以上残ったままだった。

 

 

 

向かったのは病院の屋上だった。廊下を進んで、通路を進んで、エレベーターに乗って、最後に薄暗い階段を上った。扉を開いて目の前が空色一色になった。

前を歩いていた彼が言った。

 

「じゃあ、脱いでくれるかな」

 

そこ! 笑うな、ってさすがに笑わないか。彼は外科医だ。俺があいつにつけられた傷を見てくれたんだ。と言っても全部古傷。どれも「誰か」につけられたってわかる痕ばっかなんだよな。特に腹と、俺には見えないけど背中。

一度も水泳の授業に出れなかったよ。みんなにも見せたくなかったし、みんなだって何も言わなかった。

そんな俺の体を、彼は診てくれた。

 

新しい傷なんて一つもないって。俺は大人に成長できたんだから、大丈夫だって。

そう言おうと背中を診ていた彼を振り返った時だった。彼に会ってから一番低い唸るような、というかもう唸ってたな、そんな声でこんなことを言い出した。

 

「この背中の手形、いつ付けられたんだい」

 

背中の手形?

そんなの知らない。

 

いや、最近そんなこと聞いた、っけ? 聞いた。つい最近。なんだっけ。そうだ。

そうだ。あの事件の。

 

「被害者の背中には手形」

 

あの事件の被害者に共通してる痕!

 

「僕、君の知りたがってる事件の手伝いもちょっとやったんだ。だから、遺体の手形についても知ってる。

これ、同じのじゃないのかい?」

 

同じ手形。

同じように背中を押された痕。

 

「父さん」に付けられた痕。

 

犯人はあいつだ。

俺の父親の振りをしてたあいつだ!

 

「推測でしかないんだけどね」

 

彼は俺の目を見て言った。もう何回も言った、自分は余所者でしかないからっていう前置きと一緒に。

 

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