桜ヶ原小学校同窓会へようこそ   作:犬屋小鳥本部

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俺は遅刻常習犯。
いつだって遅れる、遅刻野郎。

何度も何度も遅れを取った。気づくのが遅かった。遅くて、遅すぎて、間に合わなかった。
大切な人たちの死に目。もっと早くに辿り着くべきだった事実。知らなきゃいけなかった真実。

痛くて痛くて苦しくて、生きるのを諦めそうになった。殴られた時。蹴られた時。刺された時。怒鳴られた時。暴言を吐かれた時。
でも、その瞬間の痛みはほとんどなかった。
俺の体質が俺を生かした。全部が遅れてやってくる。痛みも遅れてやってくる。独りじゃ耐えられない痛みは、いつも遅れてやってきた。
痛かった。痛くて痛くて終わりが来るのを望んだ。今すぐ終わって欲しいと望んだ。
でも、いつだってその痛みは独りじゃない時にやってきたんだ。助産師さんといる時。先生と話す時。親友と遊ぶ時。友人たちと学校にいる時。
独りじゃ耐えられなかった。でも、その痛みはみんながいたから乗り越えられた。耐えて、生きようと思えた。
みんなが支えてくれた。みんなが理解してくれた。みんなが、俺を、俺と、一緒にいてくれた。
痛みは消えた。痛みは消えるんだ。いつかは、どんな痛みも消えてくれる。消してくれる人たちが、俺の周りにはいた。
守ってくれた存在が、俺にはいた。



そんなことを後から思い出す。



俺は遅刻常習犯。
いつだって遅れる遅刻野郎。
でもさ、そんな遅刻癖も許してしまう人たちが周りにいるもんだから、きっと明日も遅刻する。ダメだな、こりゃ。一生かかっても治んないわ。

でも、どんなに遅れても絶対追い付いてみせるよ。
俺は最後まで諦めない。
最後の最期まで、絶対諦めない。



もうちょっとだけ、待っててくれな。
友人A。
俺の、たった一人の親友。



出席番号7番「遅刻常習犯」29

誰かが道路を挟んで反対側に立っている気がした。俺は振り返った。そこには待ち人がいた。

 

俺はお前の名前を呼んだ。

 

俺の声は車の音に掻き消された。

 

俺はもう一度お前の名前を呼んだ。

 

お前は応えなかった。

いつもならお前はこう応えただろう。

 

「また遅刻かい」

 

遅刻常習犯の俺を見て、また遅れたのかと言うだろう。いつもそうだった。いつもそうやって、お前は笑ってくれた。

 

「遅れて悪かったな」

 

俺もそう言って、いつも笑った。

 

 

 

そこにはいつものお前はいなかった。まるで赤の他人を見るような顔で、お前は俺を見た。

 

道路とそこを走る車が俺たちを遮った。車が通り過ぎる一瞬の後に見えたのは、お前の背中だった。

 

お前は俺に背を向けて歩き出した。

会おうと言って待ち合わせたはずなのに、お前はそこから去っていこうとした。

 

「待てよ!」

 

俺はお前の名前を叫んで呼び止めようとした。

お前の耳には届かなかった。

 

俺は走り出した。お前の背を追って。

何かを決意した顔。俺はそんなお前に追い付けるのか。今度こそ遅れずに、笑い合えるのか。

お前は走った。何かから逃げるように。後ろを追う俺から? それとも、俺の後ろに迫るだろうあいつから?

 

追いかけてやろうじゃねえか。

追われてやろうじゃねえか。逃げて、逃げ切ってやる。あいつなんかには捕まらない。

 

時刻はもう夕暮れ時。空には月が上り始めていた。影が濃くなって闇に溶けていくのはあっという間だった。

 

 

 

どこかでイヌの鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

月明かりの下、俺たちは走った。

切り株のある小学校、光が点滅する角のコンビニ、終電間近の駅、何かが潜みそうな地下通路の入り口、春には桜が咲く公園、廃病院が見える坂の下、花束が添えられる道路。

俺たちはどんどん追い越していった。

行き先は、新しい病院。お前が退院したばっかりで、俺が父親の後輩と出会った場所。知らなきゃいけなかった真実を、知った場所。

 

俺はお前を追った。お前は一度も振り返らなかった。いつもは振り返って俺が後ろにいるのを確かめてくれた親友。今回だけは自分のために、まっすぐ走っていく。

俺は、そんなお前の背中を追い続けた。

 

夜の道に、三つの足音だけが聞こえていた。

 

 

 

頭が痛かった。あいつに叩かれ続けた頭が。

背中が、腹が、頬が痛かった。あいつに殴られ続けた場所が熱を持って痛かった。

腕が、足が痛かった。ちぎれそうなくらい強く握られた腕と足には、痣だけじゃなくて切り傷もたくさん残っていた。

痛かった。死にたいと思うほど。

父さんだと思っていた存在に傷つけられるのが、とても痛かった。

走りながら俺はその痛みを思い出す。身体中が痛かった。

でも、その痛みの数だけ俺は生き延びてきた。生きて欲しいと守ってくれた誰かがいた。

俺は走った。親友の後ろを走った。

 

 

 

いつだって遅刻して、誰かの後を追う。

待ってくれてる誰かの後ろ姿を追って、俺は生きてきた。そんな気がする。

それが、俺の生き方だった。そんな気がする。

それでいいんだって思ってた。誰かの後が自分の居場所なんだって思ってた。

でも、そんな居場所だって先をいく人が作ってくれたものだったんだ。助産師さんや母さん、先生、警察官のおっちゃん、同級生たち、そして親友。みんな、俺がそこにいるのを認めてくれたから居場所を作ってくれたんだ。

俺は、そこにいてもいい。俺は、生きていてもいい。そういうことは、きっと下を見ていたら気づかないこと。前を見て、前の人の想いを受け入れて、受け止めたから気づけるんだ。

俺は生きていてもいいんだ。どんなに痛くたって、どんなに苦しくたって、その先を信じて手を伸ばしてもいいんだ。

 

先を生きてくれた人の跡を追って、俺は生きる。誰かが残してくれたものを追って背負いながら、俺は生きる。

生きて欲しいと願ってくれた人たちがいたから、俺は生きてこれた。だから今、自分の足で立って走ることができるんだ。

 

誰かを追い越すとかじゃねえんだよ。

自分のいく人の道は一本しか選べない。そんな道で競争してどうなるんだ。

俺はいつだって遅れてきた。遅れたからこそ見えたものだってあった。人の死に様、人の生き様。それは、これから自分がどうするかっていうヒントを秘めたメッセージだ。

追い越したら前しか見えないんだよ。一人きりで前を向くしかない。

 

希望を持って? 正義を信じて?

 

俺はそんなものだけを手に生きていけない。

俺は、強くない。

誰かがいるから、みんながいるから生きていけるんだ。多分、俺も誰かのために生きて欲しいと願うことができるんだ。

 

なあ、みんな。俺、今度は自分で選ぶよ。

今度こそ、遅れずに選べるよ。

生きることも、死ぬことも、自分の足で選べる。これは俺が自分で出した答えなんだ。たくさんの人からもらったヒントから辿り着いた、俺の答え。俺は走る。

俺は、最期まで走りきる。

親友の背中に間に合うように。

 

 

 

なあ、親友A。

お前の考えてること、解るよ。

もう、時間がないんだよな。

わかってるよ。

同窓会の案内状、持ってるだろ?

俺も持ってるよ。

今度は遅刻しないからさ。

一緒にいこうぜ。

お前一人でなんて、いかせないから。

 




できれば、できればなんだけどさ。
親友A。
お前にはこれからも生きて欲しい。

そう願うのは、ただのワガママ、だよな?






『ボクも君に同じことを願うよ。
遅刻常習犯。ボクの、親友。
君に生きてもらいたい。

でも、きっとその願いは叶わないんだね。
なら、一緒にいこう』















ミンナガマッテル
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