桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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頭がぼんやりとする。目が霞む。
目の前が霧や霞で遮られている。

たんたんたん。
廊下を走る音がする。
トントントン。
部屋をノックする音がする。

音がする。何処からか音がする。
何処から? 何処から。何処からか。

頭がぼんやりとする。
目は開いていて、閉じている。
まるで夢の中。
起きているのに眠っている。
眠っているのに起きている。
まぁるで夢の中。
起きながら夢を見ている。夢の中で起きている。
夢の中で夢を見ている。覚えているのに思い出せない夢を見続けている。
頭がぼんやりとする。

体は現実の中。心は未だ夢の中。
心は現実の中。体は未だ夢の中。



出席番号7番「遅刻常習犯」26

あいつが俺に見せていた「家」は偽物だったんだ。家の外装も、少ししかなかった家具も、全部幻。

まるで夢が終わるみたいに、それはあっさりと俺の目の前から消えた。きっかけは、多分俺が真実を知ったこと。あいつが俺の父さんじゃないって知ったことだと思う。

 

なあ、みんな。俺の住んでた家ってどんな風に見えてたんだ?

 

『きみ、空き地でダンボールの中で暮らしてたんだよ。

誰かがくれたダンボール。その中にタオルを敷いて、くるまって。小さなすてられた猫みたいだった。

雨には濡れなかったけど、あそこには家があったんだね』

 

なあ、みんな。俺って、あそこにいた時どんな風に見えてたんだ?

 

『あそこには先生しか入れなかったんだ。ボクたちじゃ入れなかった。

本当は、いつだって君をあそこに帰したくなかった。ガリガリに痩せて、いつだってケガだらけで。

同じ教室にいる友だちなのに、なんでこんなに違っちゃうんだろうって思ってた。なんで何も出来ないんだろうって、いつも悩んでた』

 

みんなには、あいつのことどう見えてたんだ?

 

『君の「父さん」はボクらには見えなかったよ。いつもね、君が助産師さんって呼んでた人が遠くから見てたんだ。先に進めなくて苦しい顔してね。

先生があそこには鬼がいるって言ってたよ。本当に住んでたんだね、鬼が』

 

 

 

始めからあの場所には何もなかったんだ。

俺の父さんも。家も。思い出も。

 

 

 

泣きながら立ち尽くす俺の目に、ポストへ突っ込まれた手紙が映った。

「友人Aからの手紙」だった。

 

 

 

 

 

 

 

ちっげえよ!!! ばぁーーーか!

友人A。お前からの手紙はとっくの昔に届いていたんだ。同窓会の案内が来る前に。

ただ、結局のとこ俺はそれにずっと気づかなかった。気づいたのは一年後だ。

ま、いつものことだろ。

 

そう、いつものことなんだ。

俺がぐだぐだノロノロ遅れるのは、いつものことなんだよ。だって俺は遅刻常習犯なんだから。みんなが俺を振り返ってそう呼

んでくれるみたいに、俺はいつも遅刻する。

 

産まれる時だって遅刻したさ。だけど、今はそれでよかったと思うんだ。

俺は普通に考えれば母さんと一緒に死んでた。母さんと一緒に、あいつに屋上から突き落とされて死んでた。産まれる前に。

遅れてでも産まれて来れたのは幸せなことだ。生きて産まれて来れたんだから。

ほら。遅刻するのも場合によってはいい方へ傾けるだろ?

 

ごめんごめん! ちゃんと遅刻しないように気を付けます! わざとじゃないんだって!

 

ああ、だからさ。その時も思ったんだよ。友人Aは俺が遅れるのを見越して、早めに約束の時間を言ったんだってね。

友人Aとは一番付き合いが長いんだ。俺の扱いも慣れてる。俺がいつ手紙に気づくのかも大体予想できるんだよ。

俺が、いつ約束の場所へ来るか。それも予想できる。

 

『わあ、すごいねえ』

 

これぞ親友の成せる技!

つまりさ、俺と友人Aの間ではもう約束は成立してたんだよ。いついつの何時にどこで会おう。その手紙は俺の部屋、小学校の宿直室のファイルにもちゃんと綴じてある。

遅れても忘れないのが遅刻常習犯の正義。

 

じゃあ、家と思ってた所にあるポストに入ってた手紙は何なのか。空き地に残ったポストに投函された手紙という紙切れ。

手紙の中の話し方は俺の親友とは違う。別人だ。でも内容は同じ。宛名も俺宛の手紙。

誰からの手紙だと思う?

 

あいつだよ。あいつが俺への手紙を見たんだ。

 

 

 

「同窓会の案内、来たか?」

「何人か、もう先にいってる奴らもいるらしいぜ」

「どうせお前は遅刻するんだろ」

「同窓会の前に、さいごに1回会えないか?」

 

 

 

友人A、覚えてないか? 思い出さないか?

お前も同じ内容の手紙を俺に寄越したんだよ。

 

あいつは俺に届いたお前からの手紙を真似したんだ。理由なんて決まってる。これで最後にするつもりなんだ。

俺にはもうあいつが作った牢屋は見えない。あいつが何をしてきたのか、あいつが何なのか知ったんだ。だから、逃げられる。あいつから。俺には生きてきたこの桜ヶ原があるんだから。

それに、あいつだってずっと追いかけられるわけじゃない。この桜ヶ原に居続けることは不可能だ。

あいつは余所者。俺たちの桜の姫と七不思議が黙っていない。

あいつはやらかしたんだ。桜の下で罪を犯した。

 

バツヲアタエナケレバナラナイ

バツヲウケサセナケレバナラナイ

 

あいつは、今度こそ逃げられない。

もう外へも戻れないし、内を逃げ回ることだってできない。

 

ナナフシギノトリデハフッカツシタ

 

崩れていたはずの「砂時計」が甦った。七不思議は復活した。

あいつの逃げ場は、もう、ない。

だから焦ったんだろうな。最後の最後で俺を罠に嵌めようとした。でもあいつは俺をよく見てこなかった。

俺の「遅刻癖」を知らなかったんだ。バカだよなぁ、ほんと。父親って呼ばせといて、全く子のことは見ていない。あいつにとって俺はずっとただの「獲物」だったんだ。目の前にある、手の出せない獲物。

ヨダレをだらだら流しながら待っていたんだろうな。待ちきれなくて他の獲物に手を出すくらい。

 




ここでやっと、一番最初の話に戻ってくる。
時間は「今」。
「遅刻常習犯の遅刻予告」へと戻ってくる。
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